大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・248『筋斗雲を借りて飛ぶ』

2021-12-03 14:22:42 | 小説

魔法少女マヂカ・248

『筋斗雲を借りて飛ぶ語り手:マヂカ   

 

 

 船というものには、たいてい神さまがついている。

 船霊と書いてフナダマと読む神さまだ。

 日本の場合、その多くは神社の神さまを勧請(お願いして御祭神を、いわばコピー)してもらう。

 日本の神さまは、便利なもので、いくら勧請しても減ることが無い。

 逆に、合祀(混ぜる)てしまうと、分離することができない。

 令和の時代、靖国神社にA級戦犯を祀っているのはけしからんので、分けてしまえという主張があるが、いったん合祀したものだから分けようがない。

 さて、日本の船霊は、れっきとした神社に祀られている神さまなので、きわめて行儀がいい。

 ひたすら、船と乗組員や乗客の安全を祈っている。

 祈ることが仕事なので、それ以外の事には手を出さない。

 

 しかし、外国の船霊は、すごい。

 簡単に人やよその船に祟る。

 バルチック艦隊の亡霊に手を焼かされたことは、バックナンバーを読んでもらえれば納得してもらえると思う。

 原宿でカラんできたイズムルードや、アレクサンドル三世、オリヨールに祟られたのは読者の人たちも懐かしく思い出してくれると思う。

 ついこないだ、震災後の横浜に大挙して攻めてきたロシア艦隊にてこずったのは記憶にも新しい。

 

 もし、日本の船霊がロシアのように、自己主張が強く狂暴だったら、荒ぶる神となって、自分で戦うとか都合をつけるとかの行動を起こしたと思う。

 良くも悪くも、日本の船霊は和霊(にぎたま)だ。

 荒事には手を染めない。

 赤城を助けてほしいと出てきた天城もそうだし、長門が震災救助に間に合うように全速を出せるようにと頼み込んできた赤城もそうだ。

 

「助けてもらって文句を言うのは筋が違うんだが……ちょっと疲れるぞ(;'∀')」

「仕方ないでしょ、長門に化けるって大仕事が待ってるんだから……おっと!」

「動くな、バランスが崩れるぅ!」

「あ、ごめんごめん(^_^;)」

 

