大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい24〔それはない!〕

2021-12-29 06:45:38 | 小説6

25〔心に積もりそうな雪〕  


       

 生まれて初めて学校をズル休みした。

 ズルだというのは、お父さんもお母さんも分かってるみたいだったけど、なにも言わなかった。

 夕べ、ネットで近辺の葬儀会館調べまくった。

「そちらで、佐渡さんのご葬儀はありませんか?」

 六件掛けて、全部外れ。

 自宅葬……いまどき、めったにない。

 それに佐渡君の家の様子を察すると絶対無い。あとは、公民館、地区の集会所……これは、調べようがない。

「ほとけさんは、必ず火葬場に行く、あのへんだったら、○○の都営火葬場だろなあ」

 お父さんが、呟くようにして言った。時間も普通一時から三時の間だろうって呟いた。

「行ってくる……」

 お父さんは、黙って一万円札を机の上に置いた。

「最寄りの駅からはだいぶある。タクシー使え」
「ありがとう。でも、いい」

 そう言うと、三階から駆け下りて、坂の上にペコリ。

 チャリにまたがると、火葬場を目指した。

 佐渡君は、あんな死に方したんだ。タクシーなんてラクチンしちゃダメだ。

 家から一時間も漕いだらいけるだろう。

 スマホのナビで、五十分で着いた。

 補導されるかもしれないけど、ウィンドブレーカーの下に制服を着てきた。

 いつもルーズにしているリボンもちゃんとしてきた。

 こんなたくさんの人て死ぬのかっていうほど、霊柩車を先頭に葬儀の車列がやってくる。

 むろん通勤電車並ではないけど、感覚的にはひっきりなし。

 あたしは霊柩車とマイクロバスに貼ってある「なになに家」いうのをしっかり見ていた。


 ……八台目で見つけた。

 

 霊柩車の助手席に、お母さんが乗っている。事故の日とちがって、ケバイことは無かった。

 霊柩車の後ろのマイクロバスは、半分も乗っていない。ワケありなんだろうけど寂しいなあ。

 窓ぎわに佐渡君に似た中坊が乗っている。弟なんだろうなあ……。

 火葬場に着いたら、だいたい十五分ぐらいで火葬が始まる。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの葬式で見当はつくようになった。


「十五分。いよいよ……」


 数珠は持ってけこなかったけど、火葬場の煙突から出る湯気みたいな煙に手を合わせた。待ってる間は自転車漕いできた熱と、見逃してはいけないという緊張感で寒くなかったけど、足許から冷えてきた。

 焼けて骨になるのに一時間。一時間は、こうしておこう思った。

 佐渡君は、たった一人で逝ってしまたんだから……。

 

「ありがとう、鈴木」

 

 気がついたら、横に佐渡君が立っていた。


「佐渡君……」

「学校のやつらに来てもらっても嬉しくないけど、鈴木が来てくれたのは嬉しい」

「あたし、なんにもできなかった」

「そんなことないよ。破魔矢くれたし、救急車に乗って最後まで声かけてくれた。女子にあんな近くで名前呼んでもらったの初めてだ。それに、手を握ってくれてたよなあ」
「え、そうだった?」
「そうだよ。鈴木の手、温かくて柔らかくって……しょうもない人生だったけど、終わりは幸せだった。ナイショだけどな、夕べ、オカンが初めて泣いた。オカンはケバイ顔とシバかれた思い出しかなかったんだけどな。オレ、あれでオカンも母親だというのが初めて分かった」

「佐渡君……」

「だけど、ほんの二三秒だよ。オカンらしいよ…………じゃ、そろそろ行くな」
「どこ行くの?」

「さあ、天国か地獄か……無になるのか。とにかく鈴木にお礼が言えてよかった……」

 佐渡君の姿は急速に薄れていった。あたしの意識とともに……。

 

「おう、やっと気がついたか」

 気が付いたら、火葬場の事務所で寝かされてた。

「なんか、ワケありの見送りだったんだね。冷たくなってただけだから、救急車も呼ばなかったし、学校にも連絡はしなかったよ。まあ、これでもお飲み。口に合うかどうかわからんけどな」

 事務所のオジサンが生姜湯をくれた。

 暖かさが染み渡る。

「ありがとう、美味しいです」
「もっとストーブの傍にに寄りな。もう、おっつけご両親も来られるだろうから」

「え、親が?」

「ほっとくわけにもいかんのでなあ、生徒手帳とスマホのアドレス見せてもらった」

「いえ、いいんです。あたしの方こそ、お世話かけました」

 オジサンは、それ以上は喋らず、聞きもしなかった。佐渡君も、いろいろあったんだろうけど、それは言なかった。

 そして、だんご屋の軽ワゴンで、お父さんとお母さんが迎えに来てくれた。

 車の窓から外見たら、心に積もりそうな雪がちらほらと降ってきた……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

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紛らいもののセラ・2『アレンジミス またも突然に』

2021-12-29 05:22:36 | カントリーロード

 らいもののセラ

2『アレンジミス またも突然に』     




「部長、アレンジミスです!」

「アレンジミスだと?」

「バスの転落事故です!」

「……詳細を報告せよ!」

 部長天使サリエルは、またかという顔で、部下の課長天使に命じた。

「これです」

 課長の返事と共にプロジェクターに詳報が浮かんだ。

「……谷底に落ちて炎上、乗員乗客全員死亡。無理のない結果だ」

 サリエルは、そう言いながら、今日一日で死んだ200431人の死因と因果関係のチェックに余念が無く、課長天使の言葉を1秒後には忘れてしまった。

「……この中に世良セラが入ってしまいました」
「なんだと……!?」

 サリエルの手がピタリと止まった。

「同姓同名ではなかろうな?」

「はい、係長、主査、主事以下三度ずつ調べましたが、あの世良セラに間違いありません」

「セラは、ラファエル大天使の計画には欠かせない人間、まだ70年ほどの余命があるはずだが」

「それが、ふと思い立って格安バスツアーにいくという想定外の行動に出まして……」

「クリストフォロス(旅行の聖人)の勇み足か。あいつ、このごろノルマの達成に目の色変わってるからな」

「平和は『国際的な相互理解から、世界の民を旅立たせよ』とか、指導が厳しゅうございますから。しかし、ミスはミス。抗議しておきましょうか?」

「バカ、そんなことをしたら、こちらにもトバッチリがくるではないか……時間を巻き戻して救けてしまおう!」

 サリエルは、モニターを見ながら、事故直前まで時間を巻き戻した。

「ちょっと無理な設定だが、奇跡的に助かったってことにしよう」

「バスは50メートルも転落しています。助かったというのは……」

「割り当ての奇跡クーポンがあるだろう!」

「年始早々です、この先なにがあるか……」

「つべこべ言わずにやれ! このままでは始末書ぐらいじゃすまなくなるぞ!」
「は、はい、分かりました」

 課長は、天使のパソコンに入力し始めた。

「ちょっ、なんでお前がわたしのパスワード知ってるんだ……?」

「あ、部長のパスワード簡単ですから……リエリサ……芸がないですね、名前のでんぐり返しだけじゃ……あ!」
「どうした!?」
 
 サリエリが大きな声を出したので、周りの天使たちがびっくりした。

「いやあ、さすが部長のCPは高性能だと、びっくりしました。アハハハ」

「アハハ、それだけ大事な仕事をしているということだ! で……どうした?」

「セラの魂はすでに浄化されております……」

「そんな……天国には何百億って魂がいるんだぞ、部署も違うし、内部処理だけじゃすまなくなるぞ!」

「…………背に腹は代えられません」

「なにか、いい考えがあるのか?」

「2年連続勤務評定1で、堕天使になった者がおります。こいつのソウルを代わりに入れておきます」
「そ、それでいけ、それで。セラの経験や記憶は、まだ体の中にある。なんとか奇跡的生還で辻褄をあわそう」

 こうやって、堕天使某のソウルはセラの肉体に宿った……。

「おーーい、ここに生存者がいるぞ!」

 消防団員の一人が、崖に張り出した樹の枝に積もった雪の上、その真綿布団にくるまれたようなセラを発見したのは、生存者はいない模様と、地元警察が発表しようとしていた数分前、夜の白々明けのころであった。

 もともとアメリカ人とのハーフで顔立ちの整ったセラではあったが『まるで眠れる天使のようだった』と発見した消防団員の弁であった。

「セラ、俺だ、竜介だ! 目を覚ませ!」

 徹夜で車をとばしてきた兄の竜介が声をかけたとき、セラは意識を取り戻した。

「あ……お兄ちゃん」

 それは奇跡的な、そして感動的な、セラ生還の声であった!

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