大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ぜっさん・01『ぜっさんの性分』

2020-08-06 07:59:37 | 小説3

ぜっさん・01
『ぜっさんの性分』  



 停電になるとは思わなかった。

 ほんの十秒ほどだったけど、この二十一世紀に停電などあるはずがない。もちろん生まれて初めてのことよ。
 まして、ここは広島県立平和劇場。観客の大半もビックリしてざわついた。
 非常口をあらわす緑色の避難指示だけが浮かび上がり、周囲は真っ暗闇。映画館の上映中だってここまでの闇にはしない。

 パッと光りが蘇った。

 目の前にマイクが突き付けられ、マイクの向こうには、マイクを捧げ持った実行委員の女生徒が健気な女子高生の代表みたいに蹲踞している。

「どうぞ、学校名とお名前を」
「え、あ、あ……」
 停電になるまで、わたしの横には瑠美奈が居た。その瑠美奈が居ないので、同じ制服を着たわたしが間違われたようだ。
「どうぞ」
「は、はい」

 こういう時に、間違いを指摘しないで受けてしまうのが……わたしの癖だ。スックと立ち上がると、最初からわたしが指名されていたようにマイクを持った。

「日本橋高校の敷島と申します。水瀬高校のみなさんお疲れさまでした。えと……原爆を扱った反戦劇として絶賛いたします。ひしひしと水瀬高校のみなさんの想いが伝わってきました(ここで止めときゃよかったんだけどね)。反戦としては一分の曇りもなくピュアだと……思うんです……が、えと、ピュアすぎて日常のみなさんの姿が見えてこないんですよね。わたしたちは21世紀の高校生で、普段はスマホとかスマップの解散とかに夢中になったりポケモンGOなんかにハマっちゃったりしてるわけじゃないですか。そういうわたしたち高校生が戦争とか原爆とかに立向いたら、やっぱし、おのずと今の高校生ってか若者としての呼吸とか息吹が出てくると思うんですよね。そういうとこが紋切り型ってかステレオタイプってか、演劇って人間を表現するものだから……あ、すみません。生意気言っちゃいました。舞台は良かったです、大絶賛です。えと……以上です」

 あきらかに会場は当惑とシラケとヒンシュクの空気が漂った。結婚式の披露宴で縁起の悪い言葉を連発したらこんなだろうって感じ。原爆とか反戦とかの批判、とくにドラマの根幹のとこは批判しちゃいけない。分かってんだけどなあ……。

「ぜっさん、今のはないで」

 手を拭きながら席に戻って来た瑠美奈が困り眉毛になりながら咎めてきた。

「だって、瑠美奈いなくなっちゃうんだもん」
「しゃあないやろ、手ぇ上げたらトイレ我慢してたん気ぃついてしもてんもん」
「じゃ、どうすりゃ良かったのよ?」
「……ま、ぜっさんの性分やったらしゃあないんやろけど、もっと当たり障りのないことでよかったんちゃう?」
「ムーーーーー」
 そこで幕間交流が終わったので、ロビーに出た。

 高校演劇も全国大会になると人出が多い、ロビーには全国各地から様々な制服の高校生が集まっている。この五月まで通っていた神楽坂高校の制服を見つけた時は、思わず駆け寄ってしまったけど、ぜんぜん知らない子なので「オッス!」を言うために吸いこんだ空気をフッと吐き出す。写メを撮られた気配がすると、スマホを構えた瑠美奈がニシシシと笑っている。
「もう、お昼食べに行こ、お昼!」
「よっしゃー、ほんならグルメツアーに切り替えや!」

 あたしと瑠美奈の共通点は切り替えが早いこと、この切り替えと反射の良さで転校初日に友だちになったんだ。

 会場のガラスを通して道路向かい側のフードパークにピントが合ったときに声を掛けられた。

「あの、日本橋高校の敷島さんですよね?」

 振り返るとミスター高校生のタイトルをあげてもいいような男子生徒が立っていたのだった。

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かの世界この世界:32『無辺街道半ば』

2020-08-06 06:52:28 | 小説5

かの世界この世界:32     

『無辺街道半ば』  

 

 

 こんなやつでも街道の主なんだろう。

 

 魔物やクリーチャーに出くわさない。

 まあ、無辺街道程度の化け物なんか屁でもないんだけど、バトルの都度足止めされるのもかなわない。

 しかし「ブリのお蔭だな」なんとことは口にはしない。

 誉めたりお礼を言ったりすれば、見た目四五歳の養女にしか見えないブリは見かけ通りに「ニヘヘヘ」とか笑っていい気になるのに違いないからだ。

 こいつがいい気になったら、プラウダ高校のカチューシャよりも鼻持ちならないに違いない。

 

 ブリがいきなり駆けだした。

 

 駆け出して、そのまま消えてくれてもいいんだけど、また、シリンダーとかの化け物に出くわすのも嫌だ。

 ちょっと待て!  言おうとしたら立ち止まり、両手を広げて振り返った。

 

「ここが無辺街道の真ん中らぞ!」

 

「そうか、思ったより早かったね」

 ケイトが無邪気なくらいホッとして、担いでいた弓も荷物も下ろしてしまう。

「なにをホッとしてるんだ。真ん中なら、もう少し稼いでおこう。まだまだ陽は高いんだからな」

「ま、真ん中なんらぞ。一区切りなんらぞ。ケイトの言う通り一休みするのが当たり前じゃにゃいか!」

「そういう根性が堕落の元なんだ。夏休みの真ん中で気が緩むと、あとはズルズルになって宿題をやり残して最終日にオタオタすることになるんだぞ」

「船らって、真ん中の赤道を通過するときは赤道祭りってのをやって一休みするんらぞ!」

「休もうよおおお」

 仕方がない、二対一の三人旅だ。

「分かった、じゃ……ちょうどそこが宿営にピッタリだ」

 

 街道から少し入ったところが五十坪ほどの空き地で、先達たちがキャンプした跡もある。

 

「火をたいた跡もある、キャンプの用意をしゅうか」

「どうやって火を起こすの?」

「なんだ、ケイトは火も起こせないのか?」

「ふつう出来ないと思うよ」

「ガルパンではやっていたぞ、大洗女子が廃校になって寄宿生活始めた時に弥生時代みたく火を起こしていたぞ」

「あれはアニメだろーが」

「マッチの使い残しがあゆぞ。前に通ったやつが残していったんだな」

 ブリが一抱えの薪といっしょに持ってきた。

「これ、学校のプリントだ」

 ケイトが燃え残りをつまみだした。

「先行した女子たちだな、ここでキャンプして先に進んだんだな」

「ちがうね」

「なんで!?」

 ケイトが突っかかるように聞く。自分を置いてけぼりにした相手だ、思うところがあるんだろう。

「ここから先に進んだのらったら、栄光の旅立ちら、街道の先に行った足跡が光り輝いてひと月ほどは残るんだ」

「ひと月より前かもしれないじゃん」

「そんなに前なら、マッチなんか湿気って使えにゃい」

「じゃ、ここで打ち上げのキャンプやって帰っていったってこと?」

「愚かな奴やだ、ここれ戻っては参加賞しかもらえないのら」

「参加賞じゃ、だめなのか?」

「参加した者は安穏な人生が保障されるけろ、世界の平和は二三年しか保証されない。最後まで行ってミッションコンプリートしなければ、おまえたちの世界に本当の平和は訪れないのら。フン、ヘタレの愚か者たちら」

「そうなの?」

「しょえに……」

「な、なんだ、その意地悪な目は!」

「こいつらが戻ったんなら、出口は閉じてしまっていう。エヘヘ、おまえたちは戻れないぞ」

「「そんなあ!」」

「戻りたいのなら、最後まで行ってミッションコンプリートすることよ」

「そうなの?」

「ああ、光子がプロットで決めたことだからな」

「ミツコ?」

 ブリと目が合う……そうだ、これは、わたしがプロットの段階で放り出した世界だ。

 最後までやって、真の勇者になるまでは終わらない設定なんだった(;゚Д゚)。

「やろう、三人で真の勇者を目指そう!」

「「お、おー!」」

「で、ミツコってだれ?」

 ケイトの質問に答えられるわけもなく、聞こえないふりして火を起こしにかかった(^_^;)。

 

 

☆ ステータス

 HP:200 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

 

☆ 主な登場人物

  

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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