 大連舞踏会で、なんとか霧子を勝利させた我々は、いよいよ長門を全速力で東京へ向かわせるために海の上を飛んでいる。

 わたしもブリンダも特級の魔法少女。

 だから、自力で飛行することはわけもないことなんだけど、これから戦艦長門に化けて、ストーカーのイギリス巡洋艦を引きつけなければならない。

 なんせ、45000トンのデカブツ。

 ただ化けるだけでも大変な上に、イギリスの巡洋艦が、どこまで付きまとってくるのかも分からない。

 体力と魔力を温存するために、孫悟嬢が好意で貸してくれた筋斗雲に乗っている。

「しかし、こんなにバランスとるのが難しいとは思わなかったぞ」

「あまり文句言わない方がいいわよ、まだ、震災勃発の連絡も入って来てないんだから」

「ムムゥ……」

「イラつくと、神経擦り減らすわよ」

「分かってるヽ(`Д´)ノ」

「ねえ、ブリンダ」

「な、なんだ?」

「えと……」

 気を紛らわせようと声を掛けるが、わたしもすぐには出てこない。

「ラスプ-チン……」

 思ってもいない名前が出た。しばらく考えないようにしていた、あまりに理不尽で胸糞の悪い奴だったから。

 やっぱり、わたしも腹に据えかねているようだ。

「あれは、陰謀だな」

「そう思うよね」

「あれは、霧子に勝たせることによって、脱皮をしたんだ」

 同じことを思っている。

「ラスプーチンの皮を剥いたらスターリン……悪い冗談だ」

「ブリンダ」

「なんだ?」

「レーニンが死んで、スターリンが実権を握るのは、たしか……」

「1924年……来年か……あ!?」

「同じ考えにいきついたみたいね」

「霧子の打撃が、ちょうど具合がいいんだな……俺たちがやっつけてしまえば、殻を破るどころか、粉々に打ち砕いてしまう……それで、オレたちを足止め……」

「間合いを計って霧子に止めを刺させて……無事にスターリンに変身」

「やられたな……」

「でも……」

「なんだ!?」

「バランスとれるようになったじゃない」

「え? あ…………でも、やっぱり忌々しいぞ!」

「あ、ちょ、バランスがあああ」

「す、すまん」

 キリキリ舞いして、海面近くで体勢を立て直し、魔法少女の馬力で高度を取り戻すと、電波が飛び込んできた。

 

 発 海軍軍令部  宛 戦艦長門艦長

 9月1日11時58分 関東地方ニオイテ激甚ナル震災勃発 被害甚大ニツキ 貴艦ハ速ヤカニ横浜鎮守府ニ帰還シ 軍民ノ被災救助ニ向カフベシ

 

 いよいよ始まった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟嬢        中国一の魔法少女

 

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ライトノベルベスト『ライトノベル・3』

2021-12-03 04:37:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『ライトノベル・3』   




 全てが『ライトノベル』に書いてある通りになった。

 というか、読んでみると、その通り書いてある。

 ケイは思った。先の方を読めば未来のことが分かるかも!?

 ひょっとしたら、シオリのオネエサンが怖い顔をするかと思ったら、相変わらずのニコニコだ。

 ケイは、思い切って先のページを開けてみた!

 しかし、読めなかった。


 だって、先のページはボンヤリして、字の輪郭も句読点もはっきりしない。目が悪くなったのかと、他のものを見るとハッキリ見えるし、今日以前のページはハッキリ読める。

「そんなバカな!?」

 ケイは、襖で半分仕切にしている結界から身を乗り出して姉の成子に聞いた。

「ねえ、お姉ちゃん。ここ何書いてあるか分かる?」

 姉は、スマホの手を休めずにチラ見して、こう言った。

「あんたにからかわれてるほどヒマじゃないの……」

「だってさあ……!」

「なんにも書いてない本、どうやって読めってのよ!」

「ええ、だってこれラノベだよ!」

 表紙を突きつけると、姉は、やっと本気で見てくれた。

「ハハ、『驚くほど、あなたのライトノベル!』 なるほどね」

「なによ。分かったんだったらおせーてよ!」

「これはね、ラノベのカタチしたメモ帳なんだよ。表紙なんか良くできてるけどね。なるほど、ただのメモ帳じゃ売れないもんね」

 お母さんにも聞いてみた。

「気の利いたメモ帳だね」 

 家族総出でかついでるのかと思って、国語のユタちゃん先生にも聞いてみた。

「かわいいメモ帳。あたしも欲しいな!」

「……これ、最後の一冊だったんです」

 だから言ったでしょ

 シオリのオネエサンは、そんな顔をしていた。で、当然、そこまでの分は読めるようになっていた。

 ケイは名前の通り軽……というわけではなかったが、移り気というか、八方美人というか。

 良く言えば忙しい女子高生である。

 クラスでは副委員長、クラブでは、たった三人の演劇部の部長。家では両親共働きのところへ、姉は卒論の準備と就活に忙しく、食事の準備……はできるときだけだけど、掃除やお使いなどは嫌がらずにやった。むろん勉強も欠点などは取った事が無く、成績優秀……というわけではないが、中のそこそこのところにいる。

