大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

短編ファンタジー『ギンガムチェック』

2020-08-22 19:28:31 | ライトノベルセレクト

短編ファンタジー
ギンガムチェック   


 

 

 碧(みどり)が病室に入ってきたのは、中尾たち重役三人組と入れ違いだった。

「もう言うことは……!?」
「ん?」
 その声で碧と分かって、丈二は新聞を読むフリをして、不機嫌な語尾を飲み込んだ。
「ジイチャン、まだ、中尾さんたち叱ったの?」
「叱りゃせんよ。ただ、機嫌が悪いだけだ」
「中尾さん、汗拭いてたわよ。こんなに冷房効いてんのに」
「あいつら、見舞いというよりも、オレが死にそうかどうか見に来ただけだ」
「言い過ぎだよ。会社の運命はジイチャンにかかってるんだから……お花、新しいのに替えてくるわね」
「お。碧……」
 そう言いかけたときには、碧はポニーテールをひらめかせ、花瓶を持って病室を出て行ってしまった。
 丈二は器用に左手の小指で右耳を掻きながら、孫娘の碧が、赤いギンガムチェックの半袖を着ていることに初めて気が付いた。

 唐突に半世紀前のミリーの姿が浮かんで、丈二はうろたえた。
 カンサスの麦畑の向こうで、ミリーは手を振っていた。千切れんばかりに……。

「どうして、そんなオールドファッションなナリしてんだ」
「あら、流行ってんのよギンガムチェック」
 花を生け直した碧は、バッグからタブレットを出した。
「ほら、これ」
 タブレットで、ギンガムチェックのお揃いで、十人ほどの女の子のユニットが唄って踊っていた。
「歌は分からんが、この子たちのナリは、オールディーズだな」
「うん。わたし、その辺からやり直そうって思ってんだ」
「よせよ、いくら行き詰まったからって、こんなチャラチャラしたポップスはないだろう。碧の答ってのは、こんなに軽いもんだったのか」
「違うよ、オールディーズからやり直してみようって思ってるんだ。ヒントはジイチャンなんだよ。ジイチャン、よくアメリカのオールディーズとかジャズとか聞いてんじゃん」

 碧は、中学のころから、バンドを組んで、ポップスに嵌っていた。高校に入って百人ほどもいる軽音部の中でもピカイチで、軽音の全国大会で優勝したこともある。この春には大学生になったが、そのころから仲間たちとポップスの方向性でぶつかるようになり、自然に独りぼっちになってしまった。
 で、この夏は、心機一転出直そうと……並の人間なら北海道か、海外に出かけるところだが、碧は違っていた。
「そんな身軽な格好で、十日間もどこに行くの?」
 母の小馬鹿にしたような言葉に、つい口から出てしまったのが、「奈良」であった。

 祖父ゆずり、がんこな碧は、その足で本当に奈良へ行ってしまった。汗を垂らしながら平城旧跡で一日ボサっとしたり、若草山のてっぺんでアイスクリームを舐めたり。
 三日目で着るものが無くなった。ホテルのランドリーに出すこともせずに、その都度捨てた。下着はともかく、上に着るものも現地調達することにした。そこで、偶然出会い、気に入ったものが自分のものだと、思いこむことにした。
 奈良町を歩いていると、細い路地に迷い込み、町屋作りの構えは昔のままにした古着屋に出会い、そこでギンガムチェックの古着に出くわした。丈の短いサブリナパンツと合わせて買った。
オールドファッションであることは分かったが、それを超えた懐かしさがあった。気に入ったので、もう二三着買おうと思って、その店を探したのだが、半日歩いても見つからなかった。
 そして、その新しいお気に入りのギンガムチェックで薬師寺に行った。国宝の東塔は改修中だったが、西塔を見てビビっときた。
――塔全体がリズムを持っている。一見不規則そうな塔の屋根が、とても小気味良いバランスとリズムをもっている。
――フロ-ズン・ムズィーク……高校で習ったブルーノ・タウトの言葉が蘇ってきた。
 碧は、奈良に来て、ポップスをやるなら、いっそ原点である、アメリカン・オールディーズからやり直してみようと思い定めた。

