大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・13『親殺しと半殺し』

2020-08-24 06:36:20 | 小説6

・13
『親殺しと半殺し』   



 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



「ねえ、親を殺したいって思ったことある?」

 由紀の選挙ポスターを貼りながら、奈菜が物騒なことを聞いてきた。ポナはビックリして画びょうを落としてしまった。

「ねえ、思ったことある?」
「あのね、ものを聞くのにはタイミングと聞き方ってのがあるよ……画びょう、どっかいっちゃったじゃん」
「ごめん、でもさ……」
 奈菜は、口ほどには思っていない「でもさ……」で、まだ自分の世界の中に潜って手が止まっている。
「……たぶん、昨日の横浜の母親殺人事件のことを気にしてんだろうけどさ……」
「うん、犯人の高校生って、同じ高一じゃん。なんか身につまされんのよね」
「それよりも画びょうがね……ほっとくと、怪我人が出るかも……ちょっと奈菜!」
「え、ああ、画びょう……ポナのスカートにひっかかってる」
「え、どこ?」
「お尻のとこ……」
「分かってるんなら、早く言ってよね。このまま座ったら刺さるでしょうが」
「だから、親をね……」

 どうも話のピントが合わない。

「あたしなんか、五人兄姉のミソッカスでしょ。考えたこともないよ。次の掲示板行くよ」
「うん……」
「奈菜、あんたこないだの五月病で、さんざん迷惑かけたとこでしょ。そんなこと聞ける立場?」
「なんだけどね、あれも、普段からイイコちゃんぶって、本当の自分を出さなかった結果だと思うのよ。あたし、ポナみたく自分で、この学校決めたわけじゃないもんね」
「だったら、さっさと学校辞めて、来年の春に別の学校受け直すべきね。画びょうちょうだい」

 貼り終わった最後のポスターを見て、書いてあることに初めて気づいた。

――主体性のある生徒! 指導性のある学校!――なんだか矛盾したスローガンだ。

「浅田真央のインタビューなんか見ても思ったのよ。あんな風に自信持って自分のことが決められる女にならなきゃって」

 どうも、奈菜はマスコミとか、その場の雰囲気に流されやすい性質のようだ。

 ポナと友だちでいられるのは、ポナが適度にああしろこうしろと言ってくれることと関係が有りそうだ。ポナは、他の兄姉と歳が離れているせいもあって、逆に何事も自分が決めなければ放っておかれる立場にある。だから中学までは我慢したが、高校は自分の意志で世田谷女学院を選んだ。奈菜を見て居るとイライラすることも多いが、存外好き放題をぶつけられる妹的な存在として、かけがえのない友だちなのかもしれない。むろん本人は自覚していないが。

「あ、新しい饅頭屋さんだ!」

 登校するときには、まだ看板が出ていなかったが「丹後屋」という看板が、お饅頭や大学芋の匂いと混ざって、食欲旺盛なポナの胃袋を刺激する。
「ほう……なかなか本格的な饅頭屋さんだ」
 ガラス張りの厨房の中では、いかにもベテランと言う感じのオバサンが、小気味よく饅頭を作っていた。

 親子セットと言うのがあって、粒あんと漉しあんの二つの組み合わせ。
「開店記念に二割引きだってさ。うん、これは、なかなかいいコミニケーションツ-ルだ。買っていくか!」
 列も並び始めの五六人だったので、ポナと奈菜は列に加わり「親子セット二つ」というと「開店祝いのサービス!」ということで、別に半殺し(粒あんとこしあんの中間)を一つくれた。これが意外にいけそう。

 半分に割った半殺しをパクつきながら駅に向かう二人だった。

※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

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かの世界この世界:50『バケツとジェリカン』

2020-08-24 06:03:02 | 小説5

かの世界この世界:50     

『バケツとジェリカン』    

 

 

 

 ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……

 

 葦の草叢を三つの足音が逃げていく。

 グリと目配せして川下と川上に分かれて追いかける、それぞれケイトとブリを従えている。

 融合体との戦いで、四人は阿吽の呼吸で行動できるようになったようだ。

 

 草叢の上にグリの掲げた手が「そこ」を示している。「そこ」とは、カエル投げの犯人が一秒後に到達する位置だ。今現在の場所を指しても、飛び込んだ時には手遅れになる。

 セイ!

 その未来位置にケイトと一緒に飛び込む。グリとブリも飛び込んで瞬くうちご用!

 襟首と腰の後ろを掴んで持ち上げると、ジタバタと手足をもがかせて抵抗するが、いかんせん小さい。

 離せ! 離せ~! 離せ~ヘンタ~イ!

「おまえら、ヴァイゼンハオスの子どもたちだな」

 腕組みしたグリは怖そうだが、目が笑っている。

「だ、だからやめろって言っただろ~が!」

 わんぱくそうなのがもがきながらイケメンの男の子に言う。イケメンの方は苦笑いだが、ケイトに掴まったお転婆が口を尖らせる。

「き、きったねー! 投げようって言ったのはロキの方じゃないか!」

「そうか、そういうやつか、お前は……」

 ピシ!

 グリが畳んだままの鞭を一閃、わんぱくの数本の髪の毛が宙に飛ぶ。

 ヒエ~~~~

 三人同時に悲鳴を上げて、腰が砕ける。

「ここじゃ、水に浸かるなあ」

 戦車の前まで連れていき、四人で囲んで正座させた。

「なんでカエルなんか投げたのよ!」

 一人命中弾をくらったケイトが詰め寄る。

「こんなとこまで戦車でやってくるのは……」

「えと……」

 男の子二人が言葉を濁らせると、女の子がまなじりを上げる。

「きっとサボりに違いない! だって、シュタインドルフはオーディンシュタインに護られてるから安全なんだもん! そんなとこに来る兵隊は、きっと腰抜けだ! って……間抜けだったっけ? ロキ?」

 ロキに振るので、首謀者は丸わかりだ。

「お、オレに振るな~!」

 わんぱく坊主はヘタレでもあるようだ。

「おまえたち、こんな河原で何をしていたんだ?」

「決まってるじゃん……あ!?」

 女の子は、自分の両手を見てハッとした。

「バ、バケツが……」

 わんぱく坊主もオタオタ、どうやら、なにかの用事の最中に、わたし達を発見して悪戯を思いついたようだ。

「バケツなら、三つまとめて向こうに置いてあるよ。戦車に気づいたとたんにほっぽり出すんだから」

 

 ピシュ

 

 グリが大きく一振りすると、鞭の先に取っ手を絡めとられた三つのバケツが引き寄せられた。

「水汲みか……」

「わたしたちも挨拶代わりに水を汲んで持っていこうとしていたところだ。ちょうどいい、作業を手伝え」

「戦車で水汲み?」

「ああ、そうだ。たくさん運べるが、水槽に入れるところまでは人力だ。がんばれ」

「そのまえに、ちゃんと名前を聞いておきたいな」

 ブリが、手ごろな使い魔を見つけたという顔で言う。

「ぼく、フレイです」

 イケメンが最初に名乗る。

「わたし、フレイア。フレイの妹よ」

 なるほど、性格は違うようだが顔立ちは似ている。

「ほれ、あんたの番よ」

 フレイに小突かれて、いっそうオタオタのわんぱく。

「ロ、ロキだ。ハオスの子どもの中じゃ一番偉いんだぞ」

「そうか、じゃ、偉いのが先頭で作業にかかるぞ」

「そそ、そっちも名乗れよ」

「向こうに着いてからだ、さ、かかるぞ」

 

 子どもたちのバケツと戦車のジェリカンをぶら下げて水汲みに掛かった……。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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