大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・82「とんでもない事態になってきた!」

2020-08-12 07:23:33 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)82

『とんでもない事態になってきた!』   



 

 運命とか神さまとかは信じない。

 お母さんとは意見の合わないことが多いけど、この点については一致している。

 世の中というのは因果応報、なにか事件が起こったり行動を起こすと、その事件なり行動が変数となって作用しあって事態を変化させる。

 わたしが新しい同居人で悩む羽目になったのは、そういう因果応報の果てのことなんだ。
 
 困ったことに、同居人は、いささかの運命論者。

「運命だと思ったんだけどなあ……」
 結論を聞いたミッキーは、ちょっとしょげている。
「ま、新しい執行部に持ち掛ければいいんだから、気落ちしなくていいわよ」
 いささかのシンパシー有り気な顔で答えておく。

 実は、ミッキーが生徒会活動に参加したいと言い出したのだ。

 ミッキーには悪いけど、これ以上わたしのテリトリーに入ってきてほしくない。

 脳天気なお母さんのお蔭で同居することのなったことだけでも十分すぎるほどトンデモナイことで、ミッキーの運命論を補強してしまっているのにね。

 自分で言うのもなんだけど、ミッキーはわたしに気がある。

 サンフランシスコの三日目、ゴールデンゲートブリッジのビュースポットでキスされそうになった。
 日の暮れで、周り中アベックばっかで十分すぎるほどの雰囲気。雰囲気十分で迫ってくることは理解できる。
 動物的衝動だけで迫って来たのではないことも分かっている。
 ミッキーが、わたしを崇拝してくれるのは嬉しいけども、崇拝されたからと言って、それに100%応えなきゃならない義務はない。
 でも、サンフランシスコからやってきた交換留学生への礼は尽くしてあげなければならない。
 ホスト校の生徒会副会長としての義務と礼節はわきまえている。

 わきまえていなければ、彼の同居が決まった段階で家出してるわよ。

 生徒会規約によって執行部の肩書と人数は決まっている。現状で定員一杯。
 執行部は選挙によって選出された者のみをもって構成する。それに、留学生が執行部に入れる規定も無ければ選挙権の有無についてもうやむやだ。
 そういうことを生徒会顧問と執行部に説いた。
「それに、あんたたちの好きな猥談できなくなるよ」
「「「え!?」」」
 これが会長以下の男子役員には効いた。
「アメリカはね、未成年へのセックスコードはメッチャ厳しいの。この棚に並んでるラノベはみんなアウトよ。体は大人でルックスは幼女のパンチラなんて即刻絞首刑! その下に隠してあるパッケージと中身が違うDVDなんか銃殺刑!」
「そ、それはネトウヨのデマみたいなもんだ!」
 会長の悲鳴は、わたしのハッタリが事実であることを物語っていた。
 そして、ミッキーの「生徒会活動に参加してみたい、いや、そうなる運命だ」という信仰的思い入れは潰えさった。
「残念ね、日本というのは慣例や規約にはやかましい国だから、わたしも応援したんだけどね……まあ、部活とかだったらノープロブレムだから、いっしょに探してあげるわよ」
「うん……頼りにしてるよ」

 よし! 難関をパスした気になっていた。

 ところが、とんでもない事態になってきた!

――ごめん、お祖母ちゃんと一週間泊まりの仕事になっちゃった。留守番よろ!――というメールが飛び込んできた!
――ちょ、お母さん、ミッキーと二人ってことなんですか!?――
――大丈夫よ、ミッキーはいい子だし、念押しにメールしたら「安心してください、神に誓ってミハルを守ります!」って返事きたから――
 で、それがお守りになるかのように奴のメールを転送してきた。

 ウウ……それって、憲法だけで日本の平和が守れますってくらい脳天気なことなんですけど!

