大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・162『リボンとかネクタイとか・3』

2020-08-08 14:27:01 | ノベル

せやさかい・162

『リボンとかネクタイとか・3』頼子        

 

 

 七五三……

 

 本堂内陣脇の襖を開けて、彼を見た時の印象よ。

 小学五年生がお兄ちゃんの制服を着たみたい。

 中一の制服って、成長を見込んでワンサイズ大きめを選ぶのが普通で、彼と並んでいるさくらも斜め前の留美ちゃんも制服の袖からやっと指先が出るって感じのオーバーサイズだったけど(いまは程よくなってきたけど、ただし、さくらの胸の所は相変わらずだけど)、夏目君のはその上を行く。襟は指一本入るくらいがいいんだけど、彼のは、ゆうゆう拳が入りそう。カッターシャツのボタンは五つのはずが四つ。おそらく、これまたブカブカのズボンの中に入り込んで下の一つは隠れているんだろう。半袖は肘のちょっと下まであって七分袖と表現した方がいい。正座しているのでズボンの丈は分からないけど、ベルトの位置はおへその上だ。

 こんなマンガ的可愛さの少年なんだけど、あ、ルックスも一重の目蓋が木目込み人形の目のようで、なんか、生後一か月くらいの子犬を彷彿とさせる。しかし、目の光は炯炯として、中一にして人生前のめりで生きてますという自我が偲ばれる。

 髪は緩い七三で、流した先がカールしていて、そこだけ見ると太宰治を彷彿とさせる。

 で……問題のネクタイ。

 お仕着せのそれは結び目の大きい左右対称のウィンザーノットなんだけど、少年のそれは小さな結び目になるプレーンノット。この結び目だけ見ていると『ローマの休日』のグレゴリーペックの首元だ。

 珍妙……というのが第一印象。

 

「やあ、みんな元気してる?」

「はい先輩! え、どうぞ座ってください」

 さくらがお尻を浮かせて床の間の前を空けてくれる。

「いやいや、わざわざ上座を開けてくれなくても、空いてるところでいいのに」

 と言いながら、大人しく床の間の前の置物になる。

「えと、紹介します。新入部員の夏目銀之助くんです。夏目くん……」

 留美ちゃんに促されると、座布団を外し、座卓に頭を打たんばかりに平伏した。

 オデコがこっちを向いて、生え際にうっすら汗ばんでいるのが可愛い。

「は、初めまして、お初にお目にかかります。縁あって、文芸部の末席を汚すことを許されました一年生の夏目銀之助であります。よ、よろしくお見知りおきのほどを!」

「ああ、そういう硬い挨拶は嬉しいけど、これ一回きりでいいからね。わたしのことは、留美ちゃんみたく『先輩』でもいいし、フランクに『頼子さん』でもいいしね、わたしは、取りあえず『夏目君』と呼ばせてもらうわ」

「はい、殿下!」

「あ、それだけは止してくれる。文芸部の中じゃただのOBだし、正式に決まっているわけでもないから」

「は、はい」

「えと、ひとつ聞いていいかな」

「は、はい、なんなりと!」

「だからかしこまらないでね(>0<)

「はい!」

「あはは、夏目君は、ネクタイ自分で結ぶの?」

「はい! 文学を志す者、ネクタイは自分で結ぶべきものだと思いますので、特別に本物のネクタイにしてもらったのです」

「文学を志すと、そうなるわけ?」

「はい、将来、文学仲間や出版社の編集と話をするとき、右手でグシグシっとネクタイを緩めて、タバコをくゆらせながら斜めから話すためです」

 なんか、変な嗜好。

「そうなんだ、ちょっとやって見せてくれる」

「は、はい。では、僭越ながら」

 グシっとネクタイを緩めると、それまでの正座を崩して斜に構えた胡座になって、たばこの代わりにシャーペンを指に挟んだ立膝になって、なぜだか眠そうな顔になる。

「あ、あ、そーかそーか、なんか無頼派って感じだねえ!」

「あ、ありがとうございます」

「うん、かわい……カッコいいから写真に撮るね」

 わたしの思い付きにさくらも悪乗りして、ふたりで写真を撮りまくる。留美ちゃんは真面目なので、あいまいな笑顔でわたしたちを見ている。

 スマホの画面を見ると笑いそうになるのを息をつめて我慢し、わななきそうになりながら最後のシャッターを切る。

 パシャ

「あ、もう、元に戻っていいよ。いい写真も摂れたから」

「は、はい……」

「あ、脚がしびれて……」

 

 夏目君のすごいところは、正座をしているしびれた脚を我慢してポーズを作ったところだ。どこか電波になりそうな危うさを感じさせるんだけどもね。

 まあ、有意義な出会いではあったわ。

 そのあと、恒例の流しそうめん……は、コロナのことで自粛して、みんなで一人前ずつでいただきました。

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大阪ガールズコレクション:6『浪速区日本橋 カセイドール』

2020-08-08 09:41:23 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:6

『メイドカフェ カセイドール 浪速区』  

 

 

 考えすぎるんやで、万梨阿は。

 

 言われ続けて、この世界に入ったのは24歳の春。

 日本橋某所にあるメイドカフェ『カセイド-ル』の13人目のメイド。

 ホーリーネーム(源氏名)は本名をカタカナ読みしただけのマリア。

 このバイトを勧めた恵子はとっくに足を洗って某ゲーム会社に勤めている。

「今月から、メイド服を一新します!」

 オーナーの林さんがそれを示すと、メイドの子たちから「オーーーー!」とどよめきが起こる。

 それまでのペラペラのコスプレメイド服ではなくて、裏地までしっかりついた本物のゴスロリメイド服。

「レースは取り外しができるんで、クリーニングするときは外してね。それから、今日から入ってもらう万梨阿さん。一昨年までいたルシファさんのお友だち、よろしくね」

 簡単な自己紹介をやった後、さっそくお仕事。

「分からないことがあったら、なんでも聞いてね(^▽^)/」

「万梨阿さん可愛いから、すぐに看板になれるわよ🎵」

「制服モデルチェンジしたのは、万梨阿さんが入ったからだよ(^^♪」

「そ、そんなことないわよ(^_^;)」

「ううん、あるある!」

「わたしも、万梨阿さんにあやかりたいなあ(n*´ω`*n)」

 みんな嬉しいことを言ってくれるけど、なんだかいたたまれない。

 

 だって、24歳なんだよ。

 

 それも、ただの24歳じゃない。

 この三月までは都島区の小学校で先生をしていた。先生と言っても講師だけどね。

 二次の採用試験に落っこちて、心機一転別のバイトして夏の採用試験に挑もうというわけなんだ。けども、実年齢ともどもみなさんには内緒。

「うわあ、マリアさん、17歳では通用しませんよー!」

 制服に着替えて髪をまとめたところで先輩メイドのシャルロットさんに言われてドキリとする。

「え、あ、マズかったかな(#0#)」

「うん、14歳くらいにしか見えないよぉ」

「え、あ……」

 らしく見せようとしたツインテールを崩してザックリまとめてバレッタで留めるというメイドとしては、やや反則にしてみる。

「あ、いい! なんか健気な働き者って感じ!」

「バレッタ萌ぇ~」

 

 そんなこんなで、24歳のメイドの物語が始まった。

 

 つづく

 

 

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ぜっさん・03『そろそろ終盤かな……』

2020-08-08 06:56:08 | 小説3

ぜっさん・03
『そろそろ終盤かな……』     


 

 あれはゴールデンウィークが明けて直ぐの日だったよね……。

「ほんなら、今日からクラスメートになる転校生を紹介します。敷島さん入って……」
 妻鹿先生の紹介を受け、小さく一礼して教室に入った。

 人数分×2の視線が突き刺さる。突き刺さるだけのミテクレだという自覚はあるけど、これは事前に予備知識を与えられている視線だと悟った。

「東京から転校してきました敷島絶子です。新学年が始まって一か月になりますが、みなさんの中に溶け込めれば嬉しいです。えと、名前は字で書くとこうです……」

 黒板にフルネームを書き(しきしまたえこ)と読み仮名を振った。予想通り絶子という字に軽いどよめきが起こる。この絶子には子どものころから苦労しているので、最初にかましておいた方がいいと思ったのだ。
「それて精力絶倫の絶やなあ! 敷島さんてヤリマンなんか!?」
 男子が想定内のバカを言う。飛んでって張り倒してやろうかと思ったが、しおらしく俯いておく。
「藤吉、あとで先生とこ来なさい!」
「アチャー、洒落でんがな~(^_^;)」
 藤吉と呼ばれたイガグリ頭がヘタレ眉になって頭を掻いて、教室に笑い声が満ちた。
 いいクラスのようだ、張り倒しにいかなくてよかった。
「敷島さんの席は……そこね」
 妻鹿先生の形の良い指が、窓側の二番目を指した。
「はい」
 カバンを抱えて席に向かうと、廊下でドタドタと音がした。

「すんません! この遅刻には事情があるんですーーー!」

 そう叫びながらジャージ姿で入ってきたのが、無二の親友になる加藤瑠美奈だった。

「アハハ、前と後ろの隣り同士やね、よろしく!」
「あ、わたしこそよろしく」
 ニコニコ笑顔で握手すると、瑠美奈は器用にジャージから制服に着替えだした。器用にとはいえ朝礼終了直後の教室だ、大胆な子だと思った。
 妻鹿先生に呼び出された藤吉が所帯道具一式を持って、あたしの前の席に移って来た。
「ちょ、なんやのん藤吉!?」
「えと、さっきの罰で、ここの席にされたんや」
 眉こそヘタレていたけど、ニヤついた顔で前の席にやってきたのだった。

