オフステージ(こちら空堀高校演劇部)82
運命とか神さまとかは信じない。
お母さんとは意見の合わないことが多いけど、この点については一致している。
世の中というのは因果応報、なにか事件が起こったり行動を起こすと、その事件なり行動が変数となって作用しあって事態を変化させる。
わたしが新しい同居人で悩む羽目になったのは、そういう因果応報の果てのことなんだ。
困ったことに、同居人は、いささかの運命論者。
「運命だと思ったんだけどなあ……」
結論を聞いたミッキーは、ちょっとしょげている。
「ま、新しい執行部に持ち掛ければいいんだから、気落ちしなくていいわよ」
いささかのシンパシー有り気な顔で答えておく。
実は、ミッキーが生徒会活動に参加したいと言い出したのだ。
ミッキーには悪いけど、これ以上わたしのテリトリーに入ってきてほしくない。
脳天気なお母さんのお蔭で同居することのなったことだけでも十分すぎるほどトンデモナイことで、ミッキーの運命論を補強してしまっているのにね。
自分で言うのもなんだけど、ミッキーはわたしに気がある。
サンフランシスコの三日目、ゴールデンゲートブリッジのビュースポットでキスされそうになった。
日の暮れで、周り中アベックばっかで十分すぎるほどの雰囲気。雰囲気十分で迫ってくることは理解できる。
動物的衝動だけで迫って来たのではないことも分かっている。
ミッキーが、わたしを崇拝してくれるのは嬉しいけども、崇拝されたからと言って、それに100%応えなきゃならない義務はない。
でも、サンフランシスコからやってきた交換留学生への礼は尽くしてあげなければならない。
ホスト校の生徒会副会長としての義務と礼節はわきまえている。
わきまえていなければ、彼の同居が決まった段階で家出してるわよ。
生徒会規約によって執行部の肩書と人数は決まっている。現状で定員一杯。
執行部は選挙によって選出された者のみをもって構成する。それに、留学生が執行部に入れる規定も無ければ選挙権の有無についてもうやむやだ。
そういうことを生徒会顧問と執行部に説いた。
「それに、あんたたちの好きな猥談できなくなるよ」
「「「え!?」」」
これが会長以下の男子役員には効いた。
「アメリカはね、未成年へのセックスコードはメッチャ厳しいの。この棚に並んでるラノベはみんなアウトよ。体は大人でルックスは幼女のパンチラなんて即刻絞首刑! その下に隠してあるパッケージと中身が違うDVDなんか銃殺刑!」
「そ、それはネトウヨのデマみたいなもんだ!」
会長の悲鳴は、わたしのハッタリが事実であることを物語っていた。
そして、ミッキーの「生徒会活動に参加してみたい、いや、そうなる運命だ」という信仰的思い入れは潰えさった。
「残念ね、日本というのは慣例や規約にはやかましい国だから、わたしも応援したんだけどね……まあ、部活とかだったらノープロブレムだから、いっしょに探してあげるわよ」
「うん……頼りにしてるよ」
よし! 難関をパスした気になっていた。
ところが、とんでもない事態になってきた!
――ごめん、お祖母ちゃんと一週間泊まりの仕事になっちゃった。留守番よろ!――というメールが飛び込んできた!
――ちょ、お母さん、ミッキーと二人ってことなんですか!?――
――大丈夫よ、ミッキーはいい子だし、念押しにメールしたら「安心してください、神に誓ってミハルを守ります!」って返事きたから――
で、それがお守りになるかのように奴のメールを転送してきた。
ウウ……それって、憲法だけで日本の平和が守れますってくらい脳天気なことなんですけど!