大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

上からグリコ 幸子のクリスマス

2021-12-24 19:35:55 | ライトノベルベスト

クリスマス短編小説


からグリコ 幸子のクリスマス

 


 久々の休みだ。

 この日を逃せば正月まで休みは取れなかっただろう。

 就職して初めて有給休暇をとったんだ。

 梅田でも有数の大型書店に勤めているわたし、公休日と指定されたシフト上の休み以外は休んだことがない。

 それにしてもクリスマス明けの戎橋が、こんなに冷えるとは思わなかった。

 ほんの十数メートル行けば心斎橋商店街のアーケード。

 あそこならかなり違っただろう。でも、この春に大洗から出てきたわたしは、大阪の地理には不案内で、ミナミと言えばここしか思い浮かばなかった。

 キタの梅田なら、いくらか知っている待ち合わせ場所はあったけど、職場の近くでは、誰の目につくか分からず、ここにした。

 戎橋。

 通称「ひっかけ橋」 

 ナンパ男が多いことで有名だけど、実際は橋の南に大型の交番もあって、見晴らしもいいので、アベックが待ち合わせにしていることも多い。しかし、それは冬という条件を外してのことだ。

 とにかく寒い……。

 他にも何人か橋の上で人待ち顔でいる者はいるんだけど、ざっと見て男の子が多い。

 高校生らしい一群が、さっきまで向かいにいたが、今は、その気配もない。みんな足早に橋の上を通り過ぎていく。


 ちょっとね、三人称的に思ってみよう。


 その方が、いろいろ凌げる。

 ……それから幸子は人並みに背を向け、川の方を向いている。

 変な男たちに声を掛けられないようにするためだ。
 
 幸子は、小林を待っている。

 正確には小林雄貴……大洗の高校時代、三年間同じクラスだった。

 中学も同じで、中学生のころから呼び名は「小林」だった。

 君を付けたり、下の名前で呼べば一気に距離が縮まる。それを恐れて、ずっと「小林」で通してきた。大洗は人口二万に満たない小さな町だ。好きになっても振られてもすぐに噂になる。だから、ずっと「小林」で通してきた。

 それでも気持ちは通じていると思っていた。大学にいくまでは……。

 幸子も小林も、大学は東京だった。

「大学は、どこ受けんの?」

「東京の大学……サチは?」

「わたしも東京……」

 そう言えば、受験する大学の名前ぐらい教えてくれると思った……でも、小林はなにも言わなかった。だから自分が受ける大学も言いそびれた。

 東京に行ってからはバカみたいに思えたけど、幸子は小林の番号も知らなかった。

 ハンパに中学時代からの知り合いなので聞きそびれた。

 聞けば一歩踏み出してしまうようでできない。

 でも、もう卒業なんだから聞けばよかった。

 でも聞いて一歩踏み出せば、当然答えが返ってくる。

 NOと言われるのが……そう言われて傷つくのが、傷ついた自分を見られるのが嫌で、聞くことができなかった。


 東京に行ってから、風の便りに小林が防衛大学に入ったことを知った。


 ああ、言えないはずだ……と思った。震災のあとは自衛隊に対する認識も少し変わったけど、狭い町で、当時は、まだ完全な市民権を得た言葉ではなかったよ。

 現に高校の社会科の先生達は揃って、いわゆる市民派。中には正式な党員もいるというウワサだった。

 幸子はS大学の英文科に進んだ。ルイスキャロルに凝って卒論もイギリス児童文学だった。在学中にアメリカにもイギリスへも行った。

 だけど根っからの人見知り……というほどでもなかったけど、人間関係がヘタクソで、東京で知り合った男も何人かいたけど、そのヘタクソが災いして、恋人はおろか友だちと呼べる相手にも恵まれなかった。

 それに、S大の英文科を出ていながら、第一希望の商社を落とされ、大型とはいえ書店の店員になったことを妹の沙也加などは正直にがっかりしていた。

「やっぱ、大洗じゃ、しかたないか……」

 病院のベッドで一年近く過ごしている妹に言われたのはコタエタ。

 それが表情に出たんだろう。

「せめて、カッコイイ恋人でもつくるんだよ!」

 生意気な顔で言われ、正直者のネガティブ幸子は、あいまいに苦笑するしかなかった。

 小林と再会したのは、彼が店の客として来たところだった。

「あ、ちょっとすみません」

 珍しい標準語が、在庫点検している背中にかけられた。

「あ、どうぞ……」

「どうも…………あ、幸子じゃないか!?」

「あ……こ・ば・や・し」

 閉店の時間が近く、時間を決めて、近くの喫茶店で待ち合わせた。

 さすがにスマホの番号交換なんかは簡単にできたけど、会うことがなかなか出来なかった。

 幸子は基本的には土日の休みはほとんどない。逆に小林は土日が基本的に休みだったが、配属された部隊が防衛費の削減やら、人員不足などで、新品三尉はなかなか休みもとれなかった。
 
