大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『ライトノベル・4』

2021-12-04 06:18:19 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『ライトノベル・4』   

                  



 ケイは佐藤先輩と杉野さんカップルの共通のカワイイ後輩という、妙な位置に落ち着いた。

 杉野さんも、生徒会の会計をやっているので、ケイの働きぶりや、人柄をよく知っていた。だから人間としてケイのことが嫌いなわけではない。むしろ目端の利く働き者のかわいい子という認識では、一致していた。

 ただ、自分の恋敵としてのケイの存在が許せないのである。

「じゃ、二人の妹ぐらいのところで手を打てよ」

 生徒会長の、なんとも玉虫色のような結論に落ち着いてしまった。

 しかし、生徒会をバックにつけたようなものなので、なにかと便利。

 クラブの稽古場は、今まで、普通教室の渡り鳥で、舞台の実寸通りの稽古ができず。始めに机を片づけ、終わったら机を元に戻すという厄介な作業に時間と労力をとられていた。

 それが、なんと同窓会館が使えるようになった。

 一度椅子やら机を片づけてしまえば、本番が終わるまで、そのまま使えた。エアコンの効きも良く、なんと言っても舞台と同じスケールで稽古できるのは嬉しかった。

 家に帰って、ライトノベルを読むと、そのことがオモシロおかしく書かれていて、ここんとこ毎日読んでいる。読み返してみると、ケイは、いつも誰かに助けられてというか、利用して、あるいはギブアンドテイクでやってきたことが分かる。

 で、これがヒントになった。

 いま稽古している『すみれの花さくころ』はネットで検索したら、名古屋の音楽大学がオペレッタにして上演したことが分かった。

「アタックしてみたら」

 シオリのオネエサンも、そうけしかけてきたので、佐藤先輩に頼んで、その音楽大学に電話をしてもらった。だって、音大の教授なんておっかなくって、まともに話なんか出来ない。

 で、さすがは文化部長。楽譜と上演のDVDまで仕入れてしまった。

「いいねえ~」

 と、沙也加。

「すてきねえ~」

 と、利恵。

「でもねえ……」

 と、三人。

 音大のオペレッタは素敵だったけど、グレードが違う。とても、この素敵さでは歌えない。

「そうだ、あたしたちが歌ってあげよう!」

 杉野さんの頭に電球が灯った!

 杉野さんは引退こそしたけど、元音楽部の部長だ。現役の中から演劇部三人の声に似た子に歌わせ、もちろんピアノのやらの伴奏付きで。

 それをバックでやってもらいながら、次第に自分たちの声を大きくするという手法をとった。

 大成功だった。地区大会は大反響だった。

「高校演劇に新風を吹き込んだ!」

 審査員の一人は激賞だった。

「でもね、音楽部の手を借りるのはルール違反じゃないかしら」

 常勝校ゴヒイキの女審査員は痛いところをついてきた。

「それは、ちがいます」

 佐藤先輩が手を挙げた。

「我が校は、演劇部、音楽部、軽音楽部、ダンス部をまとめて、舞台芸術部と称しております。つまり、逆さに言えば全員が演劇部というわけで、そういう点では、貴連盟の規約を尊重しました。部員数だけパンフレットを買わなければならないとされてもいますので、そのようにいたしました。ボクの勘違いかもしれませんが某校はうちの近所の中高一貫校の中学生がスタッフをやっていたやに見受けましたが……」

 これで、審査員は黙り込んだ。

 その日『ライトノベル』を読むと、佐藤先輩の爽やかな弁舌がイラスト入りで載っていた。最後の行が気になった。

――それからの主役は自分自身であると、ケイは、思い直すのであった――

 で、『ライトノベル』の残りのページは、もう十ページほどしかなかった。

 いよいよ、中央大会である。

 みんな張り切った。沙也加が主役のすみれ。わたしがもう一方の準主役・咲花かおる。で、おっとりの利恵は由香と予選に変わらぬ布陣であったが、ダンス部がのってきて、ダンスシーンはAKBか宝塚かという具合になってきた。

