大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい07〔我が家の事情&初稽古〕

2021-12-11 09:53:10 | 小説6

07〔我が家の事情&初稽古〕  

 

 

 朝から、お祖母ちゃん(お父さんの母)と対面している。

 

 というのがね……。
  

 朝刊を取りに行くのは、あたしの仕事だ。

 今どきの高校生には珍しい。

 実はねって、打ち明け話ってほど大層なものじゃないんだけどね。

 越してきて、やっと五歳になったころ、お父さんが「明日香でも届くように」って、郵便受けを付けてくれた。

 子どもの事だから、普通は、三日もやったら飽きる。

 だけどね、団子屋のおばちゃんとか、ご近所の人がね「あら、明日香ちゃんえらいねえ」って言ってくれる。

 エヘヘ

 愛想良しの明日香は、可愛く照れるわけ。

 正直、ガキンチョのころの明日香は(自分で言うのもなんだけど)可愛かった。

 時々はね、男坂の上を掃除してる巫女さんと目がって、口の形で『おはよう』とか『えらいねえ』とか言ってくれる。

 お調子者で、それでいて小心者の明日香としては、やめるわけにはいかなくて、高校生の今日まで続いてる。

 まあ、ルーチンワークですよ。

 

 バサ!

 

 スナップをきかせて、定位置のソファーに朝刊を投げた。

 勢い余った手がボードの上のおっきいこけしに当って、倒れ掛かる。

 お祖母ちゃんが元気なころに買ってきた50センチもあるあるやつで、そいつが足に当って、目から火花。

 ンガアアアア

 ドシン

 足を庇ってピョンピョンしてると柱にぶつかって、今度は、その振動で長押(なげし)に掛けてあったお祖母ちゃんの写真が落ちてきた。

 イッテエエエ……!

 見事に頭に当って、それでも、お祖母ちゃんを床に落とすことなく胸で受け止めた。

 

 それで、朝からお祖母ちゃんとご対面……で、しみじみと男坂下で過ごした十年を思うワケ。

 

 うちはご維新のころから男坂下でお店をやってた。

 お父さんは、その五代目になるはずだったんだけど、家業は付かずに学校の先生になった。

 お祖父ちゃん、お祖母ちゃんも、体わるくして店を畳むことになって、それを潮に両親は、あたしを連れて越してきたんですよ。

 ジジババを放っておくわけにもいかないし、こっちのほうが通勤にも便利だったらしい。

 

 でもね、数年後には両親ともに仕事を辞めた。

 あ、お母さんは小学校の先生をやっていた。

 まあ、先細りの商売人の息子は手堅く教師になって、嫁さんも学校の先生。

 老後は、二人分の年金で悠々って魂胆ですよ。

 

 でも、二人とも早期退職。

 お父さんは、あたしが中学上がるときに。

 お母さんは……たぶん、小学校の三年のときに。

 なにから話したらいいんだろ……。

 

 お父さんは、高校の先生だった。

 いわゆるドサマワリいうやつで、要は困難校専門の先生。

 校内暴力やら喫煙は当たり前で、強盗傷害やらシャブやってるような子までいた。で、勉強はできなくて。240人入学して、卒業すんのは100人もいない。たいていの子が一年のうちに辞めていちゃう。だから学校で一番きつい仕事は一年生の担任。運が良くても、クラスの1/3は辞めていく。人数で15人から18人くらい。それを無事に退学させんのが担任の仕事。それも学校に恨みを残すような退学にしてはいけない。

「ありがとうございました。お世話になりました」

 と、学校には感謝の気持ちをもって退学させる。

 専門用語では『進路変更』というらしい。辞めるまでに、電話やら家庭訪問やら何十編もやる。お父さんは『営業』だと言って割り切っていたけど、ほんと、日曜も、よく出かけていた。

 そんな最中にお婆ちゃんが認知症になって。放っとけんなくなって、お父さんは、初めて担任を断った。子供心にも「当たり前だ」と思ったよ。

 だけど、学校は、お父さんを担任にした。最後は職員会議で「鈴木先生を担任にする動議」に掛けられ賛成多数で担任。

 お父さんは四月一日から留年で落ちてきた生徒の家庭訪問に行っていた。土曜は祖父ちゃん婆ちゃんの面倒見にいって、日曜の半分は家庭訪問やらの仕事して、月に二回くらいは祖父ちゃんが学校に電話してくる。

 お祖母ちゃん、よく倒れたしね。

「救急車ぐらい、自分で呼べよ!」

 そうグチりながらも、学校早引けして世話していた。そして五月に婆ちゃんが認知症のまま骨折で入院。介護休暇とって世話してたけど、復職したらクラスはムチャクチャ。

 こんなのが、二年続いて、お父さんは鬱病になってしまった。

 うつ病のお父さん、それでも、お母さんといっしょに、なんにもできないお祖父ちゃんも合わせて老人介護。

 で、二年休職したけど治らなくて辞めざるをえなかった。

 

 お母さんも似ている。

 

 しゃく祖父ちゃん(お母さんの父、石神井に住んでるからしゃくじい)が腎臓障害から、ほとんど失明した上に、心臓疾患と脳内出血で長期入院。お婆ちゃんは脚が不自由で、世話はお母さんと伯母ちゃんが通いでやっていた。