 で、ライトノベルを無くしてしまった。

「おっかしいなあ……」

 その時は、姉の引き出しの中まで探して怒られたが、三日もしたら忘れてしまった。

 まあ、その程度に移り気というか、忙しい子である。

 やがて、季節は秋になり、文化祭の時期になった。

 クラスの文化委員がノリの悪い子で、結局はケイが率先してやらなければ、事が運ばない。ホームルームを開くとお気楽に《うどん屋さん!》などと決まりかけた。

 飲食店がシビアなのをケイはよく知っていた。

 食品を扱う者は全員検便なのである。

 忘れもしない、一年の文化祭は焼きそば屋に決まり、ケイが責任者になった。

 検便の屈辱感をケイは忘れない。

 便器の中にトイレットペーパーを敷き、便器に前後逆さに座る。つまりおパンツ脱いで、大股開きで便器に跨り、自分の身から出たそれのヒトちぎり(これが、なかなかムツカシイ)トイレットペーパーの上に落とし、湯気の立っているそれに検査棒を突っこんで容器に戻す。

 この罰ゲームみたいなことを畳半畳もない空間で、やらねばならない。

 最悪なことにトイレのロックが甘く、うっかり当たったお尻がドアを勢いよく開けてしまって、事も有ろうに、お父さんが前の晩に酔っぱらって連れてきた峯岸さんという部下のオニイサンに見られてしまった。

 あの悪夢を思い出し、ケイは修正案を出し、占いとうどん屋のセットにして、自分は手相占いに専念した。

 演劇部も考えた。

 いくら本が良くても、芝居が良くても、五十分近いドラマを観てくれる暇人はいない。

 帰宅部でノリの良さそうな子を集めてAKBごっこをやった。最初はAKBが罰ゲームでやっていた、左右に等身大のお人形をくっつけて、制服で『フライングゲット』をやって面白がらせ、そのあと、九人ほどで気合いの入った『ヘビロテ』と『ポニシュ』で決めた。衣装はネットオークションで、前の年大学祭でやった奴を九千円で落札。日光消毒とファブリーズは必要だったが、十分の出し物としては大成功だった。

 そんなある日、ケイは、人生で初めてコクられた♪ 

 相手ははイッコ上の三年生の佐藤先輩。

 先輩は文化祭の舞台担当の責任者だった。互いに、文化祭の準備でチラ見はしていた。ケイは、自分たちのドジさや、時間管理のために睨まれているのかと思った。先輩はケイを小柄ながらポニーテールのよく似合う、リーダーシップのある子だと思っていた。

 きっかけは、文化祭が終わっての帰りの電車。

 クラスとクラブを仕切ったケイはくたびれ果てて、精も根もなく、空いている座席で丸まっていた。

 電車が動き出したところまでは覚えているが、目が覚めたのは、自分の駅の一つ前。

「え……ああ、すみません!」

 ケイは、たまたま横に座っていた佐藤先輩の肩にしなだれかかり、口を半開きにして、ヨダレをたらしていた。そして、そのヨダレは佐藤先輩のハンカチで受け止められていた。それに気づいてケイは二度びっくり!

「すみません。洗って返します!」

 叫んだところが、自分の駅だった。

 電車が見えなくなるまで見送って、気が付くと、文化祭副委員長の杉野さんのサイドポニーテールが回れ右をするところだった……。

「なに、今の……」

 ついヘビロテを口ずさみながらアイロンをかけた。そして、きちんとたたんで、池袋のファンシーショップの袋にしまい。アイロンを押し入れにしまおうとすると出てきた……数か月ぶりでライトノベルが。

「なんで、ここに……」

 そう思って手に取ったライトノベルは、少し重くなったような気がした。

 笑いこけた。

 この数か月のことが、テンポ良く面白く書かれている。もう不自然にも不思議にも思わなかった。そして、最後は面白がってライトノベルを読んでいるところで終わっていた。

 シオリのおねえさんは「慎重にね」と四文字で言っていた。

「あ、あの、その……少し考えさせて下さい」

 ハンカチを返したあと、コクられた。

 佐藤先輩のことは好きだったけど、ここは保留にした。シオリのオネエサンのアドバイスでなく、自分でそう思った。

 ペコリと頭を下げて部室に向かった。

 パシッって音がした。

 振り返る勇気無くって、ガラスに映ったそれを見た。

 佐藤先輩が杉野さんにひっぱたかれていた……。

   つづく

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泉希 ラプソディー・6〈瑞穂と決着をつける〉

2021-12-03 04:09:45 | 小説6

ラプソディー・06
〈瑞穂と決着をつける
   




 意外にも瑞穂は、ちゃんと公園にきていた。

 泉希の近所は6人ほどの子供というか未成年がいるが、互いの付き合いはほとんどない。

 泉希は、出会った子には必ず声を掛けるようにしたので、雫石の家に来てからは、一応町内の子とはあいさつ程度のことはできるようになっている。

 稲田瑞穂だけが例外だった。

 二学期になってほとんど通っていない高校は、出席不足でもうじき落第が決定する。親は、すぐに瑞穂が切れるのでロクに注意もせずにホッタラカシである。

 瑞穂は昼間は寝ていて、夕方になると原チャに乗って走り回っている。

 暴走族かというと、そうでもない……というか、そこまでいっていない。

 何度か族は見かけたし、一度は声もかけられたが、瑞穂はあいまいな笑顔で走り去った。そこまで墜ちる気にはなれなかった。だが自分を含め人間に敏感な瑞穂は、いつか自分が、そこまで墜ちてしまことを予感してはいた。

「お、約束通り来てるじゃん」

 泉希の言葉で、ドキッとした。

 瑞穂は10日前、ここで泉希に軽くいなされたことは忘れていた。その日に起こったことはその日のうちに忘れてしまう。むろん完全に記憶から消えてしまうわけではないが、夢のように思うことで意識の底に眠らせておくことはできる。その程度だから、泉希を見ると、とたんに思い出してしまった。

―― 女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけようか。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマン、小細工はなし ――

 泉希の言葉を思い出し、瑞穂は思わず及び腰になった。

 我ながら情けない。

「腕で勝負だから、まず腕の先っぽの手からいこう。五本勝負。三本とったら勝ちね」

「手で三本?」

「ジャンケンに決まってるじゃん。指相撲もあるけど、瑞穂、肌が触れるのは嫌でしょ。じゃ、いくよ」

 最初はグー! ジャンケンポン!

 最初の4回は2対2、いよいよ最後の一本勝負。瑞穂は緊張した。

「気楽に。こんなの運と確率の問題だから」

 瑞穂は、この笑顔に騙された。気楽に出したパーであっけなく負けてしまった。

「落ち込むなって、単なるコツだから。『最初はグー!』でしょ、これを元気よくやってグー出すのはあまりいない。だったら次に出すのはチョキかパーしかない。パーはあいこ。チョキは勝ち。この理屈知ってたら、まあ70%の確率で勝てる」

 なるほど……これなら3本より5本の方が確率的には勝てることになる。瑞穂は算数は好きだったので、この理屈はすぐに分かった。ただ算数は好きだったが、数学は嫌いだ。

「じゃ、じゃ、今度は腕でいこう。腕で決めるってことにしたんだから」

「でも、どつきあいは止めておこうよ。怪我したらつまんないから」

「アームレスリング。腕相撲よ!」

 泉希は一歩前進だと思った、アームレスリングならスキンシップだ。

 犬の散歩に来た近所のオジサンにレフリーになってもらった。オジサンは珍しがり、犬はワンワン喜んだ。

 で、これも五本勝負で、最後の一本で泉希の勝ちになった。

「ハハ、瑞穂もやるじゃん。なんとかあたしが勝ったけど」

「……負けは負けだよ。何すりゃいい?」

「瑞穂の原チャで近所案内してよ。あたし、まだ引っ越して間が無いから。コンビニとポストの場所ぐらいしか分からないから」

 で、原チャに乗って、町内を一周した。瑞穂は猫の通り道まで知っていた。泉希はもの喜びするたちで、「ホー! へー!」を連発した。

 二人乗りが終わって瑞穂の家の前に来るころには、二人は友達になっていた……。

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