「ハハハ、そんなんやったなあ」

 瑠美奈がオッサンみたいにお絞りで顔を拭きながら笑った。
 わたしと瑠美奈は、ファミレスで広島の思い出を燻らせている……普通の言い方をすると、写真とかパンフとかを見ながらあれこれクッチャベルこと。
「おまたせしました、フルーツパフェとプリンアラモードになります」
 すまし顔でデザートを持ってきたのが、あの藤吉。

 学校での彼と違って、ちょ-真面目なホールスタッフだ。

 窓の外に、もう蝉の声はしない。夏休みも、そろそろ終盤かな……。
  


主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 名前の大樹ではなく苗字の音読みの藤吉(とうきち)と呼ばれる

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かの世界この世界:34『迫りくるシリンダー連結帯!』

2020-08-08 06:45:41 | 小説5

かの世界この世界:34     

『迫りくるシリンダー連結帯!』  

 

 

 

 ブリ……大きくなった?

 

 顔を洗って、シャッキリして、やっと気づいたケイト。

「やっと気づいたのか」

「ああ……なんてのか……雰囲気はちっとも変わってないから、気づくのが遅れたみたい」

「いろいろあんのよ、この世界じゃ。あんただって……」

「あたし?」

「さっさと朝ごはん食べて、食べたら出発だからね!」

 チーズを挟んだだけのライ麦パンを投げると、もう歩きはじめるブリ。

「ちょ、食べる時間くらいちょうだいよ!」

「うっさい! これから先はクリーチャーとか出まくりなんだからね、かまってなんか……」

「ブリの言う通り、もう気配がするぞ……」

 

 月の光の中、ツインテールを結ったり解いたり、その戒めのことやら主神オーディーンのこと、忘れかけている、わたしとケイトの事情など聞いておきたいこともあった。

「急がないと、向こうの方から集まって来るぞ」

「「なにが?」」

 S字に曲がった道の向こう……いや、草むらや地面の中からさえ禍々しい鳴動がし始めて、道の向こうはなにか禍々しいものが凝り固まっているようで目に見えない圧を感じる。

「……走るか?」

「うん」

「いくぞ!」

 ブリと共にソードを抜き放ち、ケイトは矢をつがえ、攻撃姿勢のまま禍々しさの中心に向かって駆け出す。

 ウオーーー!!!

 二三回、剣先に手応えがしたと思うと、ザザザザザっと音がして人一人がやっと通れるくらいの圧の隙間ができる。

「閉じる前に突っ切れ!」

「トリャーーー!」

 わたしが先頭を切り、ブリもツインテールを鞭のように振り回し、ケイトは二人の頭越しに矢を射掛けながら追随してくる。

 道の向こうで矢が命中する火花、ツインテールの先っぽでも盛大に火花が散っている。見えてはいないが、確実に寄せ来る化け物を打ち払っているようだ。

「セイ!」

 跳躍と同時に四方を薙ぎ払う。合わせたわけではないのにブリもツインテールをヘリコプターのローターのように急旋回させて、化け物どもを打ち据えて、やっと敵の勢いをそいだ。

 ギュオーーン ギュオーン ギュオオーーーン

 金属的な鳴き声が引いていったかと思うと、つい今まで居たところを真ん中にシリンダーどもがひしめいている。

「まるで、油汚れの真ん中に洗剤を垂らしたようだな」

「うまい表現だけど、ケイトの奴が……」

「捕まったか?」

「あそこ!」

 ブリが指差したところから数珠繋がりになったシリンダーの連結が数本伸びあがり、そのうちの四本に手足を絡み取られたケイトの姿があった。

「た、たすけてーー!」

「まずい、あれが伸びきったら手足を引きちぎられるぞ!」

 シリンダーの連結帯は、ブーーンと音がしそうな勢いで外へ外へと伸び始めている。

「ち、千切れるよーーーーー!!」

「テル、右側の二本を!」

「承知!」

 息の合った海兵隊のように、二人は散開し、地を這うように接近すると連結帯の根元で跳躍して、ツインテールとソードで連結帯を薙ぎ払った!

「掴まれ!」

 叫ぶと同時にケイトの襟首を掴んで、根元を失った連結帯から引き剥がし、数百メートルを一気に駆けた。

 途中、疾風のようにブリが追い越していく。

「結界を張る、中に入れ!」

 軽々と跳躍して、着地するまでのコンマ五秒ほどの間にフィギュアスケートのトリプルアクセルのように旋回すると、ぶん回したツインテールの直径に結界が張られた。

「セイ!」

 結界の中に着地! 同時にザワザワザワとシリンダーたちが押し寄せてきて、イナゴの大群のように結界の向こうに去った。

 やっと一息。

 気が付くと……ケイトはしっかりとライ麦パンを咀嚼していた。

 

 

☆ ステータス

 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2

 

☆ 主な登場人物

  

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

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