 そこへ、いきなり六年生の担任やれと校長に言われた。お母さんの学校は情に厚い人が居て「鈴木先生の代わりにボクがやります」いう人まで現れた。

「校長としていっぺん判断したことだから、変えられません!」

 意固地な女校長で、お母さんも頭にきてしまって、三月の末に辞表を出した。

 お母さんは、それから講師登録して講師でしばらく続けてたけど、あたしが高校いく直前に、それも辞めてしまった。

 子供心にも、どうなるんだろと思ったけど……どうにかなってるみたい。

 お父さんもお母さんも、万一のために、わりと貯金してたみたい。それと個人年金でなんとかなってるみたい。

 ついでに、あたしが生まれたのは、お父さんが43歳、お母さんが41歳のとき。二人とも歳よりは若く見える。

「明日香のことが生き甲斐」

 と言うけど、どうも夫婦そろって生来の楽天家みたい……と、言いながら、お父さんの鬱病はまだ完治してない。月一回の通院と眠剤が欠かせないでいる。

 

 時間にしたら、ほんの数秒の事なんだけど、お祖母ちゃんと対面して思ってしまった。

 

 でね、今日から学校で稽古が始まる。

 始まっちゃうよぉぉぉぉ……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保

 

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ライトノベルベスト『高安ファンタジー・3』

2021-12-11 06:29:27 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

高安ファンタジー・3(高安女子高生物語外伝) 




 連休明けの登校はうっとーしい。

 けど、今年は違う。

 なんちゅうても亮介のニイチャンと、また同じ電車に乗れる!

 しかし、連休癖が付いてるんで、五分だけ朝寝坊。チャッチャと着替えて、朝ご飯。牛乳が横っちょに入ってしもて咳き込んだ。胸の圧迫感が、ちょっと違う。

 そうや、今日は、あの開運ブラしてんねんや!

「いってきまーす」

 今日は、ピーカンの上天気やけど、六月下旬並の暑さ。で、チョッキは時間が無かったこともあってカバンの中。

 当然ブラが透けて見えるけど、ホームでも1/3ぐらいの子がそないしてる。まあ、このくらいはええやろ。

 あたりを気にしてたせいで、亮介先輩がいてる場所の隣りの列に立ってしもた。

 電車が来ると、どっと車両の中に。

 なんと亮介先輩が座って、隣の席を確保してくれてる。ラッキーや思て突進したら、ずうずうしいオバチャンが座ってしもた。

 そやけどええ、亮介先輩の真ん前に立てる!、

 うちらは、まだ電車の中で話が出来る程度の仲。連休に誘い合うこともなかったけど、その分話はたくさんある。

「……連休は、どないしてはったん?」

「ああ、ずっと家」

「ずっと?」

 もう、それやったら誘うてくれたら……と思たけど、うちらは、まだ、そんな仲やない。亮介先輩の目が一瞬あたしの胸に来たんを感じた。おお、開運ブラの効果が早くも……ハズイ半分嬉しい半分!

「おれ、今度クラブの地区発表会あるんで、ずっと練習してた」

「なんのクラブですか?」

「イリュ-ジョン部……あ、マジックのクラブ」

 そう言うと、ポケットからピンポン球出して、黙って見せてくれた。グッと握ってパッと開いたら四つに増えてた。

「ウワー!」

 こんな技があるとは知らんかった。

「そんな喜んでくれるんやったら、発表会見に来てくれる?」

「いくいく!」

 そこまで言うて気が付いた。亮介先輩の番号もなんにも知らん。

「せや、まだ番号の交換してなかったなあ」

「ほんまや!」

 ほんまは、もっと早く聞きたかったんやけど、どこかはばかられてた。それが向こうから来た。ラッキー!

――楽しみにしてますね――

――ありがとう――

――素直に喜んでくれる先輩好きですよ――

 ほんまは「好きです」だけがテーマやけど、そこまでの度胸はない。

 それでも、電車が俊徳道を過ぎてカーブにさしかかったときに今までにない胸の開放感を感じた。

――ありがとう……胸が――

 その返事のメッセで気が付いた。今のカーブで、胸がせり出して、なんとフロントホックが外れてしもた!

 ブラウス越しとはいえ、うちの胸は亮介先輩にご開帳してしもてる! 

 思わずカバンで胸を隠した。

「ふ、布施で降ります!」

 ドアが開くと、カバン抱えたままホームに降りた。亮介先輩も降りてくれた。

「ちょっとトイレ行ってきます」

「あ、トイレ、この階段の下!」

 女子トイレ目指して突進!

 で、すぐに戻ってきた。

「清掃中で入られへん!」

「ちょっと新聞読んでるフリして」

「え……?」

「ええから、早う」

 言われるままに渡された新聞をオッサンみたいに広げた。ほんなら亮介先輩が後ろに回った。
 
 うっとこの夏服は、ブラウスがスカート外に出せるようになってる。ブラウスの裾入れろ入れへんいう不毛なやりとりをせんでええという学校のアイデア。

 ほんの一瞬、後ろから亮介先輩の手が胸に触ったん感じた。

「もうええよ」

 新聞どけて、胸元を見るとホックがちゃんとはまってた。さすがマジック部!

「すごい……せやけど、ちょっと触った?」

「ピンポン球より大きいからな。さ、次の準急や。乗ろか」

 ちょっと赤い顔して亮介先輩が言うた。

 二人の距離は確実に縮まったようです……(^#0#^)

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