 丈二は、重役達が見舞いにもってきたメロンにかぶりつきながら、向日葵のように喋る碧を可愛く思った。
「ジイチャン。そいで、勝手にジイチャンのコレクション、コピ-させてもらったよ」
 碧は、タブレットを開いた。
「おお、こんなに……で、オレに見えやすいようにスマホじゃなく、タブレットにしたのか」
「ううん。スマホのチマチマした画面ウザイから、これにしてんの」
「お。コニー・フランシスじゃないか。『VACATION』だな……ん、なんでこの写真が!?」
「ふふ、やっぱ、ワケありなんだ。レコードのジャケットの中に入ってたよ」

 その写真は、色も褪せていたが、それでも赤と知れるギンガムチェックのシャツをラフに着たミリーが写っていた。


 ミリーは泣いていた。
「どうして、どうして、ここに居てくれないの。こんなに、こんなにジョージのことが好きなのに、愛しているのに!?」
 ミリーを後ろからハグして、ミリーのママが言った。
「ジョ-ジ、お願い。ミリーの願いを聞いてやってちょうだい」
「そうだよ。オレは日本人は好きにはなれないが、ジョージは別だ。街のクソガキどものチキンレースにものらなかったし、そのことで悪態をつかれても、ジョ-ジは平気な顔でいた。ミリーが虐められたときも……」
 パパが、目頭を押さえて、カウチに座り込んだ。
「そうよ、あれで不良たちをみんなノシてしまったけど、ジョージは誰も傷つけなかった」
「オレなら、二三人はぶち殺していただろう」
「で、あなたも死んでいたわ」
「はは、そうだな。あの忍耐力と誇りの持ち方は、並の男じゃできないよ」
「でも、ジョ-ジは、右の小指を無くしてしまったのよ」
「無くしちゃいないよ、ほら、ちゃんと付いている。ただ一時的にマヒしているだけさ」
 丈二は、明るく笑って、包帯で巻いた小指を見せた。
「わたし、知ってる。ジェンキンス先生が言ってた、いずれ、その小指は切らなくちゃならないって……」
「ほんと、ミリー!?」
 一瞬気まずい空気が流れた。
「……はは、どうってことないですよ。少し耳くそがほじりにくくなるぐらいのことです」
「オレは……わたしは、ジョージ、君をミリーの婿にして、わたしの農場を任せたいんだ」
「それは、オーウェンズさん……」
 ミリーが、埋めたママの胸から顔を起こしてさえぎった。
「問題は、ジョ-ジが、わたしを愛してくれているかどうか、それだけよ……」

 カンサスの麦畑の向こうで、ミリーは手を振っていた。千切れんばかりに……。
丈二の閉じた目から、涙がこぼれた。

「ジイチャン、また悪い夢でも見た?」
 孫娘の顔が覗き込んできた。
「……あ、ミドリ」
 名前こそいっしょであったが、MIDORIと書く。髪もブルネットではあるが、目はブルーである。
「バアチャンが、やっと話してくれたわ。バアチャン、無免許で車に乗って次の駅まで、ジイチャンのこと追いかけたのよね。『ジョ-ジ、カムバック!』て、叫びながら。
 病室の隅っこで、すっかり老け込んだミリーが笑っている。
「どう、ジョージ。クローゼットの奥から出してきたの、思い出のギンガムチェック」
「ミドリ、すまない、しばらくバアサンと二人にしてくれないか」
「うん、いいわよ。だけど三十分ね。バアチャンもドクターストップかかりそうだから」

 丈二は、老いたミリーの顔を両手で挟んで慈しんだ。
「ミリー、今まで、苦労かけたな……」
「いいえ、楽しかった。わたしたちの人生、わたしたちが選んだ人生なんだもの」
「あの時は驚いたよ、次の駅に着いたら、ホームにミリーがいるんだもんな」
「神さまが助けてくださったのよ、ポイントの故障で、列車の出発が遅れたから」
「……そうだったのか……そうだったんだよな」
 そして、丈二は眠りに落ちた。ほんの少し、まばたきするぐらいの間……。


