大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 50『入関……と、その前に』

2021-12-22 16:07:00 | ノベル2

ら 信長転生記

50『入関……と、その前に』信長  

 

 

 ちょっと待て

 楼門まで100メートルほどの祠の前で呼び止めた。

「え、なに?」

「土地神にあいさつしておく」

「え、ニイチャンが?」

「座って手を合わせろ」

「う、うん」

「祈ってるふりをしろ」

 祠の前に額づくと、祈るふりをして注意を与える。

「俺をニイチャンと呼ぶのはまずかろう」

「あ……」

「扶桑に居ればこそ、信長の転生で通じるが、三国志ではただの美少女だ」

「そうだね」

「それに、あっちでは『あんた』とか『おまえ』としか呼ばなかったのに、どうして『にいちゃん』なのだ」

「だって、いちばん馴染まない呼び方だから、『ニイチャン』と呼べば、いちばんらしくないから正体がバレない」

「三国志では、信長属性よりも美少女属性で見られる。女に『ニイチャン』と呼ぶ不自然さの方が目立つ」

「そうか、偽名を考えなくちゃ」

「ああ、おそらく、通関するときに素性を聞かれる」

「えと……」

「悩むか?」

「うん、少しね……」

「ならば『ニイチャン』と呼べ」

「え?」

「分からんか?」

「分かんないよ、ったったいま、ダメだって言ったじゃん」

「姓は織田の織をとって職(しょく)で名は丹衣、職丹衣(しょくにい)。だからニイチャンでいい」

「あ、なるほど」

「お前は、織市(しょく しぃ)だ。姉妹でニイとシイ。どうだ憶えやすいだろ」

「ニイだからニイチャン。わたしがシイチャン」

「いや、シイだ」

「なんで!?」

「俺は、兄妹をちゃん付では呼ばん」

「ムーー」

「敵地への潜入だ、自然がいちばん。今は、それだけ憶えておけ。それ以上の事は必要に応じて決めていく。いいな」

「う、うん」

「では、いくぞ」

 意識してのことかどうかは分からんが、市はなにかを取り戻そうとしている。

 でなければ、偵察のための擬装とはいえ、俺の事を簡単に『ニイチャン』とは呼ぶまい。

「で、ニイチャン。一人称は『俺』を通すの?」

「ああ、なるべく自然でなければ、とっさの時にボロが出るからな」

「あ、そうだ」

「どうした?」

「忠八くんに知らせなきゃ」

 ポシェットからメモ帳を出して、無事到着したことを書いて紙飛行機に折った。

「これでよし……それ!」

 紙飛行機は低く地を這ったかと思うと、道が曲がった向こうで急上昇し、あっという間に北の空に消えて行った。

 

 祠で話をしているうちに、入関する旅人の数も増えて、なんの詮議をされることもなく街に入れた。

「なんだ、主邑の豊盃だっていうのにユルユルじゃん。なんか、街もショボイし。こんなので、よく扶桑に攻めてこようって思うわね」

「声が大きい」

 しかし、遅かった。

 

 いかつい巡邏の兵隊が聞きとがめて、こちらに歩いてきた。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
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明神男坂のぼりたい18〔ああ、雨!〕

2021-12-22 08:01:54 | 小説6

18〔ああ、雨!〕  

 

       

 ああ、雨!

 目が覚めて、直ぐに雨音に気がついた。

 なんで気がついたかというと、夕べは発作的に部屋の模様替えをしたから。

 え、わけ分からん?

 今から説明します。

 あたしの部屋は三階の六畳。両親の寝室とは引き戸のバリアーがあるけど、エアコンの都合で、夏と冬は開けっ放し。

 今までは部屋の東側にベッドを置いていた。ここだと、両親が隣の寝室に入ってきたときに、ベッドの4/5が丸見え。この位置は子どもの頃から変わってないので気にすることはなかった。

 裸同然の姿でいても、お父さんは男のカテゴリーの中に入ってないから、どういうこともなかった。

 

 一昨日の晩、ちょっとハズイ事件があった。

 芸文祭のことやら、最近会えない関根先輩のことやらが頭の中でゴチャゴチャになって、ボンヤリしてお風呂に入ってしまった。別にお風呂で溺れたりしなかったけど、ベッドに潜り込んで違和感。

 なんと、パンツを後ろ前に穿いてた。

 で、仕方ないので、脱いで穿きかえた。

 不幸なことに、そこにお父さんが上がってきた。瞬間、お父さんに裸の下半身見られてしまった! 一瞬フリーズしたあと、お布団を被った。

「明日香も、女の子らしくなってきたなあ~」

 なに、この言葉!? あたしのお尻見たから? それとも布団被ったリアクション? ハンパな言葉ではよく分からない。

 それで、ベッドが見えないように模様替えになったわけ。

 で、頭がベランダのサッシのすぐ側なんで、カーテンを通して、雨音が聞こえてきたわけですよ。

 

 徒歩通学のあたしは、雨が嫌い。

 

「JR値上げだって……」「え、うっそー!」「小遣い減るかも」「いよいよバイトかなあ」

 学校の昇降口、上履きに履き替えていると電車組の子たちがボヤいている。

 ボヤくのはいいけど、傘をバサバサしないでよね!

 思っても言わないけど。

 前にも言ったけど、うちの家には定期収入が無い。お母さんは「大学までは大丈夫」言ってるけど、娘としては気を遣う。

 分かってる。

 お父さんが、あんまり外出しないのは、しつこい鬱病のせいもあるけど、お金を使わないため……。

 お父さんは、毎月銀行から生活費の自己負担分を下ろしてくる。

 十三万円。八万円はお母さんに渡して、自分は五万円。こないだまでは三万円だった。それをお父さんは、ほとんど使わない。

 なんで分かるかというと、時々お父さん、お小遣い入れた封筒からお金出しては数えてる。チラ見してるだけだけど、残額は月四万くらいのペースで増えてる感じ。


 分かってる。お父さんのお小遣いは名目で、家の非常持ちだしになってんの。

 去年、お婆ちゃんが死んだ時に、小遣い袋は痩せて、四十九日でも薄くなった。

 今年は、お婆ちゃんの納骨と一周忌、それに、オリンピックの頃に建て替えたという我が家は、もうメンテナンスじゃもたないくらいガタがきている。

 店舗部分だった一階は、住居スペースにした時のツギハギがガタたついている。

 他にも、あちこち手を入れた時のムリとかがあって、微妙な段差もチラホラ。

 自分たちの老後を考えて、いつかは、思い切って大規模な改修、あるいは建て替えが必要。

 お父さんは他にも光熱水道、ネット代、電話代、固定資産税、都市計画税、国民健康保険なんかも払ってる。大型家電が壊れたときも、この非常持ち出し。辞めたくて辞めた仕事じゃやない。あたしは基本的には、お父さん可哀想だと思ってるよ。

 高校を出たら、働こうと思ってる。

 あこがれの職業は、明神の巫女さん。

 それとなく聞いてみた。

 巫女さん本人には聞きにくいから、だんご屋のおばちゃん。

「それほどお給料高くないよ……それに、若いうちしかできない仕事だしね」

 そうだ、オバサンの巫女さんて見たことないもんね!

 だんご屋さんの表には『バイト、パート募集』の張り紙。

 でも「うちで働かないかい?」とは言わない。

 若いうちは苦労しろって空気が、この界隈にはある。

 だから、こんな近所で間に合わせちゃいけないってことなのかもしれない。

 コンビニよりも100円安い時給のせいかもしれない。

 

 体育の時間の着替えで気づいた。

 ファブリーズしてくんのん忘れた(;'∀')。

 制服って、めったにクリーニングしないから、けっこう汚れてる。うかつなことに、冬休みにクリーニング出すのを忘れていた。

 まあ、三学期は短い。

 ファブリーズで、なんとかしのいでみる。

 あくる日は、ちゃんとファブって七時半、学校に着く。

 なんで、こんな早いかというと、明日の芸文祭の朝練。

「お早うございます」

 文字通りの挨拶。東風先生は来ていたけど、美咲先輩はまだ。

 まあいい。

 この演劇部とも、明日でオサラバさ!

