大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・251『ノンコ戻って良いこと起こる』

2021-12-27 13:11:56 | 小説

魔法少女マヂカ・251

『ノンコ戻って良いこと起こる語り手:マヂカ     

 

 

 長門は史実よりも三時間早く横須賀に着いた。

 

 霧子を大連武闘会に参加させて優勝させるという遠回りな手段を取らざるを得なかったが、任務は成し遂げられた。

 英国巡洋艦の水兵に化けたノンコの回収を忘れていたが、ノンコはとっさに芝居を打った。

 長門追跡の為に、巡洋艦が増速した時に反動で転倒したということにしたのだ。

 頭を打って意識がもどらないので安静ということになり、巡洋艦は急きょ佐世保に回航されノンコの水兵を海軍病院に入院させようとした。

 担架に載せられたノンコは、ランチに乗り移る時に身を捩って海に転落。

 その後、いささかの苦労と言うかドラマがあって、二日後には原宿の高坂邸に戻ってきた。

 

「もう、大変やってんさかいにねえ!」

 

 激おこぷんぷん丸のノンコだったが、赤城から『長門の乗組員がニ十八人の被災者を救助しました!』という連絡を受けると、すっかり機嫌が戻った。

「史実では長門が救助した人はゼロなんだよ」

「え、そうなんや、手間暇かけた甲斐があったねえ(^▽^)/ 新聞とかに載ってるかなあ」

 まかないに行ってクマさんに新聞を見せてもらって、ノンコは固まってしまった。

「え? 十月三日!?」

 驚くのは無理もない。

 大連武闘会は八月の三十日で、演習中の長門に震災の連絡が入ったのは九月一日なのだ。

 そもそも、最初にやってきたのは大正十三年、震災の明くる年だった。

 それが、凌雲閣のドアから出て霧子と震災直後の東京を体験してからは、震災直後に戻っている。

 歴史の神さまが居るとしたら、関東大震災の影響が多すぎ、それでも修正したいところが気になって、われわれ令和の魔法少女を時を前後してまで動かさざるを得なかったんだろう。

 

 トントン

 

 霧子の部屋でノンコをオモチャにしていると、ドアがノックされた。

 あ、田中執事長……ノックの仕方で、人が分かるほどに、我々も、この時代に馴染んでしまった。

「なにかしら、執事長?」

 とうぜん霧子も分かってドアを開ける。

「おくつろぎのところ失礼します」

 執事長も当然の如く本題を切り出す。

「あら、なにか良いことかしらあ?」

 霧子が言うまでもなく、いつになく、田中執事長の目尻が下がっている。

「はい、良いことかどうかは、田中には分かりませんが、三時になりましたらご家族様、手すきの家人は舞踏室に集まるようにと、ご主人様のお申し付けでございます」

「ふふ、家の者全員を集めて、何を言う気かしら?」

「それでは、確かにお伝えしましたので、遅参なさいませんように。失礼いたします」

 バタム

 ドアが閉まると、霧子はドタドタと窓辺に寄ってレースのカーテン越しに外を覗いた。

「カーテン開けて見たらええのに」

「ダメよ! 霧子は高坂家では要注意人物だからね、カーテン越しでなきゃバレちゃう」

「で、なにか見えるの?」

「あなたたちも見てごらんよ!」

「「なになに……?」」

 霧子の部屋からは、玄関の車寄せから表門までが見渡せる。

 表門を入ったところには門番の詰所があり、その詰所の主である箕作請願巡査が使用人たちに囲まれて、顔を真っ赤にして頭を掻いている。

「あそこにクマさん!」

 ノンコが反対側の楠の下でオジオジしているクマさんを発見して、カーテンをめくってガラスに顔を付ける。

「あ、ダメ、ノンコ!」

 三人でガチャガチャしたものだから、クマさんに気取られてしまい、揃って窓の下に姿を隠した。

「これは、確実に……だね!」

 あとは言葉にしなくても、十七歳の女学生同士(え、マヂカは違うだろうって?)、ウフフと笑って分かってしまった。

 

「……ということで、請願巡査の箕作健人君と先任メイドの虎沢クマ君は、きたる明治節の日に華燭の典を上げることになったことを報告する」

 ウワア! パチパチパチパチ!

 歓声と拍手が舞踏室に鳴り響いた。

 なんと、屋敷の人間が全員集まっている。門番は知らせを受けた本署から署長本人が出向いて立ってくれているらしい。

 箕作巡査もクマさんも、みんなから愛されていることがよく分かる。

「本来ならば、この高坂尚孝が媒酌の任を務めたいのだが、田中執事長と春日メイド長のたっての頼みで、二人に譲ることとする。家の者も、そう心得て、式までの二人を見守ってやって欲しい!」

 バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!

 期せずして万歳三唱になって、舞踏室の窓ガラスもビリビリと震えるほどだ。

「う、嬉しい!」

「なんだ、霧子が泣くことないでしょ」

「だって、クマが、クマさんが結婚するんだよ、お父様がそれを宣言して、こんなに嬉しいことはないわよ!」

 クマさんもモミクチャになりながらも霧子に、これまた涙でクチャクチャの笑顔を向けている。

 震災からこっち、最大の喜びごとになった。

「ちょ、真智香」

「うん?」

 ノンコが天窓を指さす。

 一瞬、黒い影が見えてサッと姿を消した。

 魔法少女の直感で、その禍々しさを感じ取った。

「なにもいもないよ、ノンコの気のせい」

「え、あ、そっか、佐世保から帰ってきて、ちょっと疲れてるのんかもなあ(^_^;)」

 取りあえずは気のせいにしておいた……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい23〔佐渡君……〕

2021-12-27 08:19:11 | 小説6

23〔佐渡君……〕  

        


 今日は休日。

 何の休日?……建国記念の日。

 カレンダー見て分かった。英語で言うとインディペンスデー。昔観たテレビでそういうタイトルの映画やっていた。

 あたしの乏しい「知ってる英単語」のひとつ。

 建国記念というわりには、それらしい番組やってないなあ……そう思って新聞たたんだらお母さんのスマホが鳴った。

「お母さん、スマホに電話!」

 そう叫ぶと、お母さんが物干しから降りてきた。

 

 で、またお祖母ちゃんの病院へ行くハメになった……。

 

「病院の枕は安もので寝られやしない!」

 ババンツのわがままで、石神井のババンツ御用達の店で、新品の枕買って病院に行くことになった。

 今日は、一日グータラしてよって思たのに……。

 お母さんが一人で行く言ったんだけど、途中でどんなわがまま言ってくるか分からないので、あたしも付いていく。

 あたしがいっしょだとババンツは、あんまり無理言わないから……行っても、インフルエンザの影響で、会えるわけじゃない。ナースステーションに預けておしまい。それでも「明日香といっしょに行く」いうだけで、お祖母ちゃんのご機嫌はちがうらしい。

 商店街で枕買って、表通りで昼ご飯。回転寿司十二皿食べて「枕、食べてから買ったほうがよかったなあ」と、母子共々かさばる枕を恨めしげに見る。枕に罪はないんだけどね。

 西へ向かって歩き出すと、車の急ブレーキ、そんで人がぶつかる鈍い音!

 ドン!

「あ、佐渡君(S君のことです)!」

 佐渡君はボンネットに跳ね上げられていた。

 あろうことか車はバックして佐渡君を振り落とした!

 あたしは、夢中で写真を撮った。車は、そのまま国道の方に逃げていった!

 佐渡君は、ねずみ色のフリースにチノパンで転がっていた。まわりの人らはざわめいてたけど、だれも助けにいかない。

 昨日のことが蘇った。

 どこ行くともなくふらついてた佐渡君に、あたしは、声もかけられなかった。

 偽善者、自己嫌悪だった。

「佐渡君、しっかり! あたし、明日香、鈴木明日香!」

 気がついたら、駆け寄って声かけている。

「鈴木……オレ、跳ねられたのか?」

「うん、車逃げたけど、写真撮っといたから、直ぐに捕まる。どう、体動く?」

「……口と目しか動かねえ」

「明日香、救急車呼んだから、そこのオジサンが警察言ってくれたし」

 お母さんが、側まで寄ってくれた。

「お母さん、うち佐渡君に付いてるから。ごめん、お祖母ちゃんとこは一人で行って」

「うん、だけど救急車来るまでは、居るわ。あなた、佐渡君よね。お家の電話は?」

「おばさん、いいんだ。オカン忙しいし……ちょっとショックで動けないだけ……ちょっと横になってたら治る」

 佐渡君は、頑強に家のことは言わなかった。

 で、結局救急車には、あたしが乗った。

「なあ、鈴木。バチが当たったんだ。鈴木にもらった破魔矢、弟がオモチャにして折ってしまった。オレが大事に……」

「喋っちゃダメ、なんか打ってるみたいだよ」

「喋ってあげて。意識失ったら、危ない。返事が返ってこなくても、喋ってやって」

 救急隊員のオジサンが言うので、あたしは、喋り続けた。

「バチ当たったのはあたし。昨日……」

「知ってる。車に乗ってたなあ……」

「知ってたん!?」

「今のオレ、サイテーだ。声なんかかけなくていい……」

「佐渡君、あれから学校来るようになったじゃん。あたし、嬉しかった」

「嬉しかったのは……オレの……方…………」

「佐渡君……佐渡君! 佐渡君!」

 あたしは病院に着くまで佐渡君の名前を呼び続けた。

 返事は返ってこなかった……。

 病院で、三十分ほど待った。お医者さんが出てきた。

「佐渡君は!?」

「きみ、付いてきた友だちか?」

「はい、クラスメートです。商店街で、たまたま一緒だったんです」

「そうか……あんたは、もう帰りなさい」

「なんで!? 佐渡君は、佐渡君は、どうなったんですか!?」

「お母さんと連絡がついた。あの子のスマホから掛けたんだ」

「お母さん来るんですか?」

「あの子のことは、お母さんにしか言えないよ。それに……実は、きみには帰って欲しいって、お母さんが言うんだ」

「お母さんが……」

「うん、悪いけどな」

「そ、そうですか……」

 そう言われたら、しかたない…。

 あたしは泣きながら救急の出口に向う、看護師さんがついてきてくれる。

「跳ねた犯人は捕まったわ。あとで警察から事情聴取あるかもしれないけどね」

「あ、あたしの住所……」

「ここ来た時に、教えてくれたよ。警察の人にもちゃんと話してたじゃない」

 記憶が飛んでいた。全然覚えてない。

 あたしは、救急の出口で、しばらく立ちつくしていた。

 タクシーが来て、ケバイ女の人が降りてきた。直感で佐渡君のお母さんだと感じた。

「あ……」

 言いかけて、なんにも言えなかった。ケバイ顔の目が、何にも寄せ付けないほど怖くって、悲しさで一杯だったから。

 ヘタレだからじゃない、心の奥で「声かけちゃダメ」という声がしていたから……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト【大西教授のリケジョへの献身・4】

2021-12-27 06:16:14 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

【大西教授のリケジョへの献身・4】   




 

 下着姿の明里に驚いたのは、若い父だった……。

「き、キミは……?」

「お、お父さ……?」

「え……?」

 どうやら、若い父は記憶を失ってしまっているようだった。

「信じられないでしょうけど、あたし未来から来たんです」

「未来から……?」

 大学のカフェテリアで、二人は話し合った。

 というか、明里がほとんど喋り、大西は聞き役だった。

 

 父である大西は、頭から否定をすることもせずに、静かに聞いてくれた。その純朴さに心を打たれながら、明里は事情を説明し、決定打を二つ見せようとしたとき、大西が感嘆の声を上げた。

「ボクの娘なのか、明里クンは」

「あ、血は繋がってないけど……信じてくれる前に、これ見てもらえます」

 明里は、研究室でコピーした瑠璃のスタッフ細胞の研究資料を大西に見せた。

「すごい……これはコロンブスの玉子だ。再生医療なんてSFの世界の話かと思っていたけど、これなら、可能だ……ただし、アメリカのスーパーコンピューターでもなければ無理だけどね」

