大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい12〔てへぺろ(๑´ڡ`๑)〕

2021-12-16 08:09:26 | 小説6

12〔てへぺろ(๑´ڡ`๑)〕  

     

 

 ジリリリリ! ジリリリリ!


 え、なんで目覚ましが!?

 頭が休日モードになってるんで、しばらく理解できなかった。

 そうだ、今日はドコモ文化ホールで、裏方の打ち合わせ兼ねてリハーサルだったんだ!

 朝のいろいろやって……女の子の朝ていろいろとしか言えません。

 こないだリアルに書いたら自己嫌悪だったしね。

 

「明日香、タクシーで行け!」

 

 五千円札出してお父さんが言ってくれる。

「ううん、電車で行く!」

 まだ、ギリ間に合うって気持ちと、タクシーだったら日課の男坂とは逆方向の昌平橋通りに出なきゃならない。

 大事な日に明神様をスルーするわけにはいかない!

 

 で、いつものように男坂駆け上がる。

 

 キャ!

 神田明神男坂門の標柱曲がったところで巫女さんと鉢合わせ!

 申し訳ないことに、タタラを踏んで巫女さんの胸を掴んでしまった(#'∀'#)!

「す、すみません! 急いでたもんで!」

「え、あ、うん、大丈夫、気にしないで(^_^;)」

 寛容な笑顔に、もう一度ペコリと頭を下げて、そのまま随神門から出てしまい――しまった!――と気が付いたときには鳥居を出てしまって、明神様にあいさつできなかった。

 とっさに振り返って最敬礼!

 もっかい回れ右して駆けだそうと思ったら、だんご屋のおばちゃんと目が合う。

 申し訳ないけど、アハハとてへぺろ(๑´ڡ`๑)して駅に向かう。

 まあ、おばちゃんも笑ってたんで、いいや。

 

 で、けっきょく早く着きすぎて、ホールの前で待つ。

 

 やがて、東風先生と美咲先輩がいっしょに来た。

「お早うございます」

「お早う、明日香」

 と、先生。

「なんだ、まだ開いてないの?」

 挨拶も返さないで美咲先輩はぷーたれる。

 すると、玄関のガラスの中から小山内先生が、しきりに指さしてるのに気が付いた。

「え……」

「ああ、横の関係者の入り口から行けるみたい」

 美咲先輩が言う。こういうことを読むのは上手い。

―― ほんとうは、美咲先輩の芝居だったんですよ! ――

 思っていても、顔には出ません出しません。


 ちょっと広めの楽屋をとってもらってるんで、直ぐに稽古。

 台詞も動きもバッチリ……なんだけど、小山内先生は「まだまだ」と言う。

「エロキューションが今イチ。それに言った通り動いてるけど、形だけだ。舞台の動きは、みんな目的か理由がある。女子高生の主人公が、昔の思い出見つけるために丘に駆け上がってくるんだ。十年ぶり、期待と不安。そして発見したときの喜び。そして、そのハイテンションのまま台詞!」

「はい」

 ほんとうは、よく分かってない。

 でも、返事はきちんと真面目に。

 稽古場の空気は、まず自分から作らなくっちゃ。

 稽古が落ち込んで損するのは、結局のとこ役者。

 そして、今回は役者はあたし一人。

 

 よーし、いくぞ!

 

 美咲先輩は気楽にスクリプター。

 まあ、がんばってダメ書いてください。書いてもらって出来るほど上手い役者じゃないですけど。

 もう、本番二週間前だから、十一時までの二時間で、ミッチリ二回の通し稽古。

「もうじき裏の打ち合わせだから、ダメは学校に戻ってから言う」

 小山内先生の言葉で舞台へ。

 南風先生はこの芸文祭の理事という小間使いもやってる。ガチ袋にインカム姿も凛々しく、応援の放送部員の子らにも指示をとばす。

 本番通りの照明(あかり)作って、シュートのテスト。

「はい、サスの三番まで決まり。バミって……バカ、それ四番だろが! 仕込み図よく見なさい!」

 東風先生の檄が飛ぶ。

 放送部の助っ人はピリピリ。

 美咲先輩はのんびり。

 美咲先輩、本番は音響のオペ。で、今日は、まだ音が出来てないから、やること無し。

 正直言て、迷惑するのは舞台に立つあたしなんだけど、学年上だし……ああ、あたしも盲腸になりたい。

「それじゃ、役者入ってもらってけっこうです」

 舞台のチーフの先生がOKサイン。

「はい、じゃ、主役が観客席走って舞台上がって、最初の台詞までやりましょ。明日香いくぞ!」

「はい、スタンバってます!」

 一応舞台は山の上いう設定なんで、程よく息切らすのに走り込むことに演出変えになった。

「……5,4,3,2,1,緞(ドン)決まり!」

 あたしは、それから二拍数えて駆け出す。

 階段こけないように気をつけながら、自分の中に湧いてくるテンション高めながら、走って、走って、舞台に上がって一周り。

 

「今日こそ、今夜こそあえるような気がする……!」

 

 ああ、さっきまでと全然違う。

 こんなにエキサイティングになったのは初めて! いつもより足が広がってる! 背中が伸びてる! 声が広がっていく!

「よっし、明日香。その声、そのテンション、忘れんなよ! 舞台の神さまに感謝!」

 小山内先生は、舞台には神さまが居るって、よく言う。

 ただ、気まぐれな神さまなので、誰にでも微笑んではくれない。

―― あと二週間、微笑んでいてください ――

 心の中でお願いした。

 さあ、昼ご飯食べたら、学校で五時まで稽古。

 がんばるぞ!

 気を引き締めて、観客席見ると美咲先輩が見事な大あくび。

 カチン!

「もう、あなたの毛は生えたのだろうか!?」

 美咲先輩めがけてアドリブを、宝塚の男役風にかます。

 さすがにムッとした顔……舞台のチーフの先生が。

―― え、なんで? ――

「あの先生はアデランスなんだよ、バカ!」

 東風先生に怒られてしまう。

 てへぺろ(๑´ڡ`๑)

 …………

 ああ、スベッテしまった(╥﹏╥)。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『わたしの彼は吸血鬼・3』

2021-12-16 05:23:34 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『わたしの吸血鬼・3』  

     


 事務所に戻ると衣装の仮縫いが出来ていたので、その補正をやった。

 明日は、新曲のプロモを撮るんで、時間がないのだ。

 アイドルは忙しい……正確には、アイドルグループが忙しいのであって、わたし個人が忙しいのとは意味が違う。そりゃあ、センターの潤ちゃんなんかはピンの仕事も多く「あたし、忙しいの!」って、資格はあると思う。でも、選抜のハシクレに過ぎないわたしは、たまにバラエティーのニギヤカシに呼ばれる以外は、モエちゃんといっしょのラジオが一本あるっきり。

 アイドルは忙しいなどと、イッチョマエなこと言えてるのはハシクレ選抜であるおかげ。

「おつかれさまー」

 そう言って、帰宅できたのは、もう日付が変わりそうな時間だった。

 すぐにお風呂のスイッチ入れてメイク落としていると、鏡にお月さまが映っている。

 フルムーンだ。

「……こういう風流なことに気づけるのは、わたしの感性……それとも、ただ潤ちゃんほどには忙しくないせい?」

 アイドルに相応しいロマンチストだからだよ……

 遠くから声がした。

 え? え?

 鏡に映った満月の中にこうもり傘差した男の人が、メリーポピンズみたく、わたしの部屋のベランダに近づいてきた。

「あ、アルカード……!?」

「おっと、サッシは開けちゃいけないよ。今夜は、キミの素顔を見られただけで十分さ」

「あ、ハズイ!」

「そのままで……」

 アルカードの声にはあらがえなかった。わたしは、じっとアルカードの目を見つめてしまった。

「さあ、もう一分だ。まもなくお風呂も沸くよ。じゃあ、またね……」

 そういうと、アルカードは、こうもり傘を差して、再び満月の中に消えていった。

 それから、アルカードとの距離が縮まるのには時間はかからなかった。

 お互いのグル-プの曲は三日後には、オリコンの一位と二位を競うようになった。

 アルカードは三日間、夜になるとやってきてくれた。

 ベランダにばかり居られては、かえって人目に付く。四日目の夜、わたしはアルカードを部屋に入れた。

 アイドルといっても、わたしクラスのアイドルは、そうそう良いところには住んでいない。キッチンとバスの他は、ウォークインクロ-ゼットが付いているのが取り柄という、1Kだ。むろんセキュリティーなんかはしっかりしていて、多少の物音が上下左右の部屋に漏れることはないけども。

 アルカードは、部屋の隅で体育座りして、わたしを見つめている。話は、とりとめがないってか、もう小学生並。

「どこのロケ弁が美味しい?」「11時回るとタクシー券もらえることが分かった!」「潤はデベソなんだよ。でも『さよならバタフライ』のプロモとるときに整形したの。デベソの整形!」「アハハ」

 てな感じ。

 けして、わたしが座っているベッドの上には上がってこようとはしない。そして、長くても三十分もすると、こうもり傘で帰っていく。

 わたしは、アルカードが耐えていることが分かった。わたしたちは、エレベーターの中でAの行為にまでは行っていたけど、Hにはほど遠い。

「そこじゃ遠いよ、こっちにおいでよ(#^0^#)」

 わたしは、ベッドの半分を空けた。二回同じことを言って、やっとアルカードはベッドの端に腰掛けた。

「もうちょっと、寄ってきていいよ……」

「これ以上、近寄ったら、オレは、もう後戻りできない」

「……できなくってもいいよ」

「ありがとう、その前に言っておかなきゃならないことがある」

「オレは、ほんとは吸血鬼の子孫なんだ」

「え……?」

「マジで……仲間はもう人間の血が濃くなり過ぎて、もう吸血鬼とは言えない。サイドボーカルのアルカーダは、まだマシな方だけど、クォーターさ。もう吸血の必要もない。でも、オレは違うんだ。ネイティブな吸血鬼なんだ。このグループ始めたのも、オレに必要な血液を集めるためなんだ」

「冗談でしょ?」

「本当さ、もう昔みたいな吸血はやらないけど、ってか、できない。だから輸血用の血液のいいのを買ってまかなっていた。でも、不適合な血が多くて、もう、オレは見かけほど丈夫じゃないんだ」

 そのとき、月光が差し込んできて、アルカードの手を照らした。まるで八十歳のオジイチャンのようだった。

「その手……」

「もう、手まで若さを保っていられなくなってきた……も、もう帰るよ」

「待って!」

「オレ、最初はキミの血が欲しいためだけに、近づいた。あのグル-プの中で無垢なのはキミ一人だったから」

「無垢って……?」

「キミは、まだ男を知らない。キスさえ、あれが初めてだった。そして、オレが変な現れ方をしても、キミはなんとも思わなかった。そんなキミを好きになってしまって……もう、キミの血はもらえないよ」

「……血を吸われたら、わたしも吸血鬼になってしまうの?」

「それはないよ。母さんと父さんが神さまと契約したんだ。オレを生かしておくために、もう吸血鬼のDNAは残さないって。自分たちの命と引き替えにしてね」

「だったら、わたしを。あしたはオフだから、一日貧血で倒れていたっていいんだから!」

「だめだ、どうせ、吸血鬼は、オレの代でおしまいなんだ。早いか遅いかだけの違い……」

 ドタ

 そこまで言うとアルカードは倒れ込んでしまった。わたしは彼の口をこじ開けて、わたしの首にあてがったが、アルカードは、もう噛みつく力も残っていなかった。

 こうと決めた女は強い。

 わたしはカッターナイフをもってくると、開いたアルカードの口の上で手首を切った。そんなに深い傷ではない。これからも彼に血をあげるためには、これで命を落とすわけにはいかない。

 ポタリポタリと、わたしの血はアルカードの口に入っていく……しだいに、血の色を取り戻していくアルカード。

「よかった、アルカード生きてちょうだい」

 すると、アルカードが急に苦しみだした!

「こ、この血は!」

 アルカードは、顔を隠すようにして、ベランダから、いつもの十倍ぐらいのスピードで逃げていった。

「あ……!?」

 わたしは思い出した。わたしは男性経験はない。そればっか思っていた。これに間違いはない。針千本飲んでもいいくらい間違いはない。

 でも、選抜に入るまでに、三度ほど整形をやっている。それも潤ちゃんのデベソの手術のようなものじゃない。一度は出血が多く輸血したこともあった……あれだ!

 S・アルカードは、突然の解散になった。原因はアルカードの体調不良。解散記者会見には、アルカードのお父さんが車椅子に押され、酸素ボンベを付けながら現れ、息子のことを謝っていた。

 お父さんは、記者会見が終わると、わたしの方を見てニッコリと笑った。で、気がついた。

 アルカードのお父さんは、彼をたすけるために、とうに亡くなっているはずだってことを……。

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