大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・1『修学旅行・1』

2020-08-04 14:44:46 | 小説4

001

『修学旅行・1』    

 

 

 あれから二十五年

 東京下町のレンターカー営業所のカウンターを挟んでもめ事が起こっている。

 

「だかや、ちゃんと見てってゆってゆのよ!」

「見せていただいたから申し上げているんです。 テルさま、申し訳ありませんが十八歳以上の方でないとアナログ車はお貸しできないんです」

「年齢じゃなくて、ライセンスよ、ライセンス! 普通免許の他に大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許も持ってゆのよさ」

「申し訳ございません。これは火星のライセンスで、地球では通用しないもので……」

「んもー! だかや、こっちも見てってゆってゆの! オールマースグランプリで地球代表のアメリカチームをブッチギリでやっつけて優勝した時の証書よ。ホログラムだけじょ……ほら、全米アナログ協会の会長と大統領が、あたしにメダルと賞品を授与してくれてるとこよ!」

 1/6サイズのホログラムの大統領が、メダルといっしょに普通免許、大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許をテルに授与しているところだ。

『オールマースグランプリにおいて、顕著な成績と共に優勝したミス・テル・エレキ・ヒラガに優勝メダルと共に全米普通免許、大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許を授与します!』

『えと、こえでカメラに収まったや、首だけしか写やないし……わたしに合わせたや、大統領は膝まずかなきゃなやないし……できたりゃ、大統領と同じ高さでいたらきたいんらけども……』

『それは、もっともだ。シンディー』

 大統領は、火星親善旅行に同行させている孫娘のシンディーを手招きした。

『了解よ、お祖父ちゃん! 失礼、チャンピオン』

『うわ!』

 シンディーはニコッと笑うと、あっという間にテルを肩車した。

『ありがとうシンディー』

 150センチのシンディーに肩車されて、やっとテルは大統領と5センチの差で対面できた。

『おめでとう! キミは全火星チャンピオンであるだけでなく、地球代表であるアメリカチームをも打ち負かした! 太陽系一! いや、銀河で一番の英雄だ!』

 ファンファーレが鳴って、ドラムロールがサーキットいっぱいに木霊すうちに優勝メダルと賞品が授与された。

 

「だかや、わたしは地球でのアナログライセンスも完璧にゃのよさ!」

「それは承知しておりますが、日本では十八歳未満のアナログ運転は認められておりませんし、合衆国免許では日本国内の運転はできません」

「あにゃたも頑固ねえ」

「もうしわけございません」

「アメリカじゃ、日本の国内免許でも運転できゆのよ、相互主義の観点からゆっても……」

「申し訳ございません、日本では、改めて国際免許を取って頂きませんと、それも、年齢規定は……」

「分かった!」

 ペチ!

 カウンターを叩くテルだが、やっと首だけがカウンターから出ている状態なので、カウンターを叩いても迫力はない。

「いま、ここで国際免許とゆかや、見てにゃさい!」

 国際免許は、申請して、場合によっては実技と法規のテストがある。

 テルは、端末を操作すると、目にもとまらぬ早業で二分余りで国際免許をとってしまった。

「こえで、文句ないっしょ!」

 端末に映し出された免許を指し示すと、営業所に一台しかないアナログ車のキーをふんだくって駐車場に向かうテルであった。

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大阪ガールズコレクション:4『アニメ声 阿倍野区 松虫通り界隈』

2020-08-04 06:30:04 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:4

『アニメ声 阿倍野区 松虫通り界隈』  松虫(大阪市阿倍野区)

 

 

 ハルカスに行こうと誘われたが断った。

 

 含むところがあってのことじゃない。

 もう、わたしには後が無いんだ。

 口では「頑張ろう!」「うん、頑張る!」って受け答えしたけど、ほんとうに後がない。

 今月分の家賃を払って、残るのは実家に帰る交通費がやっと。

 それも、飛行機とか新幹線とかの贅沢はできない。夜行バスに乗って、それこそ尾羽打ち枯らして、スゴスゴとかオメオメとかの茨の冠を戴いて……。

 

「日比野さんはいいんだけど、狙いすぎてるというかハマり過ぎてるというか完璧と言うか、我々としては、未知数の領域のある人と冒険したいっていう感じなんですよ」

 労わるように監督は言ってくれたけど、不採用に変わりはない。

「はい、ありがとうございました!」

 はつらつとアニメ声で返事。

 生の声だと泣いてしまいそうだから。アニメ声なら、設定の中で、いかような人物、いかような状況の声でも出せる。

 だよね、梅田にある声優専門学校在学中からモブの仕事をやって、二年もすればテレビアニメの主役クラスをやれる!

 先生たちも仲間たちも言ってくれた。自分でも二年後は自分の足で立っていると思っていた。

 

 アルバイトも少しはやった。

 

 でも、声優としての自分が二の次になるようなアルバイトには手を出さなかった。

 いつのまにかバイトが本業になった先輩や仲間はいっぱい見てきた。

 でも、深夜バスの料金払ったらスッカラカンという状態で帰りたくはない。

 ちょっと見栄を張って、田舎で一か月ぐらい余裕で仕事探せるくらいで戻りたい。

 文無しというのは裸で帰るように恥ずかしくて惨めだ。

 

 あ、松虫通……

 

 気づくと自分のアパートまで五分というところまで戻っていた。

 このまま戻っては、着の身着のまま布団をかぶって出られなくなる。

 ハルカスにも戻れず、アパートにも戻れず立ちすくんだ。

 我ながらキョドってる。

 一本手前の○○町商店街に踏み込む。道幅四メートルほどで、アーケードも無い。

 ポールから伸びている看板がなければ、所々にお店がある通りとしか思わないだろう。

 基本臆病なわたしは、この商店街と松虫通りの周辺で生活のアレコレをまかなっている。

 ほどよくアパートからは離れていて、回遊するにはちょうどいい。

 

 不動産屋と寿司屋さんの間が、いつのまのか空き家になっていて、シャッターにいろいろ張り紙が……文化教室、政党のポスター、ゴミ収集の作法と日程……それに混じってスーパーの求人広告。

 ……時給九百円から

 何度か行ったことのある地元のス-パーだ。

 ここにしよう。

 通りを二つ戻ってスーパーを目指す。

 

 習慣でカゴを持ってしまう。

 

 スーパーに入って、カゴも持たないのは、なんだか不審だ。

 でもって、いつまでもカゴを空にしているのも不審だ。

 見覚えのあるスーパーのおじさんが商品の整理をしている。

 

 パートの求人……

 

 おじさんの後ろを二回通るが声を掛けられない。

 いつのまにか、半額シールの貼られたうどん三玉と油揚げをカゴに入れてる。

 まだ半分は残っている粉末のうどんスープを使えば二日はしのげるね。

 半額うどんの賞味期限は明日まで……冷蔵庫に入れれば明後日ぐらいまでは大丈夫。

 65円の刻み葱をプラスしてレジに並ぶ。

 レジは四つあるけど、稼働しているのは二つ。

 若い女の子と……新人らしいおばさん。

 

 おばさんのレジに向かう。

 

「いらっしゃいませ……195円になります」

 え……アニメ声だ。

 スーパーのマニュアル通りの台詞なんだけど、声優の鍛えた声は分かってしまう。

 見た目の年齢よりはニ十歳は若く聞こえる。いや、その気になって演ずれば幼児だって少年の声だって出せるだろう。

 そんな余白、とんでもないキャパシティーを感じさせる声だ。

「あ、あの……声優とかやってらっしゃいました?」

 ちょうどお客が絶えたこともあって、おばさんはにこやかに答えてくれた。

「アハハ、そういうあなたも声優さんね」

「え……?」

「エロキューションで分かるわ」

「あ、あ、ども」

「人手不足で駆り出されてるの、あそこで商品整理やってるのが主人」

「あ、奥さんなんですか!?」

「三十年前にだまくらかされて」

「えと……その声、支倉ちなみさんじゃないですか?」

「え、知ってくれてるの!?」

「はい、浪速アカデミーですから!」

 支倉さんは、1980年代に一世風靡して、突如引退した七色声優仮面と言われた人だ。

 それが目の前にいるのだ。

「え、えと、えと……パートで雇ってもらえませんか!?」

 

 根性なしのわたしは、とりあえずスーパーのパートから。

 でも、モチベーション最高の再出発ができそうです。

 

  

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かの世界この世界:30『無辺街道の眠り姫・1』

2020-08-04 06:17:03 | 小説5

かの世界この世界:30     

『無辺街道の眠り姫・1』  

 

 

 無辺街道は単調だ。

 

 シリンダーをやっつけた後のしばらくは思わなかった。

 小さな起伏はあるし、街道の両側は草むらやら林や小川やらの小さな変化があって、ちょっとした遠足気分。

 途中、もう一度だけ空間が歪んでシリンダーが現れたけど、こちらも慣れてきて一撃で倒せるようになると姿を見せなくなった。

「こんど現れたら、あたしがやっつけるのに!」

 言葉遣いまで女子化したケイトがぼやく。

 ただの強がりだとは分かっているんだけど「そうだね」と合わせておく。

 

 そうして五時間も歩いていると、慣れてきたというよりは飽きてきた。

 景色は相変わらず似たような草むらやら林や小川の繰り返しで、クリーチャーはおろか、虫の一匹もあらわれない。

「尻取りでもしようか?」

 小学生でも言わないような暇つぶしを提案すると「うん、やろう」と同意してきた。

 とにかく、このままでは歩きながら寝てしまいそうなくらい退屈だったのだ。

 

 ケイト トンマ まぬけ けだもの のろま まぬけ……しまった!

 

 ボキャ貧のケイトは簡単に玉砕してしまうが、それが刺激になって退屈退治という所期の目的は果たせている。

「あれ? 降参?」

 メンマとか按摩とか「マ」で終わる言葉を連発しているとダンマリになって来た。

「ちがう……寝息が聞こえる」

「寝息?」

 立ち止まってみるが、草木がかすかにそよぐ以外の音は聞こえない。

「こっち」

 ケイトは手にした弓の先で街道脇の茂みを指した。

「どこいくのよ?」

 確信があるのか、ケイトはズンズン茂みの中を進んでいく。

「そんな滅法に進んだら、戻れなくなるわよ」

「すぐそこ」

 戻る道を気するわたしに、ケイトは確信的に指をさした。

 

「「あ……!?」」

 

 そこには、四五歳のツインテールの女の子が体を丸めて眠っていたのだった……。

 

 

 HP:200 MP:100 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

 

☆ 主な登場人物

  

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

 小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 二宮冴子  二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生 セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生 ポニテの『かの世部』副部長 

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