大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・086『助っ人隊を迎える』

2021-12-30 14:48:02 | 小説4

・086

『助っ人隊を迎える』 本多兵二    

 

 

 村長、ほんとうにありがとう!

 

 社長は深々と頭を下げた。

 本業が扶桑幕府の小姓なので、篤実な礼儀作法に特別に感心することはない。

 でも、日ごろから島中が友達付き合いのような西ノ島では、社長の礼儀は際立っている。

 

「よしてくれ、同じ島の開拓者だ、困った時はアイミタガイ……あってるよな、兵二?」

「はい、お互い様、英語では『We're faced with the same deifficuity』です。それで合っています」

「ということだから、気にしないで使ってやってくれ。お前らも自分の村だと思って働いてくれよ」

「合点だ、村長!」

 サブが拳を突き上げ、三十人ほどのお助け隊が「おお!」と声をあげる。

「ありがとう、感謝の仕方というのは、こういう感じのしか知らないので、申し訳ないです」

「ほら、また頭を下げる」

「あ、これは……」

 ワハハハハハ

 お助け隊を出迎えた広場は暖かい笑いに満ちた。

 

 落盤事故で、かなりの死者と怪我人を出したので、ナバホ村もフートンも、それぞれ三十人ほどの人とロボットを貸してくれることになった。

 昼前にフートンのお助け隊がきて、同じように礼を言って主席に笑われたところなので、社長は顔を赤くして頭を掻くしかない。

「将軍や森ノ宮さまと同じ感じね」

「そうだね」

 恵の感想に相槌を打つ。

 ヒムロ社長は、遡れば、伝統的に礼儀にうるさい家系の出なのかもしれない。

 しかし、礼儀と言うのは型に過ぎないから、心が籠っていなければ、ただの慇懃無礼。

 かえって反発や不信を買ってしまう。

 まだ、この人を知って一か月にならないが、ヒムロ社長は「本物なのかも」しれない。

「本物か……」

「ん?」

「フフ、声に出てたわよ」

「え、そう?」

「おや、あれは……」

 

 メグミが顔を向けた先には、三人の少年を引き連れたお岩さんが食堂に向かっている。

 食材を猫車や台車に載せて運んでいる様子だ。

 

「お岩婆さん、三人を手下にしやがった」

 隣の岩場でシゲさんが、不足そうに腕を組んでいる。

「手下ですか」

「おうよ、作業体と……なんてったけ、オートマ体? 二つに使い分けられるようになってから、子分みたいに使ってやがる」

「わたしのせいじゃないわよ」

「わーってるよ。パチパチは働きもんだからよ」

 シゲさんなりに感心しているんだ。照れ隠しなんだろう、石ころを蹴飛ばし、鉢巻を締め直しながら鉱区の方へ行ってしまった。

「兵二も、こっちに居続け?」

「うん、村長が『なんなら移籍してもいいぞ』って」

「ふうん……お互い、火星から因縁の仲ね」

「ああ、そうだね」

「あたし、本性は天狗党なんだけど……兵二は、そういうとこ聞いてこないね?」

「君のことは、お城に居る時に調べまくったからね……」

「え、あ……その目つき、なんだかヤラシイんですけど」

「でも、一つだけ」

「なによ?」

「メグミの外見、緒方未来だろ?」

「これはね……」

「まさか……ひょっとして固着してる?」

「うっさい! あたし、食堂の手伝い行って来る、パチパチは夕方には作業機械に戻っちゃうからね……」

 

 いちどゆっくり話してみるか。

 そう思って、僕も午後の作業の準備にかかる。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長 
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい25〔あ、忘れてた〕

2021-12-30 07:54:53 | 小説6

26〔あ、忘れてた〕 


                       


 バレンタインデーを忘れてた!

 バレンタインデーは、佐渡君が火葬場で焼かれた日だったので、完全に頭から飛んでいた。

 もっとも覚えていても、あたしは、誰にもチョコはあげなかった。

 うちは、お母さんがお父さんにウィスキーボンボンをやるのが恒例になっている。だけど、ホワイトデーにお父さんがお母さんにお返ししたのは見たことがない。

 あたしに隠れて? それはありえない。

 お父さんは、嬉しいことは隠し立てができない。

 年賀葉書の切手が当たっても大騒ぎする。まして、自分が人になにかしたら言わなくてはすまないタチ。

 結婚した最初のお母さんの誕生日にコート買ったのを、今でも言ってるくらいだしね。

 実のところは、ウィスキーボンボンの半分以上はお母さんが食べてしまうから、そう感謝することでもなかったりするんだけどね。

 佐渡君には、チョコあげたらよかった思ったけど、後の祭り。

 それに、あたしが見た佐渡君は、おそらく……幻。

 幻にチョコは渡しようがないよね。

 

 あ、一人いた!

