大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・002『修学旅行・2・羽田宇宙港』

2020-08-09 15:01:20 | 小説4

002

『修学旅行・2・羽田宇宙港』    

 

 

 展望デッキに居合わせた旅行客や見学者やらトランジットやら空港スタッフやらが、揃って四番ポートに目を向けた。

 ゴーーーーーーーーーーーーーーーー

 ついさっき火星からの修学旅行生五百人を乗せてきたパルスシャトルが飛び立った四番ポート前のカーゴロードを滑走路にして、十二機のゼロ戦を始め三百年前の日米軍用機百機余りが着陸しようとしているのだ。

 並の修学旅行なら母船の学園艦ごと着陸するんだけど、なんせ学園艦はポンコツだ。二世代前の戦艦を改造した船で、大気圏に突入させると分解しかねないというのは扶桑人の自虐的ジョークかもしれないが。母船ごと着陸させると着陸料や駐機料がバカにならないことは確かで、大気圏突入や着陸にともなう保険料が他国の船の倍以上かかるというのも確かなことだ。

「すごいな……」

 彦が短い言葉で感動する。

 日ごろクールな彦が「すごいな」などと感動を言葉にすることは無い、たいてい「へー」「ほー」「うん」で済ます優等生が、平仮名にして四文字も口にすることは珍しい。

 日ごろ、何かにつけ正直に感情や想いを口にする一(ダッシュ)は、逆に言葉も出ないし、入学以来感情が薄いと教師から言われている未来(みく)は教師の言葉通りシレっとした顔をしているが、よく見ると薄く口と瞳孔が開いて、幼なじみであるダッシュが正面から見ていたら「どうした未来!?」と詰め寄るくらいに感動している。

 児玉戦争と別名で呼ばれることが多い満州戦争終結二十五周年と今上陛下御在位二十五年を記念して行われるページェントのために集められたクラシックたちだ。

 東京を皮切りに日本各地で展示飛行などが行われる。それが、たった今到着したのだ。

「すごい、プロペラで空気かき回して飛ぶんだぜ」

「ここまで振動が伝わって来る……」

「待った甲斐があったな」

 ダッシュたち四人はページェント参加機の到着が、自分たちのパルスシャトル到着の一時間後であることを知って、羽田宇宙港の展望デッキで待っていたのだ。

「あ、えと、テルもそろそろなんじゃない?」

 未来が時計を気にする。

「そうだな……」

「ダメよ」

 右手の人差し指を振ってインタフェイスを出そうとしたダッシュを未来がたしなめる。

「そうだな、修学旅行中はアナログでいこうって決まりだぞ」

「あ、わりいわりい(^_^;)」

「下りて待ってみる?」

「あ、もうちょっと……」

「あとはVRでダイブすればいいじゃない」

「やっぱ、ライブで見るのは違うからなあ……」

「ん、あれは?」

 未来が指差した方向にはエプロンに入って来るパルストランスポーターの車列が見える。

「一部の機体は、あれに載せてキャンペーン会場に持っていくんだ」

「火星までは持ってきてくれないだろうなあ……」

「当たり前でしょ、いくらパルスでも火星は遠すぎる」

「あ……」

 彦が小さく驚いた。

 未来とダッシュが目を向けると、エプロンにタイヤを軋ませてアナログ車が侵入してくるところだ。

 トランスポーターに接触しそうになってスピンして運転席に見えた姿は……

「「「テルだ!」」」

 ダッシュ 未来 彦 テル 四人の修学旅行が始まった。

 

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大阪ガールズコレクション:7『浪速区日本橋 カセイドール・2』

2020-08-09 08:54:40 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:7

『メイドカフェ カセイドール 浪速区・2』 

 

 

 オーナーの苗字ね……じつは『はやし』じゃなくて『リン』と読むらしいよ。

 

 メイド仲間のステラさんが教えてくれる。

『リン』と言うことは在日華僑?

 ステラさんは華僑ということで異端視しているんじゃない。オーナーのお店にかけ情熱がハンパじゃない。

 メイド服がハイソだってこともそうなんだけど、お店の調度が凝っている。

 元々は別のオーナーがやっていたのを居ぬきで買って、あれこれと手を入れている。

 お店の内装や調度は他店のように映画のハリボテめいたものでは無くて、イギリスに出張して調達してきたビクトリア調で統一されていて、タイタニックの一等ラウンジかヒギンズ教授の書斎かって感じ。

「マイフェアレディーって?」

「あ、不思議の国のアリスって感じでもあるわ」

 そう言いなおすとステラさんは納得した。

『カセイドール』という店名もね、カセイというのはフランス語だったかで東洋とか中国を表すんだしね。正確な発音はキャセイ、香港のイチオシ航空会社がキャセイパシフィック航空ということでも偲ばれる。

 

 美味しくな~れ 美味しくな~れ 萌え萌えキュン! ラブ注入!

