大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・115『早くやっつけてアキバにいきたい』

2021-12-18 15:07:56 | ライトノベルセレクト

やく物語・115

『早くやっつけてアキバにいきたい』 

 

 

 神田明神が御茶ノ水で降りるんだとは知らなかった。

 御茶ノ水駅は、なんと秋葉原駅の隣で、図書室の地図で見たら、ほんの700メートルあるかないかって近さ。

 例のマップメジャーで測ってみる。

 800メートルと出てきた。

 道は真っ直ぐじゃないから、まあ、こんなもの?

 800という距離は微妙。

 アキバに行くことが目的だったら800というのは、そう苦にならない。

 だけど、神田明神に行って、将門をやっつけてから行くとなると、ちょっと唸ってしまう距離。

「ちょっと不まじめ」

 胸ポケットから顔を出して御息所が文句を言う。

「いいじゃない、ちょっとくらい楽しみが無いと、やってられないよ」

 もともと、二丁目地蔵や里見さんの八房にだまし討ちみたいにして持ち込まれた案件。

 少しくらいはね。

 そう思って、もう一度マップメジャーを走らせる。

―― ヨシタホウガイイ ――

「もう!」

「どうしたの?」

 不思議に思う御息所に見られないように、地図もマップメジャーもしまって下校する。

 

 わたしはね、アキバで本物のメイドさんに会いたかった。

 

 え?

 知ってるわよ。アキバのメイドさん、みんなアルバイトの女の子。

 そういうのを本物って言うわけです、わたしは。

 永遠の17歳とか、お仕事が終わったら、タンポポの綿毛に掴まって妖精の国に帰っていくなんて思ってないわよ。

 ふつうの高校生とか大学生とかフリーターのおねえさんが、時給1000円とかで、社会保険とかも無しでやってるんだって。知ってるわよ。

 でもね、メイド服着てアキバに居る限り、あっぱれ日本のメイドさんなのよ。

 本性はバイトのおねえさんでも、仕事中はメイドさん。

 その虚実皮膜の間に、あっぱれ日本のメイドさんの姿がある。

 だってね、ふだん、わたしの周囲に居るのはメイドお化けとか、メイドお化けを使って『あやかしメイドカフェ』始めた二丁目地蔵だよ。

 これまでの経験から言っても、コルトガバメントもあることだし、やっつけられると思う。

 さっさとやっつけて、アキバを目指そう。

 

 土曜日、朝から中央線に乗ってアキバ……じゃなくって、御茶ノ水を目指す。

 なんで土曜日かっていうと、日曜を予備日にしてる……わけじゃなくって、日曜は、家でゆっくりしたいから。

 まあ、今までの経験から言っても、一日あれば片付くでしょ。

 むろん、早く終わったら……ムフフですよ。

 乗った電車は、わたしの覚悟を裏付けるように『総武線 御茶ノ水行き』だよ。

 あれえ、うっかり降りるの忘れてたあ(^_^;)なんて、ぜったい言わせない!

 運命の神さまだか二丁目地蔵とかが、企んだ感じ。

 まあ、心配しなくてもやりますよ。

『つぎは、終点、御茶ノ水、御茶ノ水、お出口は左側です……』

 車内アナウンスがかかって、電車は静かにお茶の水のホームに入って行った。

 プシュー

 ドアが開く。

 どういう塩梅か、そのドアから下りるのは、わたし一人だ。

 で、驚いた。

 降りたところに、とてもトラディッシュナルなメイドさんが、レムとラムみたいなメイドを引き連れて立っている。

「お待ち申し上げておりました、お嬢さま」

 なんと、アキバの方が御茶ノ水までお迎えに来ているではないか!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝

 

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明神男坂のぼりたい14〔スターと遭遇〕

2021-12-18 08:23:35 | 小説6

14〔スターと遭遇〕     

     

 

 たまに下校のルートを変える。

 いつもは外堀通りなんだけど、水道橋を渡って神田川の南に出て駿河台の方に進む。

 ちょっと遠回りなんだけど、神田川と中央線が朝とは反対の北側にくるので、気分転換にいいんだ。

 特にね、今日は稽古がうまくいったので、ちょっとシミジミしたいわけ。

 水道橋渡ってすぐ、東亜学園を右に見て曲がると駿河台の坂道。そこを東に向かって十分ちょっとで御茶ノ水橋。

 気分次第で、もう少し直進して聖橋を渡って帰ることもある。

 

 あ!?

 

 一瞬メガネを取った、その顔は、若手女優の梅田はるかだ!

 あたしは、間抜けなことにお茶の水駅まで来て、ヨッテリアの前で台本を忘れたのに気がついた。

 そして、振り返ったときに至近距離で目が合った。


 そうだ、春からの新作ドラマ、舞台はこの辺だって、ネットの情報だった。

 ちょっと離れたとこにカメラとか音響さんやらのスタッフがいる。休憩なんだろう、スターは駅前の交差点で、ボンヤリと下校途中の高校生を見ていた。で、たまたま、台本忘れたのに気が付いた間抜けなあたしと目が合ったんだ。

「あなた演劇部?」

「え、あ、はい。TGHの演劇部です」

「TGH、そこの?」

「あ、はい」

「ああ、そうなんだ。神田川の向かいだから覚えてる」


 あたしも思い出した。梅田はるかは、大阪の女優さんだけど、一時家の都合で東京に引っ越して、東亜学園に転校してきたんだ。代表作『わけあり転校生の7カ月』は、ドラマでも原作本でも有名だ。


「そう、その東亜学園に行くんだけど、いっしょに行く同窓生が仕事でアウト。どうだろ、よかったらお供してくれないかな?」

「え……!?」

「あなた、演劇部でしょ?」

「え、あ、どうして(分かるんだ)?」

「だって、カバンから台本覗いてる」

 あ……そうだ、水道橋渡るときにカバンに突っ込んだんだ。

 いつもは、台本読み返しながらだから家に着くまで手に持ってるんで、忘れたと思ったんだ(^_^;)

 恥ずかしさと安心と可笑しいのでアワワしてしまう。様子に気付いたスタッフが、集まってくる。

「編入試験受けるとき、水道橋で下りて、ここまで来て気づいたの。とっくに行き過ぎてるの。ここいらの学校って、ビルでしょ。学校だって気づかなかったことに気付いて。アハハ、なんか変みたいだけど、大阪は、学校ってグラウンドがあって、ここらへんみたいにビルっぽい校舎ってないからね。あ、上地さんいいですか?」

 監督みたいな人に声かけると「うん」と頷いて決まってしまった。

 流れと勢いで、あたしははるかさんのお供をすることになったよ。

「テストは間に合ったんですか?」

「うん、一時間勘違いして早く来ちゃってた(#^▽^#)!」

「「アハハ」」

 天性の明るさなのか、タレント性なのか、お日様みたいにポジティブなはるかさん。

「懐かしいなあ……ヨッテリアの二階」

「『ジュニア文芸八月号』 あそこで吉川先輩に見せられたんですよね!」

「よく知ってるわね!」

 はるかさんの出世作は、さっきも触れたけど、『わけあり転校生の7カ月』って自伝的ドラマ。

 ドラマでは、親の離婚で東京から大阪に越してきた女子高生になってるけど、実際は逆だったのがドラマ終了後に分かった。リアルにやると、いろんな人に迷惑かけそうなんで、設定を東京と大阪を逆にしたらしい。

「本で読みましたから。あれ、ちょっとしたバイブルです」

「ハハハ、大げさな!」

「ほんとですよ。親の都合で急に慣れない東京に来た葛藤が、リアルでも、はるかさんを成長させたんですよね」

「うん、離婚した両親のヨリをもどしたいって一心……いま思えば子供じみたタクラミだったけどね。明日香ちゃんはなに演るの?」

「あ、これです」

「『ドリームズ カム トゥルー』いいタイトルね」

「一人芝居なんで、苦労してます」

「一人芝居か……人生そのものね。きっと明日香ちゃんの人生の、いい肥やしになるわよ」

「そうですか?」

「そうよ、良い芝居と、良い恋は人間を成長させるわ」

 あたしは、一瞬馬場先輩が「絵のモデルになってくれ」と言ったときのことを思い出した。

 エヘヘ

「なにか楽しいことでも思い出したの?」

「アハハ、なんでも(^_^;)」

「明日香ちゃんて、好きな人とかは?」

「あ、そういうのは……」

「居るんだあ……アハハ」

「いや、あの、それはですね」

 だめだ、墓穴掘ってる!

「良い芝居と、良い恋……恋は、未だに失敗ばっかだけど」

 あたしも、そう……とは言われへんかった。


「あ、東亜学園ですよ!」

 たしかに、あらためて見る東亜は、どこかの本社ビルって感じだ。

「あ、プレゼンの部屋に灯りが点いてる!」

 どうやら、ドッキリだったよう。学校に入ったら、本で読んだ坂東はるかさんの、お友だちや関係者が一堂に会してた。

 なんだか知らないうちに、あたしも中に入ってしもて遅くまで同窓会に参加してしまったよ。

 

 ※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

 

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ライトノベルベスト『メゾン ナナソ・2』

2021-12-18 04:41:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『メゾン ナナソ・2』   




 

 グーグルの地図を検索しても出てこなかった。

 あの川を北に500メートルのはずだ。

 1キロ先にまで伸ばして探してみたが『メゾン ナナソ』は見当たらない。

 確かにナナさんは風呂帰りのクミちゃんと大介くんの後を、一分ほどおいて川沿いを帰って行った。

 風呂屋までは分かった。

 鶴の湯という銭湯で、グーグルをウォーキングモードにして地図の中を歩いてみても、ちゃんと鶴の湯はあった。でも、その先が判然としない。

 これは川沿いといっても路地を入った脇道なんだろう。グーグルの地図でも入りきれない脇道はいくらでもある。

 ナナさんが気になったのか、時代遅れの『メゾン ナナソ』の名前から思い浮かべたアパートが気になるのか、クミちゃん大介コンビの醸し出す昭和の匂いが引きつけるのか……たぶん全部。

 

 グ~~~~

 

 いや、それ以上考える前にボクは朝飯を食べていないことに気づいた。

 財布をつかんでコンビニを目指す。

 コンビニは臨時休業だった。

 ドアの前に警官が立ち、規制線のテープが張られている。

 あ……思い出した。

 昨夜夢うつつでパトカーのサイレンを聞いた。このコンビニに強盗でも入ったんだろう。

 仕方なく、もう一つ向こうのコンビニを目指す。

 その途中で気づいた。

 これは、あの川沿いの道に出る。スマホで検索すると、川沿いに一度だけ行ったことがあるコンビニがある。

 目標変更。

 コンビニで、パンとカフェオレを買って、外に出た。

 照り付ける太陽にクラっときて自転車にぶつかりそうになった。

 自転車は器用にボクを避けて川沿いを北の方に……少し驚いた。

 自転車は、今時めずらしいドロップハンドルに八段はあろうかと思われる変速機がついていた。

 えらい自転車マニアなんだと思いながら自然に川沿いを北に歩いていった。

『メゾン ナナソ、この先北に300メートルです』

 スマホが、検索もしないのに教えてくれた。

 資材置き場を過ぎると道幅が狭くなり、細い路地が目に入った。

 

 路地を抜けると、そこに『メゾン ナナソ』があった。

 

 木造モルタル二階建て。玄関は申し訳程度の庇があり、庇の上には木彫り金塗りの『七十荘』の立体文字が薄汚れて傾いている。間口一間の入り口は両開きだけど、片方だけが開いていて、閉じた側にはアクリルかなんかの切り抜きで『メゾン ナナソ』とあった。

「あら、夕べのキミじゃない!」

 ナナさんが、アパートの横から箒を持って現れた。

「お早うございます」と言いながら、手に持っていたコンビニの袋が無くなっているのに気付いた。

「ハハ、朝ごはん買いに出て、落っことしちゃったの?」

 

 笑いながらナナさんは、トーストを焼いてスクランブルエッグをこさえてくれた。

「ナナソって、七十って書くんですね」

「うん、すごく読みにくいから入り口にカタカナにしたの」

「じゃナナさんのナナソも七十って書くんですか?」

「そうよ。子供のころから苦労したわ。だれがよんでもナナジュウだもん。下のナナは奈良県の奈に菜っ葉の菜。これはまんまだから、たいがいナナちゃんで通ったけどね。あ、そういや、君の名前聞いてなかったよね」

「ですね。ボク……こう書くんです」

 メモ帳を借りて、山田五十六と書いた。多分読めないだろう。

「ヤマダイソロク……君もちょっと珍しいね」

 ナナさんは、あっさりと読んでしまった。

「今時アパートの経営ってむつかしいんでしょうね」

 失礼な質問をあっさりしてしまった。

「古いからね、七部屋あるけど、詰まってるのは六部屋だけ。月二万円」

「二万円!?」

「よかったら空いてる部屋見ていく?」

 部屋は意外に広かった。

 四畳半のキッチンに八畳の部屋にトイレ付。これなら五万でも安いと思った。

「気が向いたらいつでも越しといでよ。今のアパート、ここの倍は取られてるでしょ?」

「ええ……」

「お風呂が無いのがね……管理人室にはちっこいけどあるの。女性に限って使ってもらってる。男の邪魔くさがりは台所のシンクで風呂がわり。みんな器用よ」

「失礼ですけど、家賃収入だけじゃやってけないでしょ?」

「もちよ。あたしはボランティアのつもりで管理人やってるの。相続したときは即更地にして売り飛ばそうと思ってたんだけどね」

「なにか、わけでも?」

「みんないい人ばっかだからね」

 それから他愛ない話をしたが、ナナさんの本業が作家だということ以外は忘れてしまった。

 話し込んでいるうちにボクは眠ってしまって、気が付くと自分の部屋で居眠っていたから……。

 

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