 小林は、幸子に本の注文というカタチで付き合ってくれた。

 月に一度注文をした本を受け取るということで会いにきてくれた。そして三度目になる先月小林は踏み込んできた。

「いっしょにメシでも食おうか?」

「え……あ、うん」

 で、この戎橋に二十分前から立っている。

 別に小林が遅刻しているわけではない。幸子が二十五分も早く着いてしまったのだ。だからスマホで「早く来い」とメールを打つこともできないでいる。

 そんな幸子を、グリコが見下ろしている。

 陽気に両手を挙げている姿は、幸子を励ましているように見えた……最初は。二十分たった今は、なんだかオチャラケタ吉本のタレントにイジラレているようだった。

―― 上からグリ~コ サディスティックなやつめ♪ ――

 だいぶ前のヒット曲が替え歌になって浮かんでくる。

 センスの悪さに、自分で苦笑する。実際テレビの取材で吉本のタレントが書店に来たことがあった。店のスタッフは陽気に調子をあわせて「そんなアホな」とかカマしていたが、とても幸子にはできなかった。

 ついさっきも、アメリカの東部訛りの英語が聞こえた。

 アメリカ人が道に迷ったようだ。どうやら上方芸能博物館に行きたがっているようだった。「What can I do for you?」と喉まで言葉が出たが、自分自身、上方芸能博物館を知らない。当然、そこらへんの日本人に声をかけなければならないが、その億劫さが先に立って声をかけられなかった。

「バンザイやな、ネエチャン」

 グリコにそう言われたような気がした。

「What can I do for you?」

 いきなり真横で声がした。

 いつからいるんだろう。白ヒゲの外人のおじいさんが、幸子の横で同じように橋の欄干に手を置いて話しかけてきた。

「…………」

 幸子は固まってしまった。

「驚かしちゃったね。キミは英語のほうがフランクに話せるような気がしたんでね」

 幸子は、さらに驚いた。おじいさんの口は英語の発音のカタチをしているけど、聞こえてくるのは日本語。まるで、映画の吹き替えを見ているようだ。

「キミは鋭いね。口の動きが分かるんだ。翻訳機能を使ってるんで、キミには日本語に聞こえている」

「失礼ですけど、あなたはいったい……」

「ついさっき、仕事が終わったところでね……あ、わたしはニコラス。よろしく」

 おじいさんは機嫌よく右手を差し出してきて、自然な握手になった。

「わたし幸子です。杉本幸子」

「幸子……いい名前だ。ハッピーキッドって意味だね」

「あんまりハッピーには縁がありませんけど」

「いいや、もうハッピーの入り口にいるよ……」

「……なんだか温かい」

「ね、そうだろう?」

「おじいさん……」

「そう、キミの頭に一瞬ひらめいた……それだよ、わたしは」

「サンタクロ-ス……!?」

「……の一人。わたしは西日本担当でね。東日本担当のサンタと待ち合わせてるんだよ」

「ほんとうに?」

「ああ、こうやって、わたしの姿が見える人間はそうはいない……おっと、川のほうを見て。他の人間には、わたしの姿は見えない。顔をつきあわせて話したら変な子だと思われるよ」

 たしかに、二三人が幸子のことを変な目で見ていった。

「あの……ほんとにプレゼントとか配ってまわるんですか?」

「こんな風にやるんだよ……」

 グリコの両手の上に大きなモニターが現れた。

 モニターには無数の名前が現れては、スクロールされていく。よく見ると、サンタのおじいさんがスマホの画面を操作するように指を動かしている。

「これで、管理しているんだ……いろんな条件を入力して、親やそれに代わる人間やNPO、そういうのにプレゼントを子どもにやりたい気持ちにさせるんだ」

「世界中ですか?」

「一応ね……でも、サンタも万能じゃない。行き届かないところがどうしても出てくる。ほら、あの薄いグレーで出てくる子は間に合わなかった……ほら、これなんかアジアのある国だけど、90%以上の子がグレーだ」

