大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・005『修学旅行・5・アキバ 初音ミク』

2020-08-27 14:34:11 | 小説4

・005

『修学旅行・5・アキバ 初音ミク』    

 

 

 別名児玉戦争とも呼ばれる満州戦争(2194~2195 正治27~28)から四半世紀、戦時中に即位された今上陛下の御代も二十五年の一区切りということで、御即位二十五年の記念行事が目白押しである。未来(みく)たちの修学旅行もうまく御即位記念月に当っていたので、羽田宇宙港に着いてからは班ごとの自主スケジュールということになっている。大方の生徒は慣れない元宗主国での旅行は学校登録の旅行社に任せ、到着早々手配のパルス車に乗って、それぞれの目的地に飛んで行った。

 中には日本国内の出身地や宗家(火星移民組の古い者は、もう五代目になる者も居て、地球におけるルーツを大事にし、火星の者が来球する時には、宗家が何くれと面倒を看る習慣があって、特に日本出身者に、その傾向が強い)が面倒を見ることもあって未来たちのように全て自分たちでやってのける者は少ない。

 

「駐車場だけは頼らざるを頼らざるを得なかったのよさ」

 

 ちょっと不服顔のテルは、それでも器用に駐車を決めた。

「なんだったら旅行中、ずっと駐めていただいてもいいんですよ」

 応対に出てきた総務のニイチャンが嬉しいことを言ってくれる。

「ありがと、でも、あちこち周るかや、とりあえず今日だけでいいのよさ」

「そうですか、ま、なにか不便なことがありましたら連絡をと社長も申しています、どうぞ御遠慮なく」

「ありがと。それじゃ、社長さんにもよろしく、ゆっといて」

「みなさんが社会に出るころには、うちの火星進出も進むでしょうから、その節にはよろしく」

「うん、テルが開発したものは、まず万世橋商会に声をかけゆかや、テルの方こそよろしくなの」

「「よろしくおねがいします」」

「あんたも」

「あ、ああ、よろしくっす」

「痛み入ります、アキバは御即位関連でちょっと熱が入り過ぎていると言われています、どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ありがと、じゃ、行ってくゆ」

「「行ってきまーす」」

 万世橋商会の地下駐車場を出た四人は、万世橋を渡って右に折れる。

 昨年改築されたばかりの万世橋署の向かいにアキバ歴史的建造物群の中でも一番に重要文化財に指名されたラジオ会館が見えてくる。

「なんか涙出てきそうになるねえ!」

 オタクの聖地アキバの歴史は二百五十年を超え、満州戦争の後は歴史的建造物群にも指定され、日本では白川郷の合掌造りと並んで有名で、ラジオ会館やAKBシアターなど十幾つの建物が重文に指定され、そのうちの幾つかは国宝指定と世界遺産の指定のどっちが早いかと噂されている。

 ピッポピポ ピッポピポ ピッピッピピポ(^^♪

 突然、聞き覚えのある電子音が鳴り響いたかと思うと、空から棒状の何かが一杯降ってきた!

「あ、あれは!?」

「販促用のパルスオブジェか?」

 ※ パルスオブジェ:パルスエネルギーによって作られた3Dオブジェ、実際に手に触れることができるが、風船ほどの質量しかなく、一定時間が過ぎると消滅する。ゴミにならない販促グッズとして二十三世紀に入って一般化した。ニューヨークで拳銃のパルスオブジェを使って、街ぐるみで突発的シューティングゲームをやろうとしたマニアが居たが、実銃と区別がつかないので禁止になったことがある。

「あ、ネギだ!?」

 真っ先にジャンプして掴まえた未来が感動する。

 そうなのだ、聞き覚えのある電子音と言い、ネギと言い、もう、あれしかない!

 ボン!

 ポン菓子が出来あがったような音がして、ラジオ会館の屋上に身の丈三十メートルはあろうかという初音ミクが出現し『ミックミクにしてやんよ!』を歌い始めた!

 アキバのあちこちから地震のようなどよめきが沸き起こった!

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ぜっさん・11『お待たせ!』

2020-08-27 06:19:21 | 小説3

・11
『お待たせ!』     


 

 せっかくの美人が台無しだ。

 そう思うくらい、薬丸先輩の怒った顔は残念だ。
「そんな看板倒れな演劇部、さっさと畳んでしまいーよ!」
「結果を見てから言うてください」
「結果も何も、コンクールにも出えへんで、演劇部ていわれへんやろがーーーー!!」
「いいえ、立派な演劇部です」

 パシーーーーーン!! 

 瑠美奈を張り倒した音は教室中に響いた。張り倒した薬丸先輩はドタドタト音をさせて教室を出て行った。
「あんまりだよ!」
 わたしは、椅子を蹴飛ばして薬丸先輩を追いかけようとした。
「追いかけてもラチあかん。こじれるだけやから止めといて」
 左の頬っぺたを赤くしたまま瑠美奈が止めた。
「保健室行った方がええんとちがう?」
 蚊の鳴くような声で毒島さんが心配した。
「大丈夫、こんな腫れすぐにひくさかい。うん、歯ぁ食いしばってたから口の中も切ってないから」

 えと……この事件のあらましはね。

 たった一人の演劇部員である瑠美奈に「今年こそはコンクールに出なさいよ!」と先輩の薬丸先輩が文句を言いに来て「コンクールに出るばっかりが演劇部とちゃいます」と、瑠美奈が可愛くない返事をしたのが発端。

 薬丸先輩は、三年生で評判の高い美人。で、元演劇部。去年のコンクールでは取り巻きの生徒を集めてコンクールの本選にまで進んで、優秀賞と個人演技賞を獲っていた。本人は、それを汐に引退したそうだけど、演劇部への情熱は、いまだに沸々と沸き立っているようなのだ。

 教室は放課後ということもあるんだけど、薬丸先輩が怒鳴り始めてから減り始めて、瑠美奈が張り倒された時には四人に減っていた……って、いつのまにか、もう一人消えていた。

「藤吉……残ってくれていたと思ったのに」
 自販機で、思いもかけず優しいところを見せてくれたので、期待値が上がっていた分腹が立つ。
「藤吉はバイトがあるもん、しかたないよ」
 見透かしたように瑠美奈が言う。

「お待たせ!」

 汗を垂らしながら藤吉が帰って来た。
「ま、これでも飲んで切り替えようや」
 藤吉は手にぶら下げた袋からモーニングショットを取り出して配った。
「独断と偏見やけど、おれ的には、これが一番しっくりするねん。ぜっさんもそうやろ!」
 藤吉は、それまでの「敷島さん」から女子の間だけの愛称の「ぜっさん」で、呼んだ。タイミングのいいジャンプだ。

 ショックだったけど、結果的には友だちの距離が縮んだ放課後だった。


主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・16『中間テスト最終日』

2020-08-27 06:05:17 | 小説6

・16
『中間テスト最終日』
        


ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



「終わったー!」

 定期考査と言うのは、出来不出来にかかわらず、終わった瞬間は嬉しいもんだ。


 生徒会選挙が来週早々だけど、こんな日になにをやっても、みんな上の空なので由紀はなんにもせずに、ポナと奈菜と一緒の帰り道、丹後屋の饅頭をホチクリ食べている。
「ね、例の若奥さん風のこと、なんか気づいた?」

 由紀は「分かった?」ではなく「気づいた?」と聞いた。なんか上から目線なので「な~んも」と不愛想にポナは答える。奈菜は相変わらずボンヤリと二人の話を聞いている。

「分かんない?」
「待って。うーん……パートの仕事?」
 ポナは苦し紛れに答えた。
「パートだったら、お昼間近のお医者にいったりできないでしょ」
「……そりゃそうね」
 奈菜は、あんまり気のない返事をした。意識のほとんどが饅頭を味わうことに動員されている。

「セックスのことに決まってんじゃない」

 グフッ!

 ポナは、危うくむせ返るところだった。
「あれって、体密着させるじゃん。きっとひどい風邪かなんかで、旦那に伝染しちゃいけないから……あら、なにむせ返ってんのよ。ポナって究極のガキンチョだね」
 奈菜は――あ、そうか――と、軽い顔をしている。すっかりお嬢ちゃんに戻った気でいたが、家出してガールズバーでバイトしていただけのことはある。

 昨日と同じようにポチを連れて、薮医院の前を通る。

 例の若奥さん風が、機嫌よく日傘を開き、クルクル回しながら帰っていくところだった。
「先生、もうあの若奥さん良くなったの?」
 休憩のために表に出てきた藪先生に聞いてみた。
「ああ、やっとな。なんだポナ、顔が赤いぞ、風邪のぶりかえしか?」
「ううん、そうじゃない」
「ははーん、ポナもやっと意味が分かったか」
「あ、いや、なにもそんな……きれいな人だから元気になって良かったなって思っただけ!」
「女になって、まだ一年だからな……喜びもひとしおなんだろう」
「……え、何が一年だって?」
「しまった、うかつに喋っちまった。でも知ってるだろ、こないだまでテレビによく出てた夏菜あい。真剣に若奥さんやろうとがんばってるんだ」

「夏菜あい……!?」

「おっと、内緒な」

「う、うん」

 由紀の予想は当たっていたが、大きなところでハズレていた。まあ、夏菜あいの変わりようは見ただけでは分からない。
「それだけ人生に真剣なんだ。そっとしといてやってくれ……」
「先生、患者さんがお待ちです!」

 看護師さんに叱られて、藪先生は、お尻を掻きながら医院の中に戻って行った。

「世の中何があるか分かんないよね……」
 ボール遊びを二十回こなしたポチに独り言を言った。ポチが口を聞けたら「そんなの当り前」と言っただろう。

 家に帰ると、もう一つビックリすることが起きていた。

「ポナ、オレ乃木坂の常勤講師に決まったぜ!」

 チイニイの孝史が嬉しそうに言った。


※ ポナの家族構成と主な知り合い

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補



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かの世界この世界:53『院長先生』

2020-08-27 05:53:18 | 小説5

かの世界この世界:53     

『院長先生』     

 

 

 ここの子たちは、みな戦災孤児です。

 

 院長先生は、ごく当たり前のことを言った。

 ヴァイゼンハオスというのは孤児院という意味なのだから、当たり前だ。

「そうですね、当たり前のことです」

 表情を読んだのか、言い当てられてしまった。

「ムヘンで一番安全なところですが、もっとも辺鄙なところでもあります。だから、ここが孤児院であることをだれも疑いません」

「なんだか意味深ですね」

「じつは、大切な人を預かっているのです。それをカモフラージュするために孤児院をやっています」

「どういうことでしょう?」

 グリとふたりで顔を見合わせてしまった。

「十年前に、さるお方からとても大切な人を匿うように言いつかりました」

「……子どもなんですね?」

 院長先生は、だまって頷いた。

「その子を送り届けてはいただけないでしょうか」

「送る?」

「ええ、そこは、その子をもどさなければ成り立たなくなってきているのです」

 

 グリはじっと院長先生の目を見ている。事の重大性と自分の任務と院長先生の話の重さを計っているのだろう。具体的な話を聞いてはいないが、話の重さは、先生の人柄と共に伝わってきている。

 

「詳しいことは申せません。ただ、このムヘンのみならず、この世界全体の命運に関わることだと申し上げておきます」

 話は、まだほんのさわりだが、院長先生の目は我々の決意を促している。

「その話だけでは、申し訳ありませんが、答えようがありません」

「……あなたがたが、ここに立ち寄られた理由を考えてください」

「立ち寄った理由?」

 それははっきりしている、ブリたちが旅行気分で買い込み過ぎたお菓子を届けに来たのだ。

「ムヘンブルグの北門を出たところで、警戒任務から帰って来たばかりの戦車兵とお話になったでしょ?」

 そうだ、車長の軍曹にゲペックカステンのお菓子を発見されて、不審に思われたところをグリが、とっさに誤魔化したんだ。シュタインドルフのヴァイゼンハオスに慰問に行くところだと……。

「その場の言い繕いなら、わざわざ来ることも無かったでしょう、そのままノルデンハーフェンに向かわれれば済む話です」

「「な……!?」」

 グリと揃って愕然とした。

 院長先生の言う通り、本来の目的からは何の意味もないことを、何の疑いもなくやってきているのだ。

「じつは、わたしが呪を掛けたのです」

「しゅ?」

「呪いと書きますが、悪意はありません。今は、こんなナリをしていますが、聖戦のころは、さるお方にお仕えする白魔導士でした」

「驚きました、おっしゃる通りです。我々は、ここまで足を運ばなければならない事情は何もなかったんです」

「でも、不快な感じや恐れはありません」

「それは、心の底では、共感いただいているからだと思いますよ。あなた方の任務は……いま、子どもたちを寝かしつけてくださっているブリュンヒルデ姫をヴァルハラにお連れすること」

 恐れ入った、院長先生はなにもかもご存じのようだ。

 

「騙されてはいけませんよ」

 

 いつのまにか間近にやってきたフリッグ先生がニコニコしながらとんでもないことを言う。

「院長先生は孤児院を続けるカモフラージュのために、あの子を預かられたんです」

「あらあら、そうなのかしら?」

「正解は、明日の朝になったら分かる……ということでいかがでしょう。そろそろ日付も変わる時間になってきましたから」

「え、あ、そうですね……」

 フリッグ先生の目を見ているうちにグリもわたしも急速に眠くなってきた……。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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