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ポナの季節・1《クリーニングしたての制服》

2020-08-12 06:18:51 | 小説6

・1
《クリーニングしたての制服》
               


 

 ポナは愛犬ポチを連れてクリーニング屋に向かった。

「新子ちゃんのは……これこれ。でも、もう衣替えなの?」
 クリーニング屋のオバサンは、仕上がった制服をカウンターに置きながら不思議そうに聞いた。
「ううん、でも明日から中間服着てもいいから。冬服は十月まで大事にしまっとくの」
「偉いね、制服大事にして。今時の女子高生とは思えないよ」
「だって、初めての自分専用の制服なんだもん」
「そうか、いつもお下がりだったもんね」
「ヘヘ!」

 嬉しそうに笑うと新子はポチのリードを持ち直し、朝日がつくるポチの影を、ポチは新子の影を踏みながら、家に帰る。
 新子は昔通り元気に影を踏んでいくが、ポチは微妙に遅れる。
「ポチも歳かなあ……」
「ワン!」とポチが吠える。まるで「違わい!」と言っているようだ。

 ポチは、新子が生まれた年に上の兄貴が拾ってきた雑種の犬。他の兄姉と歳の離れた新子には、双子の弟のようなものだ。
 都の条例があるので、リードは付けているが、勝手に走ったり、ウロウロしたりはしない。なんせ本人は自分が犬だとは思っていない。

「Im home!」

 ジブリの『耳をすませば』の英語の字幕スーパーで覚えた英語の「ただいま!」と、声を掛ける。
 新子は、成績はイマイチだが英語は好きだ。
「お帰り、ちゃんとナフタリン入れてしまっておくのよ」
「ナフタリンじゃないよ、防虫剤!」
 そう母の言葉を直して二階の六畳へ。
 今は一人で使っているが、去年の三月までは、すぐ上の姉優里といっしょに使っていた。部屋の家具の配置が『耳をすませば』と同じだったので、ますますジブリも『耳をすませば』も好きになってしまった。

 壁には連休前に届いた中間服が掛けてある。制服には珍しい青のギンガムチェック。袖は一見半袖に見えるが白の袖口を伸ばせば長袖になる優れもの。それとクリーニングしたての冬服を並べて掛ける。
 自然とニマニマとした顔になる。

 新子には二人ずつの兄と姉がいる。一番歳の近い優里とも四つ離れている。不思議なことに四年たてば優里と同じ背格好になるので、新子の服はたいてい優里のお下がりだった。優里は服も道具も大事にする子だったので、中学の制服を着てもクリーニングをかければ新品と変わらない。
 それはそれで気にしなかったが、優里とは違う高校に進んだので、人生で初めての自分だけの制服を買ってもらった。

 自分だけのものが、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。

 正直世田谷女学院を選んだのは、単に姉たちの高校へは行きたくないという理由の他に、制服がイケてるというのが大きな理由だった。
 男子がいないというのが、ちょっとつまらなかったが、男とは中学までで十分遊んだ……って、変に大人びた遊びじゃなくて、駆けっこ、木登り、取っ組み合いのケンカまでやってきた。そう言う意味では十分発育した体をしながら、感性は小学生なみではある。
「そろそろしまおうか」
 そう独り言を言った時、スマホが鳴った。メールではなく電話だ。
「はい、ポナ。どうした?」

 電話は、親友の高畑みなみからだ。

 みなみは、小学校からの友だちだが、高校で分かれた。みなみは女優の坂東はるかを出した名門の乃木坂学院。数々のドラマの舞台にもなったが、校風はいたって穏やか。なんの話かと思ったら、こういうことだった。

『明日から中間服なんだけどさ、業者がサイズ間違えてピッチピチ。で、お姉さん乃木坂だったじゃん。もし残してたら、しばらく貸してもらえないかな』
「よかったね、この衣替えで処分しちゃうとこだったよ。待ってな、すぐ持ってってやるから」
『あんがとさん。持つべきものはポナだ。じゃ、よろしく。とんがりコーン買ってお待ち申し上げておりまーす!』