 

 学校の帰りに思い出した。

 絵を描いてもらった馬場さんにはしとかなくっちゃ。

 で、帰り道、御茶ノ水のコンビニに寄った。

 さすがに、バレンタインチョコは置いてなかったので、ガーナチョコを買った。

 包装紙はパソコンで、それらしいのを選んでカラー印刷。A4でも、ガーナチョコだったら余裕で包める。

「こういうときって、手紙つけるんだろなあ……」

 けど、したことないので、いい言葉が浮かんでこない。

 べつに愛の告白じゃない、純粋にお礼の気持ちだ……感謝……感謝、感激……雨アラレ。

 馬鹿だなあ、なに考えてんだろ。


「マンマでいい!」
「わ、ビックリした!」

 お父さんが、後ろに立っていた。

「珍しいな、明日香が周回遅れとは言え、バレンタインか……」

「もう、あっち行って!」

 

 ありがとうございました。人に絵描いてもらうなんて、初めてです。

 チョコは、ほんのおしるしです。

 これからも、絵の道、がんばってください。

             鈴木 明日香

 

「あ、バカだあ! 便せんに書いたら、チョコより大きいよぉ。別の封筒に入れるのは大げさだし……」
「これに、書いときな」

 お父さんが、名刺大のカードをくれた。薄いピンクで、右の下にほんのりと花柄……。

「お父さん、なんで、こんなん持ってんの!?」

「これでも作家のハシクレだぞ、こういうものの一つや二つは持ってる」
「ふ~ん……て、おかしくない?」
「おかしくない。オレの書く小説って、女の子が、よく出てくるからな……」

 頭を掻きながら出ていった。とりあえずカードに、さっきの言葉を書き写す。

「あ……これ感熱紙だ」

 パソコンでグリーティングカードで検索したら、同じのが出てた。

「まあ、とっさに、こんなことができるのも……才能? 娘への愛情? いいや、ただのイチビリだ」

 

 で、今日は三年生の登校日。

 

 メール打つのにも苦労した。

 何回も考え直して「伝えたいことがあります」と書いて、待ち合わせは美術室にした。

「え、もらっていいの? オレの道楽に付き合わせて、それも、元々は人違いだったのに(^_^;)」

 嬉しそうに馬場さん。

 だけど、最後の一言は余計……。

「明日香……なにかあったな、人相に深みが出てきた」
「え、そんな、べつに……」

「これは、ちょっと手を加えなきゃ。そこ座って!」
「は、はい!」

 馬場先輩は、クロッキー帳になにやら描き始めた。

「ほら、これ!」

 あたしの目と口元が描かれてた。それだけで明日香と分かる。やっぱり腕だなあ。

「なにか胸に思いのある顔だよ。好きな人がいるとか……」

 とっさに、関根先輩の顔が浮かぶ。

「違うなあ、いま表情が変わった。好きな人はいるようだけど、いま思い出したんだ」

 なんで、分かるの!?

「なんだか、分からないけど、寂しさと充足感がいっしょになったような顔だ」

 ああ、佐渡君のことか……ぼんやりと、そう思った。

 

 帰り道、七日ぶりに明神さま。

 佐渡君の事故やら葬式やらがあったんで、明神さまの境内を通るのを遠慮していた。

 正確には、もっと控えなきゃいけないんだろうけどね。

 

 きちんと、二礼二拍手一礼。

 お賽銭も200円(お正月でも100円だから、奮発してる)

 

 お参りしてから思った。

 神田明神チョコとかあったら、ぜったい売れる!

 

 思ったことは表情に出る、馬場先輩も言ってたよね(#^_^#)

 

「あら?」

 授与所の巫女さんに見られてた。

 でも、巫女さんは余計なことは言わない。「あら?」だけ。

 奥ゆかしい。

 でも、なんだか恥ずかしいところを見られたようで、収まりが悪い。

「明神チョコってないんですか?」

 照れ隠しにバカなことを口走る。

「あ、それアイデアね!?」

 ポンと手を叩いて意外の反応。

 むろん、バカな明日香に合わせた冗談なんだけど、清げな巫女服姿で当意即妙で返されると、もう尊敬。

 一週間のご無沙汰やら周回遅れのバレンタインやらの事情と、明日香の気持ちと、そういう諸々を、ポンと手を叩いて親しみに変えてしまう。

 やっぱり、あたしの明神さまだ。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

紛らいもののセラ・3『初めての「お兄ちゃん」』

2021-12-30 05:50:27 | カントリーロード

らいもののセラ

3『初めての「お兄ちゃん」』 

 