「大丈夫かも。あたし、こんなの持ってきたの」

 明里は、タブレットを見せた。

「これは……?」

「どこまで使えるかは分からないけど、再生医療に関するデータは、出来る限り入れてきた。ちっこいけど、この時代のスパコン並の能力があるわ」

 明里が資料をスクロールさせると、大西は目を輝かせた。

「これで、お父さん、ノーベル賞とれるわよ」

「だめだよ。これは、物部瑠璃さんの研究なんだろ。横取りはできないよ」

「硬いのね、お父さん」

「そのお父さんてのは止めてくれないかなあ、実感無いし、人が聞いたら変に思うよ」

「そうだ、瑠璃さんに知らせなくっちゃ」

 記憶が無くなる恐れがある。そうなる前に伝えておかなければならないと思った。

「ごめんなさい。瑠璃さんのスタッフ細胞使って過去に来てるの。うん、再生能力はある。肌荒れもピアスの穴もなくなってた。それでね……」

「ちょっと貸して」

「あ、お父さん……大西教授と替わるから」

「ボクは、まだ助手だよ。もしもし、瑠璃さん、大西です……いいよ、帰れなくても。いや、明里はなんとか帰す。研究してみるよ。君の研究は進んでいる。ただしタイムリープ機能まで進歩してる。ボクは、ここに来て三十分ほどで記憶を無くしたけど、明里は、まだ記憶している。それに若返らない。若返り機能が生きていれば、明里は、この三十年前には存在しないからね」

「おとうさん……」

「それから、タイムリープに関しては……以上の修正を加えれば出来るはずだ、試して……切れた」

「電池切れ……」

「いや、一定時間しか繋がらないんだろう、ボクも同じようなものを持ってる」

「そのスマホで……」

「繋がらないだろう。もっともボクは、操作方法忘れてしまったけどね」

 それから、数ヶ月、明里は若い血の繋がらない父といっしょに暮らした。そして、大西は未来へ帰れる薬の開発に成功した。

「あ、お帰りなさい」

 珍しく、大西は早く帰ってきた。

「珍しく早いのね、夕食の材料買ってくるわね」

 財布を掴んで、出ようとしたら、腕を掴まれた。

「夕食は、三十年後までお預けだ」

「え……どういうこと?」

「いいことがあったんだ、まずは乾杯しよう」

 大西は、買ってきたシャンパンを開けた。

 ポン!

「キャ!」

 栓の抜ける音に、明里は一瞬目をつぶった。

「ああ、こぼれる、こぼれる……」

 大西は、キッチンに行き、ぶきっちょにシャンパンをグラスに注いだ。

「なんなの、良い事って?」

「仕事上のこと、まずは乾杯!」

「そうだね、じゃ……」

「「乾杯!」」

 二人の声が揃った。

「で、なんなの、準教授にでもなれたとか」

「準教授?」

「ああ、この時代じゃ助教授かな」

「実は……完成した、未来へ帰れる薬が。鮮度が低い、今すぐ飲んで、明里は未来に帰るんだ」

 明里の目から涙が溢れた。

「……分かった。薬を貸して」

「一気に飲むんだぞ。そして2021年12月を念じるんだ!」

「うん」

 そう言うと明里は、受け取った薬を床に流した。

「明里……!」

「あたし、未来になんか帰らない。あたし……お父さんのお嫁さんになる。血が繋がってないんだから、大丈夫」

「……そうなるんじゃないかと思った」

 大西は、別のポーションを出した。

「あたし、絶対に飲まないから!」

「これ、ヤクルト。明里の薬は、シャンパンに入れておいた。もう効いてくる頃だよ」

「お父さん!」

 大西の胸に飛び込んだ明里は、大西の体をすり抜けてしまった。

「ボクは、瑠璃クンの研究が完成されれば、それでいい。そして……明里は、自分の時代に戻って、もっと相応しい人を見つければいい」

「お父さん……」

「ボクは、この時代でやり直す」

「お母さんなんかと結婚しちゃだめだよ」

「お母さんとは結婚するよ。しなければ、お母さんは明里を堕ろしてしまう……大丈夫……」

 言葉を継ごうとしたとき、明里の姿は消えてしまった。

「……初雪か」

 窓の外には三十年後と変わらない雪が降っていた。大西にはひどく新鮮なものに見えた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする