大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・170『西郷さんを召喚する・1』

2020-08-19 12:17:40 | 小説

魔法少女マヂカ・170

『西郷さんを召喚する・1』語り手:マヂカ    

 

 

 パンダ橋を渡って東京文化会館と上野の森美術館の間に入って左に折れる。

 夏の日差しは、まだ十分の明るさだけど、そこはかとない寂しさを感じるのは、上野公園が有数の桜の名所であるせいかもしれない。美術館か博物館の見学の後、集合時間に間があるのだろうか、小学生たちが所在なげというよりは、暑さにげんなりしたように柵にもたれたりしゃがんだりしている他は、上野駅への木陰のショートカットする人たちが疎らに通るばかり。

 上野公園は、ブリンダと七十年ぶりの邂逅でガン飛ばし合ったところだし、擬態したケルベロスと初めて会った場所だ。思えば、覚醒して以来、戦いに関わることでしか来たことが無い場所で、シーズン中に桜を愛でるという悠長なことをしたことが無いせいかもしれない。

「そうね、次のシーズンにはツンやみんなも誘ってお花見してもいいわね」

 綾香姉の声でケルベロス。

「さて、西郷さんが見えて来たわよ、銅像と何のお話?」

「待って、魔法陣を書くから」

 綾香姉は、指先から魔光(レーザーみたいなの)を出して、銅像の前にうっすらと魔法陣を掻き始める。

「魔光なんか出して、跡が残るよ」

「明日の朝には消えている……西郷さんを出すには、これでも弱いかもしれない……」

 描き終えて、綾香姉は――エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……――と召喚の呪を唱える。

 もう少し気合いを入れなければ出るものも出ない気がするんだけど、暑さにやられたのか、ほとんど呟きにしか聞こえない呪では効力が薄いのか、いっこうに現れる気配がない。

 エロイムエッサイム……エロイムエッサイム…………

 何度目かの呪を唱えて、綾香姉の声がフツリと停まる。

「綾香姉?」

 すると後ろに気配、半身で振り返るとお巡りさんがうろんな表情で通り過ぎていく。

「わたしがやろうか?」

「いや、魔法陣を描いたのはわたしだから……エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 ますます声を小さくして綾香姉の呪が続く……すると、また後ろで気配。さっきのお巡りさんが戻ってきたか……?

 振り返ると黄色い帽子をかぶった女子小学生が立っていた。

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ポナの季節・8『チイニイ孝史の怪しい仕事』

2020-08-19 06:16:13 | 小説6

・8
『チイニイ孝史の怪しい仕事』
         


ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


 寺沢家の次男孝史の前職は警察官であるが、表沙汰にはできない事情で退職。今は怪しい商社に勤めている。

 そして、今も怪しくコーヒーショップで時間を潰している。


 危ない取引先と会うはずだったが、ついさっき、公安につけられていることに気付き、あたかも営業が休憩のために入ったかのように、慣れた感じで、この店に入った。

 相手か会社にメールを入れたかったが、公安のベテランともなると、指の動きだけで打ったメールの八割の内容は把握されてしまう。かといって、読まれないように打てば、余計に怪しまれる。その公安が、最後部の席で孝史を監視している。
 万一の時のサインに読買新聞を広げて窓際に座っている。これは「監視されている」のサイン。相手もベテランなら気づくはずだ。

 待つこと十分。店の外をプリウスが走った。

 プリウスは、法定速度で店の前を通過すると、そのまま他の車の流れに混ざって消えていった。どうやら読買新聞に気づいてくれたようだ。工作員の常識で、待ち合わせ場所は、一度通り過ぎて様子を見る。危ないと思えば二度と戻ってこない。

 直ぐに店を出たかったが、今出れば、自分だけではなくて、何気なく通ったプリウスまで疑われる。
 日本の公安は優秀だ。だが、かなり確証の高い情報を掴んでも、めったに活かされることはない。情報を掴んだ政治家がボンクラなのだ。それを利用して大胆な行動に出ることもあったが、たびたびやっては、その後の仕事ができない。孝史は本気で競馬の予想に熱中した。

