大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・116『トラッドメイドは滝夜叉姫』

2021-12-26 12:04:52 | ライトノベルセレクト

やく物語・116

『トラッドメイドは滝夜叉姫』 

 

 

 改札を抜けてクネクネ行くと表通りなんだけど、様子が変だ。

 

 お茶の水とかに来るのは初めてなんだけど、これは違うと思った。

 だって、通りに出ると車とか走ってなくて、いや、走ってることは走ってるんだけど、数が少ないし、なんだかレトロ。

 歩いてる人は着物が多い。女の人はほとんどそうだし、男の人も着物にハンチングって人が多い。完全な洋服は、学生とお巡りさん。それと、わたしを迎えに来たメイドさんたちぐらい。

「どうぞ、これにお乗りください」

 え、馬車!?

 ほら、皇族の人たちが乗るような馬車だよ!

 ドアには神田明神の御紋。たしか、ナメクジ巴って、尾っぽの長い三つ巴。

 レムとラムみたいなメイドさんは、一人が御者台に上って、もう一人は、ドアを開けて畏まっている。

「し、失礼します」

 声がひっくり返りそうになって、馬車のステップに足を掛ける。

 ギシ

 サスペンションが効いていて、グニャって感じで乗り込む。

 続いてグニャっていったかと思うとトラッドな方のメイドさんが乗ってきて向かい合わせに座る。

 すると、ラムみたいな方が一礼してドアを閉めるとパッカー車の助手さんみたいにキャビンの後ろに立ったまま乗った。

 ハイ!

 レムみたいなメイドさんが鞭を入れると、二頭の馬は穏やかに走り出したよ。

 パッカポッコ パッカポッコ

「申し遅れました、わたし、平将門の娘で滝夜叉と申します」

「え、将門の!?」

「はい、落ち着いてお聞きください」

「は、はい」

 まさか、のっけからのカタキ登場と思ってないから、カバンからコルトガバメントを取り出すわけにもいかない。

 ちょっとアセアセだよ。

「父の将門は病なのです」

「ヤマイ、病気ですか?」

「はい、父は我慢強いので、周囲の者も気づくのが遅れて宿痾(しゅくあ)となってしまいました」

「しゅくあ?」

「こじらせて、容易には直らない持病のことです」

「あ、ああ」

 お爺ちゃんの腰痛みたいなもんだ。

「父将門に宿った宿痾ですので、なかなか容易なものではありません。近ごろは、その宿痾を父そのものと間違えて討伐に乗り出す者まで現れる始末。そして、今度はやくも様までお出ましになると、さるお方から知らせがございました」

「え、そうなんですか?」

 どうも、聞いていたのと様子が違う。

「はい、やくも様には本当のところをお話しておかなければ、間違って父を成敗されるかもしれません」

「かもじゃなくって、本当に成敗するつもりでした(;'∀')」

「父も、直にお会いしてお伝えしなければならないと申しますので、かようにお迎えに出た次第です」

「そうだったんですか……でも、ここって御茶ノ水とか神田のあたりなんですか?」

「はい、あの大屋根が湯島の聖堂、その角を曲がりますと神田明神の大鳥居が見えてまいります。ただ、半分がところ異界と重なっていますので風景は令和のものとは異なります」

「はあ……」

 外に目をやると、通行人たちが微妙に異界じみてきている。

 アニメのように目鼻立ちがクッキリしていたり、顔の造作が大きかったり、中にはエルフのように耳がとがっている者もいる。自動車の中には車輪が動物の脚になって走っているものがあったり、でも、きちんと秩序だっていて、悪いものには思えなかった。

「さすがはやくも様、異形の者でも良し悪しはお分かりになっているようですね」

 滝夜叉さんがホッと胸をなでおろした。

 ホッとすると、優しい笑顔。ちょっとだけ安心する。

「あ、いよいよです」

 大鳥居を潜ったさきは、神社……ではなくて大きなお城が聳えていた……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝

 

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明神男坂のぼりたい22〔お祖母ちゃんの骨折〕

2021-12-26 06:45:27 | 小説6

22〔お祖母ちゃんの骨折〕  


       


 お祖母ちゃんのお見舞いに行った。

 お風呂場でこけて右肩を骨折。いつもは元気なお祖母ちゃんがしょんぼりしている。

「もう一人暮らしは無理ねえ……今日子、どこか施設探してくれないかい」

 ベッドに腰掛けて、腕吊って、情けなさそうに言うお祖母ちゃんは、かわいそうと言うよりは可笑しい。

 まあ、今年で八十五歳。で、人生初めての骨折。弱気になるのは分かるけど、今回の落ち込みは重傷。

「あんな落ち込んだら、一気に……弱ってしまうなあ」

 インフルエンザが流行ってるので、十分しか面会できなかった。

 で、帰りにお祖母ちゃんの家に寄る途中で、お父さんがポツンと言った。

「そうだ、冷蔵庫整理してやらなきゃ」

 お母さんは現実的。

 入院は二か月と宣告された。やっぱり冷蔵庫の整理からだろうね。

 昼からは、伯母ちゃん夫婦も来た。もう病院の面会はできなかったみたい。

「ババンツ、いっぱい野菜買って……」

 伯母ちゃんとお母さんは、お祖母ちゃんのことババンツと言う。

 乱暴とかわいそうの真ん中の呼び方。

「あたしも、大きくなったら、お母さんのことババンツて呼ぶの?」

 小さい頃、そう言ったらお母さんは怖い顔した。

「そうだ、パーっとすき焼きしよう!」

 伯母ちゃんの一言で、にわかにすき焼きパーティーになった!


