大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ぜっさん・12『当然凹む』

2020-08-28 06:51:27 | 小説3

・12
『当然凹む』     



 大阪に来て三か月ちょっと。

 転校してきたその日に瑠美奈って親友ができたこともあって、大阪には疎い。
 だって、そうでしょ、基本的には家と学校の往復だし、出かけるときも瑠美奈といっしょ。
 たまの外出も出かけるというよりは、連れてもらっている感じ。
 だから大阪のことには慣れない。特に地理的にはね。

 地理的どころか、エスカレーターでも失敗する。

 うっかり右側を空けて、後ろから咳払いされることがある。
 なんで大阪は左側を空けるんだ! 最初はそう思った。瑠美奈には言えないけど、大阪は野蛮だ! と思ったよ。
 ま、理屈じゃないんだけどね。横断歩道のフライング、これはいただけない。梅田の横断歩道で実感、なんたって信号の横に「青信号まで〇秒」ってシグナルが出る。それが出ているのに大勢がフライングする。この時の憤りがあるので、エスカレーターの左空けにも腹が立つ。
「ハハハ、ほんでも左側空けるのが、世界的には標準やねんで!」
「うそだ!」
 瑠美奈に言われて検索したら、その通りだったので、余計にムカつくのよ!

 で、たまには一人で出かけて大阪に慣れようと努力をするのだ!

 お気に入りのワンピにストローハットで家を出る。
 目指すは天王寺公園。ゆっくり季節の花を愛でることにした。
 エスカレーターも、ちゃんと左側を空け、無事に四天王寺前夕陽ヶ丘の駅に着く。
 ほんとうは、もう一駅向こうの天王寺なんだけど、ある程度歩いておかなきゃ距離感や方向感覚が成長しない。

 えと……こっちだな。

 地下鉄の階段を上がって、一度だけスマホで確認。
 地下鉄の出口を間違えると、うっかり南北を間違えて反対側に行ってしまう。
 方角を見定めて歩きはじめると、押しボタン式の横断歩道でお婆さんがオロオロしている。押しボタン式というのは青の時間が短い。きっと渡るきっかけを失ってテンパってるんだ!
「お婆さん、おぶさって!」
 ちょうど信号が青になったので、わたしはしゃがんでオンブするようにお婆さんを促した。
「行きますよーーーーー!」
 四車線を跨いでいる横断歩道を、お婆さんをおんぶして、小走りで渡る。
 信号待ちしている車の運ちゃんが、微笑ましそうに笑っているのがこそばゆい。

 美少女がお婆さんを助ける爽やかな夏の一コマ! うん、絵になるだろうなあ……なんて妄想してしまう。

「はい、お婆ちゃん、渡れましたよ!」
 吹き出す汗も清々しい。
「あのなあ……さっき苦労して、あっちに渡ったとこやねんがな」
「え、えーーー!?」
「もー、きょうびの若いもんは」
 で、押しボタンを押して、次の青で渡りなおした。

 当然凹む。

「ごめん、遅くなっちゃった!」
 天王寺公園の前で待っていた瑠美奈に謝る。
「どないしたんよ?」
「いや、実はね……」
 遅れた理由を言うと、笑い声がステレオになった。
 いっしょに待ちをきっていた藤吉が瑠美奈といっしょになって笑っている。
「もーー、なによ二人して!」
「あのお婆ちゃんは有名人でな……」

 この界隈では有名なお婆ちゃんで、若い者をおちょくっては喜んでいるお滝婆さんということだった。

 もーーーーー! 大阪って嫌いだーーーーーー!

 

主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポナの季節・17『チイニイの乃木坂講師初日』

2020-08-28 06:41:15 | 小説6

・17
『チイニイの乃木坂講師初日』
        


ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



 ポナの世田谷女学院は土日は休みだけど、乃木坂学院は土曜日でも授業がある。私学としては乃木坂の方が多数派だ。

 みなみはポナが乃木坂でなく世田谷を選んだのは、そのせいだと思っている。ポナは、ただチイネエのお下がりの制服が嫌だっただけなのだが、親友でも、そこのところは分かってもらえない。

――いいなあ、ポナは土曜が休みで。こちとら朝から大嫌いな現社の椋梨だぜ!――

 ポナは、このメールで起こされた。
「チェ、もうちょっと寝てようと思ったのに……」

――人生ヤナこと半分、残り半分の90%はど-でもいいこと。素敵なことって、その10%もないよ――

 と、教訓じみたことを返事して、再びベッドに。

「起立!」の掛け声で、アレっと、みなみは思った。
 朝礼に、担任の他に、もう一人知らない男の人がいたからだ。
「ええ、現社の椋梨先生が病気でしばらく休まれます。その間代わりに教えていただく寺沢先生です。自己紹介とかは、授業が始まってからということで、今日の連絡……」
 担任の事務的な連絡が終わると、とたんに一時間目開始の鐘が鳴った。

 また起立・礼のやり直し。

「初めまして。しばらく椋梨先生のピンチヒッターをやる寺沢です。よろしく」
 ポナと同じ苗字だったが、まさかポナのアニキだとは思わなかった。いかにも先生然としたダサさい見てくれに、これはハズレとクラスの大半が思った。


