大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・266『夜中に目が覚めて……』

2021-12-19 14:12:39 | ノベル

・266

『夜中に目が覚めて……』さくら     

 

 

 さっぶううううううう!

 廊下に出たとたんに体の5%くらい縮んでしまう。そんなことがリアルに思えるくらいに寒い!

 

 この家には95%満足してる。

 お寺やさかいに、敷地は300坪を超えるし、本堂はもちろん、家族が済む住居部分も、お屋敷かいうくらいに広い。

 その広い住居部分の二階に、うちら女子の部屋がある。

 詩(ことは)ちゃん  あたし(さくら)と留美ちゃん

 他にも空き部屋があるねんけど、留美ちゃんは「さくらと同室がいい」というので、八畳の部屋にベッドと机を二つずつ置いて共同生活。

 そんな遠慮せんでもぉ。

 お祖父ちゃんもおっちゃんも「もし遠慮してんねんやったら、いつでも留美ちゃん専用の部屋用意するで」と言ってくれてる。

 せやけど、半年いっしょに居てて、よう分かった。

 留美ちゃんは、ほんまに、うちと同室なんがええねんや(^▽^)。

 

 で、廊下に出て、あたしも思った。

 

 二人で居てると、ほんまに温い。

 ときどき、詩ちゃんの部屋にも行くんやけど、同じ間取りやのに詩ちゃんの部屋は、ちょびっと寒い。

 やっぱり、二人で居てるのんは、それだけで温いんや。

 

 で、いま5%ほど縮む感じで寒いのは、トイレに行くため。

 部屋に不満はないねんけど、トイレが階段下りた一階にしかないのんは、数少ない不満。

 夜中にトイレにいくことは、めったにないねんけど、夕べは詩ちゃんと三人でパジャマパーティーみたいになってしもて、ちょっとあれこれ飲み過ぎた。

 それでも、留美ちゃんも詩ちゃんもトイレに起きた気配が無い。

 やっぱり、女子のたしなみやねんやろね、二人ともえらい。

 将来就職して稼げるようになったら、二階にトイレ作ろ!

 

 そう、決心して『ありのままの~♪』とアナ雪の歌を口ずさんで用を足す。

 

 そのまま『ありのままの~(^^♪』と開放感にしたって、お茶を飲むためにリビングへ……

「あれ?」

 テイ兄ちゃんが、テーブルに湯呑置いて、タブレット見てる。

「どないしたん?」

「ああ……」

 生返事なんで、横に座ってタブレットを覗き込む。

 

 え、なに?

 

 ネットのニュースに『神田沙也加転落死』のニュース。

 中国の新聞みたいに漢字ばっかりの見出しなんで、アホのうちは、理解すんのに数秒かかった。

「え、アナが死んだ!?」

「声大きい!」

「せやかて!」

 たった今まで『ありのままの~』を口ずさんでたんで、ちょービックリ!

「事故か…………か分からんけどな、ちょっとショックやなあ」

 すると、階段の方から人の気配。

 留美ちゃんと詩ちゃんも、パジャマの上にカーディガンとかひっかけて降りて来た。

「ほら、起こしてしもたやろがぁ」

「ああ、かんにん(^_^;)」

「ううん、おトイレにいきたくて……」

「え、神田沙也加……亡くなったの!?」

 三人で、テイ兄ちゃんごとタブレットを取り囲む。

 さすがに、二人とも、うちみたいに声はたてへんけどビックリしてる。

 

 一夜明けて、日曜の朝。

 みんな、朝ごはん食べ終わってもリビングに居続けでテレビのニュースを見てる。

 そして。

 今朝のテイ兄ちゃんのお経は、いつもよりも長かった。

 

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明神男坂のぼりたい15〔鈴木明日香の絵〕

2021-12-19 08:10:22 | 小説6

15〔鈴木明日香の絵〕    

 

        


 ―― 君の絵が描けた ――

 

 うそ!?

