大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『ライトノベル・1』

2021-12-01 06:27:58 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『ライトノベル・1』   

 

        
 あれ?

 あまりの軽さに、ケイの腕は五センチほど浮いてしまった。

 その文庫サイズの本を手に取ったのは、数あるライトノベルが並んでいる中で、タイトルが意表を突いたからだった。

『ライトノベル』

 それしか背表紙には書いていなかった。

 膝の高さには、売り出し中の『魔法学校』や『ぼくの妹』なんかのシリ-ズ物の新刊本が平積みになっていた。いずれもケイは途中でつまらなくなって、投げ出した物ばかりである。

 だいたい、ライトノベルというのは、表紙で騙される。

 体は大人、顔は小学生みたいなヒロインのアップと、ポップなタイトルとキャッチコピー。で、読むと、たいがい半分くらいで飽きてしまう。『二宮ハルカの憂鬱』なんか、そのムチャクチャなストーリーと、話の飛躍に憂鬱になったが、ケイはたとえ図書館でただで借りたものでも「なにかの縁」と思って読んでしまう。

 それに、ごくタマにだけど、飯室冴子や大橋むつおのような当たりがある。そこでケイは、面白げなものがあれば、書名、出版社を記憶しておいて図書館に希望図書として登録する。

 で、まあ、八割の確率で読むことが出来る。むろん時間はかかるが、ケイのラノベへの興味は、その程度のものである。たとえ十七歳の女子高生であっても、やることは他に一杯ある。

 何かって? 

 それは、この話を読み始めたばかりの貴方にはナイショ。

 で、その『ライトノベル』はあまりに軽すぎた。

 350ページはあろうかという、その本は、普通200グラムぐらいはある。だから、それだけの覚悟で書架から抜き出すと、100グラムあるかないかで、思わず手が浮いてしまったのである。

 表紙を見て、また驚いた。

 タイトルは背表紙のまま『ライトノベル』。で、表紙の絵に驚いた。ケイと同じような制服を着た女の子が、書架からラノベを取りだして、あまりの軽さにのけ反っている絵だった。

 キャッチコピーは、「驚くほど、あなたのライトノベル!」であった。

――主人公は、そのラノベの、あまりの軽さにのけ反った――

 最初の一行に書いてあった。

「ハハ、まるであたしのことだ」

 小さい声で、呟いてしまった。そのときレジのオネエサンと目が合って、ニッコリ微笑まれたので、おもわず頬笑み返ししてしまった。

 裏をひっくり返すと、値段は480円。なんと心憎い値段ではないか。ワンコインより、たった20円安いだけなんだけど、とってもお得な気にさせてくれる。

「これください」

 気が付いたら、レジのオネエサンに500円玉といっしょに渡していた。

「この本、これが最後の本なんですよ。ラッキーですね」

 オネエサンは、我がことののように嬉しそうな顔になった。

「これ、オマケのシオリです」

「あ……」

 ケイは、またまた驚いた。

「あ、あなたも、そう思う?」

「このシオリの女の人オネエサンにソックリ!」

「そうなの、まあ、わたしって、どこにでも居そうな顔だけどね」

「そんなことないです。とってもステキ!」

 セミロングの髪が、鎖骨のあたりでワンカールしていて、程よくオネエサンだった。

「カバーも専用のにしときますね」

 そのカバーはプラスチックで出来ていて、ほとんど透明。人物のところだけ、表紙と同じように人型があるのが裏からでも分かった。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 ケイは思わずニンマリしてしまった。

 ショッピングモールの通路に出て気づいた。カバーがかけられた表紙の女の子は、似たようなではなく、ケイ自身をイラストにしたようにそっくりだった。

 表情だけじゃない。制服も校章までいっしょだった。髪も、カバーをかけるまではボブだったけど、プラスチックのカバーを掛けたそれは、ケイと同じポニーテールで、シュシュの柄までいっしょだった。

 思わず振り返った。

 レジには、服装はいっしょだったが、ショ-トヘアで丸ぽちゃの別の女の人がいた。

「あの、いままでこのレジに立っていたオネエサンは?」

「え……一時間前からずっと、わたしが立っていたけど」

「あ……そうですか」

 ケイは、なんだか気圧されたような気になって、モールの出入り口に向かった。

 そして、振り返ると……書店そのものが無くなっていた……。

  つづく

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泉希 ラプソディー・4〈泉希の初登校〉

2021-12-01 06:02:24 | 小説6

ラプソディー・04
〈泉希の初登校〉   




 当たり前の自己紹介ではつまらないと思った。

「今日から、いっしょに勉強することになりました、雫石泉希です。何事も初心が大切だと思います。よろしくお願いします」

 この一言だけで、クラスがどよめいた。字面では分からないが、声と喋り方は渡辺麻友にそっくりだった。

「モットーは、『限られた人生、面白く生きよう!』です。ね、秋元先生!?」

 今度はタカミナの声色で、廊下に学年主任の秋元先生が立っていることにひっかけたのだ。

「では、だれがウナギイヌだよ!?」

 北原里英という、ちょっとマニアックなところで、袖口から万国旗をズラズラと引き出して喝采を浴びた。

「この水色に黄の丸と、緑に赤丸の国知ってるかなあ?」

 今度は、百田 夏菜子の声。で、答えが返ってこないので百田 夏菜子の声のまま続けた。

「これは、水色がパラオで、緑がバングラディシュなんだよ。日の丸をリスペクトしてんの。豆知識でした……えと、これが自分の声です。体重は内緒だけど、身長:158cm バスト:84cm ウエスト:63cm ヒップ:86cm 完全に日本女性の平均です。よろしく!」

 ほんの一分足らずだけど、そこらへんの芸人顔負けの自己紹介で一気にクラスの中に溶け込んだ……一部を除いて。

「雫石さん、あんたの自己紹介セクハラよ」

「え、どーして?」

 見上げた机の横には、揃いのポニーテールが三つ並んでいた。

「たとえ自分のでもスリーサイズまで言うのはだめよ。中には自分のプロポーション気にしてる子もいるんだから」

「そんなこと言ってたら、なんにも喋れなくなってしまいます~」

「新入りが、そんなに目立つなってこと。虫みたいに大人しくしてな」

 都立でも優秀な部類に入る谷町高校にも、こんなのがいるんだと、泉希はあっけにとられた。当然だけど、周りは見て見ぬふり。

 次の休み時間、泉希は復讐に出た。

 

「虫が言うのもなんだけど、三人とも背中に虫着いてるよ」

 そう言って、三人の背中にタッチしてブラのホックを外してやった。二人は慌てふためいたが、真ん中のがニヤリと振り返った。

「そんなガキの手品に引っかかる阿倍野清美じゃないのよ」

「なるほどね」

 突っかかるほどのことでもないと、泉希は階段を上って行った……ところが、13段しかない階段が、何段上っても踊り場にたどり着かない。後ろで三人のバカにした笑い声。

「こいつはタダモノじゃないな……」

 そう思った泉希は、階段を下りて阿倍野清美のそばに寄った。

「阿倍野さん。あなたって、陰陽師の家系なのね」

 清美の瞳がきらりと光ったが、あいかわらずの薄笑い。

 泉希はスマホを出して、画面にタッチした。画面には白い紙のヒトガタが出ている。

「やっぱ、式神か……」

 泉希は、式神を消去すると、当たり前のように階段を上って行った。

 初日からひと波乱の学校ではあった。

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