A   <――――>


B   >――――<


 孝史は、いきなり上の図を書いて、いきなり質問した。
「AとBの真ん中の直線、どっちが長い?」
 二択問題だ。Aが長い、Bが長い。ほとんどがBに手を挙げた。

 孝史は両方の<と>を消した。
 あれ?……とたんにAとBは同じ長さになった。まるでマジックだ。
「これ、錯視って言うんだ。<や>が付くことで真ん中の線の長さが変わって見える。そういうと……ほら、みんな分かった顔になるだろ」
「う~ん」
 みなみは、他のクラスメートといっしょに唸った。
「理解できるだろ。ところが小学校の低学年に見せると理解できない、最後まで首を捻る子がほとんどだ。しかし、君たちは分かった。これで小学生よりは賢いということが実証できた!」
 みんなから笑い声がもれた。
「世の中のことって、みんなこうなんだ。正しいことに<とか>が付くことで、実際とは違うものに見えたり思えたりする。例えば橋下徹という政治家がいる。この人にはカギカッコがついている。<か>は分からないし、君たちに言うべきでもない」
 孝史は、橋下徹の三枚の写真を貼った。タレント弁護士時代、知事時代、大阪都構想が大阪市民からNOを突き付けられた時。
「同じ人間とは思えないくらい違って見える。この人は、おそらくこのままでは終わらない。君たちが大人になったとき、また判断を迫られるだろう。オレの授業は、そういう世の中や人間に付いている<による錯視を見抜く力を付けることだ。じゃ、ボチボチがんばろうか」

 みなみを始め、クラスの者たちの孝史への認識は百八十度変わった。

――現社の新しい先生大当たり! 苗字はポナと同じ寺沢っていうんだよ!――

 ゲゲゲ…………

 メールを見たポナは言葉も無かった。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:54『早朝の四号』

2020-08-28 06:15:00 | 小説5

かの世界この世界:54     

『早朝の四号』     

 

 

 朝の諸々の音で目が覚めた。     IV号戦車E型

 

 子どもたちのさんざめき、キッチンでお湯が沸いて食器を並べる音、古びた床の軋みと軋ませている足音、野鳥のさえずり、微かな瀬音……それらは騒音ではなく、朝の微睡みをいやますような心地よさがあった。遠い子どものころ、ひょっとしたらわたしが、いまのわたしであるもっと前のわたしであったころに田舎の祖父母の家で目覚めた時のような安堵感のある諸々の音。

 その優しい音たちに、もう一つの聞き慣れた音が混じって来た。

 キュロキュロキュロキュロ……

 二号ではない、三号……四号か……?

 四号の履帯の音であると気づくと同時に、一気に現実に戻った。

 パンツァージャケットを掴むと片方袖を通しただけで庭に出た。

 子どもたちも二人の先生も出ていたが、上り坂に差し掛かった四号に目を奪われて、お早うの挨拶も返ってこない。

「グニが四号で追いかけてきました」

「グニさんが?」

 村のあちこちに散らばっている赤さびた戦車の残骸の中を生きた戦車が通ると豆戦車の二号でも逞しく見えるが、二号よりも二回りも大きな四号は神がかって見えるほどだ。

 四号がゲートから入ってくると、子どもたちが一斉に駆け寄る。

 わーー! おっきい! つよそー! 昨日のよりかっくいい!

 事故が起こってはいけないので、四号はゲートを入っていくらも進まないところで停車した。

 むろん先生たちや、いつのまにか混じって来たブリとケイトも制止しているんだけども、言うことを聞くような子たちじゃない。

 ガチャリ

 砲塔のキューポラではなくて、一段下のドライバーズハッチが開いた。

「トール元帥のご指示で伺いました、元帥副官のタングニョーストです。早朝からお騒がせして申し訳ありません」

 院長先生への挨拶が終わると、申し訳なさそうな顔で近づいてきた。

「元帥にバレてしまいましてね、わたしが二号を回したことが」

 まさか、二号を取り上げて、ここからは歩いて行けってか……。

「二号では力不足だろうとおっしゃって、急きょ四号を持ってきた次第です」

 

 四号は重量で二号の三倍近くあり、武装が優れているだけでなく、居住性も段違い。例えば、二号の出入りは砲塔のキューポラ一か所だけだが、四号は定員五人に対して一つづつのハッチがある。走破性にも優れ、整備も簡単だ。

「ちょうどいいわ、四号のタングニョーストさんもいっしょに朝ごはんにしましょう。今朝は水も豊富なので、パンも柔らかいし、スープも付けたわよ」

 子どもたちの目が輝く。好奇心より食欲が優先されるのは、やっぱり、シュタインドルフの厳しさなのかもしれない。

「で、グニは帰りどうするんだ?」

「二号に乗って帰るつもりだ」

 グリもわたしも順当な考えだと思ったが、ブリが飛躍したことを思いつてしまった。

 

「ね、二号のエンジンを外してジェネレーターにすればポンプが生き返るんじゃない!?」

 

 先生たちは遠慮気味に、子どもたちは、とても無邪気に――それがいい!――と思った。

 そのことと、例の子どもを一人連れて行くことで、事態は二転三転することになった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする