大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・166『返ってきた手紙』

2020-08-30 13:15:45 | ノベル

せやさかい・166

『返ってきた手紙』    

 

 

 なんでもメールやラインで済ませる現代、手紙は出すことももらうことも珍しくなった。

 

 直近で手紙を出したのは年賀状。

 厳密には年賀状は葉書やさかいに手紙ではない。

 便箋にお便りを書いて封筒に入れて切手を貼ってポストに入れたのは……ええと……ええと……小学校の時に『お手紙の練習』というのんで、授業でお母さんに手紙を書いて出して以来?

 ってゆーか、きちんと手紙を出したことが無い!

 そのわたしが手紙を出した。

 

 というのは、小学校でいっしょやったAさんのことが気になったから。

 

 留美ちゃんのお母さんが看護師やってはるのは、どこかで紹介したわよね。

 コロナ感染者を引き受けてる病院で、留美ちゃんのお母さんはめっさ忙しくって、何日も家に帰られへんのやそうです。

 そのお母さんが帰ってきはって、久々の親子の会話で入院患者の中にAさんのお母さんらしい人が居てるのが分かった。

 人違いかもしれへんねんけど、めっさ気になったわたしはAさんに手紙を書いたというわけです。

 

 その手紙が戻ってきた!

 

 え、なんでえ!?

 封書の表を見たら『料金不足』の紙が貼ったーる!

 わたしはテイ兄ちゃんを恨んだ。

 なんで手紙が戻ってきてテイ兄ちゃんを恨むかと言うと、封書の料金が分からへんので、テイ兄ちゃんに聞いたわけ。

「ああ、82円や」

 そない言うたさかい、おばちゃんに八十円と一円切手二枚をもらって出したわけなんです。

 ググってみると84円。

 たった二円の不足で、わたしの純情は届かなかった!

「テイ兄ちゃん、封書は84円やったやんか!」

 檀家周りから帰ってきたテイ兄ちゃんに詰め寄った。

「え、うそ、82円やろ」

「ほれ、料金不足で帰ってきたし!」

「え、え?」

 テイ兄ちゃんもスマホでググって84円を確認してビックリしてる。

「いつの間に値上がりしたんや?」

「いつの間にて、毎月『如来寺便り』とか出してるんちゃうん?」

「あれは料金別納やさかい、気ぃつけへんかった」

「りょーきんべつのう?」

「数が多いさかい、料金は別払いで、いちいち切手貼れへんいうこっちゃ。しかし、いつの間に」

 改めて、スマホ確認のテイ兄ちゃん。

「なんと、2017年……いやはや三年も気ぃつけへんかったんやなあ」

 感心すると、わたしなんか、居らんかったみたいに冷蔵庫からアイスを出して自分の部屋に行ってしまいよった。

 はてさて、もっかいやり直そか。

 そう思って、手紙を読み返すと――これは書き直さならあかんやろ――いうくらいにひどい。

 まあ、明日にでも書きなおそ。

 そう思って四日がたって、まだ、よう出せへんさくらでした。

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ぜっさん・14『ぜっさん手紙を読む』

2020-08-30 06:43:48 | 小説3

・14
『ぜっさん手紙を読む』     



 ジャージにTシャツ。

 これって、自宅における女子高生の定番だと思う。

 ラフな格好なので、いきおい姿勢もチョーらくちんにしている。らくちんな格好というのは人さまざまなんだと思う。
 わたしの場合は『ビルマの竪琴』に出てくる寝仏(ねぼとけ)みたいな恰好。
 右を下にして、右手で頭を支える。
 寝仏と違うのは、左足を立ててマタグラむき出しにしていること。スカートだったら絶対NGな格好。
 でもって、左手でテレビのリモコン持ったり、マンガのページめっくたり、スナックをつまんだりする。お母さんが入ってきたら立てた左足だけ、お行儀よく右足に揃える。

 要は行儀が悪い。

 その、悪い行儀のまま(あとで後悔するんだけど)例の二通の手紙を読んでいる。

 ようやく夏も盛りを過ぎたようですね。
 学校も始まってしまいました。親の時代は八月いっぱい夏休みだったとか、昔は良かったんですね、って、なんだか年寄りじみてしまいます。
 僕の学校での席は窓際です。窓は東向きなので、冷房していてもかなり暑いです。
 うちは共学校なんだけど、女子のお行儀は女子高並みです。
 女子高並みと言っても、女子高を覗いたわけじゃなく、女子たちが話しているのを聞いて「そうなんだ」と思っている次第。
 下に着ているとは言え、第二ボタンまで外すのは、ちょっといただけません。
 中には、椅子の上で胡坐をかいて、団扇で風を入れているのもいます。
「おまえら、もう女捨ててるなあ」と担任は言うけど「捨てても有り余る女子力だもん!」と意気軒昂です。
 放課後は、部活に行きます。
 本当は部活のことを書きたかったんだけど、教室の描写で終わってしまいそうです。
 今日は、演劇部の在り方というような難しいことを話し合います。
 僕は、こういう原則論と言うかベキ論というか、そういう話はするべきではないと考えます。
 楽しい芝居を創ろう! これだけでいいと思うんですけどね。

 じゃ、また手紙書きます。   
 
                  牧野卓司
 PS 男と女の間に友情は成立すると思いますか? 
 

 思わず、姿勢を正してしまった。
 さて、二通目の萌黄色の封筒……。

 これを読んで、わたしはドキっとしてしまった!



主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・19『溺れたそのあと……』

2020-08-30 06:36:11 | 小説6

・19
『溺れたそのあと……』
        


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 

 

 溺れたその日は大事をとって入院した。贅沢なことに個室だった。そこしか空きが無かったから。

 ポチのことが気になったけど、犬は病院には入れない。ま、救急車の中では元気だったから大丈夫だろう。
 夕方までは、みなみとチイニイが付き添ってくれて……二人で喋ってばかりいた。溺れてグッタリだったので気遣いなんだと思うんだけど、ベッドで二人の会話を聞いているだけなのは寂しかった。

「ねえ、チイニイ、ポチ大丈夫かな?」

 分かっていながら聞く。

 わたしだって話に参加したい。そのきっかけにポチをダシに使った。

「大丈夫だろ、お袋が連れて帰ったけど、車の窓からワンワン吠えてたぞ。カナヅチのくせして川に飛び込むなって」
「もう、あたしが溺れたのは脚がツッタから。溺れかけはポチだったんだから」
「うそうそ、感謝して、ポナのこと心配してたよ」
 みなみがフォローする。みなみも小学一年からポチとも友だちだ。あたしほどじゃないけど、ポチのことは分かっている。

 夕方になって大ニイ以外の家族がとっかえひっかえやってきた。あたしのことを心配してのことではないことは明らかだ。

 大ネエは、あたしのことを口実に夜勤を人に代わってもらって、自分はそのまま非番になる。つまり夜から、あくる日いっぱい休みになる。大学生のチイネエは、見舞いをダシに親に生活費のカンパを頼んでいたし、お母さんは病院食に興味があるみたい。来年定年というお父さんは、お母さんの出産の時以外病院なんか来たことが無い。入院した大川病院は看護師さんが可愛いと評判なので、スケベ根性で来ている。その証拠に病室にはほとんどいなくて、ナースセンターのあたりをウロウロしている。「看護婦さーん」と時代遅れの呼び方で、なにくれとなく余計な話をしている。

 かくして、一晩の入院は病室が個室であることをいいことに、家族に談話室を提供して、あくる日には家に帰った。

 だれか付き添ってくれるかと思ったけど、目的を果たした家族は仕事やなんやらを理由に誰も来なかった。ま、ミソッカスだから仕方ないと思うと同時に、こういう形で、おおげさに言えば家族愛を示してくれることに感謝……分かってるんだけど、たった一人の退院は面白くなかった。

 お父さんの意見で学校には内緒だった。連絡すれば職務や義理で先生やみんなが見舞いにくる。同じ高校の先生なので、そのへんは気配りのようだ。

 昨日の差し入れに制服と鞄があったので(見た時は薄情な家族だと思った)そのまま遅刻で学校へ。月曜は生徒会の選挙がある、由紀のためにも休めない。奈菜も由紀も選挙のことでぶっ飛んでいたので、あたしの遅刻を気に留めなかった。
 由紀には二年生の対立候補がいる。ぽっと出の一年生は、どうしても不利だ。しゃかりきになるのも無理はない。
 結果、二期連続の副会長は、フレッシュというか圧の強い由紀に位負け。半分以上の票をかっさらって当選した。
「よ、女橋下! 世田谷維新の会!」
 と、もてはやされたが、由紀は怒っていた。由紀は前の生徒会が勝手きままにやってきたことを元に戻すことが目的で、維新の会とは規模は違うが真逆なことをやろうとしているのだ。

「ほんとに一般大衆というのは、度し難い!」

 由紀というのは事の本質を大事にする子だと感心。

 放課後には前日溺れたことなどすっかり忘れてしまった。


※ ポナの家族構成と主な知り合い

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

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かの世界この世界:56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』

2020-08-30 06:25:21 | 小説5

かの世界この世界:56     

『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』   

 

 

 二号のエンジンでポンプを動かすのだ!

 

 普段の倍ほどに目を輝かせて、ブリは宣言した。

 無辺街道での出会い以来、中二病的言動が大げさなブリだが、この時は最高に大げさだった。

「グニが主命により四号を運んできたのは天啓である! シュタインドルフの村とヴァイゼンハオスを救い、その善行により我と眷属たちのステータスを上げるのだ! さあ、みなうち揃いて庭に集い、堕天使ブリュンヒルデの奇跡を目に焼けつけるがいい!」

「無理です、二号は十トンに満たない軽戦車とは言え、エンジンの重量だけで七百キロはあります。クレーンはおろか、目ぼしい工具も無い状態では作業できません」

 ここに至って身分を隠しても仕方がないので、グリは臣下の物言いで、でも、キッパリとNOを突き付けた。

 グリは正しいと思う。ブリは確かにオーディンの娘で姫騎士で多少の武術には秀でているが、それは、わたしやケイトと変わらない駆け出し勇者のレベルで、とても戦車のエンジンを抜いてポンプに付け替えるような力は無い。いや、魔法だ。小なりと言えど戦車だ。その戦車のエンジンを取り外すのにはクレーンが無い現状では重力魔法を使う以外に道はない。ブリの魔力は戦闘において三十キロそこそこの自分の体を飛ばせる程度でしかない。とても七百キロのエンジンを浮遊させてポンプ小屋に運べるものではない。それに、運んだ後にいろいろ繋いで、きちんと動かすには、電気技師のスキルか機械を魔法で操るマキナ系の魔力がいるだろう。

「なにを益体もないことを、我は、主神オーディーンの娘にして堕天使のブリュンヒルデなるぞ。エンジンの一つや二つ意のままに動かせるわ! 見よ!」

 ガチャ ゴトゴト ゴトン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 庭の方で音がする。みんなで飛び出すと、二号のエンジンルームのカバーが開き、七百キロのエンジンが宙に浮きつつあった! 子どもたちは、それを取り巻いて胸をときめかせているではないか!

「みんな、危ないから、下がりなさい!」

 若いフリッグ先生が呼びかけるが、だれも言うことを聞かない、いや、耳に入っていない。

「目に焼き付けるがいい、堕天使の秘めたる力を! さあ、エンジン! 汝は、この時よりシュタインドルフの命の水を絶やさず汲み上げる力となるのだ……汝に命ず! エンジンとしてあるべき所に収まりて、モーターに力を与え、ポンプを稼働せしめよ!」

 ブリが身をのけ反らしながら、高々と両の手を挙げる!

 すると、屋根ほどの高さに上がったエンジンはクルクルと旋回し、壊れたポンプ小屋からは、さまざまのパーツが磁石に吸い上げられるようにして衛星のようにエンジンの周囲を回り、次々とエンジンに接合。接合し終えると、エンジンは旋回を止め、そろりそろりと下りてきて、ジェネレーターに結合。

 ブルン ブルブル ブルン

 エンジンが動き出し、同時にジェネレーターが発電を始めてモーターを動かしポンプが稼働した。

「見たか! 堕天使ブリュンヒルデの力を!」

 決めポーズをとると、ブリはポーズのまま仰向けに倒れ、ケイトがかろうじて受け止めた。

「気絶しています」

 

 うわー、ほんとに堕天使だったんだ!

 

 子どもたちが畏敬……というよりはヒーローショーの主役を見る眼差しで中二病の貴人をとりかこむ。何人かは、目が覚めたらサインをしてもらおうと色紙とサインペンを構えている。

「きみたち!」

 グリが忌々しそうに子どもたちに呼びかける。

「この人は堕天使なんかじゃないよ。もう、隠し立てしても仕方がないから言うよ!」

 子どもたちは期待の眼差しでグリを見上げる。コホンと勿体を付けて、グリは宣言する。

「この人はね、主神オーディーンの娘のブリュンヒルデ姫殿下だ!」

「え、ただの姫さま……?」

「オーディンの娘ってことは、ただの神さま」

「神さまの娘だから……ま、見習いってとこ?」

「……」

 口に出しては言わないが、子どもたちは、あきらかに失望している。わけがわからん。

 

「みんなに話があります」

 

 院長先生が言うと、さすがに口をつぐむ子どもたち。

「魔法とか堕天使とかはいいんです。ブリュンヒルデ姫が渾身の力でポンプを動かしてくれたことをこそ喜び、その感謝を捧げなければなりません。そうでしょ?」

 子どもたちを促すように神妙な顔でコクコク頷くフリッグ先生。わたしたちも真似て頷くと、ようやく子どもたちも大人しくなった。

「ブリュンヒルデ姫とお付きの方々はヴァルハラを目指されます。ポンプも無事に直った今、みなさんの中から一人、お供をしてもらいます。ただのお供ではありません。あなたたちのお母さんの元に戻ってお母さんを助け、この世界に真の平和が訪れる手助けをするのです。もちろん、今回はお母さんの存在がはっきりした人になります。他の人も残念に思ってはいけません。いつの日か、お母さんかお父さんか、または、それに代わる人を見つけて、あるいは、十分な力を付けて、ここを巣立っていくのですからね」

 はーい

 みんな、お利口に返事する。おそらく、院長先生は、ここ一番というところでしか、こういう話をしないのだろう。

「ブァルハラへの旅は過酷です、厳しいものです、また、姫さまたちのお邪魔になってもいけません。ですので、一人に絞ります。ロキ、フレイ、フレイア、前に出て」

 三人は、一様にどきりとした顔になった。

 おずおずと前に出ては来たけれど、その緊張が喜びによるものなのか、未知と言っていいところへの旅に対する不安なのか、わたしたちには分からなかった。

「それでは、決めます……ジャンケンで!」

 

 ズッコケてしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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