 なるほど、肉と糸コンニャク買ってきたら、すき焼きができるぐらいの材料だった。

 お祖母ちゃん苦しんでるのに大丈夫って言うくらい盛り上がった。

「しんどいことは、楽しくやらなきゃね」

 お母さんと伯母ちゃんの言うこともわかるけど、あたしは、若干罪悪感。それが分かったのか、こう返してくる。

「明日香は、ババンツのいいとこしか見てないからなあ。そんなカイラシイ心配の仕方できんのよ」

 そうかなあ……そう思ったけど、すき焼き食べてるうちに、あたしもお祖母ちゃんのこと忘れてしまって、二階でマリオのゲームをみんなでやってるうちに、お祖母ちゃんのこと、それほどには思わなくなった。

 明日香は情が薄いと思う自分も居たけど、伯母ちゃんとお母さんの影響か、コレデイイノダと思うようになった。

 帰りは、掃除して、ファブリーズして、おじさんの自動車に乗せてもらって家まで帰った。

 

 途中、信号待ちでクラスのS君を見た。


 ほら、十日戎のとき、あたしがお祖母ちゃんのために買った破魔矢をあげて、それから学校に来るようになったS君。

 歩道をボンヤリ歩いていた。一目見て目的のある歩き方じゃないのが分かった。

 そう言えば、先週は学校で見かけなかった。

 あたしってば気にも留めてなてなかった。

 破魔矢あげたのも親切からじゃない。間がもたないから、おためごかしに、あげただけ。S君は、それでも嬉しかったんだ。その明くる日からは、しばらく来てた。それから、あたしはS君のことほったらかし。


 ヤサグレに見えるけど、S君は、あたしなんかよりもピュア。

 おじさんの車は、あっという間にS君を置き去りにして走り出した。

 当たり前だ。あたし以外はS君のこと知らないもん。

「ちょっと、車停めて!」

 その一言が言われなかった。

 あたしは偽善者だなあ……なんだか、S君の視線が追いかけてくるような気がした……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

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ライトノベルベスト【大西教授のリケジョへの献身・3】

2021-12-26 05:41:21 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

【大西教授のリケジョへの献身・3】   

 




 明里は夜を待っていた。

 研究室の中は、何度か来て様子が分かっている。

 廊下には監視カメラはあるが、研究室にはない。幕下大学の予算上の問題なのか、研究の秘密を守るためなのかは分からない。

 明里は、LEDのライトにブルーのセロハンを被せ、部屋の目的の場所に向かう。狭いロッカーに夕方から籠もっていたので、体のあちこちが痛い。

「イテテ……これね、スタッフ細胞は」

 これだけの大発見の研究対象を、ほとんどセキュリティーなしで保管している。

 大学も瑠璃の助手という身分の軽さ、若さ、そしてまだまだ動物実験の段階であることなどで、マスコミが騒ぐほどには関心を持っていない。失踪した大西教授のことも半年の休職期間が過ぎれば退職処分にする予定だ。

 だから、明里は半月ここに通い、研究室の内部や、機器の操作を覚えていった。父を取り戻すために。父が退職になれば、大学を続けることも難しくなる。人より少し見場がいいというだけの母は生活能力はゼロである。

 カチャリ

 コピーした鍵で、スタッフ細胞の保管庫はあっさり開いた。

 覚えたマニュアル通り、左腕の皮膚にチクッと針をたて、切手大のスタッフ細胞の膜を貼り付けた。薄い膜は血を吸って、ピンク色になったかと思うと、数分で、皮膚と同化した。

 一瞬不安がよぎる。

―― 二十歳のあたしが、三十年まえに戻ったら、赤ちゃん以前……存在さえしなくなるんじゃ ――

 でも、明里は好奇心と欲望と、もう一つ訳の分からない感情に身を任せた……。

 朝日のまぶしさに気が付くと、同じ研究室の床に寝転がっていた。

「失敗?」

 思わず声が出たが、見渡した研究室の様子が少し違った。

 机や椅子に木製のものが混じっている……机の上にパソコンやモニターがない……そして決定的だったのはカレンダー。

 日付は1985年、昭和60年の5月になっている。

「か、鏡……」

 立ち上がると、すぐ洗面の鏡を見た。心配していた消滅は起こっていなかった。

 そして微妙に変化があった。

 おでこに出来ていたニキビがきれいに無くなっている。頬に触れると不摂生からきていた肌荒れもなくスベスベになっていた。ネイルカラーが無くなり5ミリほど伸ばしていた爪はきれいに切りそろえられていた。耳のピアスの穴も無かった。床を見ると、渋谷で買った星形のピアスが転がっている。

 そして、暑いことに気が付いた。夕べは2021年の2月にいたので、ダウンジャケットにムートンのブーツである。

 明里は、ダウンジャケットを脱いで、ブーツを誰のものともしれないサンダルに履きかえた。

 しかし、まだ暑い。

 モコモコになるのが嫌いな明里はジャケットの下は厚着はしない。それでもタイツと、シャツの下のヒートテックは暑苦しい。

 時計を見ると、まだ7時過ぎ。こんな時間に来る者もいないだろうと、タイツを脱いで、ヒートテックを脱いだところで、研究室のドアが開いた。

「あ……」

「う……」

 明里の上半身は、ブラ一枚だった。

 で、その姿に驚いたのは、写真でしか見たことのない若い日の父であった……。

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