 ラストシーンの、かおるが幽霊として川の中に消えていくシーンでは、感涙にむせぶ観客まで居た。

 問題は、全てのプログラムが終わって、審査発表前の、講評で起こった。

「ええ、都立乃木坂高校ですが……問題点から言います」

 でっぷりした、審査委員長クラスのオッサンが、上から目線で言った。

「作品に血が通っていない……というか、行動原理、思考回路が、オホン。高校生のそれではありません」

 頭に血が上った。この審査員は、かねてから某常連校の顧問とも親しく、はなから、結論をもって審査に臨んでいる……という、噂だった。

――ケイ、あなたが主役よ!――

 シオリのオネエサンが、初めて口をきいた。

 ケイは、背中を押されたようにして立ち上がった。

「今の言葉、もう一回言ってみてください」

 一瞬シーンとしたあと、オッサンは、肩をそびやかせて、くり返した。

「作品に血が通っていない……というか、行動原理、思考回路が、オホン。高校生のそれではありません」

「あなたは、テープレコーダーですか!?」

「は……?」

「仮にも、中央大会の審査員。もう一回と言われて、そのままくり返すバ(カの字は飲み込んだ)アイがあるんですか。もう一度と言われたら、前の発言を補強するだけの論理性と整合性がなきゃ、イケマセン」

 そうだ、そうだの声が上がった。

「え……」

「つまりい! どこをもって血が通っていないというのか!? どこをもって、行動原理、思考回路のそれが、高校生のそれと違うっていえるのか、ようく分かるように言ってもらおうじゃありませんか!」

「それはね、キミ……」

「それから、その後に書いてある、主役の女子高生をババアの設定にすればいいかも? それ、いったいなんですか!?」

「な、なんで知ってんの?」

「ボクが後ろから、ずっと見てました。先生がこの舞台をご覧になっていたのは、十四分二十五秒しかありませんでした。残りの時間は、ずっと目をつぶっていらっしゃいました。だよね計時係り?」

「はい、そうです」

 佐藤・杉野コンビも冴えている。

「今は、講評で審査結果の発表ではありませんよね。どうぞ、審査員室で、審査の続きをなさってください」

 審査は事実上のやり直しになった。

 結果的には、ケイの乃木坂は二位で、関東大会に出ることになった。しかし、それから連盟のサイトは炎上することになった……。

――そして、ケイは自分の足で歩き始めた。もちろんケイ自身の道を――

 『ライトノベル』はそうしめくくられ、完、となっていた。

 ケイは無性にお礼が言いたくて、無駄と思いながら、あのショッピングモールに行ってみた。

 ショッピングモールは、クリスマス一色だったが、そこだけ、我関せずと店が開いていた。そしてレジにはシオリのオネエサンが居て、一瞬目が合った。お互いにニッコリした。

 ケイはお礼がいえると思ってカバンから『ライトノベル』を出した……すると、もう店は無くなっていた。

 あの軽かった『ライトノベル』はズッシリと重くなっていた……。

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泉希 ラプソディー・7〈桜の花の散った日〉

2021-12-04 06:01:51 | 小説6

ラプソディー・06
〈桜の花の散った日〉    




 お早う、泉希ちゃん!

 玄関で大きな声がした。泉希と同じまっさらな制服を着た瑞穂が立っていた。

「ごめん、寝癖が直らなくって。おかしくないお母さん?」

「うん、大分まし。それぐらいカールしてるのも可愛いわよ」

 近頃ようやく「お母さん」という呼ばれ方に慣れた今日子。

「そう、じゃ、行ってきまーす……あ、お母さん今日はなにかいいことあるかもよ」

「どうして?」

「ほら、瑞穂がほっぺに桜の花びらくっつけてる。こりゃ花神さま」

「あ、やだ、あたしったら」

「あ、取っちゃだめ」

 泉希は、ほっぺに桜の花びら付けたままの瑞穂を写真を撮った。そして、瑞穂の制服に付いていた花びらを一枚取ると、同じようにほっぺに付け、今日子に二人そろって撮ってもらった。