 

 トースト食べながらメールをチェックしていたら、馬場先輩のメッセが入ってたのでビックリした。

 ここんとこ、毎朝十五分だけ絵のモデルをやりに美術室に足を運んでる。

 まだ一週間ほどで、昨日の出来は八分ぐらいだったから、完成は来週ぐらいかと思っていたので、ビックリした。

 

「うわー、これがわたしですか!?」

 イーゼルのキャンパスには、自分のような自分でないような女の子が息づいていた。


「昨日すごくいい表情してたんで、昨日は残って一気に仕上げたんだ。タイトルも決まった」

「なんてタイトルですか?」

「『オーシッ!』って付けた」

「『オーシ!』……ですか?」

「いや、『オーシッ!』 ほら、これからなんかやるぞって時に拳握って力入れるだろ」

「あ……ああ!」

 拳握って思い出した、無意識にやってるよ。

「うん。もともと明日香は、なにか求めてるような顔をしていた、野性的って言っていいかな。動物園に入れられたばかりの野生動物みたいだった」


 あたしは、高崎山の猿を想像して、打ち消した。

 小学校の頃のあだ名は、そのものズバリ「猿」だった(^_^;)。

 ジャングルジムやらウンテイやら、とにかく上れる高いとこを見つけては挑戦してた。


 最後は四年のときに、遠足で木に上って、校長先生にどえらく怒られた。


「ハハ、そんなことしてたんだ。でも……いや、それと通じるかもしれないなあ。木登りは、それ以来やってないだろ?」

「はい、親まで呼ばれて怒られましたから。それに木には興味無くなったし」

「でも、なにかしたくて、ウズウズしてるんだ。そういうとこが明日香の魅力だ。こないだまでは、それが何なのか分からない不安やいら立ちみたいなものが見えたけど。昨日はスッキリした憧れの顔になってた。それまでは『渇望』ってタイトル考えていた」

 思い出した。

 一昨日の帰り道、女優の梅田はるかさんに会って、東亜学園まで案内したことを。

 あたしは、梅田はるかに憧れたんだ。それが、そのまま残った気持ちで、昨日はモデルになった。

「あたし、今でも、こんな顔してます?」

「う~ん……消えかけだけど、まだ残ってるよ」

「消えかけ……?」

「心配しなくても、この憧れは明日香の心の中に潜ってるよ。また、なんかのきっかけで飛び出してくるかもしれない」

「うん。描いてもらって良かったです。あたしの中に、こんな気持ちが残ってるのが再発見できました!」

「オレもそうさ。増田って子も良かったけど……」

「けど、なんですか?」

「あの子のは自信なんだ。それも珍しい部類だけどね。満ち足りた顔より、なにか届かないものに憧れている顔の方がいいと、今は思う」

 理屈から言うと、増田さんの方が自信タップリでいいけど、馬場さんの言い方のせいか、あたしの方がグッドに思えた。

「これ、卒業式の時に明日香にあげるよ」

「え、ほんとですか!?」

「ああ、絵の具が完全に乾くのにそれくらい時間がかかるし、この絵を描いたモチベーションで次のモチーフ捜したいんだ」

 フワア~(#^0^#)

 あたしは、高校に入って、一番幸せな気持ちになれた。

 梅田はるかといい、馬場先輩といい、短期間に素敵な人に巡り会えた。

 この気分は、放課後まで残って、気持ちを小学四年に戻らせてしまった。

 

「こらあ、アスカ! パンツ丸見えにして、どこ上っとるんじゃあ!」

「あ、ちゃんとミセパン穿いてますから」
 
 稽古前になにかやりたくなってグラウンドへ。

 で、十年ぶりに気に登りたくなった!

 でも、うちのグラウンドはコンクリート。

 頭を巡らせると玄関外の楠が思い浮かんだ。

 よし!

 初めて男坂を見上げた時のような高揚感!