 

 うちのビクトリア朝には馴染まないんだけど、オーナーの指示もあってやるのです。

 あ、お料理とかテーブルに持って行ったときにやるお呪いの事ね。

 現役JKの子でも抵抗のある子が居て、シャルロットさんが根気よく指導している。

 ステラさんのアニメ声が絶品。『俺いも』のあやせとか『冴えカノ』の霞ヶ丘歌葉とか『りゅうおうのおしごと』の雛鶴あいとか『エロマンガ先生』の和泉紗霧とか山田エルフとかのモノマネでやるのも人気の秘訣。

「でも、この原作を知ってるマリアさんもすごいです!」

 あ、それもそうか(^_^;)

 照れながらやるのはOK、 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにやるのは、オーナー曰く、わたしのように楽しんでやるのよりも胸キュンなんだそうです。

 ただ、不機嫌そうにやるのはNGです。照れると不機嫌そうになる子っているでしょ?

 メイドは愛嬌なんです。

 

 ここのところの暑さを少しでも凌ごうと、日本橋界隈のメイド喫茶メイドカフェのメイドたちが集合して打ち水をすることになった。

 総勢80人のメイドが集まって堺筋のホコ天で一斉に柄杓でもって打ち水。

 掛け声は、これに決まってる。

 涼しくな~れ 涼しくな~れ 打ち水パシャ!

 80人揃うと、可愛くも壮観!

 狙っていたんだろうけど、続いて撮影会や握手会になって宣伝効果も抜群。

 わたしも、いっぱい写真を撮ってもらったり握手をしたり。

 そんな握手の列に、この春までお世話になっていた小学校の先生二人! 

 ヤバイと思ったんだけど、けっきょく気づかれずに済みました。わたしの化けっぷりもなかなかのものなのかもね(^▽^)/

 

 そんな努力も実って、この夏は前年比50%増の売り上げになって、オーナーの初期投資を回収できただけでなく、メイドたちにも臨時ボーナスが出されたり。

 むろん、オーナーもがっちり儲けて、本場のアキバに二号店を出す計画もあるとか。

 地元の同業の方々からは『稼いどーる』の異名もいただいた。

 もう二十代いっぱい、これでいこうかなあ……思わずお腹の肉を摘まんでしまった(^_^;)

 

 

 

 

 

 

 

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ぜっさん・04『そう返事したのは……妻鹿先生』

2020-08-09 05:46:44 | 小説3

・04
『そう返事したのは……妻鹿先生』   


 

 ぜっさん。

 転校してきたその日に、こう呼ばれるようになった。
 もちろん、わたしのファーストネームからきている。
 だれが言いだしたかは覚えていない。瑠美奈だと思っていたんだけど「あたしが言う前に、もう、そうなってたで」と言うんだから、瑠美奈ではないのだろう。藤吉(とうきち)も「俺とちゃうで」と言う。
 フレンドリーな呼び方なので80%は嬉しい。
 東京では〔ゼッチ〕と呼ばれていた。〔ぜっさん〕と同様〔絶子(たえこ)〕の〔絶〕の音読みからきているけど、中学でゼッチと呼ばれるのには一か月ほどかかった。しばらくは〔敷島さん〕だった。距離の詰め方が東京と大阪ではずいぶん違う。

 しかし頭にアクセントがくるモッチャリした〔ぜっさん〕の発音には、なかなか慣れなかった。

ぜっさん〕は、なんだかおブスな響きがある。

 瑠美奈は、東京と同じ〔るみな〕でアクセントも同じ、小気味よくって可愛い。むろん実物ミテクレも可愛い。もし原宿とか渋谷を一人で歩いていたら、絶対ナンパされる。でも声を掛けて、その返事が「なんでおまんねんやろ?」と吉本みたく返されたら引いてしまうだろうなと思う。美少女の皮を被った吉本は、東京じゃトレンドじゃないよ、やっぱ。

 担任の妻鹿先生は〔メガちゃん〕と呼ばれている。教師になって5年目なんだけど、いまだに女子高生みたいなところがある。服装なんかはおとなし目なんだけど、どこかオチャッピーなところがあって、心も体もテニスボールのようによく弾む。
 藤吉大樹を〔とうきち〕と呼んだのも妻鹿先生が最初らしい。妻鹿先生は名前を覚えるのが苦手で、学年の最初は個人写真を貼りつけたカードを単語帳みたくして覚えている。
 で、名列表から名前を書き写すときに、なぜか姓名を〔大樹藤吉〕と逆に写してしまい〔おおきとうきち〕と覚えてしまった次第。

 その妻鹿先生が『メガちゃん』の出で立ちで、あたしと瑠美奈の前に立っている。場所はJRの森ノ宮駅前なのだ。

「それは困ったわねー」

 事情を説明した後のメガちゃんの言葉が、これ。
「やあ、あんたらなにしてんのん?」
 先生は大阪城公園を走る気まんまんの服装、ハーパンの上は出身校である真田山学院高校の半袖体操服だった。まさにメガちゃん。

 わたしと瑠美奈は、広島旅行などでお金を使ったので、その分を回収しようとバイトのお迎えバスを待っていたのだ。
 このバイトは、三人で請け負っている。あたしと瑠美奈と加倉井さんという他校の生徒。で、ついさっき加倉井さんから――39度の熱でいかれへん――という電話がかかってきたところ。
「えーーーー!」と瑠美奈が叫んだところで電話は切れてしまった。
 このバイトは瑠美奈の先輩の顔で回してもらっている。「一人来れませ~ん」では済まない。

 困ったわねーーとメガちゃんが腕を組んだところでクラクションが鳴った。

「加藤さんと敷島さんと加倉井さんやね!? 信号変わらんうちに乗ってしもて!」
 ワンボックスの助手席からオニイサンが叫んでいる。赤信号のわずかな間に、わたしたちを見つけたようだ。
「い、いま行きます!」
 そう返事したのは……メガちゃ、妻鹿先生。

 先生は加倉井さんの身代わりになって、わたし達を救おうと決心したのだ!


  主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任 メガちゃん

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かの世界この世界:35『穴の向こうから』

2020-08-09 05:32:29 | 小説5

かの世界この世界:35     

『穴の向こうから』  

 

 

 

 これからどうするの?

 

 シリンダー連結帯の群れが遠ざかり、口から飛び出しそうになっていた心臓がやっと胸の真ん中に収まったころにブリが口を開いた。

「待ってる」

「「なにを?」」

 ケイトと声が重なった。

 結界の中にいれば安全なのだろうが、いつまでも居るわけにはいかない。

 とにもかくにも無辺街道を抜け出し、ヴァルハラを目指さなくてはならない。ヴァルハラを目指せと言いだしたのはブリ自身なのだ。

 それに、丸めた背中にグッタリとツインテールを垂れさせているブリの姿は、いささか心もとない。

「無辺街道の警備を任されている者たちの内に力を貸してくれる者が現れる」

「それは誰なの? 連絡とかとれるの?」

「……夕べの月が、そう言っていた」

 

 ちょっと驚いた。

 たしかに、夕べの月は凄みがあって、イケメンのマッチョがいれば狼男に変身しそうだった。

 変身するかわりに、ブリはツィンテールを解かせて本来の姿を見せた。

 そして、無辺街道からの脱出を決心……したはずだ。

 古来、月の光は心を惑わす。

 夏目漱石は、好きな女性が居たら満月の夜に「月が綺麗ですね」と一言言えば口説けると言った。

 あれは、漱石の実体験だろう。そうやって結婚した女房に、漱石は一生手を焼いている。月の力を借りれば、どこかでしっぺ返しが来るのではないか……。

 文学的な素養のあまり、そんな妄想が湧いてきたところで地響きがした。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

「シリンダー連結体?」

 怯えたケイトがしがみ付いてきた。

「音が違う……もっと……」

 あとは、ケイトを怯えさせるだけだと口をつぐむ。

 シリンダー連結体はイナゴの大群のようだったが、頭上に迫ろうとしているそれは、グラウンドを慣らすローラーを巨大化させて、それを同時にいくつも曳いているような終末期的なおぞましい響きがある。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………ゴロ ゴト

 

 地響きが頭上で停まった!

 

 トール!?

 

 ブリが呟く……ガチャリ 金属音がしたかと思うと半球状の結界のテッペンに、ジジジとガスバーナーを吹きつけたような光が円を描いていく。

 パカ

 焼ききられたテッペンが落ちてきて、マンホールほどの穴が開いた……。

 思わず結界の端っこに身を避ける。

 わたしよりも一瞬早くケイトが逃げていた。退避行動ではあるが、反応が早くなることはいいことだろう。

 ブリは、触覚のようにツインテールをそよがせて穴の向こうを調べている。

 ――ブリュンヒルデさま――

 穴の向こうから声がした。

 

☆ ステータス

 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2

 

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

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