やくもあやかし物語・115
神田明神が御茶ノ水で降りるんだとは知らなかった。
御茶ノ水駅は、なんと秋葉原駅の隣で、図書室の地図で見たら、ほんの700メートルあるかないかって近さ。
例のマップメジャーで測ってみる。
800メートルと出てきた。
道は真っ直ぐじゃないから、まあ、こんなもの?
800という距離は微妙。
アキバに行くことが目的だったら800というのは、そう苦にならない。
だけど、神田明神に行って、将門をやっつけてから行くとなると、ちょっと唸ってしまう距離。
「ちょっと不まじめ」
胸ポケットから顔を出して御息所が文句を言う。
「いいじゃない、ちょっとくらい楽しみが無いと、やってられないよ」
もともと、二丁目地蔵や里見さんの八房にだまし討ちみたいにして持ち込まれた案件。
少しくらいはね。
そう思って、もう一度マップメジャーを走らせる。
―― ヨシタホウガイイ ――
「もう!」
「どうしたの?」
不思議に思う御息所に見られないように、地図もマップメジャーもしまって下校する。
わたしはね、アキバで本物のメイドさんに会いたかった。
え?
知ってるわよ。アキバのメイドさん、みんなアルバイトの女の子。
そういうのを本物って言うわけです、わたしは。
永遠の17歳とか、お仕事が終わったら、タンポポの綿毛に掴まって妖精の国に帰っていくなんて思ってないわよ。
ふつうの高校生とか大学生とかフリーターのおねえさんが、時給1000円とかで、社会保険とかも無しでやってるんだって。知ってるわよ。
でもね、メイド服着てアキバに居る限り、あっぱれ日本のメイドさんなのよ。
本性はバイトのおねえさんでも、仕事中はメイドさん。
その虚実皮膜の間に、あっぱれ日本のメイドさんの姿がある。
だってね、ふだん、わたしの周囲に居るのはメイドお化けとか、メイドお化けを使って『あやかしメイドカフェ』始めた二丁目地蔵だよ。
これまでの経験から言っても、コルトガバメントもあることだし、やっつけられると思う。
さっさとやっつけて、アキバを目指そう。
土曜日、朝から中央線に乗ってアキバ……じゃなくって、御茶ノ水を目指す。
なんで土曜日かっていうと、日曜を予備日にしてる……わけじゃなくって、日曜は、家でゆっくりしたいから。
まあ、今までの経験から言っても、一日あれば片付くでしょ。
むろん、早く終わったら……ムフフですよ。
乗った電車は、わたしの覚悟を裏付けるように『総武線 御茶ノ水行き』だよ。
あれえ、うっかり降りるの忘れてたあ(^_^;)なんて、ぜったい言わせない!
運命の神さまだか二丁目地蔵とかが、企んだ感じ。
まあ、心配しなくてもやりますよ。
『つぎは、終点、御茶ノ水、御茶ノ水、お出口は左側です……』
車内アナウンスがかかって、電車は静かにお茶の水のホームに入って行った。
プシュー
ドアが開く。
どういう塩梅か、そのドアから下りるのは、わたし一人だ。
で、驚いた。
降りたところに、とてもトラディッシュナルなメイドさんが、レムとラムみたいなメイドを引き連れて立っている。
「お待ち申し上げておりました、お嬢さま」
なんと、アキバの方が御茶ノ水までお迎えに来ているではないか!
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