 ちなみに、とんがりコーンは新子の大好物。それと、ポナというニックネーム。これは新子が自分で付けた。

 歳の離れた末っ子を、東京では「みそっかす」という。新子も折に触れて、そう呼ばれた。あんまりな言い方だと思って英語の辞書を引いた。

 みそっかす=a person of no accountとあった。で、その頭文字P・O・N・Aをくっつけて、そう呼んでもらって定着している。家族は時と場合と気分次第で使い分けている。

「ポチ、いくよ!」
 ポナは、またポチと一緒に駆けだした。

 みそっかすポナの物語が始まった。

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ぜっさん・07『ま、幸先のいい二学期の始まり』

2020-08-12 05:56:58 | 小説3

ぜっさん・07
『ま、幸先のいい二学期の始まり』   



 一夏閉めきっていた教室は臭う。

 何の臭いだろう……ティーンの男の子と女の子の臭い、ちょっと甘ったるい、多分ジュースとかが腐りかけている臭い、ホコリとチョークの臭い、その他もろもろ。

 まだエアコンが使える時間じゃないので、窓を全開にする。臭いに染まった空気がモワっと動き出す。

 昨日で夏休みが終わって、今日から新学期。
 遅刻したらどうしようと思っていたら、いつもより30分早く目が覚めた。で、新学期モードになっていたわたしは31分早く学校に着いてしまった。1分早くなったのは、新学期の緊張か、少しでも早く冷房の効いた電車に乗りたかったからか。

 ブーーーーーーーーーン

 携帯扇風機を回す、顔とか首とか腋の下とかあててみる。湿度95%のささやかな風はかえって気持ち悪い。
 大阪は、エスカレーターの左側を空けることを除けば東京とそんなに変わりはない。でも、このジトっとした空気は違うなあ……。
 そんなこと思いながらポカリを口に含むと……生温い。

 冷蔵庫にストックが無かったので、レンジ台下のストッカーから常温のを持ってきたのだ。

 なんだか、このジトっとした空気をそのまま液体にしたみたいで、気持ち悪い。
 いっそ蝉でも鳴いていれば、暑さもすがすがしいのに……蝉っていつのまに居なくなったんだろう……気が付いたら眠りかけている。

 よし、コーヒーでも飲みに行こう!

 気合いを入れてから食堂横の自販機に向かう。階段を下りているうちに缶コーヒーのイメージはワンダーモーニングショットに固定されてしまう。
「や、おはよー!」
 食堂の角を曲がったら、自販機にコインを投入している藤吉くんの姿が見えた。
「おはよ。ぜっさん早いなあ」
 ガコンと自販機の鳴る音にシンクロして、藤吉くんが笑顔で声を掛けてくる。
「うん、早く目が覚めちゃって」
「ハハ、いっしょやなあ」
 眠そうな藤吉くんの手には、冷え冷えのワンダーモーニングショットが握られている。大阪も人気の缶コーヒーは同じなんだ。
 で、ワンダーモーニングショットのボタンを押そうとしたら赤ランプが点いている。
 チ、藤吉くんのが最後の一缶だったんだ。
 藤吉くんに罪は無いんだけど、思わず去りゆく背中を睨んでしまう。
「エーー、午後の紅茶しか残ってないってか……」

 朝から午後の紅茶というのもオチョクラレてるみたいだ。

 よく見ると、炭酸なんかも残ってるんだけど、どうにも気がのらない。冷水機の水で我慢しようとため息つくと……。

 キャ!!