 そして、霞が晴れるようにして目が覚めると、目の前には碧の顔があった。
「こんな近くに顔寄せるの、幼稚園以来ね」
「オレ、何か言ったか……?」
「ミリーって……この、写真の女の子?」
「あ、いや……」
「はは、ジイチャン、顔が赤い。これなら、退院も近いわね」
「年寄りをからかうもんじゃない……ん、この仏さんの写真はなんだい?」
「あ、それ、法隆寺の夢違観音さま」
「夢違……?」
「うん、夢を取り替えっこしてくれるの。病院じゃ退屈だろうから、楽しい夢でも観られるようにね」

――そうだ……あの時、ポイントの故障なんか、起こらなかった。オレは未練にも前の駅の方を見ていた…… 砂埃をあげて、車が走ってくるのが見えた……。

[George com bac……!]

 そんな声が聞こえたような気がした。

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ポナの季節・11『ポナとまちがわれた優里』

2020-08-22 06:32:55 | 小説6

・11
『ポナとまちがわれた優里』   



ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


 雷門の大提灯は下半分が畳まれていた。神輿の渡御の邪魔にならないためだ。

 人をかき分け、かき分けられ、もみくちゃになりながら神輿の渡御を「ソイヤソイヤ!」と囃しながらながら観る。これが正当な三社祭の鑑賞方法だ。
 昨日は、こともあろうにドローンで、これを撮影しようとして保護というか捕まった少年がいた。そんなことが頭をかすめるうちに次々とお神輿は雷門をくぐっている。四つ目の神輿が通ったあと声を掛けられた。

「寺沢さん!」

 半ば咎めるような声に振り返ると、見知らぬ女性が立っていた。
「あ……ごめんなさい、人違いでした」
「いいえ、あたしも寺沢ですから」
「あ……?」

 そこへ五つ目の神輿、二人とも「ソイヤソイヤ!」の掛け声に忙しくなった。

「あの、ひょっとしてポナの学校の先生ですか?」
「え、どうして?」
「あたし、ポナの下の姉の優里です。背格好が似てるんで、昔からよく間違われて」
「あ、そうなんだ。で、ポ……新子さんの具合はいかがですか? あ、あたし保健室の棚橋といいます」
「熱は下がったんですけど、明日から学校なんで休ませています。本人は観に来たがってましたけど、代わりにあたしが観て映像撮って話ししてやることになってます(^▽^)」
「そうだったんですか、じゃ、無理しないようにお伝えください。あ、棚橋じゃ分からないからエミちゃん先生からって」
「承知しました、あ、次のお神輿が」

 掛け声をかけているうちに、エミちゃん先生とははぐれてしまった。まあ、挨拶と申し伝えは承ったので――まいいか――と優里は思った。

 小さいころのポナを思い出した。

 四つも歳が離れているが、それでも兄妹の中では一番歳が近く、ポナはなにかにつけて優里の真似をした。体つきが四つ下のころの自分と同じくらいだったので、ポナは中学の制服も優里のお下がりだった。
 小さいころは、それで喜んでいたが、年頃になると嫌がり、高校は優里が出た乃木坂ではなくて、世田谷女学院を選んだ。少し寂しい気持ちもあったが、ポナの将来の自立のためには、いい選択だと思った。

 ポナが病院からやってきた日のことは、はっきり覚えている。

「ほら、優里の妹よ。可愛がってあげるのよ」
 お母さんが、そう言った時、とても嬉しかった。直ぐ上の優奈とは七つも離れていて、四つの歳まではミソッカスだった。
 自分がミソッカスで無くなるのも嬉しかったし、妹ができたことは素直に嬉しかった。
 自分が小学校に上がるころには、いつも付きまとうポナが、少し邪魔だったけど、何かにつけて自分に似ているポナが可愛くないわけではなかった。でも、寺沢家は大勢な上にみんな独立心が強く、ポナといっしょにいる時間は、うんと少なくなった。

「おい、優里!」

 後ろから声を掛けられた、今度は自分の名前。

 優里は自分の顔が赤くなっていくことをどうしようもなかった。

 ポナのことは、完全に頭から消えてしまった。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

 高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子



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かの世界この世界:48『ブロンズですか?』

2020-08-22 06:19:55 | 小説5

かの世界この世界:48     

『ブロンズですか?』     

 

 

 ケイトの回復スキルによってHPを全快したグリは、一本だけ残った鞭を高速回転させて突っ込んでいく!

 我々のために時間稼ぎをするつもりだ……グリの自己犠牲の精神に胸が熱くなる!

 

 しかし逃げるわけにはいかない! グリの自己犠牲に甘えるわけにもいかない! 旅は始まったばかりだ!

 刹那、ケイトを見るが、十字姿勢のまま呆然と浮遊するばかりで、わたしやブリのHPまで回復してくれる様子はない。

「テル、突っ込むぞ!」

「おう!」

 ブリとわたしは、HPを回復することなくグリに続いた。

 

 数秒の間に事態は変わった。

 

 ブリの突進力はすごく、瞬くうちにグリに追いつき、首が千切れるんじゃないかという勢いでツィンテールを旋回させた。

 グリの鞭もブリのツィンテールも、高速回転のあまり熱を持って発光し、灼熱のエネルギーを発散して旋回半径の倍ほどの距離にいるシリンダーをも粉砕している。

 凄い!

 感動したのは一瞬だった。

 融合体が、瞬間、膨張したように見えた。

 ブワ

 膨張したのではなく、融合を解いたのだ!

 融合するときに圧縮されるのだろう、放たれたシリンダーたちは瞬間に空気を充填されたようになって、元の融合体のサイズからは想像できないような数になって二人に襲い掛かった!

 ジュッ!

 最初に襲い掛かった数百は二人の得物によって、焼け石にかかった水滴のように蒸発したが、続くシリンダーたちは、プール一杯の水を浴びせたように得物の勢いを削いで、二人を覆いつくした。

 ブオッ!!

 わたしの中を灼熱するなにかが突き上げてきた!

 ほんの数瞬のうちの目まぐるしいせめぎ合い! そして眼前に迫った二人の危機にわたしの自我が炸裂した!

 

 グオーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

 制御できない叫びをあげて突進し、ソードを二閃させた!

 二閃させただけでは勢いは収まらず、コマのように旋回しながら数十メートル上空に吹き飛ばされた。

 やっと踏ん張って勢いを削ぐと、さっきまで融合体であったシリンダーたちは数十分の一までに数を減らして四方に逃げ散っていく。

 浮遊していたケイトが、ゆっくりと動作し始めてグリーンのヒーラービームを放ち始め、ほとんどゼロになっていた二人のHPを回復し始めた……。

 

「二人とも凄かったじゃないか!」

 

 融合体との遭遇戦が終わって、しばらくは口もきけない四人だったが、回復力が人一倍のブリがニコニコ笑顔で言う。

 こういう時のブリは、出会った時のように、ひどく幼い顔に見える。

「ケイトのヒーラーぶり、ちゃんとコントロールできるようになったら、弓士とヒーラーが立派に兼ねられるぞ!」

「はあ……でも、ぜんぜん憶えてないんですよね(*´#`*)」

「テルさんのソードも凄いです! あれが無ければ、この旅は、このムヘン川のほとりで幕を閉じていたところですよ」

「とっさに出たスキルで、自分でやったものなのか実感が……」

「実感は大事だ! あたしが、スキルに名前を付けてやろう!」

 可愛く腕を組み、額に皴を寄せること数秒。パッと灯りが付いたような顔になって宣言した。

「オーバードライブってことで、ケイトのがブロンズヒール! テルのがブロンズスプラッシュだ!」

「え、あれだけの力がブロンズですか?」

 二号戦車を街道に戻し、クラッチを二速にしながらグリ。

「ブロンズにしとけば、これから、シルバー、ゴールド、プラチナって伸びしろを感じるだろ。いいか、ふたりとも、これからスキルを使う時は、スキル名を高らかに名乗るんだぞ。ブロンズなんとか! すると、敵も、もっと強力なのがあるんじゃないかとビビるからな。アハハハ」

 こういうところの無邪気さも子どもだ。

 じつに、いちばん正体が分からないのは、このブリかもしれない。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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