「セラ……おまえどこか打ったか?」

 兄妹になって4年、初めて妹は兄竜一のことを「お兄ちゃん」と呼んだ。

 それもバス転落事故で奇跡的に命が助かり、意識が戻った、その場に兄がいて……そこで発した言葉、それが義理の兄妹としての垣根でであった「お兄ちゃん」という呼びかけであったのである。

 竜一は感動のあまり、冗談めかしく答えなければ涙が出てくるところだった。

 セラも思った。お兄ちゃんという呼び方が一番自然で無理が無い。どうして自分は竜一のことを素直に呼べなかったんだろうと。

 気のせいか、こうして生きてることが、とても新鮮だった。

 病室の窓には降りしきる雪、無機質な病室の機器や、そこから発せられる電子音、腕に刺さった点滴の針、そして肌の違和感……。

「あ……あたし、この病衣の下、スッポンポンだ!」

「そりゃ、あれだけの事故の後だ、全身の精密検査やっただろうからな。それより先生呼ぶぞ」

 竜一は、義理という垣根の取れたセラとの時間が愛おしかったが、逆にそういう脆さをセラに知られるのも恥ずかしく、直ぐにナースコールでドクターを呼んだ。

 医師二人とナースが三人やってきた。簡単な問診や検査があったが、すでにCTや脳波検査も終わっている。医師の一人は精神科だ。

「一晩経過観察で泊まってもらいます。事故の瞬間のことなんかフラッシュバックすることがありますので、お兄さんも付いていてください」

「はい、母も昼には来ると思いますので。家族でしっかりケアします」

「それはよかった。こういう大事故から生還すると、後のメンタルケアが重要ですから」

 その晩は、やってきた母と兄の三人でくつろげた。

 父からはメールがきていた。

 仕事が忙しく行けないことを詫び、家に帰ったら会社まで顔を見せに来いという仕事一徹な中にも、父らしい心配と労いがこもっている内容だった。

「嫌なら断ってください。集まったマスコミが記者会見を申し入れてきました」

 あくる朝、医師が検診のついでに言った。言葉の感じから「断っていいよ」という気持ちが感じ取れた。

「いえ、お受けします」

「「え?」」

「わたし以外の乗客はみんな亡くなられたんです、お話ししておく義務があると思います」

 引っ込み思案なセラがはっきり言ったので、母も兄も驚いた。

「A新聞です。それでは事故当時は、眠っていらっしゃって、事故前後の記憶はないということですね」

「はい、スキーの帰りですから、発車して5分もすると寝る人が出始めて、わたしも20分ほどで眠ってしまいました。だから寝てからのことは分かりませんが、バスにも運転手さんにも特別に変わったことはありませんでした」

 セラは、予想していたので、事故の状況は覚えている限り綿密に答えておいた。しかし、マスコミと言うのはくどいなあと思い始めた。

「週刊Bです。お見かけしたところ、とても美しくていらっしゃって……そのセラさんはハーフでいらっしゃるんですか?」

「そのご質問は事故とは関係ありませんので、お答えできません」

 セラが言う前に、医師が遮った。

「いえ、お答えします。ここで答えなくても、あとで取材に来られるでしょうから。ここで言っておいた方が互いに手間が省けます」

「血縁上のお父様は?」

「アメリカ人でした。6年前に交通事故で亡くなって、4年前に母が今の父と再婚しました。申し上げておきますが血縁上の父は、人を守ろうとして起こった事故です。本人の名誉のために、それ以上のお答えはできかねます。申し上げておきますが、わたしにはアメリカの市民権もあります。行き過ぎた取材にはアメリカの民法も適用されますので、ご留意ねがいます。わたしがハーフであることに関しては以上です。こちらからお聞きしていいですか?」

 きっぱりした答えに、居並んだ記者たちは一瞬言葉が出なかった。

「わたしは、会見の最初に、亡くなった方々への鎮魂の言葉を述べました。40人近い方が亡くなりました。記者の皆さんからお言葉はありませんでした。亡くなった方々とご家族の方々のために、一分間の黙とうをして会見を終わりたいと思います」

 完全にセラが会見をリードした。黙とうが終わった後、セラはとどめを刺した。

「黙とうの前より人数が減っています。起きたばかりの惨事に哀悼の意を示せないなんて、マスコミ以前に人間として問題を感じます。ぜひ、その記者の方々を取材されることをお勧めします。では、これで失礼します」

 紛いもののセラが第一歩を踏み出した……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする