大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・171『西郷さんを召喚する・2』

2020-08-23 14:07:51 | 小説

魔法少女マヂカ・171

『西郷さんを召喚する・2』語り手:マヂカ    

 

 

 

 ええと……わたしが西郷なんだけど

 

 綾香姉のお尻をツンツンしながらJS(女子小学生)が上目遣いに言う。

「あ、あ……え?」

「こっちのお姉さんは魔法少女のマヂカさんね、根岸で会って以来ね。その節はお世話になったわ」

 わたしを認識しているんだから西郷さん? 

「あ、マヂカのお守をやっている綾香……だけど、本当に西郷さん? 七代後の子孫とか?」

「あなたの召喚力が弱いから、この子の体を借りてるの。魂の三割しか入れないから、言語中枢は、この子のを使ってる。ちょっと勘狂うかもしれないけど我慢して、ヨッコイショっと」

 西郷さんは銅像を取り囲む柵に腰を下ろす。なんか可愛い(*ノωノ)。

 他にも集合の声がかかるのを待っている小学生はいっぱいいるのに、チラ見したところ、いちばん可愛い子に憑依したようだ。

「この子がいちばん憑きやすかったから、ごく自然にね。えと、御用があるのはお姉さんの方ね?」

「あ、ああ」

「あの、せっかくきれいなお姉さんになってるんだから、擬態の言葉で話してくれない?」

「あ、おほん……そうね。じゃ、率直に聞くけど、諱(いみな)にこだわった理由が、もう一つ分からないのよ。西郷さんの諱が『隆永』だったことは、地獄の門番やってたわたしでも知ってる」

「え、そうだったの?」

「うん、ゲートの門番で出入りのチェックしてたから、端末には魔法少女以上の情報が入っているのよ。壬申戸籍を作る時に……」

「ジンシンコセキ?」

「明治五年に作られた、近代日本最初の戸籍よ。西郷さんは明治の元勲で、めっちゃ忙しかったから、鹿児島出身のおともだちが、かわりに届けたのよ。その時に『それで西郷さんの諱はなんと申される?』とお役人が聞かれたのよ。諱なんてめったに使わないから、そのお友だちは考えたの……たしか西郷家の男子は、代々諱に『隆』の字が付いていたはず……ええと……さよう、西郷隆盛であった! それで、お役人は『西郷隆盛』を正式な戸籍名として記録した。あとで知った西郷さんは『隆盛は爺さんの諱じゃっで、おいの諱は隆永じゃっど』と笑っちゃって、お友だちは訂正に行こうとしたんだけど『まあ、諱なんぞは使わんから、こいでよかよか』ということで、隆盛が定着したってお話、そうよね、西郷さん?」

「あははは」

 JS西郷は可愛らしくも朗らかに笑った。

「あ、でも、弟の西郷さんは、たしか西郷従道、『隆』の字は付かないわよ。あのころは東京に居て、よく新聞とか読んでたから、記憶は確かよ」

「弟は『隆道』というのが正しいの。弟のほうも同じ友だちに頼んでいたから」

「え、弟の諱まで間違って届けたの?」

「あ、それは、そのお友だちの名誉の為にゆっとくけど、正しく担当のお役人には伝えたのよ。でもね、薩摩弁て、他の地方の人には分かりづらいでしょ。それで、お役人が何度も『もう一回』と聞き直すのよ。お友だちは『音読みでジュウドウでごわす!』と言ったのを『なるほどリュウドウ、漢字では『従道』でござるな』となって、邪魔くさくなったお友だちも『そいで、よか!』ってことになって、間違った名前が世の中に広まったってわけなのよ。プリッツ食べる、おねえちゃん?」

「あ、ああ、ありがとう」

 三人仲良くプリッツをいただく。ポリポリポリと西郷さんの銅像前に小気味いい音が響く。

 二本目に手を出そうとして、わたしは思い至った。

「え、じゃ、諱なんて、どうでもよかった?」

 ツンは、西郷さんの本当の諱を取り戻すのに命を懸けて日光まで付いてきたんだ、そして、わたしといっしょに妖の頭目である東京タワーをなんとかやっつけて、根岸じゃ西郷さんも、ずいぶん喜んでくれたはず。