 で……

「もうすぐ本番だって言うのに、怪我したらどうすんの!」

 上ったところを顧問の東風先生に怒られてしまった。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

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ライトノベルベスト『メゾン ナナソ・3』

2021-12-19 06:02:58 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『メゾン ナナソ・3』   


       

 今日は迷わずにメゾンナナソにたどりつけた。

 でも、管理人の奈菜さんの姿は見当たらなかった。

「奈菜さんなら、出版社だよ」

 管理人室の前で「どうしよう」と思っていると、五十代半ばのごま塩頭のオジサンが声を掛けてきた。

「まあ、おっつけ帰ってくるだろう。よかったら俺の部屋で待ってなよ」

 けして愛想のいい人ではなかったけど、この人の部屋で待っていれば確実に奈菜さんに会えるような気がして、待たせてもらうことにした。

「俺、中村吾一っていうんだ。つまらんオッサンだけど、まあ、奈菜さんが帰るまでだ。今お茶淹れるから」

「あ、おかまいなく……」

 おかまいなくと首を回しただけで部屋の様子が知れる。

 小ぶりな洋服ダンスに座卓、あとはキッチンに小型の冷蔵庫があるくらいのもので、あっさりしている。

「まあ、何もないけど煎餅とお茶だ。酒を出すにはお天道様がまだ高いからな」

 そう言うと、中村さんは、蒸らした急須のお茶を注いだ。

 淹れ方が、男のボクが見ても見事だ。二つの湯呑に交互に注ぎ、瞬間急須を持ち上げるようにして、お茶の最後のエキスを落とした。

 そして、座卓に置いた湯呑と塩煎餅の配置が、そのまま生物画になりそうなほどに、それぞれの位置を占めている。

「並べ方が、その……見事ですね」

「ハハ、多少はね。なんせ、この通りの男やもめ。せめて整理整頓ぐらいはね……こういうのを色気を付けるっていうんだ」

「色気?」

「ああ、軍隊用語だけどね。きちんとやるだけじゃなくて、どこか最後はスマートでなきゃいけない。ハハ、カッコつけてもただのオッサンのくせだけどね」

 ゆっくり湯呑を口に持っていくと、長押に軍艦の写真が額縁に収まっているのに気付いた。

「あの船は?」

「雪風……俺が最後まで乗っていた駆逐艦だ」

「駆逐艦て、自衛隊の護衛艦みたいなのですか?」

「そうだな……この雪風は、戦争の初めから、ミッドウエー、大和の水上特攻まで、絶えず海軍の最前線にいた。その中で唯一無傷で終戦を迎えた艦だよ」

「ついてたんですね」

「ただの死にぞこないさ……戦後はしばらく復員船をやっていたけど、賠償で台湾に持っていかれた。そこで十何年働いたあとスクラップになった。返してくれって運動もやったんだけど……返ってきたのは舵輪だけだった。乗組員の大方は……人生のお釣りみたいに生きてる」

 どこかで、波の音が聞こえたような気がした。

「ほう、聞こえるのかい……今の若い奴には珍しい。奈菜さんが興味を持っただけのことはある」

 ボクは、密かに期待していたことを言われたようで、少しうろたえた。中村さんは、それを横顔で受け止めて微かに笑ったような気がした。

「中村さん!」

 ノックと同時に奈菜さんが入ってきた。

「珍しい、奈菜さんが、そんなに慌てて。宝くじでもあたったのかい?」

 奈菜さんが手にした紙切れを見て、中村さんが冷やかした。

「来たわよ、召集令状!」

「ほんとかい!?」

 中村さんが出て行ったあとの部屋は、波音がいっそう大きくなった。

 窓を開けると、遠く雪風が、南に向かって走り去っていくのが見えた……。

 

 戦争が終わったのって、たしか1945年だよな?

 

 時間の計算が合わない……でも、そんなことはどうでもいいくらい窓から見える海は爽やかだった。

『管理人室に寄ってってねぇ』 

 階下で奈菜さんの声。

「はい、お邪魔します」

 そう答えて振り返ると、今どき珍しい……なんて呼ぶんだろう上下に開く窓の外は、どこか昭和の匂いのする街が広がっていた。

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