 ふと気づくと、斜め前の席で聞き覚えのある声がした。

 なんという偶然、妹の優奈と新子が明るく笑い声をあげている。
「あ、チイニイ!」
 下の方の新子が気づいて声を掛けてきた。
「なんだ、珍しい。優奈、学校は休みか?」
「休講が重なったんで、帰ってきちゃった。へへ、三連休」
「家に居れば生活費かからないものな。お、なつかしい優奈の乃木坂時代の制服じゃないか。ブルセラにでも売るのか?」
「ちがうわよ、友だちのみなみが、サイズ違いの制服が来たんで、しばらく貸してたのよ」
「え、あの悪友のみなみか、もう高校生なんだな」
「ハハ、あたりまえじゃん。新子も高校生なんだから、みなみちゃんも高校生に決まってんじゃん」
「みなみはいっしょじゃないのか?」
「うん、バイトの面接に行ってる」
「へえ、乃木坂でバイトができるんだ」
「時代ね。あたしたちの頃は禁止だったけどね」
「しかし、偉いな。新子も見習えよ」
「あたし、まだ十五だから、バイトできないし」
「ハハ、ミソッカスだからな」
「チイニイこそ、ちゃんと働きなよ。せっかくエリート桜田門(警視庁の隠語)だったのに、チンケな商社にかわって、こんなとこで油売ってるんだもん」
「チンケじゃねえぞ、その証拠に、お前たちの勘定はもってやる!」
「やりー!」

 姉妹は喜び、孝史は、ごく自然に公安の監視の目から逃れることができた。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子


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かの世界この世界:45『シリンダー』

2020-08-19 06:02:39 | 小説5

かの世界この世界:45     

『シリンダー』  

 

 

 異世界から持ち込まれた愛玩動物なんです

 

「シリンダーは愛玩動物なんですか?」

 ハッチの縁に腰を預け、戦い慣れた下士官の余裕でグリは語る。

 シュタインドルフまでの道のりは、ほぼムヘン川の南岸を一本道なので、操縦をオートにしてキューポラから上半身を晒しているのである。

 ブリとケイトは最初っからエンジンルームの上にドンゴロスを敷いて寝っ転がっている。

 四人乗りに改造されているとはいえ、定員三人の二号戦車の中で長時間大人しくしているのは厳しい。

 じっさい、ムヘンブルグの北門で出会った前線帰りの二号戦車は同じように砲塔やエンジンルームの上に乗員を載せていた。

 二号戦車のエンジン音は、車内にいるとストレスだが、外に出てみると心地よい振動になるので、ブリとケイトは眠ってしまっている。

「トール元帥の平定が落ち着いたころに入植者が見つけて飼い始めたのが最初だと言われています。おそらく始りの荒野に迷い込んだ異世界の動物です。見かけが、なんというか、とても和ませるでしょ」

 たしかに、シリンダーはお尻にソックリで、無害であるという条件付きだが、割れ目の奥にある口でブヒブヒ声をたてられては、たいていの人間が笑ってしまうだろう。

「二千年紀に入ってペットとして飼われだしたんですが、野生化したものが牙をむくようになったんです」

「最初から凶暴なわけじゃないんだ……」

「発見されたころは、人懐こい小動物だったんです。でなければペットにはならなかったでしょう」

「人に飼われて、ふたたび野生化することで凶暴になるんだ……なんだか教訓的ですね」

 

 ピピピピピ! ピピピピピ!

 

 車内からアラームが響いた。

「敵性アラームです、車内に!」

「おい、起きろ!」

 エンジンルーム上の二人を叩き起こす。

 熟睡していた二人を収容するのは大変だったが、なんとか車内に潜る。

「シリンダーの群れですね……」

 ドップラーの波形を見て、グリが判断する。

「だったら、やっつけようよ!」

「そーだそーだ!」

 お昼寝組は威勢がいい。

「数が多すぎます、身をひそめます」

 二号は真地旋回すると川辺に群落する葦の中に突き進む。

 小柄な二号は、スッポリと収まって、直上から見られない限り発見ははれないだろう。

 

 シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ

 

 体を表すような鳴き声が、二号の装甲を通しても聞こえてくる。

 一つ一つは人を食ったような泣き声なのだが、幾百幾千と集まると、敵意は無いとはいえ、かなりの圧だ。

 鳴き声が消えても、念のため十分ほどはエンジンを始動させずに身を潜めた。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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