大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト[そんな気はしていたんだ]

2020-08-10 05:58:47 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
[そんな気はしていたんだ]  



 そんな気はしていたんだ。

 あたしはマリコ・ナディア・重藤。苗字は普通だけど、名前が変だ。マリコとナディアと二人分ある。

 保育所で物心ついたころには、そんな気がしていた。あたしには日本人以外の血が混じっている。どうやらハーフらしいことも薄々感じていた。写真を撮ると、あたしだけ目のあたりが陰になることが多かった。他の子より顔の凹凸が激しい。でも、けして不気味とかじゃなくて、可愛いと自分でも思っていた。笑顔が得意で集合写真なんか、あたしの笑顔が一番引き立つ。
 でも、べつに男の子にもてたいとかチヤホヤしてもらいたいという気持ちからじゃない。

 ほどよくみんなに馴染むため。

 子供の世界はきびしい。ちょっとみんなから外れるとハミられる。薄ぼんやりしてると、いじめに遭う。ほどほどのところで……そう、月に一回ぐらいね。みんなから「マリコかわいいね」と言われるぐらいでいい。

 小学校に入ると、きっと「マリコはどことのハーフなの?」と聞かれる。思い切ってお父さんに聞いた。
「生んだお母さんはユーゴスラビアだ。でも、育ててくれたのは芳子お母さんだ。二度とは言わない。マリコも二度と聞くんじゃない。とくにお母さんの前ではな」
 いつものお父さんらしくなく、目を合わせず、首筋のほくろを掻きながら言った。それだけでよかった。
「どことどこのハーフ?」と聞かれても、これで答えられる。そしてユーゴスラビアなんてたいていの子が知らない。
 だから「そうなんだ」で、たいがい始末がつく。

 ところが、中学1年生の時にスカウトされてしまった。

 成長するにしたがって、自分でももてあますくらいに可愛くなってしまったのだ。

 そんな気がしていたから、外出するときはメガネをかけて、モッサリした格好で出かけるように気を付けていた。でも本屋さんで本を探しているときにメガネ外して上の棚を見ていた。この姿勢って、顔の造作が一番露わになる。そこをNOZOMIプロのスカウトにひっかかった。心は完全に日本人なので、きっぱり断ることが出来ずに三か月ほどで、アイドルの端くれになってしまった。

 学校で、妬み半分のシカトが始まった。

 そんな気はしていたんだけど、そういう状況を避けられないのが日本人らしくて、困りながらも安堵する自分がいた。お父さんと芳子お母さんに近いと思うと嬉しくなる自分もいたのだ。
 結局、スケジュール的にもきびしいので、アイドルや芸能人の子たちが通う中高一貫校に転校。ここは気が楽だった。あたしみたいなハーフの子もいるし、恋愛御法度の学校なんで、薄いつきあいで済むようになった。

「社長、お顔の色が悪いですよ」
 そう言うのが精一杯だった。
「そんなことないよ、マリコは心配性だな」
 ゴルフ焼けした顔でダクショの社長は笑顔で返してきた。でも、そんな気がしたんだ。社長の命は長くないって……。

 社長は二週間後、頭の線が切れて亡くなった。

 どうやら、あたしには人に無い能力があるらしいと気づいた。あれから三人ほど人が死ぬことが予知できた。でも人には言わない。
「あなた、とんでもない力もってるわよ」
 テレビ局の廊下で二輪明弘さんに言われた。
「人には言わないわ。ぐちゃぐちゃにされるからね。あたしの目を見て……うん、大丈夫。悪いことには使ってないわね」

 十八歳の時、密かに恋をした。

 二十二歳というちょっと遅咲きの俳優Kに。でも、そんなことはおくびにも出さなかった。ときどきドラマやバラエティーでいっしょになる。それだけでよかった。
 ある番組でKといっしょになった。それも隣同士。もう収録のことなんか半分とんでしまった。すかたんな答えをして、皮肉にも受けたりした。話題があたしに振られたときもドキドキして、スカタン。放送作家は、かなりあたしのことを詳しく調べていて「お母さんの出身はユーゴスラビアのどこそこだね」とMCに言わせ、オーディエンスがどよめいたが、あたしはKが死ぬことを予感して、それどころではなかった。
 あたしは、死因まで分かるようになっていた。Kは白血病だった。

 気が付いたら、ホテルのベッドで朝を迎えていた。成り行きはおぼえていなかったが、うろたえる自分と安心する自分がいた。
 Kは、あたしの横で裸の胸を安らかに上下させながら眠っていた。
 Kの首筋にはあたしの歯形が付いていて、あたしの口の中には、微かに血の香りがした。
 直観で、Kはこれで命が助かったことを確信した。

 そして、収録でMCが言った言葉を思い出していた。

「マリコの生みの母は、トランシルバニアの人だね」

 そんな気はしていたんだけど……。

 トランシルバニア、分からなかったらググってください。

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ぜっさん・05『南禅寺の森』

2020-08-10 05:42:08 | 小説3

・05
『南禅寺の森』     



 

 はいOK!