「口実だったのね……西郷さん?」

 わたしも一言かまそうと思ったら、向こうの方から声が掛かった。

「みんなあ、集合の時間ですよお!」

 引率の先生が小学生たちに集合をかけている。

「ハーーーイ、せんせい!」

 元気よく返事して西郷さんは集合場所に駆けていく。

 なんのための口実だったか聞けなかったけど、聞かずとも分かった。

「ねえ、帰ったら詰子と食事に出ようよ、渡辺三姉妹のお祝いにしよ」

「ああ、それがいいな」

 

 ようやく暮れ始めた上野公園を駅に向かって歩き始めた。

 

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ポナの季節・12『選挙』

2020-08-23 06:34:26 | 小説6

・12
『選挙』    



  ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




 ポナの父達孝は来春には定年をむかえる都立A高校の教諭である。

 もう三十七年も勤めているので、できたら早期退職したかったが、下の娘二人がまだ現役の高校生と大学生なので辞めるわけにはいかない。
 学校も、その辺の事情は分かっているので、分掌長や担任などという面倒な仕事からは外してくれて、平の生徒会顧問という穏やかなポジションにしてくれている。文化祭と体育祭、それに間近の生徒会選挙をこなせば講師時代も含めれば四十年になろうかという教師生活に幕が下せるはずだった。

 が、ここへ来て、ちょっとした問題を抱え込んでしまった。

 予定していた生徒会の会長候補が降りてしまったのだ。

 理由は大阪の知事選挙でHが惜敗したからである。会長候補の三年生は大のHファンであった。今どき生徒会活動にも熱心な二年生だったが、こういうところは子どもである。

 選挙の公示を間近に控え、顧問も生徒会執行部も頭を抱えた。
「分かりました、わたしが何とかしましょう」
 達孝は、まるでコンビニの弁当を代わりに買いにいくような気楽さで引き受けた。

「どうだ真由、Hさんは、ほんとうに辞めると思ってるのかい?」
「だって、夕べ、あんな清々しい顔で宣言したんだもん。あの人の性格から言っても、辞めますよ」
 若い顧問にはぞんざいだが、定年間近の達孝には、学年一の生意気女子も敬意を払ってくれている。
「組織が放っておかないよ。Hさんの党は、あれだけの大所帯になって国政にも影響力を持っている。周りが放っておかないさ、真由みたいにな」
 と、くすぐっておく。
「そうなんですか。でも…………えと……じゃあ、寺沢先生も例の話ししてくれます?」
 真由と、その取り巻きが達孝の周りに集まった。

 達孝の妻の豊子が教え子であるという噂は、三回目の転勤先であるA高校でも伝わっているが、達孝は、そのことを聞かれても笑ってごまかしてきた。
「じゃあ、触りだけな」
 達孝を囲む輪が一回り小さくなって寄ってきた。
「うちのカミさんは、最初の学校で最初に教えた生徒だ。それは認める」
 小さくなった輪は、この一言で人数が増え、一回り大きくなった。
「ただ、付き合いだしたのは、カミさんが卒業してからだ」
「でも愛し合ってたんですよね!?」
「当たり前でしょ、愛してなきゃ五人も子どもができるわけないさ!」

 真由が言って、取り巻きがくすぐったそうに笑う。
 生徒は、意外にも子どもの人数まで知っていた。

「「「「「「それで!?」」」」」」
「続きは真由が当選してからだ」

 あっさりと会長候補が決定した。

 ところ変わって世田谷女学院。

「ね、あたし副会長に立候補するから、応援よろしくね!」
 朝、昇降口で一緒になった橋本由紀が、ポナの肩を叩きながら言った。
「え、すごいじゃん。一年で副会長、見上げたもんよ!」
 由紀とは、出席番号が近いこともあって、集会や行事の時に話す機会が多い。支倉奈菜の次に親しい間柄だ。
「ポナは、自分で思っている以上に影響力あるから、よろしく頼むね!」
「過剰な期待はしないでね、ただ賑やかなことが好きってだけだから(^_^;)」

「ご謙遜、ご謙遜、ポナが付いてくれたら百人力よ!」

 都立A高校と世田谷女学院の生徒会選挙は、期せずして寺沢親子が関わることで進み始めた。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

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かの世界この世界:49『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』

2020-08-23 05:51:57 | 小説5

かの世界この世界:49     

『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』  

 

 

 

 ムヘンブルグの遥か西、シュタインドルフのヴァイゼンハオスを目指している。

 

 シリンダー融合体との闘いが苛烈だったせいか、単調なムヘン川の景色のせいか、武骨な二号戦車のエンジン音も振動さえも心地よく、つい居眠りしてしまいそうになる。

「よく、こんな体勢で寝られるなあ」

 知恵の輪のように絡み合って寝ているブリとケイトに感心したのは、寝てはいけないと思う自分への戒めであるのかもしれない。

 敵の襲撃に備えて、狭い車内に居るようにしているのだ。

「この緩い峠を越すとシュタインドルフです。車外に出ても大丈夫でしょう」

 峠が近づくにつれて戦車や戦闘車両の赤さびた残骸が散見されるようになってきた。

「先の大戦でシュタインドルフを目前に逃げきれなかった車両たちです」

 孤児院があるくらいに安全な所なのだろうが、ちょっと殺伐とした風景だ。

「どんなところなんだろう、シュタインドルフというのは?」

「厳つく聞こえますが、日本語に訳せばシュタインが石、ドルフが村ですから、石村です」

「石村……」

 拍子抜けがする。

「村全体がオーディンシュタインという岩盤の上にあるんです」

「主神オーディーンの名を冠した石?」

「ええ、絶大な魔よけの効果があります。この石の上に居れば安全なので、一時は州都を持ってこようと言う話もあったのですが、さすがに城塞を築けるほどの広さもありませんし、西に偏り過ぎていることもあって、トール元帥はムヘンブルグに決めました。かわりに小さな村が拓かれて、シュタインドルフと名付けられたのです。この残骸たちも追い詰められた末に逃げ込もうとしたんでしょう」

 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 う!

 軽い耳鳴りがして、耳が詰まったような感じになった。

「峠を越えました。外に出ても大丈夫ですよ」

 最初に飛び出したのはブリだ、今の耳鳴りで目が覚めたのだろう。

「ふわああああああ(´Д`)…………え……みんなも出てみろ!」

 車外に出て猫のようにノビをしたブリが沈んだ声で呼んだ。

「どうかしたんですか……」

 続いて出たグリが息をのんだ。

「これは……」

 驚いた。

 一キロほど先に見えてきたシュタインドルフは、ヴァイゼンハオスらしき建物を残して廃墟になっているではないか!?

 魔物の襲撃が無いとは言え、辺境の自然は苛烈なのだろう、十数軒の家屋は、いずれも棟が落ちたり崩れたりの無残な姿だ。

 無事に逃げ込んだ戦車たちも姿はそのままに息絶えたカブトムシのようにうずくまっているのが寂寥をいや増している。

 赤さびた戦車たちは村の長閑さとは対照的で、かえって今の平和が際立たせるオブジェになっていたのだが、今は村の荒廃をより際立たせて、悪魔の置き土産のようになっている。

「孤児院は生きています、ポールに聖旗が翻っています」

 目を凝らすと、ムヘンブルグの城頭にも掲げられていたオーディーン旗が翻っている。聖旗とも呼ばれるそれは定時の掲揚と降納が決められているのだ。

「給水塔とポンプ小屋が壊れている……ちょっと川に寄ります」

「それがいいようだな」

 グリの提案は直ぐに理解できた。給水塔とポンプ小屋が壊れているということは、水の補給がままならないということだ。

 右手二十メートルの川から水を汲んで持って行ってやるのは妥当だと思う。

 二号戦車はグリの意をくんで川辺に進路をとった。

 

 ブン! ブン! ブン! ベチャ!

 

 何かが四つ飛んできて、反射的に避けたが、ドジなケイトがまともに顔で受けてしまった。

「と、取って~! 気持ち悪~い(;'∀')!」

 それは、よく肥えたカエルであった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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