大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大阪ガールズコレクション:3『さあ……知らんわ 西区』

2020-08-03 06:57:49 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:3

『さあ……知らんわ 西区』   京セラドーム大阪

 

 

 さあ……知らんわ

 

 北島の返事は三秒で終わった。

 三秒のうちの二秒は「さあ」と「知らんわ」の間の「……」や。

 まあ、この二秒が北島の誠意やねんやろけど、なんともそっけない。

 ねえ、ここ、なにが建つのん?

 そう聞いた返事がこれ。

 

 この返事を聞くまでは北島のことを飛雄馬という、北島には出来すぎの下の名前で呼んだってもええと思てた。

 ちょっと慣れたら『ひゅうくん』でもええんちゃうかとも思てた。

 せやけど、もとの北島君のもひとつ下に落ちて、ただの北島や。

 

 連休明けぐらいから、地下鉄出たとこで北島といっしょになるようになった。

 

 うちの学校は地下鉄西長堀で下りる。

 改札出たらエスカレーターと階段で地上へ。それから左に曲がって二回曲がったら学校。

 いっつも八時十分くらいには学校着くようにしてる。

 別に部活とか勉強のためと違う。

 ピーク時間をさけたいだけ。集団でゴチャゴチャやるのは性分やないんです。

 

 そんな朝の登校に、いつの間にか北島が横に並ぶようになった。

 さっきも言うたけど、連休明けぐらいから。

 北島は同じクラスやから「お早う」ぐらいは言う。

 最初は部活で早いんやと言うてた。

 ああ、そうなんや……と理解してた。

 学校に着いても教室に入ってくるのはショートホームルームが始まる直前やし。

 

 でも、違てた。

 

 部活の早朝練習やったら、もっと早い七時台やてノンコが教えてくれた。

 あくる日には、もっと教えてくれた。

「北島君な、あんたに合わせてんねんで」

「え、なんで?」

「なんでて、決まってるやんか!」

 ノンコはバシコーンと肩を叩いた。叩いたことよりも声が大きいんで、教室の何人かが注目する。

 その注目の中に北島がおって、すぐに目線を避けよった。

 

 あ あーーーーー

 

 わたしのこと……(⋈◍>◡<◍)。✧♡!

 それからは、毎朝の通学デート!

 いつかは告白されるやろと思いながらも平常心のポーカーフェイス。

 せやけど、純情な奴で「お早う」以外には、ほとんど喋らへん。

 ときどき話題を投げかけてやるんやけど「ああ」とか「ふうん」とかしか返ってこーへん。

 クラスメートとか先生とかの話題出しても、せいぜい「そやな」「わかるわかる」くらい。

 たまに人の悪い噂を言うと「うん……」とあいまいな返事。

 北島君は、飛雄馬は人の悪口にはのってけえへんねんや……ちょっと感激した。

 

 手相みたげよか?

 

 なにげに声を掛けた。

 二カ月過ぎても進展がないんで、ちょっと仕掛けた。

 キスなんてとんでもないけど、ちょっとしたスキンシップくらいあってもええんちゃうんかと思たから。

「感情線がクッキリしてるから情熱家……しかし、なかなか気持ちを表せないところもある」

 上品な言い方でくすぐってやったけど「そ、そーか」を繰り返して手を汗ばませただけ。

 

 そんな日々の中で気が付いた。

 

 地下鉄から地上に出て、最初に曲がるとこが、ずっと工事中の背の高いフェンス。

 どこにでもある工事中なんで、ずっと意識の外にあったんやけど、思い出した。

 ここにはこども文化センターがあったんや!

 キャパ八百ほどの劇場があって、何回か観に来たことがある。

 大きいお姉ちゃんが演劇部やったんで毎年やってる演劇部がたくさん出る催し物があった。

 お姉ちゃんは勘のええ人で、たくさんある劇の中からおもしろい劇を選んで勧めてくれた。

 四回くらい観に行った。

 そのことが、いま学校の誰にも内緒で放課後に通ってる某プロダクションの研究生に繋がってる。

「学校の周りって、あんまり知らないからさ、いつか教えてもらえると嬉しいかも」

 カマをかけておいた。

「となりの神社ってお稲荷さんだったんよ、知ってた?」

「ああ、伏見稲荷とかの?」

「そそ、赤い鳥居がズラーーって」

「今んとこ、それだけ知ってる」

 ちなみに、お稲荷さんを言ったんはわたし。言うとけばあとが続くと思たから。

 

 それが、さあ……知らんわ。

 