 瑞穂は、あれ以来、泉希にはなんでも話せるようになり、一念発起勉強しなおして、泉希と同じ谷町高校の一年生に入りなおした。

 近所の子供たちも、瑞穂の変わりように比例するように、仲良くなった。

「ケン! 今日からは転んでも、泣かずに自分で起きるんだよ!」

 瑞穂が、電柱一本向こうでこけた小学一年のケンちゃんに言った。「わかってら!」ケンちゃんは強がって、鼻を鳴らして行ってしまった。

「態度悪ウ~!」

「去年の瑞穂なら、泣いて飛んでっただろうね」

「泉希ちゃん。あたし……ちゃんとやってけるかな?」

「大丈夫よ。今みたく、ちゃんとみんなに声がかけられれば。大丈夫、今の瑞穂なら大丈夫!」

 大丈夫を三回も重ねたので、瑞穂が笑った。

「寝癖おかしくない?」

「うん、大丈夫。最初会ったころはショートのボブだったのにね。もうセミロングだ」

「髪だけ伸びて、胸とかは、ちっとも発育しないよ。瑞穂ちゃん、少し大きくなったんじゃない?」

「やだ、そんなじろじろ見ないでよ!」

 じゃれあいながら駅まで行って改札を通ると、ホームの向こう側に満開の桜並木が見えた。この沿線ではちょっと有名な駅の桜並木だ。

「初登校には、相応しい咲き具合ね……」

 瑞穂が柄にもなく潤んだ声で言った。

「でも、帰るころには散り始めてるだろうね。そうだ、預かってもらいたいものがあるの」

 泉希は、内ポケットから貯金通帳を出した。

「なに、この通帳?」

「ちょっと、お楽しみ。始めたばっかで1000円しか入ってないけどね」

「これを?」

「今日クラスの用事で、A町に行くの。あそこの銀行無いから、代わりに駅前の銀行で記帳して、お母さんに渡してくれないかな」

「いいの、あたしで?」

「うん。頼むね」

 帰り、瑞穂は約束通り銀行で記帳した。なんと100万円の入金があった。

「100万……出版社からね……」

 瑞穂から受け取った通帳を見て、今日子は不思議がった。

「あ、これ親父が本出してた出版社だよ」

 昼にやってきた息子の亮太が覗きこんで言った。

「印税は、第二刷からしか出ないから……親父の本売れたんだよ!」

「そうなの……生きてるうちは印税なんか入ったためしなかったのに」

「ま、仏壇にでも」

「ああ、そうしようか。まあ、宝くじの5000万には及ばないけど……そういや、あのお金、運用任せてたよね?」

 亮太の顔色が変わった。

「ごめん、株に投資したら……」

「どうなったのよ!?」

「先月売り抜けときゃよかったんだけど……もう、ほとんど残ってない」

 亮太は、それが言いずらくて、夕方までぐずぐずしていたのだ。

 泉希は、その日帰ってこなかった。あくる日も、そのあくる日も……。

 警察に捜索願も出したが、見つからなかった。

 十日目に、亮太は、何気なしに父が残したUSBをパソコンで開いてみた。そこにはmizukiの文字しか入ってないはずなのに、人形が映っていた。忘れもしない、ゴミに出した父親の最後の一体が。谷町高校の制服を着て、なにかささやいた。

「さようなら」

 そう言ったような気がした。

 保存しなかったことが悔やまれた。あのUSBは、あれから見つからない。母の今日子には話だけはしたが、信じてもらえなかった。

 今日子は寂しくて仕方が無かったが、泉希が近所づきあいを復活していてくれたので、向かいの巽のオバチャンはじめ話し相手には事欠かなかった。

 今日子は、泉希がいつ帰ってきてもいいように、部屋はそのままにしておいた。

 亡夫の印税は二か月に一度、数万円ずつが振り込まれた。

 今日子は、それが泉希からの便りのように思えた。 

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