銀河太平記・084
おーい、ニッパチ!
呼びかけると、構内作業車の姿のままリアルハンドを振って応えた。
「まだ、A鉱区の後始末か?」
『いえ、あらかた終わったんですけどね、存在価値を認められて、いろいろお役に立ってるんです』
「A鉱区以外の仕事だってぇ?」
恵も、面白そうに質問する。
『ええ、イッパチとサンパチが助っ人で来てくれてるじゃないですか。ぼく達って共感連携しあって仕事するから、効率がいいんですよ』
今までパチパチは、カンパニー、ナバホ村、フートンと、別々に働いていた。
今度の落盤事故は規模も被害も大きいので、ヒムロ社長も、節を曲げて申し入れを受け入れ、三台のパチパチを使っている。
一台一台の能力は知れている。
でも、三台が共感し合って働くと、×3以上の働きをする。
構内作業車パターンの場合、積載能力は2トンに過ぎず、5トン10トンが当たり前の専業作業車には敵わない。
しかし、パチパチは、作業の進捗に合わせて、特定の作業や現場に集中したり、その可変能力で、並みの作業車では通れないところを通ることができる。
また、カンパニー全体の作業量と進捗具合を把握しているので、本務の運搬作業の合間に他の仕事をこなすこともできるのだ。
それを見越して、ニッパチを探していたんだが、いや、僕が思っていたよりも仕事が早い。
『なにか御用ですか?』
「ああ、おタキさんに頼まれて、食材を取りに来てるんだけど、ちょっと量が多いんで、手伝ってくれないか」
『いいですよ、データください』
ハンベを赤外線通信にして作業内容を送ってやる。
『うわあ、キノコ狩りだ! やりますやります(^▽^)/』
「じゃ、こっちだ」
「ニッパチ」
『なんですか、恵さん?』
「食堂とはエンゲージしてないの?」
『おタキさんは、いい人なんですが、ネットワークで仕事するのは嫌がるんです』
「「ああ……」」
恵と声が揃ってしまった。
僕は、元々は扶桑将軍の近習。日々の役目は、経験と推察でやっている。
ネットワークやデジタルに頼っていると、平時は便利だが、戦争や大災害の時には間に合わないので、上さまの意向で、アナログなシステムでやっている。
恵の天狗党も似たり寄ったりな気がする。
おタキさんの経歴は分からないが、たぶん、同じようなところで働いてきた人なんだろう。
『拙者も手伝うでござるよ(^▽^)/』
栽培庫の前でサンパチが待っていた。
「さっそく共感かぁ?」
『イッパチも来たがっていたでござるが、拙者がジャンケンで勝ったでござるよ(^▽^)』
どうやら落盤事故の後始末も終盤のようだ。
『う~~~ん いい香り』
シメジを収穫しながら、香りを楽しむニッパチ。
サンパチは黙々と仕事をこなしているが、二人が感じているのは同じことだ。
頭の上に仮想ディスプレーを出して、香り成分の化学式と成分の割合を数値化して感動している。
同じ数値が出ると、それがピカピカと点滅している。
どうやら、共感し合って喜んでいることを現しているようだ。
「あんたたち、手触りはどうよ?」
恵が意地悪な質問をする。
『こんな感じです!』
ニッパチもサンパチも、キノコ表面の弾力や水分、温度などを数値化し始める。
「そういうの禁止、自然に湧いてくるままにやってごらんよ」
そう言うと、二人ともペースを落として作業に没頭しはじめた。
『む、難しいでござる……』
サンパチは、仮想ディスプレーを明滅させて固まってしまう。
ニッパチは、ペースこそ落ちてきたが、手つきが愛しんでいるような感じになってきた。
『チルルの手を握っていた時を思い出します……』
キノコと人間を同じだと言い始めた。
『潤いが……生き物としての潤いが……似ているかもしれません』
サンパチの仮想ディスプレーは、数値も化学式も現さず、グリーンの明かりをホワホワとさせるだけだ。
人の手とキノコが似ているというのは、少し突飛だけども、なにか深遠なことを言っているような……いや、パチパチたちはロボットのカテゴリーにも入らない汎用作業機械なんだ。
ニッパチとサンパチが加わったので、作業は格段に捗った。
最後のエノキをパッケージに入れて、恵が、目を輝かせた。
「ねえ、ちょっと思いついたんだけど!」
この目の輝き、ちょっと危ない気がした。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
- 森ノ宮親王
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
- 氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、おタキさん)
- 村長 西ノ島 ナバホ村村長
- 主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
- 西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地