 ただ口下手なだけと違て、気ぃのまわらんスカタンやと分かってしもた。

 わたしは電車の時間を変えた。

 ほんなら二日目にはあいつも変えていっしょになる……もう鈍感なだけのストーカーや。

 お腹に空気を入れて振り返る。

「もう、付いてこんとって!」

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:29『無辺街道のシリンダー』

2020-08-03 06:45:53 | 小説5

かの世界この世界:29     

『無辺街道のシリンダー』  

 

 

 

 ペギーの店を出てしばらく行くと、すっぽりと地面が落ち込んでいた。

 

 例えば、本郷あたりから東に進んで日暮里当たり。

 山の手の端っこから下町を眺めたようなところに出てきた。

 と言っても眼下に荒川区の下町の賑わいがあるわけではない。ザックリと地理的に台地から平地への境だと言うことだ。

「無辺街道と言うらしいわね」

 ウィンドウ表示された名前を言うと、ケイトは頬を強張らせながら頷いた。

 女子化したことで気弱になったのか、気弱さの為に女子化したのか、最初の意気込みはどこへやらだ。

 まあ中二病の空元気なんて金魚すくいのポイ(金魚をすくう紙張りのすくい網)に貼られた紙みたいに脆弱なものなんだけど。

 

 無辺街道は半ば以上が風化したり埋もれてしまった黄褐色の石を敷き詰めたもので、所によっては数十メートル数百メートルにわたって途切れ途切れになっているのが分かる。

 途切れた先に道が続いているには、いわば日暮里側の高いところから観ているからであって、うっかりしていたら見失う予感がする。

「まんいち見失ったら、お日様の昇る方向を目指したらいいみたい。憶えとくのよ」

 念を押すと、ケイトがギュっとチュニックの裾を掴んだ。

 

 二度敷石が消えてチュニックの裾が五センチは伸びたころに異変が起こった。

 

「ウ、気持ちわる」

 ケイトが吐き捨てると同時に、ギュィーンと音がして目の前の風景が渦巻状に捻じれた。

 ほら、RPGとかでモンスターとかクリーチャーとかが出現するときのエフェクト!

 すると、目の前にお尻が現れた!

 お尻と言うのは印象で、くわしく描写すると、直径30センチほどのプニプニの球体で、球体の下の方が窪みになっていてお尻に似ているのだ。そのお尻がプヨプヨと空中に浮かんで威嚇してくる。

「や、やっつける!」

 口だけは勇ましいケイトは、チュニックの裾を掴んだまま後ろに回る。

「たぶんチュートリアルよ。ウィンド開いて弱点とか調べて」

「う、うん……だめ、ウィンドがテルと重なって見えない」

「離れりゃいいんでしょうが!」

「そ、そだね(^_^;)」

 やっと裾を離したので、わたしは横っ飛びに跳んでソードを抜いた。

「どう、なにか分かった!?」

 横目で見ると、ケイトはウィンドを開いたままガタガタと震えているばかりだ。

「チ、使えねー」

 仕方なく自分でウィンドを開く。

 

 シリンダー: 無属性クリーチャー HP100 突進攻撃を仕掛けてくる……

 

 そこまで読んだところで、ソードを振りかぶって斬撃をくわえる!

「テーーー!」

 一瞬シリンダーは避けようとするが、プヨプヨの上下動が激しい割には鈍重で、わたしのソードは水ようかんを切ったほどの抵抗があっただけで、シュッと向こう側に抜けた。

 シリーーー!

 蛇を思わせる悲鳴を上げて、斜め上に赤い傷跡が付いた。

 シリンダーの上にはパワーゲージが出ていて、それが一撃を加えただけで半分近く減ってしまった。

 

 楽勝だな。

 

 そう思ってジャンプすると空中二回転で奴の後ろにまわって第二撃を食らわせる。

 さすがに躱されたが、それでも切っ先がニ十センチほどに切り裂いて、やつのゲージは残り三割ほどになった。

「ケイト、そこからでいいから矢を射かけて!」

「わ、わかった(;'∀')」

 ポロリ

 返事は良いが、つがえた矢は何度やっても構えた弓の先からポロリと落ちる。

 シリンダーがニヤリと笑ったような気がした。

 まずい!

 シリンダーとわたしの跳躍は同時だった。

「セイ!」

 跳躍した瞬間のシリンダーを両断した。シリー! 一声吠えたかと思うと、シリンダーは幾百のポリゴンに分裂して消えてしまった。

 

「ど、どうよ、気合いだけでやっつけてやった!」

「バカ、わたしが仕留めてなきゃ、あんたがやられてたわよ!」

 

 美少女の見かけの割には役立たずのケイトを一発張り倒して無辺街道の旅を続ける二人だった。

 

 HP:200 MP:100 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

 

☆ 主な登場人物

  

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

 小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 二宮冴子  二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生 セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生 ポニテの『かの世部』副部長 

  

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする