大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・164『ソフィアがワキワキした』

2020-08-20 14:07:48 | ノベル

せやさかい・164

『ソフィアがワキワキした』    

 

 

 たった二週間の夏休みが終わって二学期が始まった。

 

 去年の夏休みはさくらと留美ちゃんを連れて、わたしのもう一つの母国であるヤマセンブルグとエディンバラに行った。

 ヤマセンブルグの王家は英国(正確にはスコットランド)の爵位も持っていて、厳密に言うと、わたしはイギリス人でもある。

 将来、どういうふうに生きて行こうかと、世間の15歳なら考え始めることをわたしも考えている。

 まあ、並みの15歳では考えもしない国籍の問題。わたしは日本とヤマセンブルグの二重国籍。二重国籍の人って、そこそこ居ると思うんだけど、わたしの場合、一国の王位に関わる問題なので、自分の趣味とか好き嫌いとか想いとかでは決められない。

 正直言って、そういう重たい選択からな逃げ出したい、あるいは先に延ばしたい。

 でも――真剣に考えています――という姿勢は見せておかなきゃならないので、半月あまり後輩二人を道連れの旅行だった。二人には申し訳ないと密かに手を合わせていたんだけど、さくらも留美ちゃんも胸時めかせて「有意義でした!」と言ってくれているので救われている。

 今年の夏は、コロナウィルスのことがあって日本もヤマセンブルグも鎖国状態。だから、ヤマセンブルグどころか、東京の大使館にも、大阪の領事館にも顔を出さずに済んでいる。

 思いもかけずにモラトリアムが延長されたわけなんだけど、それを生かせるようなことは何もできずに新学期を迎えてしまった。

 なんか、取り留めのない愚痴でごめんなさい。

 部活を決めなくてはならない。

 真理愛学院は全生徒が部活に入ることになっている。むろん絶対にという義務的なものでは無いんだけども、外見的にも立場的にも目立つわたしが特例的に部活に入らないという選択肢は避けなければならない。

 コロナで決定を猶予されていたようなもんだけど、まだ八月とは言え二学期が始まった今日、いつまでも未定のままではいられない。

 ソフィアは、さっさと弓道部に入って、もともとアーチェリーの有段者でもあって、メキメキと腕を上げている。

 さくらの従姉の詩(ことは)さんが部長を務める吹部には心が動いたけど、拘束時間が長いので候補から外さざるを得なかった。先生は中学の経歴から文芸部を勧めてくださったけど、安泰中学の文芸部が名ばかりで会ったことは、みなさんご存じの通り。と言うよりは、あのマッタリした中学の文芸部からいまだに抜け切れていないのかもしれないなあ、あの如来寺本堂裏座敷の部活は、それほどに楽しかった……。

 わ!?

 そんなことでボンヤリ廊下を歩いていると、角を曲がったら階段というところで人とぶつかって尻餅をつくところだった。

「す、すみません、ボンヤリしていて……!」

「だいじょうぶ夕陽丘さん?」

 ぶつかった相手が手を差し伸べてくれる、反射的に手を掴んで、その感触に――これは生徒ではない?――と直感、手の先には腕があって、腕の先には顔があって、その顔は夏用のライトグレーのウィンプルを身に着けた学院長先生だった。

「あ、ありがとうございます。危うく尻餅をつくところでした」

「よかった、廊下はコンクリートだから、打ちどころによっては尾てい骨骨折ぐらいになったかもしれないわね」

「尾てい骨骨折ですか?」

「ええ、六十年前、まだ生徒だった頃にやっちゃって、しばらくはおザブに座るのにも悲鳴を上げてたわ」

 学院長先生は、うちの出身だったんだ。ちょっと、嬉しくなった。

「ひょっとして、部活の事とか気にしてた?」

「あ、はい……どうして分かったんですか?」

「そりゃ、この学校の学院長ですからね、よかったら相談にのりますよ。今から会議だから、放課後にでも院長室においでなさいな、年寄りの茶飲み話の相手だと思って」

「は、はい」

 校長先生や教頭先生は知っていたけど、学院長先生はネット入学式の画面で見ただけだ。うちのお婆さまと同じ雰囲気がする。

「殿下、大丈夫ですかああああ!?」

 ソフィアが吹っ飛んできた。

「申し訳ありませんでしたです!」

「なんでソフィアが謝るの?」

「ソフィアは殿下ガードです、です!」

「いや、わたしがボンヤリしていただけだから」

「尾てい骨とか聞こえてましたけど」

「え、わたしに盗聴器でも仕掛けた?」

「いえ、窓からお姿が見えたです、殿下と学院長先生の唇の動きで」

「ああ、読唇術」

 ソフィアは代々王室に使える魔法使いの家系なんだ。

「学院の中なので、ソフィアは油断していたです」

「あ、だいじょうぶだから」

「大事ないか、ソフィアが見分するです、お尻を見せていただきますです!」

「ちょ、だいじょうぶ! すんでのとこで院長先生が手を取ってくださったから!」

「安全を確認するのはガードの務めです、です!」

 ちょ、両手をワキワキするのは止してくれる、ソフィア……ソフィアアアアアア!! 