 ホッペに冷たいものが触れた。
「飲みたかったんやろ、譲るわ」
 藤吉くんが、横に立って缶コーヒーを押し付けていたのだ。
「あ、ありがと……」
 お礼を言いかけると、ヒョイと右手を挙げて背中を向けていた。

 藤吉くんなんだけど……ま、幸先のいい二学期の始まりと思っておこう。 
 

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かの世界この世界:38『ムヘンブルグ城塞都市』

2020-08-12 05:48:03 | 小説5

かの世界この世界:38     

『ムヘンブルグ城塞都市』  

 

 

 

 ムヘンブルグ城塞都市の正門はダムに似ている。

 

 頂部のムヘンブルグの文字が無ければ、下から見上げた黒四ダムに間違えたかもしれない。

 正門の下部は重厚な額縁のように段々になっていて、一番奥の下方は学校の昇降口ほどの大きさで、宅急便の車が通れるくらいしかない。

 超重戦車ラーテが近づくと、二層目、三層目、四層目、五層目と広がっていき、しまいに、一番外側の六層目ゲートまで開き、学校の講堂程のラーテは微速で入っていった。入った直後から六層のゲートが閉じていき、ラーテの最後尾が入ると同時に全てが閉じられた。

 

「わたしはラーテを格納しますので、タングニョーストが鎮守府までご案内します」

 タングリスに先導されてラーテを下り、中央通に足を踏み入れる。

 背後でゴーーッと音がしてラーテが沈んでいく。どうやら格納庫は地下になっているようだ。

「さ、続いてください」

「正体丸出しでいいの?」

 わたしたち三人は、出発した時のままだ。これがスターウォーズかなんかだったら、そこらへんを歩いている兵士のコスを剥ぎ取って搭乗員の交代とか脱走囚人の護送とかを装うところだ。

「城塞の中はトール元帥の支配が行き届いています」

「ということは、相変わらずの頑固おやじなのか……」

 ブリが肩を落とす、どうやらトール元帥は苦手なようだ。

 うる憶えなんだけど、トール元帥が北欧神話に出てくるトールならば、進撃の巨人ほどの身の丈がある。対面して喋るだけで首が痛くなりそうだし、そんな巨人の気むつかしいお説教を、説教されるのはブリなんだろうけど、傍で聞いていると、台風のさ中に実況中継をさせられている新人アナウンサーのように立っているだけで精いっぱいになるんじゃないかと心配した。

 

 あ、ブリねえさん! ブリねえ! ひさしブリねえ! ブリブリ!

 

 声が聞こえてきたと思ったら、街のあちこちから子どもたちが出てきて、たちまちのうちにブリとわたしたちを取り囲んだ。

「オー、みんな元気か!」

 元気元気! あそぼあそぼ! タングのねえちゃんも! この二人は家来? ブリケンパ! ブリオニ! 新しい家来? だったらブリボールとか!

 子どもには絶大な人気があるようだ。

「悪いな、ブリもめっちゃ嬉しいんだけど、こいつら連れて元帥に会わなきゃならないから、用事すんでからな。さ、通してくれ」

 えーーあとー!? ブリブリ! ブリー!

 ブリブリ不満を言いながらも、子どもたちは道を開ける。

 寄ってきた子どもたちには、握手したり、頭を撫でたり、ホッペに手をやったり、スキンシップを欠かさないブリ。

 ケイトは苦手なようで、できるだけ輪の外側に出ようとするが、どうも無駄な努力なようだ。ブリに対するほどではないがもみくちゃにされる。

「おまえ、子どもたちにはブリブリ言われて平気なのな」

「子どもに悪意は無いからな」

「わたしも悪意はないぞ」

「リスペクトもないしな」

「さ、ここからは本営だ。また遊んでやるから、ここまでだーー!」

 本営を示すのだろうか、道に白線が引かれたところでブリが手を上げると、子どもたちはブリブリ言いながらも離れて行った。

「ここからは、この輪の中に入って離れないようにしてください」

 タングリスは輪になった縄を出し、四人とも輪の中に収まって、まるで電車ごっこのようになって本営の中に入っていった。

 

 

☆ ステータス

 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2

 

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

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