「あ、消えていく名前がある……」

「いま、命を終えた子たちだよ……」

 痛ましくて見ていられないのだろう、サンタは、すぐに日本にもどした。

 さすがに日本のはグレーは少ない、ほとんどの名前が青になっていた。ところどころ違う色がある。

「あの緑色はなんですか?」

「ああ、あれはモノじゃなくて、目には見えないプレゼントをもらった子たちだよ」

「目に見えない……?」

「ああ、家族そろっての団欒(だんらん)や旅行。進学なんてのもある」

「……わたしも、それもらったんじゃないかしら。親が東京の大学行くのを賛成してくれたのが、クリスマスの夜だったんです」

「ああ、多分、東のサンタの仕事だろうね……2008年……大洗、SACHIKO SUGIMOTO これだね」

「でも、大洗みたいな田舎にも、ちゃんと来てくれるんですね」

「やりかたは色々……ほう、東日本は、こんなことをやったんだ」

 大洗――GIRLS und PANZER モニターには、そんな見覚えのある文字がうかんでいた。

「あれって、コミックですよね、略称『ガルパン』うちの店でも扱ってる……そうだ、大洗が舞台になってるんだ!」

「そう、アイデア賞だね。これで町おこしのイベントにもなったしね」

 幸子は、妹が送ってくれたメールを思い出した。サンタは、さらにスクロ-ルを続ける。

「すごい数ですね」

「ああ、取りこぼしがないようにチェックするのが大変でね……」

「でもガルパンなんかだったら、大人にもプレゼントになりますね」

「でも、結果的に子供たちが喜ぶことならね……」

 サンタは、自分の担当の西日本を出した。

「お、一つ取り残していた。わたしとしたことが!」

「あ、あのピンク色ですか?」

「うん、これは東西にまたがる特殊なケースで、モニターに出るのが遅れたんだな。この子をガッカリはさせられない」

 サンタは、クリックするように人差し指を動かした。

 名前を読もうとしたら消えてしまった。

「あ……」

 そう思ったら、サンタのおじいさんの姿も消えてしまった。そして、頭をコツンとされた。


 振り返ると小林が、右手をグーにしたまま立っている。


「なにボンヤリしてんだ、赤い顔して」

 幸子は、両手で自分のホッペを隠した。

「そういう仕草は昔のまんまだよな」

「もう……」

「ごめんな、少し遅れた」

「そんなことないよ、時間ぴったり」

「俺たち自衛隊は五分前集合が当たり前。待ったか?」

「う、うん。ちょびっとだけ」

「じゃ、蟹でも食いに行くか」

「アンコウ鍋がいい」

「そうだな、古里の味だな」

 小林は、スマホでアンコウ鍋の食べられる店を検索した。

「目標発見。行くぞ!」

「うん、雄貴!」

「……初めて下の名前で呼んだな」

「え……あ、ほんと」

 わたしは一歩踏み出せた。あのサンタのおじいさんのピンクは、わたし……つまり妹の沙也加のじゃないかと思ったのは、明くる年雄貴から指輪をもらったことを妹に伝えたときだった。

「お姉ちゃん、おめでとう!」
 
 そういえば、あの時、二人を上からグリコが見送ってくれていたような気がした……。 

 

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銀河太平記・085『パチパチに関する恵の新発想』

2021-12-24 15:36:44 | 小説4

・085

『パチパチに関する恵の新発想』 本多兵二    

 

 

 人とロボットのちがいは魂があるかどうか。

 魂はソウルともゴーストとも呼ばれる。

 四半世紀前の満漢戦争までは、脳みそがあるかどうかが基準だった。

 優れたCPは型(パターン)として人間の思考をコピーすることはできるが、それはただのパターンでしかなく、パターンから外れて思考や行動がとれない。まあ、よくプログラムされたオートマタに過ぎない。

 それでも、情緒的リベラリストたちは『人とロボットを平等に扱うべきだ』と主張していた。

 そのリベラリストの主張が通ったのは、皮肉にもリベラリストが忌み嫌う軍隊だった。

 戦闘を担う兵士はロボットで十分だったが、指揮官は人間でないと、非常に高い確率で敗北する。

 理由は簡単で、パターンを読まれてしまうとパターンに対する対策が講じられて確実に裏をかかれる。

 だから、満漢戦争までは、指揮は必ず人間が担った。

 人間とロボットの割合は国によって開きがある。

 世界的にロボット化は2/3が限度だと言われていたが、日本などミリタリーアレルギーの強い国だと10%程度しか人間がいなかった。

 

 しかし、僕が生まれる前に決着を見ていた満漢戦争で、児玉元帥(当時は少将)が戦闘中に瀕死の重傷を負い、一か八かでロボットにPI(パーフェクトインストール)させて戦闘指揮を継続して日本軍を勝利に導いた。

 なんと98%も戦力を喪失したうえでの勝利で、人類の戦史史上最大の劣勢からの挽回だった。

 世界は、日本海大海戦、真珠湾攻撃に並ぶ奇跡の戦闘だという位置づけになっている。

 PI後の児玉元帥は100%の機械人間で、それまでの法的な区分では児玉元帥ではなく児玉元帥のアビリティーをコピーしたロボットに過ぎない。

 しかし、ロボットに戦争指揮はできないし、勝利などあり得ない。

 世界は、一瞬で100%の機械人間を人間と認めた。

 まして、PIしたロボットは敷島博士が渾身の技術と想いで作った美少女ロボットのJQだ。

 

 それ以来、世界はロボットに人権を認めるようになった。

 

 先日のA鉱区の落盤事故では人間にもロボットにも犠牲者が出た。

 人間の犠牲者は義体化率にかかわらず火葬にされ、ロボットは修復不能なものを除いて分解されて予備パーツのストックにされた。

 むろん本人が「人間だ」と言っている者が居れば火葬にするのだが、そういう者はいなかった。

 それほど、この西ノ島では人とロボットの区別が希薄だったのだ。

「親鸞聖人でも『わたしが死んだら魚の餌にしてくれ』とおっしゃっていました」

 坊主だった社員が、読経の後に微笑んだので、作業はわだかまりを持つことなく進んでった。

「おまえは聖人だ! ぜひ、俺の師になってくれ!」

 ナバホ村の村長などは一大興奮を発したが「偉いのは阿弥陀様と親鸞聖人です(^_^;)」と頭を掻いて沙汰止みになった。

 

「よし、これでみんなと一緒に宴会に出られるよ!」

 

 三体のパチパチ(ニッパチ イッパチ サンパチ)の前には若干のサイズの違いはあるが少年の体格をしたロボットが立っている。

「ほら、入れ替わってみ。制御機器が変わるだけだから、怖くないよ」

 恵が手を叩いて急かせる。

 パチパチたちは、少々戸惑ってはいたが、ニッパチが『じゃ、せーので!』と言って、『お、おう!』とイッパチとサンパチが応えて、一斉に入れ替わった。

 ブン

 小さな電子音がして、三体のパチパチの稼働ランプが休止を示す赤に変わり、三体のオートマタの目に光が宿った」

「どう、違和感とかある?」

『お……いいかも!』

『珍妙でござる!』

『革命的アル!』

「スクラップ集めて作ったから、ちょっとチグハグかもしれないけど、これで人間と同じ機能よ。時代劇に出てくる電話の子機と親機みたいなもんだから、オフの時なんかは子機になればいっしょに飲めるわよ」

『『『おお!』』』

 三人揃って挙げた手だけがリアルハンド。

 あとはフランケンシュタインみたいなんだが、三人とも喜んでいる。

「手だけリアルだと、中には引く奴もいたからね」

 恵はよく見ている。

 西ノ島に見かけで人の値打ちを判断する者などいないけど、見た目というのは存外大事だ。

 チルルが今わの際に母との思い出を想起したのは、ニッパチのリアルハンドに母の優しさを思い出したからだ。

 僕たちも、あの事故から学んだのだ。

 パチパチは可変作業機械だったので、いかに変形させるかということに主眼が置かれていたが、内臓CPを切り替えて体ごと変えてしまうという発想は新しいのかもしれない。

 その夜、さっそくサンパチたちは食堂の給仕サービスに出てみた。

「え、おまえら?」

「パチパチなのか?」

「いいぞ、かわいい!」

 好評だった。

 パチパチたちも楽しそうだ。

 それまでは、でかい図体を畳むようにしても人の三人分ほどのスペースが要った。

「よし、ツギハギは可哀想だから、補給部から必要なパーツをもらってカスタマイズすればいいよ」

 ヒムロ社長の許可が下りて、先行きの楽しみが増えた。

 

 西ノ島は落盤事故のショックから少しづつ立ち直り始めた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長 
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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明神男坂のぼりたい20〔明日香の道草〕

2021-12-24 10:55:32 | 小説6

20〔明日香の道草〕  


        

 

 放課後、直ぐに帰れるのは嬉しい!