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ポナの季節・9『花金の浅草三社祭なんだけど……』

2020-08-20 06:34:49 | 小説6

・9
『花金の浅草三社祭なんだけど……』
   


 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名

 今日のポナは落ち着きがない。

 なんといっても浅草三社祭の大行列の日なのだから。

 小さいころに、亡くなったお祖父ちゃんに連れられて、よく見物に行ったものだ。ポナはお祭りが好きだ。

 普段はよそよそしい東京の人間も、浅草の三社祭と神田明神のお祭りでは、江戸っ子としてのアイデンティティーを共有できて、みんなが「仲間」って感じになれる。
 去年までは中学校の創立記念日が十五日だったので、三年連続でみなみたちといっしょに観にいけた。

――いまごろ神輿の渡御だろうな……――

 そう思うと気もそぞろだった。
 ところが、四時間目の社会の八重桜は、違う意味で興奮していた。

 八重桜の本名は桜田順三だけど、ハナよりハが前にでているので、入学早々ポナが付けたあだ名だ。一度間違えてあだ名で呼んだことがある。
「八重桜先生!」
 言ってから「しまった」とおもったが、八重桜は何を勘違いしたのか、ニコニコ顔で振り返った。
「なんだい、寺沢新子くん」
 ポナは驚いた。百人以上の生徒を教えていて、自分のフルネームを覚えてくれたからである。
「先生、名前覚えるの早いですね!」
「君のは特殊だからね」
 たしかに『新子』は珍しい。しかし、マツコ・デラックスほどではないし、寺沢は平凡の部類に入る。
「君の名前は、『青い山脈』の主人公と同じ名前だから」

 え……と思った。ポナは「青い山脈」を知らなかった。

 でも、お互い名前の事で意気投合してしまった。ただ、八重桜の意味は「桜田」という苗字からだという苦しい言い訳をしなければならなかったし、当番で集めたクラス全員分のノートを渡すのも忘れてしまった。

 その八重桜が興奮している。

「戦争法案が閣議決定されてしまった!」
 Aテレビのニュース解説者のようなことを言いだして、ポナの夢心地を吹き飛ばしてしまった。
「これで自衛隊の隊員たちは、いつ戦場におくりこまれるかもしれなくなったんだ!」

 安保法案のことだとは分かったが、決めつけた言い方は気に入らなかった。気に入らないと、すぐに相手を睨みつけてしまう癖が出てしまった。

「おや、なんだか一言ありそうだね新子くん」
「この法案は戦争をしないための法案なんです!」
「新子くん、ぼくの話し聞いてた? 自衛隊が戦える条件を増やす法案なんだよ。危なくなって当然じゃないか、先生には軍靴の響きが聞こえるよ」
「違います。法案が抑止力になるんです、不十分ですけど」
「これで不十分? 恐れ入るね」
「軍隊は、細々した法律はいらないんです。分かります? 細々と、あれはしていいこれはしていいというのは縛りすぎて抑止力にならないんです。だから、中国の海軍なんかに舐められるんです。軍隊には、してはいけないことを少しだけ決めておけばいいんです」
 ポナと八重桜が真剣になってきたので、クラスの大半は「関係ない」という顔をしている。奈菜だけが顔を向けて消極的だけど応援の姿勢を見せてくれている。
「ほう、例えばどんな?」
「平時において、相手を威嚇してはならない。命令によらない攻撃をしてはならない。国際法を逸脱するような軍事行動をとってはいけない。これくらいです」
「あとは、なんでもあり?」
「そうです。だからこそ抑止力って、軍隊の本来の任務が遂行できるんです。今度の法案は、そこまでいかないけど、少しは進歩したんです」
 ポナは、まくしたてながら、普段煙たく感じている大ニイの理屈を言っている自分が、正しいような、もどかしいような変な気持ちになった。
「君の考えは、少し偏向してるように感じるね」
「日本人で一番戦争をしたくないのは自衛隊なんです。なぜなら自衛隊の最大の任務は戦争をすることじゃなくて、戦争の抑止だからです」
「新子くん、きみ、身内に自衛隊の人いるんじゃないの?」
「います、上の兄が海上自衛隊です。でも、この考えは、あたし自身のものです」
 新子は、頭がぐらりとして思わず机に手を突いた。
「先生、気分悪いから保健室に行ってきます」

 ポナは、そのまま保健室へ行ってしまった。

 保健室では、養護教諭のエミちゃん先生が、パソコンで三社祭のライブを流してくれた。
「なんだか、お祭りのオジサンたちって江戸時代から、ずっと生きてきたように見えるわね」
 何気ない言葉だったが、ポナは、少し救われたような気がした。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

 高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
 支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子


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かの世界この世界:46『荒ぶるブリュンヒルデ!』

2020-08-20 06:21:32 | 小説5

かの世界この世界:46     

『荒ぶるブリュンヒルデ!テル  

 

 

 待てっ!

 グリがイグニッションを押そうとした時、凛として制止の声があがった。

 それがブリの声だと脳みそが理解するのに数秒を要した。いつもの気まぐれで小学生気分が抜けきれない中坊のようではなかった。凛とした声に瞬時戸惑ったが、身を乗り出して見上げたブリの表情は天晴れヴァルキリアの姫騎士のそれであった。

 驚く間もなく、ブリは続ける。

「禍々しいものがやってくるぞ!」

 そう続けてペリスコープに食らいつくブリ。

 グリもキューポラの八つあるペリスコープに次々と食らいついている。

「「あれは……!?」」

 発見の声は同時だ。

「おまえたちも見ろ」

 促されて、わたしもケイトとペリスコープを掴んだ。

 

 なんだ、あれは……?

 

 それは、数千個の泡が緩く集合してボンヤリと人型になったものだ。

 蚊柱の一匹一匹が蚊ではなく泡粒なのだと言ったら分かるだろうか……それが身の丈五十メートルほどになってやってくるのだ。

「確認だ!」

 ブリがキューポラから飛び出し、わたしたちも続いた。

「伏せろ!」

「痛い!」

 ボンヤリ出てきたケイトがブリに押さえつけられる。

 寝ていた時はケイトと似た者同士に見えたが、文字通り覚醒すると、その差は歴然だ。

「シリンダーが融合しかかっている……」

 数秒観察して、ブリが結論を出した。

 

 泡粒に見えたのはシリンダーだった。

 一つ一つのシリンダーは融合の中心から逃れようとしているのだが、引力が強すぎて逃れられないロケットのように放物線を描いて引き戻され、少し力の強いものは人工衛星のように融合体の周囲を回っている。引力に逆らって逃げおおせている者は、ほんの僅かだ。

「結合体以上のものになりかかっている」

 ムヘンの南半分、ブリと囚人地区を出ようとして散々悩まされたのがシリンダーの結合体だ。

 数百のシリンダーが縦に結合して開いた数珠のようになって、次々に襲い掛かって来た。

 ブリの結界によって身を隠し、グリとグニが操縦する超重戦車ラーテに助けられた。あの時の結合体の三乗倍も禍々しい。

「逃げます!」

 グリが促した。

「いや、成敗する!」

 ブリは、スックと立ち上がり、拳を天に突き上げる。

「ブリュンヒルデ姫!」

 禁じられたはずの正式な名前で制止するグニ。

「完全に融合してしまっては手に負えなくなるぞ、今なら倒せる!」

 ブリのツインテールが光を帯びて生き物のようにのたうちながら融合体目がけて伸びていく!

 これまでの戦闘でツインテールの威力は知っているつもりだったが、いま目にしているものは次元が違った。

『中二病でも恋がしたい!』の凸守早苗を思い出したが、その勇姿と威力は遥かに上をいく。

 って……なんのことだ? 思い出したのは寺井光子の感性、直ぐに小早川照姫の意識に戻った。

 荒々しくうねるそれは、独立したモンスター。ブリは、その手綱を握って制御している荒ぶる神だ!

 

 ブン!!!

 

 ツインテールがパチンコのゴムのようになってブリを打ち出した!

 いや、ブリが突出してツインテールを従えたのだ!

 融合体は、それに気づいて、体ごとこちらを志向し始めた。

「我々も続こう!」

「はい!」

「おお!」

 

 わたしたち三人も続いてジャンプした!

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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