大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 51『朝飯で予定通りの恥をかく』

2021-12-28 11:45:27 | ノベル2

ら 信長転生記

51『朝飯で予定通りの恥をかく』信長  

 

 

「お前たち、旅の者か?」

 

 伍長の袖章を付けたのが聞いてきた。

「はい、貧盃(ひんぱい)から豊盃に参ります」

 貧盃と言うと、蔑み半分、親しみ半分の反応。

「仕事を探しに来たのか?」

「はい、豊盃の親類を頼ってと思っています」

「男であれば、すぐにでも仕事にありつけるだろうになあ、惜しいことに女かあ」

 体格はいいが、ちょっと足りなさそうなのが言う。

「男なら、仕事が?」

「おうさ、大戦(おおいくさ)の前だからな、兵隊はいくらでもいる」

「いや、女でも仕事はあるだろ」

 デブが、好色そうな目を向ける。

「女でも仕事が?」

 一歩前に出たのは興味からではない。市の気配が険しくなってきたからだ。

「そうさ、勝ち戦の後は昂ってるからよ、みんな女が恋しいさ」

 アハハハ

 伍長を除く巡邏隊が下卑た笑い声をあげる。

「まあ、それを狙った悪い口入屋(くちいれや)も出てくる、気を付けていけ」

「はい、ありがとうございます」

「うむ」

 軽く頷くと、伍長は巡邏隊を引き連れて街道を西へ向かって行った。

「いけすかない奴ら」

「そうでもない、袖の下を無心することもなかったし、乱暴を働くこともなかった。統制がとれている」

「そーお、デブもマッチョもイヤらしかった」

「そうだな、戦が長引けば崩れそうな奴らだが、今は、あの伍長程度の者でも仕切れている」

「貧盃ってなに?」

「はるか西の街だ」

「よく知ってるわね」

「忠八がメモをくれている」

「え、あんたにだけ!?」

「市への気遣いだ」

「わたしをハミっといて気遣い!?」

「違う、俺にリードさせることで市を守ろうとしているんだ」

「…………」

 分かってはいるようだ。

 自分の才に自信はあるのだろうが、こと実戦にかけては兄の俺の方が上だ。

 こだわりながらも呑み込めるのは、市も戦国を生き抜いた女だからだろう。

 そう思うと不憫でもないが、とにかくは任務を果たすことだ。

「……お腹空いた」

「そう言えば、こっちに来てなにも食ってないな」

「なんか、雑然としてない? 目につく食べ物屋も薄汚いし。これでも、郡都なの?」

「さあな……」

「ムムム……」

 空腹と物珍しさ、そして、持ち前の好奇心で、市は五分ほどでテラス式の飯店を見つけた。

「あそこがオシャレ!」

 通り寄りの席につくと、修学旅行の女生徒のようにウエイトレスを呼ぶ。

「すみませーん、オーダーお願い!」

 いらっしゃいませの返答も待ちきれずにメニューの一点を指し示す。

 こういう決断は早くて適格だ。

「はい、三国朝定食、お二つですね」

「あ、それから、朝の点心もね」

「はい、点心は、メニューのこちらからお選びください」

「これは、ニイに選ばせてあげる」

「であるか……」

「さすがに豊盃ね、探せば、こんなお店もあるのね」

「ありがとうございます。でも、お客さま、ここは豊盃じゃありませんよ」

「え!?」

「豊盃の手前の酉盃(ゆうはい)ですよ、この店は『豊盃茶館・酉盃支店』でございます。お客さま」

「え、そうなの!?」

「はい、豊盃には、うちの本店もございまして、酉盃の十倍ほども大きな街ですよ」

 アハハハ

 周囲の客の反応は、さっきの巡邏隊に近かく、完全に田舎者認定……狙い通り、お上りの二人連れになれた。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

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明神男坂のぼりたい24〔それはない!〕

2021-12-28 08:21:44 | 小説6

24〔それはない!〕  

     


 それはない!

 クラスのみんなが口々に言う。

 このクソ寒いのに体育館で緊急の全校集会だと副担任のショコタンが朝礼で言ったから。

 担任の副島(そえじま)先生じゃないことを誰も不思議には思わない。

 この冬一番の寒波の朝に体育館に集まれということに怒りの声をあげている。

 

 あたしは知ってる。

 だけど言えない。

 体育館は予想以上に寒かった。

 だけど防寒着の着用は認められない。

 校長先生が前に立った。

「寒いけれど、しばらく辛抱してください…………今朝は、君たちに、悲しい知らせがあります」

 ちょっとだけざわついた。

「こら、静かにせんか!」

 生指部長のガンダム(岩田武 で、ガンダム)が叫んだ。

 叫ぶほどのざわつきじゃない。三年生が登校してないので人数的にもショボイ。

 ガンダムの雄叫びは、逆にみんなの関心をかき立てた。

「なにか、あったのか?」的なヒソヒソ声もしてきた。

「昨日、一年二組の佐渡泰三君が交通事故で亡くなりました」

 

 えーーーーーーーーーーーーー!

 

 ドヨメキがおこったけど、これにはガンダムも注意はしなかった。

「昨日、石神井の駅前で暴走車に跳ねられ、一時間後に病院で死亡が確認されました。跳ねた車はすぐに発見され、犯人は逮捕されました……しかし、逮捕されても佐渡君は戻ってきません。先生は、今さらながら命の大切さとはかなさを思いました。ええ…………多くは語りません。皆で佐渡君に一分間の黙祷を捧げます……黙祷!」

 黙祷しながら思った。

 校長先生は、佐渡君のこと個人的には何も知らない。仕事柄とは言え、まるで自分が担任であるみたいに言える。これが管理職の能力。

 裏のことはだいたい分かってる。お父さんも、お母さんも元学校の先生だった。

 学校に事故の一報が入ると、校長は管理職全員と担任を呼ぶ。そして言うことは決まってる。

「安全指導は、どうなっていた!?」

 と、担任は聞かれる。

 慣れた担任は、学年始めや懇談の時に必ず、イジメと交通安全の話をする。

 これが、学校のアリバイになる。

 やっていたら、例え本人の過失でも、学校が責任を問われることは無い。

 で、佐渡君みたいに完全に相手に過失があった場合は、信じられないけど、管理職は胸をなで下ろす。中には「ああ、これで良かった」ともろに安心するようなやつもいるらしい。

 佐渡君も、陰では、そう言われたんだろう。

 そんなことは毛ほどにも見せないで、それはないだろというのが正直な気持ち。

 別に前に出て佐渡君の最後のを話したいことはないけど。ただ石神井で当て逃げされて死んだ。それだけでは、佐渡君がうかばれない。

 改めて佐渡君の最後の姿が頭に浮かんで、限界が近くなってきた。

 だけど、ここで泣き崩れるわけにはいかない。きっと、みんな変な噂たてる。こぼれる涙はどうしょうもなかったけど、あたしはかろうじて、泣き崩れることはしなかった。

 しらじらしい黙祷と、お決まりの「命の大切さ」の話。これも学校のアリバイ。辛抱して聞いて教室に戻った。

 

 佐渡君の机の上には、早手回しに花が花瓶に活けてあった。

 

 あたしは、もう崩れる寸前だった。誰かが泣いたら、いっしょに思い切り泣いてやる。

 当てが外れた。

 みんな、いつになく沈みかえってたけど、泣くものは一人もいない。

 担任の副島先生が入ってきて、なんか言ってるけど、ちっとも頭に入ってこない。

「……なを、ご葬儀は、近親者のみで行うというお話で、残念ながら、ボクも君らもお通夜、ご葬儀には参列できません。それぞれの胸の中で、佐渡泰三のこと思ってやってくれ。この時間、クラスは……泰三を偲ぶ時間にする」

 そう言うと、副島先生は廊下に出てしまった。

「先生!」

 あたしは、廊下に出て、先生を呼び止めた。

「なんだ、鈴木?」

「あたし、佐渡君の救急車に乗ってたんです。佐渡君が息を引き取るときも側に居ました。あたし、せめてお線香の一本も供えてあげたいんです。葬儀場……教えてください」

「……ほんとか。そんな話知らんぞ!」

 予想はしていた。あのお母さんが、事情も説明せずに葬式に来るのも断ったんだ……。

 

 それはないだろ。

 

 そう思ったのが限界だった。

 廊下で泣くわけにはいかない。トイレに駆け込んで、ハンカチくわえて、あたしは過呼吸になりながら、ずっと泣いた……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

 

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紛らいもののセラ・1『ケセラセラ』

2021-12-28 06:29:02 | カントリーロード

らいもののセラ

1『ケセラセラ』     

 

 

「部長、アレンジミスです」

「送れ」

 世良部長の対応は単純で明晰だった。

 瞬時に、問題個所の3D図面が送られてきた。世良自身はメインのモニターに全体の図面を出していた。どの箇所でミスがあっても対応できる本図面である。

 ただちに世良部長は送られてきた部分図面のアレンジミスになった箇所と照合した。

 ふつう船舶の部品は10万トンタンカーで、構造材で100万点。偽装材で60万点ほどである。

 しかし軍艦である自衛艦、それも近年整備し始められたヘリコプター搭載大型護衛艦の最新鋭である。

 26DDH、完成すれば「あかぎ」という帝国海軍から引き継がれた名誉ある艦になる。

 総トン数は3万トンを超え、機密ではあるが3日間の工期で本格的な空母に転用可能な艦である。その秘匿性や空母としての構造のため、部品点数は1千万に近い。

「第二デッキの工程中に、ダクトのアレンジミスが見つかりました。排気ダクトに近すぎて共振がおこりキャビテーションノイズが基準を0・5超えてしまいます」

「よく発見してくれた。船体計画課全員を集めてくれ」

 それから、世良部長は5秒間だけ、私用に時間を使った。

―― 仕事 一週間は帰れない。龍太 ――


「もう、お父さん……」

 妻の百恵は、そっけない亭主のメールを見て、同情半分怒り半分の複雑な顔になった。

「まあ、いつものことだから」

 血のつながらない長男の竜介は、少し遠慮の籠った声で言って、食卓を母子三人分に変更しはじめた。

「竜ちゃん、セラ帰ってくるのは、明日の朝よ」

「あ、そうだっけ、どうもあいつのスケジュールは分かりにくくて。あとでタイムテーブル教えてくれる? 多分帰りは早朝になるだろうから、迎えにいってやるよ」

「ごめんね、ツンデレの愛想なしだから」

「そう言う年頃だよセラは、まだまだ思春期だし。それに、おでんだから、明日の方がおいしくなってるさ」

 竜介は血のつながらない妹を明るくかばった。

 セラは、先月急に思い立って、スキーのバスツアーに参加した。

 特にスキーがやりたかったわけではなく、12歳の中一の時に母が再婚し、同居することになった新しい父と兄に馴染めずにいた。

 兄の竜介が高校生のころは竜介自身が部活や受験準備で忙しく兄妹としての関わりが持てないままに、5年の歳月がたってしまった。

 セラの実の父は、ジョージ・マクギャバンというアメリカ人で、小学校まではセラ・マクギャバンだった。離婚後母の姓になり、里中セラになり、そして10カ月の後、母が今の父と再婚。

 で、世良セラになってしまった。

「ケセラセラよ」

 セラは、母の気持ちをおもんばかって平気を装っていたが、一か月ももたなかった。

 どうしても兄のことを「お兄ちゃん」とは呼べず、いまだに「あの」「その」ですましていた。

 いまは「あんた」である。

 父の龍太は、再婚直後に部長に昇進、同時に日本にとって初めてとなる本格空母26DDHの実質的な責任者になってしまい、セラとの接点はほとんどなくなった。しかし、何百人という技術者を束ねているだけあって、人間関係の要を押えることはうまかった。

 中二のとき、友達の喫煙に巻き込まれ、同席規定で校長訓戒になり「できたら保護者の方もご同席を」と言われ、勤務時間前の申し渡しに龍太自身が付き添った。そして、その時、龍太は父としてセラを張り倒した。

 パン!

「制服を着たまま喫煙に関わるとは何事か! お前と、その友達は自分をおとしめただけじゃない。学校全体の名誉を汚したんだ!」

 セラは理解した。申し渡しに来ない親もいるし、場は懲戒の雰囲気から遠かった。龍太は、セラをはり倒すことで、その場の空気を引き締めた。そして親としてあるべき態度でセラに接した。

 それ以来、龍太とは程よい距離をとりつつ、父娘の関係を持つことに成功していた。

 百恵と竜介二人だけの夕食をつましく終えた深夜。竜介が母を大声で起こした。

「お母さん、セラのスキーバスが燃えている!」

 

 

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