 今までは部活で時間とられて、冬至前後の今日この頃、学校出るのは日が落ちてからだった。

 それが、明るいうちに出られる!

 なんという開放感!

 混みまくりの昇降口も、登校時はあんなにウットウシイのに、帰りは嬉しい!

 嬉しいついでに外堀通りも超えてしまって水道橋駅。

 電車組の子は、ここから電車に乗る。

 だから、その流れに乗って、そのまま電車に乗ってしまう。

 これはスイカのせいだよ。

 スイカがなければ、わざわざ切符を買わなきゃいけなくって、その時の気分は券売機で切符買ってまでではない。

 もし、切符を買わなきゃならないんだったら、お財布を開けた時点で断念してる。

 バイトもやってない女子高生のお財布は野口君が二人の他は、コインが入ってるだけ。

 改札にスイカを掲げると残額は3600円。

 こないだ石神井に行くときにチャージした残り。石神井に行くって言ったら、お父さん樋口一葉をくれたからね。

 まあ、片道1800円のトリップはできるわけさ。

 ラッキー!

 乗った車両は急行仕立てで、二人がけの前向きシート。進行方向に向かって座ると、ちょっとした旅行気分。

 もちろん御茶ノ水で降りるわけもなく、そのまま東へ電車は進む。

 空で飛行機が止まってる……ように見える。動いてるものから、動いてるもの見ると止まってるように見える。物理で習ったナンチャラいう現象で、田舎の見通しのいい田んぼの中の交差点で交通事故が起こるのは、このせいらしい。しかし、ジェット機が空中で止まってるのは、なんともシュール。

 アキバで、ドカドカと人が乗ってくる。

 オケツの大きいオバチャンが「ごめん」も言わずに横に座ってきた。

 ウットウシイ。

 オバチャンの温もりを肌で感じる。まあ、オッサンが座るよりはいいけど……「ごめん」の一言があったら、お互い様と思えて、温もりも、こんなにキショイとは思わないんけどなあ。このオバチャンはきっと大阪出身にちがいない……とっさに感じたのは箱根から西に行ったのは修学旅行だけというわたしの偏見。大阪の人、ごめんなさい。

 浅草橋で、また人が乗ってくる。乗車率120%くらい? ちょっと暑苦しい。

 ガタンゴトン ガタンゴトン

 電車は両国橋を渡る。

 両国橋って、武蔵と下総を跨ってるから両国橋……シャクジイ(石神井のお祖父ちゃん)が言ってた。

 なんか国境を超えた感じ。

 国技館とかも見えてきて、ちょっとトリップからトラベルの気分。

 トラベルはトラブルに通じる。

 この先乗っていても、あまり目新しいものは無い。

 それで、両国駅で下りて上りに乗り換え。

 アキバでお散歩するにはお財布が寂しいのでお茶の水で下りて……家に帰るのも癪なので、反対方向の南へ。

 

 そうだ、図書館があった!

 

 区の図書館の分館で『神田まちかど図書館』があるのを思い出す。

 子どものころ、お父さんと散歩というと、このコースだった。

 見かけはでっかいビルディングなんで、初めての時はビックリしたけど千代田小学校・千代田幼稚園・教育研究所とかの複合施設の一階部分の、そのまた半分くらい。

 一階の新刊書コーナー…………なんかないかなあ。

 え、うそ、あった!

「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」

 この本は、中味はいいらしいんだけど、表紙が今イチ。それにラノベとしては高すぎる1200円プラス税。一回ジュンク堂で見たけど、以上の二つの理由でやめた。他にも二冊借りよう思ったけど、読まずに返す確率高いから、これだけにしとく。

 失いかけてた図書館ルートの散歩道が復活。
 
 図書館を出て、道草もここまで。真っ直ぐ我が家を目指す。

 湯島の聖堂の角を曲がって見てはいけない後姿を発見! 

――  関根先輩!  ――

 なんで関根先輩……それも、美保先輩と仲良しそうに。

 気がついたら、制服のまま自分のベッドでひっくり返っていた。涙が一筋横に流れていく。

 しょうもない道草になってしまった。

 あれ?