 監督の一声で、やっと現場の空気が弛んだ。


 それまで「もう一回!」の声しかかからず、今ので7テイクだったのだ。
「……けっこう暑かったのねぇ~」
 メガちゃんが、セーラー服の胸元をパカパカさせて呟き、それでスイッチが入ったみたく、わたしも瑠美奈のオデコにも汗が滲みだした。

 あたしたちは、テレビドラマのエキストラのバイトに来ている。

 場所は京都のあちこちで、今は南禅寺裏手の森の中に居る。
 このあたりは東山の山裾にあたり、京都のど真ん中に比べると2度ほど涼しい。水路閣というローマの水道橋みたいなのもあって、まるでヨーロッパ。言われなきゃお寺の裏手とは思えない雰囲気で、余計に涼しさを感じさせてくれる。
 でも、それは程度問題で、真夏に晩秋の設定、冬服のセーラー服は身に着けるサウナ風呂に等しい。

「メイク直しますねぇ~」

 のどかな声でメイクさんがやってくる。メイクさんは二人で、一人は扇風機を回しながら汗を押えてくれる。
――女生徒A、もちょっと年齢感上げて、つぎ、ちょいアップだから――
 助監督がメガホンで注文を出す。
「分かりました!」
 一声叫んで、メイクさんは、わたしたち三人の顔を見くらべる。
「やっぱ、加倉井さん幼顔だもんね」
「あ、はい、まだ一年生ですし」
 あやうく吹きそうになった。

 加倉井さんの正体はメガちゃん、つまり我らの担任妻鹿先生だ。

 大阪城公園でジョギングしようとしているところで、迎えの車を待っているわたしたちに出くわした。高校時代の体操服を着ていたので、期せずしてドタキャンになった加倉井さんに成りすましてエキストラのバイトに加わった。おかげでバイトを紹介してくれた先輩の顔を潰さずに済んでいる。

先生、ほんとに可愛く見えますねえ……」
「こら、今は加倉井さんでしょ」

 一睨みしてスポーツドリンクをコクコクと飲むメガちゃん。エクステだけど、お下げにした横顔は、わたしでも胸キュンになってしまう。

――女生徒三人、こっちに! 七瀬と合わせまーす!――

 助監督の声で、水路閣のアーチの下に行く。
 アーチの下にはスタッフに囲まれたディレクターチェアに座った主役、七瀬役の望月美姫が同じセーラー服を着て座っている。
「ちょっち暑いけど、がんばりましょうね」
 美姫さんが笑顔で声を掛けてくれる。メガちゃん同様に可愛らしく見えるけど、もう25歳くらいにはなっている。女優さんと言うのはすごいもんだ。単に可愛いだけじゃなくて、存在感というかオーラがハンパない。

「う~ん…………閃いた!」

 四人並んでメイクの手直しを見ていた監督が、ポンと手を叩いた。
「女生徒ABC、次は水路閣の上から飛び降りよう!」
「「「え……!?」」」
「あそこから」

 監督が指差したそこは、はるか10メートル上の水路閣のアーチの上だった!

「あ、一瞬ハデに燃え上がってからね。心頭滅却すれば火もまた涼しって言うじゃない、アハハハ……」

 南禅寺の森に監督の笑い声がこだました……。

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かの世界この世界:36『タングリスとタングニョースト』

2020-08-10 05:33:43 | 小説5

かの世界この世界:36     

『タングリスとタングニョースト』  

 

 

 

 その声はタングリス!?

 

 ブリの目が輝いた。

 ブリの声に励まされるようにして穴から飛び降りてきたのは戦闘服に身を包んだ二人の美少女だ。

「タングリス! タングニョースト!」

 100ワットの電球が点いたような明るさで立ち上がったブリに二人の美少女が駆け寄り、ハッシと抱き合った。

「やっとお出ましになる決心をなさったのですね!」

「うん、神のお導きで、この二人に出会えてな。紹介する、こっちの大きい方が剣士テル。小さい方が弓士ケイト。たった今、シリンダー連結体を駆逐して、わたしの結界で一息ついているところ」

「姫がお世話になりました。わたしたちは主神オーディーンの片腕にして無辺方面軍司令官であるトール元帥の戦車操縦手のタングリス、こちらが……」

「タングニョーストです、お見知りおきを」

 わたしたちは、エルベ川で邂逅した米軍とソ連軍のように握手し合った。

「これがエルベの誓いなら、勝利は目前ね」

「「神のご加護のあらんことを」」

 二人の美少女は単純にYESとは言わずに神のご加護を期待する慣用句に声を揃えた。前途は多難なのだろう。

 それを察知したのか、ブリは言葉を変えた。

「おまえたちが居るということは、トールが、すぐそばに来ているということだね。この上?」

「いえ、元帥はムヘンブルグの本営におられます。元帥共々出張ってしまっては、疑われてしまいます。わたしたちは、あくまで囚人脱走の報をうけて警戒に出てきたことになっております」

「長く留まっていると、疑われてしまいます。とりあえずは戦車の中へ。自分が先頭に、タングニョーストが末尾に着きます。こちらへ」

 タングリスが咽頭マイクに手を当て「下ろせ」と指示すると、結界の天井の穴からラッタルが下りてきた。

 

 ラッタルを上ると地上と思いきや、薄暗く、見渡すと、巨大な鉄臭い天井が迫って来る。

 天井を潜るまでの二秒で左右の隙間からわずかに光が漏れているのが分かったが、判然とはしなかった。

 ガシャリ

 天井と思いきや、上がってみると白く塗られた機械室のようで、閉められたのは、足もとのハッチであることが分かった。

 小学校の時に乗った連絡船のエンジンルームのようなところだ。

 いや、エンジンそのもの……巨大なV12エンジンがアイドリングに身震いしていたのだった。

 

 ブルブルブルブルブルブルブルブル……

 

☆ ステータス

 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2

 

☆ 主な登場人物

  •   テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
  •  二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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