大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・084『パチパチに手伝わせる』

2021-12-15 13:58:47 | 小説4

・084

『パチパチに手伝わせる』 本多兵二    

 

 

 おーい、ニッパチ!

 

 呼びかけると、構内作業車の姿のままリアルハンドを振って応えた。

「まだ、A鉱区の後始末か?」

『いえ、あらかた終わったんですけどね、存在価値を認められて、いろいろお役に立ってるんです』

「A鉱区以外の仕事だってぇ?」

 恵も、面白そうに質問する。

『ええ、イッパチとサンパチが助っ人で来てくれてるじゃないですか。ぼく達って共感連携しあって仕事するから、効率がいいんですよ』

 今までパチパチは、カンパニー、ナバホ村、フートンと、別々に働いていた。

 今度の落盤事故は規模も被害も大きいので、ヒムロ社長も、節を曲げて申し入れを受け入れ、三台のパチパチを使っている。

 一台一台の能力は知れている。

 でも、三台が共感し合って働くと、×3以上の働きをする。

 構内作業車パターンの場合、積載能力は2トンに過ぎず、5トン10トンが当たり前の専業作業車には敵わない。

 しかし、パチパチは、作業の進捗に合わせて、特定の作業や現場に集中したり、その可変能力で、並みの作業車では通れないところを通ることができる。

 また、カンパニー全体の作業量と進捗具合を把握しているので、本務の運搬作業の合間に他の仕事をこなすこともできるのだ。

 それを見越して、ニッパチを探していたんだが、いや、僕が思っていたよりも仕事が早い。

『なにか御用ですか?』

「ああ、おタキさんに頼まれて、食材を取りに来てるんだけど、ちょっと量が多いんで、手伝ってくれないか」

『いいですよ、データください』

 ハンベを赤外線通信にして作業内容を送ってやる。

『うわあ、キノコ狩りだ! やりますやります(^▽^)/』

「じゃ、こっちだ」

「ニッパチ」

『なんですか、恵さん?』

「食堂とはエンゲージしてないの?」

『おタキさんは、いい人なんですが、ネットワークで仕事するのは嫌がるんです』

「「ああ……」」

 恵と声が揃ってしまった。

 僕は、元々は扶桑将軍の近習。日々の役目は、経験と推察でやっている。

 ネットワークやデジタルに頼っていると、平時は便利だが、戦争や大災害の時には間に合わないので、上さまの意向で、アナログなシステムでやっている。

 恵の天狗党も似たり寄ったりな気がする。

 おタキさんの経歴は分からないが、たぶん、同じようなところで働いてきた人なんだろう。

 

『拙者も手伝うでござるよ(^▽^)/』

 

 栽培庫の前でサンパチが待っていた。

「さっそく共感かぁ?」

『イッパチも来たがっていたでござるが、拙者がジャンケンで勝ったでござるよ(^▽^)』

 どうやら落盤事故の後始末も終盤のようだ。

 

『う~~~ん いい香り』

 シメジを収穫しながら、香りを楽しむニッパチ。

 サンパチは黙々と仕事をこなしているが、二人が感じているのは同じことだ。

 頭の上に仮想ディスプレーを出して、香り成分の化学式と成分の割合を数値化して感動している。

 同じ数値が出ると、それがピカピカと点滅している。

 どうやら、共感し合って喜んでいることを現しているようだ。

「あんたたち、手触りはどうよ?」

 恵が意地悪な質問をする。

『こんな感じです!』

 ニッパチもサンパチも、キノコ表面の弾力や水分、温度などを数値化し始める。

「そういうの禁止、自然に湧いてくるままにやってごらんよ」

 そう言うと、二人ともペースを落として作業に没頭しはじめた。

『む、難しいでござる……』

 サンパチは、仮想ディスプレーを明滅させて固まってしまう。

 ニッパチは、ペースこそ落ちてきたが、手つきが愛しんでいるような感じになってきた。

『チルルの手を握っていた時を思い出します……』

 キノコと人間を同じだと言い始めた。

『潤いが……生き物としての潤いが……似ているかもしれません』

 サンパチの仮想ディスプレーは、数値も化学式も現さず、グリーンの明かりをホワホワとさせるだけだ。

 人の手とキノコが似ているというのは、少し突飛だけども、なにか深遠なことを言っているような……いや、パチパチたちはロボットのカテゴリーにも入らない汎用作業機械なんだ。

