大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・083『落盤事故から一か月』

2021-12-07 12:49:56 | 小説4

・083

『落盤事故から一か月』 本多兵二    

 

 

 A鉱区の落盤事故から一か月、犠牲者のうち八名の身元が判明して、それぞれの身内や縁者に引き渡された。

 

 まだ五名は、身元が判明しなかったり、遺族や縁者の消息がつかめなかったりで、それぞれ割り当てられたカンパニーの社員が遺骨の守りをやっている。

「やっと咲いたわ」

 一杯の桜を抱えて、恵が嬉しそうに食堂にやってきた。

 遺骨は、お岩さんの発案で、まとめて食堂に安置してある。

 食堂が、いちばん賑やかで活気があって、カンパニーのみんながリラックスしていて、日に三度は必ず訪れるところだからだ。

 食事の場に遺骨はそぐわないという意見も一部にはあったが、ヒムロ社長が「それはいい!」と手を叩いたことと、ナバホ村の村長や、フートンの主席が仲間を連れて線香をあげに来ても(線香をあげたあとは大小の宴会になる)対応がしやすく、みんな喜んでいる。

「促成栽培じゃ、ちょっと申し訳ないんだけどね」

 ごっつい体格にかかわらず、恵と二人で可憐に花を活けながらお岩さんが頬を染める。

「西ノ島じゃ、ろくな草花がないからね、ちょっと冒険だったけど」

「お岩さんの、活け方って、ちょっと池坊の感じがする」

「なにを言うの、こんな飯作る事しか知らないオバハンに(#^_^#)」

「フウマさんは、けっきょく分からなかったんだよね」

「フウマって漢字で書けば『風魔』で、いかにもだったんだけどね、公安十課にいたところまでは分かったけど、そこから前は皆目……」

「仕方がないよ、公安は退官した者の情報は完全に消去してしまうからね」

「そうよね、所属していた事実そのもが、本来は分からないもんね。所属していたことを突き止めただけでも、社長はよくやったわよ」

「まあ、分からなかったら、このお岩が居る限り、食堂で賑やかにお守してやるさ」

「チルルは、分かると思ったんだけどね……」

 亡くなる前、苦しい息の中で語ってくれたことで、チルルについては簡単に知れると思ったんだが、彼女についても経歴をトレースすることができなかった。

 この島にやってきた人間やロボットは、人には言えない過去を持ったものが多い。自分で、あるいは、ここに来るまで所属していた組織から経歴を消された者が多い。

 一見、気楽に見える西ノ島だけど、その地下に隠れているものはパルス鉱石ばかりではないようだ。

「あ、晩飯の仕込みしなくっちゃ! お骨にかまけてて忘れるとこだ!」

「手伝いましょうか?」

「すまないねえ、守りやくさんにお願いして」

「僕もやりますよ、火星じゃ野戦食とかやってましたから」

「いや、下ごしらえとかは別にして、厨房はお岩の城だからね。そうだ、マッシュルームが……(体格に見合わない身軽さで冷蔵庫を確認する)……あ、ちょっと切れかかってる! シメジ3キロ、シイタケ2キロ、エノキ1キロ、ついでにもやし3キロとってきてくれる?」

「「了解!」」

 恵と二人でB鉱区のマッシュルーム栽培庫に向かう。

「なんだか、兵二もカンパニーの社員みたいになってきたわね」

「ここに来て日が浅いから、こういう便利仕事にはうってつけ」

「それ、村長の考え? それとも兵二?」

「あ、両方だと思う」

「アハハ」

 ファジーでいいよね的に恵が笑う。

 恵も一筋縄ではいかないやつなんだけど、こういうところを見ると、冒険好きの女の子だ。

 

 しまった!

 

 栽培庫に入って、恵と二人で立ちつくしてしまった。

 マッシュルームの類は、どれも原木に実っているばかりで、一から収獲するところからやらなければならない。

 てっきり、コンテナかワゴンに種類ごとに入っているものを持っていくだけだと思っていた。

「お岩さんて、新鮮さを大事にする人なんだ……」

「必要な時に、必要なだけとってくる人なんだ」

 いちいち収獲していては間に合わない。急いでやったら、収穫に適さないものまで採ってしまいそうだ。

「……そうだ!」

「あいつに頼もう!」

 二人の意見が一致した。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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明神男坂のぼりたい・03〔おこもりの元旦〕

2021-12-07 05:54:46 | 小説6

03〔おこもりの元旦〕   

  

 


  良くも悪くも忘れっぽい。

  友だちとケンカしても、たいてい明くる日には忘れてしまう……というか、怒りの感情がもたない。

 宿題を三つ出されたら一つは忘れてしまう。

 まあ、忘れないのはコンクールの浦島の審査ぐらい。昨日も言った(^_^;)? 

 いいかげんしつこい。


 で、忘れてはいけないものを忘れていた。

 去年の七月にお婆ちゃんが亡くなったこと……。


 夕べお母さんに言われて、仏壇に手を合わせた。


 納骨は、この春にやる予定なんで、お婆ちゃんのお骨は、まだ仏壇の前に置いてある。

 毎朝水とお線香をあげるのは、お父さんの仕事。実の母親なんだから、当たり前っちゃ当たり前。


 お母さんは、お仏壇になんにしない。むろんお葬式やら法事のときはするけど、それ以外は無関心。

 鈴木家の嫁としては、いかがなものか……と思わないこともないけど、そのお母さんに「喪中にしめ縄買ってきて、どうすんの!」と言われたから、あたしも五十歩百歩。


 お婆ちゃんは、あたしが小さい頃に認知症になってしまって、小学三年のときには、あたしのことも、お父さんのことも分からなくなってしまった。

 それまでは、盆と正月には石神井のお婆ちゃんとこに行ってたけど、行かなくなった。

  最後に行ったのは……施設で寝たきりになってたお婆ちゃんの足が壊死してきて、病院に入院したとき。

「もう、ダメかもしれん……」

 お父さんの言葉でお母さんと三人で行った。

 そのときは、電車の中で、お婆ちゃんのことが思い出されて泣きそうになった……。

 保育所のときに、お婆ちゃんの家で熱出してしまって、お婆ちゃんは脚の悪いのも忘れて小児科のお医者さんのとこまで連れて行ってくれた。

 無論オンブしてくれたのはお父さんだけど、あたしのためにセッセカ歩くお婆ちゃんが、お父さんの肩越しに見えて嬉しかったのを覚えてる。

 粉薬が苦手なあたしのために指先に薬を付けて舐めさせてくれたのも覚えてる。その後、お母さんが飛んできて、一晩お婆ちゃんちに泊まった。お布団にダニがいっぱいいて、朝になったら体中痒かったのも、お婆ちゃんの泣き顔みたいな笑顔といっしょに覚えてる。


 それから、お婆ちゃんは脳内出血やら骨盤骨折やら大腿骨折やらやって、そのたびに認知症がひどなってしまった。


 お祖父ちゃんも認知症の初期で、お婆ちゃんのボケが分からなくなって放っておけなくなった。

 最初は介護士やってる伯母ちゃんが両方を引き取り……この間にもドラマがいっぱいあるんだけど、それは、またいずれ。

 伯母ちゃんも面倒みきれなくなって、介護付き老人ホームに。

 そして、お婆ちゃんは自分の顔も分からなくなって「お早うございます」と鏡の自分に挨拶し始めた。

「しっかりしろ!」

 お祖母ちゃんの認知症の進行が理解できないお祖父ちゃんは、お祖母ちゃんにDVするようになってしまい、脚の骨折を機に、お婆ちゃんだけ特養(特別養護老人ホーム)に引っ越すことになった。


 それが三年のとき。

 お父さんは介護休暇を取って、毎日お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの両方を看ていた。

 
 お祖父ちゃんの老人ホームと、お祖母ちゃんの特養は二キロほど離れていた。

 お祖父ちゃんを車椅子に乗せて、緩い上り坂のお婆ちゃんの特養まで押していった。むろんあたしはチッコイので、手を沿えてるだけで、主に押してるのはお父さん。


 だけど、道行く人たちは、とてもケナゲで美しく見えるらしく、みんな笑顔を向けてくれた。お祖父ちゃんもあたしも気分よかった。お父さんは辛かったみたいだったけど。


 その日は、たまたまお母さんが職場の日直に当たっていて、あたし一人家に置いとくことができなかったので、お父さんが連れて行ってくれたんとだと分かったのは、もうちょっと大きなってから。


 お父さんは、三か月の介護休暇中毎日、これをやっていた。

 

 お祖父ちゃんは11月11日という覚えやすい日に突然死んだ。中一の秋だった。

 あたしはお婆ちゃんが先に死ぬと思ってた。


「お祖父さんが亡くなられた、お父さんから電話」

 先生にそう言われたときも、お祖母ちゃんの間違いかと思った。

 そして、二年近くたった、去年の七月にお婆ちゃんが一週間の患いで亡くなった。

 見舞いは行かなかった。

 お父さんと伯母ちゃんが相談して延命治療はしないことになっていたので、亡くなるまで特養の個室に入っていた。

 お父さんは見舞いに行きたそうにしてたけど、お父さんは鬱病が完全に治ってない(このことも、チャンスがあったら言います)こともあって、伯母ちゃんから言われてた。

「あんたは来ちゃダメ」
 
 で、七月の終わりにドタバタとお葬式。

 それなりの想いはあったんだけど、昨日は完全にとんでしまってた。

 我ながら自己嫌悪。

 で、お仏壇に手ぇ合わせて二階のリビングに。

 で、観てしまった。

 

『あの名曲を方言で熱唱 新春全日本なまりうたトーナメント』

 
 東京で見る雪は こっでしまいとね♪

 とごえ過ぎた季節んあとで♪

 去年より だっご よか女子になっだ♪

 
 普通に歌っていたら、どうということもないんだけど、方言で歌われるとグッとくる。

 熊本弁の『名残雪』なんか涙が止まらなかった。


「なんでだろ……」

 呟くと、お父さんが独り言のように言った。

「方言には二千年の歴史がある。標準語とは背負ってる重さがちがう……」

 背おってる……

 なるほどと思った。

 方言は普段着の言葉で、人の心に馴染んで手垢にまみれてる。歴史を超えた日本人の喜怒哀楽が籠もっている。そうなんだ……。

 そう納得した瞬間に、お祖母ちゃんのことも、読まなきゃならない台本も飛んでしまった。


 かくして、おこもりの元旦は日が暮れていった……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん


 

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ライトノベルベスト『制服レプリカXXL』

2021-12-07 05:00:28 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『制服レプリカXXL』   
         

 
 
 近頃はネットで買えないものは無い。

 デブ性だけど出不精じゃないお母さんも、このごろはウィンドウショッピングもネットですませている。
 
 子供会の古紙回収の度にニヤリマークの付いた段ボール箱をたくさん出すのが恥ずかしい。
 
 こないだは、さすがに段ボール箱には入っていないけど、自動車まで通販で買ったのにはびっくりした。

 
 で、今日は、もう一つびっくりするものが来た。

 
 なんと、女子高生の制服……よく見るとレプリカがやってきた。
 
 むろんお母さんが自分の為に買ったもの(^_^;)。
 
 今はモデルチェンジして、無くなったS女学院の制服。それもMサイズ……とてもXXLのお母さんには着られません。
 
 洋裁用のトルソーにかけて、しばらく思いにふけったあと、お母さんは出かけてしまった。

 
 Mサイズは、あたしにピッタリ。で、好奇心と、ちょっとした憧れで、そのレプリカの制服を着てみた。

 
「聖子!」
 
 そう呼ばれて気が付いた。
 
「あ……?」
 
「あ、じゃないわよ。昨日T高の淳といっしょに、山手線デートしてたでしょ!?」
 
 え?

 あたしは何のことか分からなかったけど、聖子というのがお母さんの名前で、怖い顔をして改札に入ってきたのが、お母さんの親友の鈴木敦子さん。その鈴木さんの女子高生時代の姿だろうとは、見当がついた、トレードマークの方エクボがそのままだったから。
 
 鈴木のオバサンは子どもがいないせいか、今でも若々しくって可愛い。むかし乙女、いま太目のお母さんとは大違い。

 夢でも見ているのか、あたしは二十年以上昔の東京にタイムリープしたようだ。それも若かったお母さんになって。

「敦子、誤解よ!」
 
「なにが誤解よ!」
 
「だって」
 
「だって、なに!? だってなによ!?」
 
 
 言い合いながらあたしと敦子とやってきた山手線に乗った。
 
 
 冷房が、今の山手線より効きすぎというのが第一印象。次に周りの視線。S女学院は都内でも屈指のお嬢様学校だし、制服がかわいいので女子高制服図鑑のトップの常連だ。
 
「誤解で山手線一周半もするかあ?」
 
「ついよ、つい。お互いの学校の事や友だちのこと喋っているうちに、ついね」
 
「あたしのことなんかサカナにしてたんでしょ(ꐦ°᷄д°᷅)」

 そう言う敦子を横目で見ると、なんと涙ぐんでいる。

「あのね、うち校則とかきついから、制服のまま渋谷でお茶ってわけにもいかないでしょ……それに、敦子のことも話しておきたかったし」
 
「あ、あたしの何を話したのよ!?」
 
「内緒。知りたかったら自分で聞くことね。あ、もう秋葉原だから降りるね」
 
 あたしは、そう言って敦子一人を電車に残して、さっさと降りた。

 
 オタクもメイドもAKBもない秋葉原。
 
 
 まだ電気店街の匂いを色濃く残していたころのアキバではない秋葉原。お父さんは、この町の一角で電子部品のお店をやっている。
 
「なんだ聖子、店にくるなんて珍しいな。なんかオネダリでもするんじゃないのか」
 
「ごめん、ちょっと奥で休ませて」
 
「なんだ、具合でも悪くなったのか?」
 
 お父さんの言葉を背中で聞いて、あたしは奥の事務所兼休憩室に行って、ひっくり返った。

 山手線一周半も噂話なんかしない。もっと大事な話をしたんだ。

 あたしも淳のことは好きだ。でも、敦子がもっと好きなことも知っている。で、感情は別にして、理性的には敦子のほうが淳の彼には似つかわしい。

 
「わたし……他に好きな人がいるの」

 
 精一杯の演技で言いのけた。まるで昔の日活青春映画だ。
 
「ごめんね!」
 
 そう言って、あてもなく降りたのが渋谷だった。
 
 渋谷は、交差点で立っているだけでも、この制服は目立ちすぎるので、すぐに地下鉄に乗って運よく空いていたシートに座ったら数秒で眠ってしまった……。
 
 痛い思い出が、頭の中をグルグル……グルグルグルグル……

 
 気が付いたら、お母さんが帰って来ていた。
 
 
「似合うわね、昔のあたしそっくりだ」
 
 そう言って、お母さんはスマホで制服姿のあたしを何枚も写す。

 その夜、享が危篤になったこと、奥さんになっていた敦子とずっといっしょに居たことを聞かされた。

 あれからのお母さん、敦子、享の人生が、どう変わって今に至ったか、レプリカでは、そこまでは分からなかった……。

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