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

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ライトノベルベスト・『メゾン ナナソ・6』

2021-12-22 05:26:37 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『メゾン ナナソ・6』   

 

 オジサンともオニイサンともつかない人がナナソの壁のペンキ塗りをしている。

 なんだかとても楽しそう、ピンクレディーの歌をいい喉で歌いながら、見事なハケ遣いだ。

 

「あの、ペンキ屋さん……」

 奈菜さんの姿が見えないので、ペンキ屋さんに声を掛けた。

「あの、ペンキ屋さん!」

「え……俺のことかい?」

「他にペンキ塗ってる人いませんから」

「は、ちげえねえ……その時なの~君たち帰りなさい~と(^^♪」

 ペッパー警部の一節を歌いながら、楽しげに続けている。

「ねえ、ペンキ屋さん。奈菜さん……管理人さん、どこに行ったか知りませんか?」

「さあね、おいら、ペンキ塗るのに熱中してたから分かんねえな……それから、おいらペンキ屋じゃねええからね」

「え、じゃあ、なんでペンキ塗ってるんですか?」

「ハケで」

「あ、そういうことじゃなくて」

 なんだか楽しげな、ペンキ屋モドキだ。

「おれ、ここの住人。白戸っての。ペンキ塗りは、おいらの趣味……畳の色~がそこだけ若いわ~(^^♪」

 歌はいつのまにかキャンディーズに替わっていた。とにかく楽しそうで、ほとんど会話にはならない。

「そんなに楽しいですか?」

「おうよ、多少ガタがきてても……あ、これは奈菜ちゃんにはないしょ。こうやってペンキかけるとなんだか自分まで楽しいって気になる。そこんとこがたまんないね……おかしく~って、涙が出そうよ(^^♪」

 なんだか、ボクもやりたくなってきた。

「白戸さん、ボクにもやらせてくれません」

「冗談いっちゃいけねえよ。こんな楽しいこと、おいそれと人様にやらせられるかって……好き~よ 好き~よ こんなに好き~よ(^^♪」

 ボクは、もうたまらずにハケを持って足場に乗ってしまった。

「あ、もう、勝手に……そんなにやりたいの?」

「え、うん。それに塗ってる方が、白戸さんと話できそうだし。塗ってるうちに奈菜さん帰ってきそうだし」

「しかたねえなあ……じゃあ、おれ向こう側の塗り残しやっつけてくるから、ここ頼むな。すぐに終わるから、いっしょにコーラでも飲もうぜ」

 そう言って、白戸さんは、ナナソの向こう側に行った。

 ……ところが、待てど暮らせど白戸さんは現れない。

「白戸さ~ん……」

 向こう側に行ってみると、白戸さんの姿もペンキを塗った形跡もなかった。

 白戸さーん!

 奈菜さんが、白戸さんを呼ぶ声がしてナナソの正面に回った。

「白戸さん、向こうを塗ってくるって、それっきり」

「で、なんでキミがペンキ塗ってるわけ?」

 アハハハ……。

 管理人室で、コーラを飲みながら、奈菜さんと大笑いになった。

「白戸さんはね、家賃貯めちゃって、その代わりにナナソのペンキ塗り買って出たのよ。まあ、それで差引つけようって、コーラまで買ってきたんだけどね」

「あんちくしょー!」

 ボクは二階の「白戸」と張り紙のされた部屋に向かった。ドアにカギはかかっていなかった。

「やられたわね……」

「いいんですか?」

「いいのよ、ボランティアみたいな管理人だったし」

「だったし……どうして過去形なんですか?」

「もう、住人は、だれもいないから」

「誰もって……クミちゃんと大介くんとかは?」

「あの二人は、お風呂屋さんに行ったきり帰ってこない」

 奈菜さんは筋向いの部屋を指さした。そのドアには「空室」の張り紙がされていた。いや、二階の部屋全てに貼ってあった。一階の住人は、とうに誰もいない。ナナソは奈菜さんだけになってしまった。

「まあ、広すぎるけど、あたしの書斎ね、このナナソは……どう、越してこない? もう家賃なんか、どうでもいいから」

「ええ……」

「まあ、考えてみて」

 ボクは、一晩考えて、ナナソに行った。

 ところが、ナナソのあった場所はコインパーキングになってしまっていた。周りの景色もガラッと変わっている……。

 いま思い起こすと、ナナソは、ちょっと変わっていた。奈菜さんはじめ住人の人たちはスマホはおろか携帯も持っていなくって、管理人室の前にピンクの電話があるきりだった。テレビもアナログの箱型だったし……。

 なんだか長い夢を見た後のようだった。

 ひょっとしたら、昨日の返事次第では、夢の向こう側にいられたような気がした。

 

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