 明神さまに挨拶した記憶が無い。

 明日、二日分しとこう……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

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ライトノベルベスト【大西教授のリケジョへの献身・1】

2021-12-24 07:08:09 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト 

【大西教授のリケジョへの献身・1】   



 大西教授は今年定年退官である。

 助手時代から営々三十四年間、幕下大学の生物学研究室で地味に勤め上げた学究の人である。

 ただ、人間関係がヘタクソで、かつ謙譲の精神の体現者……と言えば聞こえはいいが、研究成果を人にパクられても文句一つ言わない。また、人が実験に困っていたりすると、まるで我がことのように熱心に協力。時に教授の力により研究成果が上がっても、人はめったに大西教授に感謝せず、また教授も、それでいいと思っていた。

「これで幕下大学が世に認められ、生物学や医療科学が進歩するのなら、それでいい」

 そう思ってニコニコしていた。

 しかし、そんな人のいい教授であるのに家庭的にも恵まれることがなかった。

 

 大西教授は晩婚であった。

 

 四十を超えた準教授のとき、当時、まだ健在であった母親が心配し、お見合いパーティーに連れていった。

 当時は明石家さんまやビートたけしが全盛の時代で、トレンドは、面白い男だった。芸人さんたちがとんでもない美人を獲得したりしていて、真面目だけで風采の上がらない男は見向きもされない。

 口下手な大西準教授は、一人片隅でウーロン茶を飲んでいるしかなかった。母親と世話をしてくれた母の知人のメンツを立てれば十分と思い、今回の見合いで、母が諦めてくれればと願っていた。

 大丈夫、運動音痴で非力な僕だけど、大した病気もしなかった。死ぬまで母さんの面倒はみられるから。

 そう思うことで、穏やかに充足する准教授であった。

 そんな大西準教授に目を付けたのが、今のカミサンである。

 カミサンは、そのお見合いパーティーでは一番華のある美人で、大西準教授よりも一回りも年下であった。

 カミサンは、準教授という肩書きに惚れた。そして、いいカモであると思ったのだ。

 男関係が派手だったカミサンは当時妊娠していたが、父親が誰か分からなかった。可能性のある男五人に「あんたの子よ」と迫ったが、偶然五人とも同じ血液型で、当時の技術では、誰が子どもの父親であるか絞り込めなかった。

 で、カミサンは、高学歴でハイソな男しか集まらない、このお見合いパーティーに参加したのだ。

 しかし、情報が流れてしまっていた。

 五人の男のだれか、ひょっとして何人かがリークしていた。で、主だった男性参加者は、その事実を知っており、最初から彼女を敬遠していた。

 そして、大西準教授は、カミサンと結婚することになってしまった。

 知り合って、半月で肉体関係……下戸の大西準教授は、目が覚めた時の状況で、そう思いこまされていた。

 そして、お腹が目立たないうちにということで、一カ月で挙式。七カ月後には、早産にしては大きな女の子が生まれた。人のいい大西準教授は、すっかり自分の娘だと信じて可愛がった。

 娘とは、小学校の高学年までは、うまくいっていた。

 

 父子ともに実の親子だと、思いこんでいたからだ。

 ところが、娘が六年生の時に交通事故に遭い、詳しい精密な血液型が分かった。

 え、そんな……

 大西準教授は、初めてハメられていたことに気が付いた。

 愕然とした大西準教授は一瞬人間不信に落ち込んだが、十二年間娘に注いだ愛情は不信を凌駕した。

 そうだ、娘に罪は無い。

 そしてカミサンにものっぴきならない事情だったんだろう……そう理解し、何事もないように家族三人の生活を続けた。

 

 これで万事うまくいくはずであった。

 ところが、カミサンは、あろうことか、そんな亭主に苛立ってきた。

 元来は良心の呵責であるべきだったが、いら立ちに転訛させてしまったのだ。

 大西準教授は、その性格が災いして五十を超えても教授になれていなかった。カミサンは、それを亭主の不甲斐無さのせいだと思い、事あるごとに当たり散らし、ある日、酒の勢いで娘に真実を言ってしまった。

「あんたねえ、お父さんの子じゃないのよ」

「え……マジ?」

「マジ」

「…………」

 娘は、それから絵に描いたような不良になってしまい、大西準教授は、所轄の警察と仲良くなるほどの不幸に見舞われた。

 大西準教授は、仕事に没頭することで気を紛らわせた。そして、彼によって業績をあげられた後輩たちが大学に働きかけ、やっと一昨年教授になれた。

 カミサンと娘は、退官されて収入が減ることを恐れ、特認教授として大学に残ることを勧めた。

 まあ、研究さえ続けられれば……それもありか。

 そんなとき、研究室の若きリケジョである物部瑠璃が、スタッフ細胞の開発に成功した……。

 つづく

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