大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・7『乃木坂学院高校演劇部跡の見学』

2020-08-18 06:29:00 | 小説6

・7
『乃木坂学院高校演劇部跡の見学』
       


 例えばAKB48の衣装資料館のようだった。

 AKB48の衣装資料館には、卒業した選抜メンバーの衣装や小物、記念の品などが展示してあり、ファンにとっては神殿のよう。



 乃木坂学院高校演劇部の部室は、理事長の意向で、そのままに、クラブハウスの二階に残してある。
「ここから坂東はるかさんや、仲まどかさんたちが巣立っていったんだ……」
 奈菜は、感極まったように独り言ちた。みなみは真剣に頷き、ポナは「またか」と笑いをこらえるのに苦労した。

 一昨日、みなみから「演劇部はつぶれた」とメールをもらったが、部室が残っていることを知って、奈菜のたっての願いで、放課後、乃木坂学院まで見学にきたのである。

 マッカーサーの机には、退色し始めたテーブルクロスがかけてあり、その上には芝居や映画の勉強のためのアナログのテレビデオ。その周りにはたくさんの台本がキチンと整理されて置かれていた。乃木坂の演劇部は、かなり研究熱心な演劇部であったようだ。

「はるかさんは、演劇部じゃなかったのよ」
「え!?」

 みなみの説明に、奈菜は鳩がびっくりしたような顔になった。

「はるかさんはね、二年の時に家庭事情で転校していったの、でもプロの俳優になってから、ずいぶんここの演劇部を応援してくれたから、名誉部員てことになってるの……」
 みなみの目は、壁に掛けられた坂東はるかと仲まどかのサイン入り写真に向けられた。
「さすがプロになるだけの人、オーラがちがうわね……」
 付き添いのポナも思わずため息をついた。
「このテーブルクロスすてき、少し色が抜け始めてるとこなんか時代と部員の情熱を感じる」
「このテーブルクロスは、元々黄色かったのが色あせて、こうなっちゃったの。本当の色は……」

 みなみは、置かれた台本の山をずらした。すると、そこには鮮やかな黄色が現れた。

「……これって、幸福の黄色いハンカチ」
「よくわかったわね、一度潰れかかった時に、クラブの再生への思いを込めて黄色いテーブルクロスにしたんだって」
 ポナは、一冊の台本を手に取る。『すみれの花さくころ』のタイトルが色あせている。
「見てごらんよ」
 ポナは、奈菜に手渡した。
「……書き込み、手垢やシミも凄いね」
「このシミ、涙か汗だよ……」
「両方らしいわよ」
 みなみが付け加えた。

 この時の奈菜は、簡単には夢見る夢子ちゃんにはならなかった。真剣に台本を撫でるように見つめている。

「これ、あたしたちと歳の変わらない高校生がやったんだよね」
 奈菜も進歩した。人の努力や苦労が分かるようになったようだ。
「この本どうぞ」
 みなみが、二冊の本を渡してくれた。
「え、チイネエの制服貸したお礼? そんなのいいよ」
「ちがうわよ。理事長先生が、見学の生徒さんが来るんだったら渡してくれって」
 
 二冊の本は『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』と『はるか 真田山学院高校演劇部物語』だった。

『はるか』の方はビンテージもので、第二刷からは「はるか ワケあり転校生の7カ月」と改題されているらしかった。

 帰り、余熱の冷めないうちに乃木坂駅近くのコーヒーショップで、互いに二冊の本を読んだ。二人とも、こんなにのめりこんで本を読んだのは初めてだった。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

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かの世界のこの世界:44『ムヘン略記』

2020-08-18 06:15:46 | 小説5

かの世界この世界:44     

『ムヘン略記』  

 

 

 ムヘンの地は菱餅のような形をしている。

 

 菱餅の中央に城塞都市ムヘンブルグがあり、その北を東西に荒川ほどのムヘン川が流れている。

 昔は化外の地ムヘンと呼ばれ、主神オーディンの力も及ばぬ蛮族と化け物の地と嫌われ、神族でさえ足を踏み入れることは稀であった。

 しかし、オーディン紀元千年紀のころに、ムヘンの南端、菱餅の下のほうが『始りの荒野』と繋がっていることが発見された。

 始まりの荒野は、他の異世界と繋がっていて、そこから様々な異世界の神々や人間やクリーチャーが現れてはオーディンの知ろしめす大地や国々を脅かすことがジークフリートの冒険で知られた。

 ジークフリートの非業の死のあと、無辺の地の平定を任されたのがトール元帥だ。

 トール元帥は、城塞都市ムヘンブルグを築き、ムヘンと始りの荒野の平定に掛かった。

 一時はムヘン全域と始りの荒野の半分を平定し、オーディンの平和と呼ばれる百年が訪れ、ムヘンは半ば神々の観光地になった。

 ムヘンブルグは、その観光地の中心として整備・拡大が進められ、二千年紀には、ほぼ現在のムヘンブルグが形成された。

 

 二千年紀に入ると、蛮族や異世界からの流入と侵略が顕著になり、ムヘンブルグは侵略阻止の最前線になった。

 

 一時はムヘンの放棄まで考えられたが、トール元帥の活躍によって小康状態を得て今に至る。

 オーディンの聖府は、ムヘンの南半分を流刑地に指定し、囚人たちに辺境の防衛にあたらせるという、流刑地と辺境防衛を実現させ、経費の節減と防衛の問題を解決しようとした。

 囚人たちは防衛に功績があれば刑期を減免されたが、その多くは放免を前に命を落とした。

 囚人たちは「ムヘンだけは勘弁してくれ」と哀願するようになり、王国全体の犯罪発生率は半分以下になったと言われる。

 

 シュタインドルフに着くまでの道中は、菱餅の真ん中を西端に向かって進むので北端のノルデンハーフェンに達する距離の倍はある。しばらくは平穏だとグリが言うので、単調なムヘン大河南岸の道中『ムヘン略記』を読んでいるわけだ。略記とは言え見知らぬ異世界の歴史は五分も読めば眠気を誘うかと思ったが、存外に面白い。出てくる地名や戦い、人の営みや神々の履歴が生き生きと頭に浮かぶのだ。なんだかパソコンの中に古いファイルを見つけ、開いてみたら自分が書いたRPGのプロットであったような懐かしさ――そうだ、こんな物語に時めいていた――と古い教科書の落書きを見ているような。でも、あまりに古い思い出なので先の展開が読めないもどかしさと楽しさがあった。

 わたしはこんなものを書いていたのか? まさかな、いまは勇者などと名乗るもおこがましい駆け出しの冒険者だ、肩の力を抜いていこう。緊張しっぱなしでは、この先の旅には耐えられないだろう。今は穏やかだが『ムヘン略記』にある通り、トール元帥でも一筋縄ではいかなかった流刑地なのだからな。

 しかし、その流刑地ムヘンに流されるんだから、ブリも生半可な奴じゃない。

 二号戦車のエンジンルームの上にドンゴロスを二重に敷き詰めケイトといっしょに眠っている姿は、どう見ても小柄な女子中学生だ。

 こいつ、いったい何をしでかして最悪の地に流刑になったんだ?

 だいいち、並の身分ではない。

 今は「ュンヒルデ」を封印して、ただの「ブリ」と名乗っているが、仮にも主神オーディンの娘だ。

 

「その秘密は、いずれお話します」

 

 キューポラから半身を出して前方を警戒しているグリが穏やかに言う。

「聞きたいような聞きたくないような……ま、グリが必要だと思ったら話してくれ」

「では、まずはシリンダーの来歴についてお話ししましょう」

 そう言えば『ムヘン略記』を映していたタブレットの右下に「間もなくシリンダー警戒地区」というアラームが点灯し始めている。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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