 ニッパチとサンパチが加わったので、作業は格段に捗った。

 最後のエノキをパッケージに入れて、恵が、目を輝かせた。

 

「ねえ、ちょっと思いついたんだけど!」

 

 この目の輝き、ちょっと危ない気がした。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、おタキさん)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長 
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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明神男坂のぼりたい11〔今日から絵のモデルだ!〕

2021-12-15 05:42:10 | 小説6

11〔今日から絵のモデルだ!〕  

 

 

       

  二つ目の目覚ましで目が覚めた。

  そだ、今日から絵のモデルだ!
 

 フリースだけ羽織って台所に。とりあえず牛乳だけ飲む。
 

「ちょっと、朝ご飯は!?」

  顔を洗いにいこうとした背中に、お母さんの声が被さる。

 「ラップに包んどいて、学校で食べる!」

  そのまま洗面へ。とりあえず歯を磨く。

 ガシガシ

 「ウンコはしていけよ。便秘は肌荒れの元、最高のコンディションでな」

  一階で、もう本書きの仕事を始めてるお父さんのデリカシーのない声が聞こえる。

「もう、分かってるよ。本書きが、そんな生な言葉使うんじゃありません!」

  そう反撃して、お父さんの仕事部屋と廊下の戸が閉まってるのを確認してトイレに入る……。

  しかし、三十分早いだけで、出るもんが出ない……仕方ないから、水だけ流してごまかす。

 ジャーーゴボゴボ

「ああ、すっきり!」

 してないけど、部屋に戻って、制服に着替える。いつもは手櫛のところをブラッシングして紺色のシュシュでポニーテール。

 ポニーテールは、顎と耳を結んだ延長線上にスィートスポット。いちばんハツラツカワイイになる。
 

「行ってきま……ウ(;'∀')」

  と、玄関で言ったとこで、牛乳のがぶ飲みが効いてきた。

  二階のトイレはお母さんが入ってる。しかたないので一階へ。

  用を足してドアを開けると、お父さんが立ってた。

 ムッとして玄関へ行ことしたら、嫌みったらしくファブリーズのスプレーの音。

 

 タタタタタと男坂を駆け上がり、拝殿の前でペコリ。

 タタタタタ、再び駆け出して境内を横断、西に向かって学校を目指す。

 三十分早いと、ご通行のみなさんの密度も顔ぶれちがう。

 途中、知らないOL風の人に笑顔を向けられる。条件反射の笑顔で返したけど、だれだろう?

 クチュン!

 くしゃみが出たところで思い出した。

 あれは巫女さんだ!

 はじめて巫女服でない巫女さんを見た。

 なんだか、神さまの正体見たようで愉快。

 じゃ、明神さまの正体って……妄想しかけたところで、学校の正門が見えてくる。

 

  学校の玄関の姿見で、もっかいチェック。よしよし……!

 

 美術室が近くなると、心臓ドキドキ、去年のコンクールを思い出す。思い出したら、また浦島太郎の審査を思い出す。

 ダメダメ、笑顔笑顔。

 「お早うございま……」
 

「そのまま!」

  馬場先輩は、制服の上に、あちこち絵の具が付いた白衣を着て、立ったままのあたしのスケッチを始めた。で、このスケッチがメッチャ早い。三十秒ほどで一枚仕上げてる。
 

「めちゃ、早いですね!」

「ああ、これはクロッキーって言うんだ。写真で言えば、スナップだね。マフラーとって座ってくれる」

「はい」

  で、二枚ほどクロッキー。

 「わるい、そのシュシュとってくれる。そして……ちょっとごめん」

  馬場先輩は、自慢のポニテをクシャっと崩した。あんなにブラッシングしたのに。
 

「うん、この感じ、いいなあ」
 

 十分ちょっとで、二十枚ほどのクロッキーが出来てた。なんかジブリのキャラになったみたい。
 

「うん、やっぱ、このラフなのがいいね。じゃ、明日からデッサン。よろしく」

 

 で、おしまい。

 

 三十分の予定が十五分ほどで終わる。そのまま教室に行くのはもったいないと思っていたら、なんと馬場先輩の方から、いろいろ話しかけてくれる。

  話ながら、クロッキーになんやら描きたしてる。あたしは本物のモデルみたいな気になった。

 

 その日の稽古は、とても気持ちよくできた。

 小山内先生が難しい顔しているのにも気がつかないほどに。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
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ライトノベルベスト『わたしの吸血鬼・2』

2021-12-15 05:38:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『わたしの吸血鬼・2』  



 

 わたしは間の悪い女だ。

「なんでアイドルになりたいの?」

 オーディションで聞かれた。

「え、あ、自信があるんです!」

 と、ピントの外れた答えをした。でも、これがプロディユーサーの白羽さんの気に入ったのだから世の中わからない。

「とっさの答だろうけど、キミは本質をついているよ」

 そう褒められた。

 でもそれはまぐれで、他は間の悪いことが多い。選抜のハシクレになったころ、スタジオの様子がわからないので、せっぱ詰まって入ったトイレ。用を足してるうちに間違いに気づいた。だって、男の人の声が五人分ぐらい聞こえたから。

―― やばい! ――

 息をひそめていたら、いきなりドアを開けられた。

 わたしってば、ロックするのを忘れてた。

「あ、ごめん」

「い、いいえ……」

「いま、女の声しなかったか?」

「いや、ADの新人。悪いことした」

 その人は、うまく誤魔化してくれたけど、トイレの出口で他の子に見つかった。で、しばらく「XXは男だ!」という噂が立てられ、しばらくシアターのMCなんかにイジラレ、二週間ぐらいは人気者になれた。

 でも、さえないバラエティーキャラというイメージになって、狙いの「清純」からは遠くなった。

「待ってえ~」の声で、センターの潤ちゃんが、ドア開放のボタンを押してくれた。

「持つべきものは、センター……」

 ブーーーーー

 定員オーバーのブザー。

 仕方なく、わたしは次のを待った。

 やっと次のがやってきて「閉め」のボタンを押そうとしたら、スルリとイケメンが入ってきた。

 ボタンは、地下の駐車場しかついていなかった。数十秒間、イケメンといっしょだった。

「オレのこと分からない?」

「え……?」

「S・アルカードのアルカードだよ。スッピンだと分からないよね」

「あ、そ」

 わたしは、本番中に居中に振られて「小野寺潤さんが好みです」という、彼の言葉にこだわっていた。

「あれは、立場上、ああ言うしかなかったからだよ。本当に好きなのはキミだ……」

 語尾のところで、振り返ったら、アルカードの顔が真ん前にあって、自然にキスになってしまった。

「ごめん……勝手に言い訳して、でも、本当の気持ちだから……ハハ、言っちゃった」

「う、うん……」

「その『うん』は、本気にしていいのかな?」

「あ、あの、その……」

「困らせるつもりはないよ。ほんのちょっとだけ、一分もないくらいキミの部屋のベランダに行っていいかな? 今夜十二時ごろ」

「え、あ……困ります」

「大丈夫、スマホの履歴だって消せるんだ。分からないように行く。それに部屋の中には絶対入らないから」

「でも……」

「あ、いけねえ、おれ一階なんだ。まだ駆けだしだから、帰りは地下鉄なんだ」

 そう言って、アルカードは一階のボタンを押した。

 チーン

 エレベーターは一階に着いた。

 一階には、アルカードによく似た十人ちょっとが佇んでいた。わたしを見ると、そろって軽く頭を下げた。

「じゃ、おつかれさまでした」

 仲間も同じことを言ってドアが閉まった。

 地下に降りると、みんながマイクロバスで待っている。

「どうした、なんだかボンヤリしてるわよ」

「え、あ、そう?」

「XXはタイミング悪いのよね」

「でも、あのエレベーターって、十八人まで乗れるんだよ。それが十七人でオーバーになる?」

「あ、それって、だれかが二人分重さあるってこと!?」

「それはね!」「つまりよね!」「アハハ」「言う前に笑うな」「だって」

「ほら、車出るよ!」

「「「「「「あ、待ってぇ!」」」」」」



 賑やかにマイクロバスは動き出した……。 

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