大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・268『今年も大晦日』

2021-12-31 11:06:15 | ノベル

・268

『今年も大晦日』さくら     

 

 

 お寺で煩わしいのんは、来訪者への対応。

 

 ピンポ~ン

 ドアホンが鳴って「はい、どちらさんでしょうか?」と対応して、普通の家やったら、まあ、五秒もあったら玄関。

 ところが、お寺であるうちの家は、三十秒はかかる。

 ドアホンの受信機はリビングにある。リビングがいちばん人が居てる確率が高いさかい。

 

 リビングでドアホンが鳴って「はい、ただいま出ます」とか言うて廊下に出て、つっかけ履いて25メートル先の山門へ出向くと、まあ、三十秒。

 タイミングが悪くて、自分の部屋に居てる時に『ピンポ~ン』鳴ったら、三秒待つ。

 リビングかキッチンに誰か居ったら、その誰かが出る。

 応対する気配が無かったら、あたしが出撃することになる!

 ドタドタドタ!

 廊下に出て階段を下りて、廊下からリビング。

 ドアホンに「はい、どちらさまでしょうか?」と、応対して、山門に出たら……一分ぐらいはかかってしまう。

 

 そこで、あたしの部屋にもドアホンの子機を付けてもろた。

 

 あたしの部屋で応対したら、廊下を逆に行って本堂から山門に出ることもできる。

 まあ、十秒足らずのショートカットやねんけどね。

「すまんなあ、なんか門番させるみたいで」

 子機のネジを締めながらテイ兄ちゃんが恐縮する。

「ううん、この方が便利やさかい」

 と、明るく応える。

 

 実はね、お祖父ちゃんが、近ごろ足やら腰やらが具合が悪い。

 昼間のリビングに居てる確率はお祖父ちゃんがいちばん高い。

 まあ、ちょっとでも役に立てばと思うワケです。せめて冬休みとか夏休みとかぐらいはね。

「さくら、偉いよ」

 留美ちゃんは尊敬してくれる。

「だって、ふつうの中学生はドアホン鳴っても出ないよ、めんどうなことは嫌だからね」

「そう……やろねえ。まあ、うちは人相手にするのは気にせえへんほうやからね」

「うん」

「あ、うちがおらん時に鳴っても、留美ちゃんは出んでええからね」

「出るよ、わたしだって!」

「おお、ほんなら門番2号っちゅうことで」

「ラジャー!」

 留美ちゃんも、ちょっと成長。

 よきかなよきかな(^▽^)

 

 で、大晦日の今朝は朝寝坊。

 

 朝寝坊と言うても、十分ほどやねんけどね。

 夕べは、受験に向けて、留美ちゃんと勉強してたんで、ちょっとポカやったんですわ。

 留美ちゃんは、あたしが寝ても「もうちょっと」と頑張ってたからね、起こさんように、チャチャッと着替えて山門へ。

 ブル……

 さすがに寒い。

 カロン コロン カロン コロン カロン コロン

 まだ薄暗い境内の石畳にツッカケの音響かせて、郵便受けから新聞を出す。

 うちの新聞は、朝日と産経。

 なんか、新聞同士ケンカしそうな組み合わせ。

 檀家さんにはいろんな人が居てるさかい、両極の新聞を読んでバランスをとっとこという営業方針かららしい。

 

 リビングに新聞置いて、ナニゲに三面を開く。

 

 北新地放火事件の容疑者が死んだ。

 この事件は、あまりにも凄惨なんで、進んで読んだり見たりはせえへんかった。

 今の記事も見だしを見ただけ、中身は読まへん。

 ブルっと身震い。

 

 昼間、留美ちゃんと勉強してたら、ドアホンが鳴った。

「はい、どちら……」

 最後まで言うまでもなく、宅配のニイチャン。

「すぐ行きま~す」

 

 認め印にぎって、本堂経由で山門へ。

 

「ちょっと重いですよ」

「だいじょうぶだいじょうぶ……」

 ズシ

 めっちゃ重たい。

 クス

 いっしゅん宅配のニイチャンが笑いよる。

「アハハ、へいきへいき(^_^;)」

 伝票見ると、重量8キロ!

 受取人は、いつものことながらテイ兄ちゃん。

 テイ兄ちゃんは、珍しいもの好きの通販オタク。また、しょうもないもんを買うたにちがいない。

 

「おお、来たか来たか!」

 従妹の苦労をねぎらいもせんと、朝ごはん食べに来たテイ兄ちゃん。

「なんやのん、このクソ重たいもんは!?」

 我ながらツンツン。

「これはやなあ……」

 ガサゴソ……

「「「な、なんやこれは!?」」」

 食卓のみんながタマゲタ。

 

 それは、縮尺1/10の釣鐘やおまへんか!

 

「今年も、除夜の鐘ツアーでけへんからなあ、発想の転換や」

「これ、ほんまに撞けるんか?」

 お祖父ちゃんが、眼鏡かけてしげしげと見る。

「あったりまえですがなあ~(^▽^)」

 ちゃんと、組み立て式の釣鐘堂もあって、文字通り朝飯前のお撞き染め。

 ゴ~~ン

「「「おお!」」」

 イッチョマエに釣鐘の音がする。

「しかし、境内には本物の釣鐘があるのに、なんや、ケッタイやなあ……」

 お祖父ちゃんは、ちょっと複雑。

 街中のお寺は、騒音になるとかで、リアルに撞けるとこは少ない。

「実はね……」

 ニヤニヤしながらテイ兄ちゃん。

「頼子さんとこにも同じもんを送ってある……」

「「「え?」」」

 

 なんと、頼子さんとうちの如来寺で、スカイプで繋いで共同で除夜の鐘を撞こうというタクラミらしい。

 

 さて、令和三年の『せやさかい』の大晦日。

 どんな年越しの夜になりますやら。

 来年もよろしくお願いいたします。

                         佐藤 さくら

 

 

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明神男坂のぼりたい・27〔思い出した!〕

2021-12-31 06:22:46 | 小説6

27〔思い出した!〕 


        


 ねえ、頼むよ!

 もう朝から三回目。
 東風先生に、顔会わすたびに言われる。

「地区総会、行ける者がいないのよ」
「美咲先輩に言えばいいでしょ!」

 三回目だから、つい言葉もきつくなる。

「美咲は休みだから、言ってんの。三年にも頼んだけど、もう卒業したのも同然だから、みんな断られた」

「……美咲先輩、見越してたんとちゃいます。今日のこと?」

 そう、今日は連盟の地区総会がある。四時半から平岡高校で。

 だれが好きこのんで、夕方の四時半に平高まで行かなきゃならないのさ。春の総会にも行ったけど、偉い先生のつまらん話聞いておしまいだった。演劇部の顧問が、なんで、こんな話ベタなんだろうと思っただけ。

 二度と御免!

「明日香、あんたクラブに籍はあるんだよ……」

 とうとう先生は、奥の手を出した。二年先の調査書が頭をよぎる。

「グヌヌ……」

「ごめん、じゃお願いね。ほれ、交通費。余ったらタコ焼きでも食べといで!」

 先生は、野口英世を二枚握らせると『前期入試準備室』の張り紙のある部屋へ入っていった。先生は入試の担当だ、仕方がないと言えば仕方がない。なんせ、試験は明日だ。

 平岡高校。

 去年、浦島太郎の変な審査で、あたしたちを抜かして本選に行った学校よ。忘れかけてたムナクソ悪さが蘇る。

 ……まあ、終わったこっちゃ。

 大人しく一時間も座っていたら済む話。交通費をさっ引いた野口君でタコ焼き食べることだけを楽しみに席に着く。

 案の定、地区代表の先生のつまらん総括の話。いつもの集会と同じように、前だけ向いて虚空を見つめる。少し自腹を切ってタコ焼きの大盛りを食べようと考える。

「……というわけで、今年度のコンクールは実り多き成果を残して終えることができました」

 地区の先生の締めくくりの言葉あたりから、タコ焼きの影が薄くなって、消えかかってた炎が大きなってきた。

「では、各学校さんから、去年を総括して、お話ししていただきます。最初は……」

 このあたりから、タコ焼きの姿は完全に消えてしまった。みんな模擬面接みたいな模範解答しか言わない。

「え、次はTGH高校さん……」

 で、まず一本切れた。

「あんなショボイコンクールが、なんで成功だったのか、あたしには、よく分かりません。観客は少ないし、審査はいいかげんだし……」

 会場の空気が一変したのが分かった。

 驚き、戸惑い、怒りへと空気が変わっていくのが、自分でも分かった。だけど止まらない。

「いまさら審査結果変えろとは言いません。だけど、来年度は、なんとかしてください。ちゃんと審査基準持って、数値化した審査ができるように願います。あんな審査が続くようだったら、地区のモチベーションは下がる一方です」

「それは、無理な話だなあ。全国の高校演劇で審査基準持ってるトコなんかないよ」

 連盟の役員を兼ねてる智開高校の先生がシャッターを閉めるみたいに言う。

 あたしは、ものには言いようがあると思ってる。

 一刀両断みたいな言い方したら、大人しい言葉を思っていても、神経が逆撫でされる。

 頭の中でタコ焼きが焦げだした。

「なんでですか。軽音にも吹部にも、ダンス部の大会でも審査基準があります。無いのは演劇だけです。怠慢じゃないですか!?」

 言葉いうのはおもしろいもので、怠慢の音が自分のなかで「タイマン」に響いた。あたしは、ますますエキサイトした。

「そんな言われ方したら、ボクらの芝居が認められてないように聞こえるなあ……」

 平岡の根性無しが、目線を逃がしたまま言った。

「だれも、認めないとは言ってない! それなりの出来だったとは思う。ただ審査結果が正確に反映されてないって言ってるんです!」
「そ、それは、ボクらの最優秀がおかしい言うことか!?」
「そう、あれは絶対おかしい。終演後の観客の反応からして違ったでしょうが!」
「なんだって!?」
「思い出してみてよ! 審査結果が発表されたときの会場の空気、あなたたちだって『ほんとうか?』って顔してたでしょうが!」
「だけど、ボクたちが選ばれたんだ!」
「あれのどこが最優秀よ! 台詞は行動と状況の説明に終始して、生きた台詞になってない。ドラマっちゅうのは生活よ! 生きた人間の生活の言葉よ! 悲しいときに『悲しい』て書いてしまうのは、情緒の説明。落としたノート拾うときの一瞬のためらい。そういうとこにドラマがあるのよ。あんたたちのは、まだドラマのプロットに過ぎない。自己解放も役の肉体化もできてない学芸会よ!」

 お父さんが作家のせいか、語り出したら、専門用語が出てくるし、相手をボコボコにするまでおさまらない。

「そんなに、人を誹謗するもんじゃない!」

 司会の先生が、声を荒げた。

「なにを、シャーシャーと言ってるんですか! もともとは、こんな審査をさせた連盟の責任でしょうが!?」

「き、きみなあ……!」

「さっさと、審査基準作って、公正な審査しないと、毎年こうなるの、目に見えてるじゃないですか!」
「あ、あんまりよ、あなたの言い方は!」

 ○○高校の子が赤い顔して叫んだ。

 こいつは本気で怒ってない。ほんとうに怒ったら、涙なんか出ない。顔は蒼白になって目が座るもんだ。

 ドッカーーン!

 タコ焼きが爆発した。

「あんたねえ、この三月に、ここに居る何校かと組んで合同公演やるんだってね。ネットに載ってたわよ。嬉しそうに劇団名乗って、学校の施設使って何が劇団よ! 合同公演よ! なんで自分のクラブを充実させようとしないの! 演劇部員として技量を高めようとしないの!」

 ……あとは修羅場の愁嘆場だった。

 これだけもめて、公式の記録には――第六地区地区総会無事終了――

 

 帰りに明神さまに手を合わせたら、なんだかソッポを向かれたような気がした。

 

 ごめんなさい、ちょっとやり過ぎてしまいました。

 ちょっと?

 あ、いえ、かなり……え、今の声は?

 

 見回しても、近くに人影は無い。随神門のあたりを掃除している巫女さんが見えるだけ。

 拝殿に一礼して、巫女さんにも小さくお辞儀して男坂を下りて帰りました。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん

 

 

 

 

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紛らいもののセラ・4『鎮魂の花より団子』

2021-12-31 05:18:08 | カントリーロード

らいもののセラ

4『鎮魂の花より団子』 




 ひょっとして復讐めいた記事を書かれるんじゃないかと覚悟はしていた。

 経過観察の入院が終わった昨日、セラは兄の車で事故現場に寄った。

 途中花屋さんで鎮魂の花束を作ってもらった。

 その日の朝に、死亡者が39人と分かったので、39本の白菊を中心にカスミソウであしらってもらった。

 事故から三日たっているので、現場検証は終わっていたが、谷底の焼けただれたバスの残骸はそのまま。

 バスが転落したところには、すでに数十本の花束が並べられ、遺族と思われる人たちが十数人塑像のように立っていた。

 離れたところで車を降りると、セラ一人で転落現場に歩を進めた。十メートルほど手前で、遺族の人たちと谷底のバスに一礼した。その挙措と顔立ちでセラと知れたのだろう、数人の遺族と、その倍のマスコミに取り囲まれた。

「セラさんね、よかったわね……あなた一人だけでも助かって」
「さ、あなたの花束は真ん中に」
「いえ、そんな……」

 ここまではよかった。

 花をささげ、しゃがんで合掌している背中から、マスコミが質問攻めにしてくる。

「申し訳ありません、言うべきことは記者会見で申し上げました。これ以上の質問は勘弁してください」
「あ、あんた黙とうの時に抜け出した〇〇新報だろ!」
「週刊△△もいるじゃないか!」
「いや、わたしたちは……」

 遺族のオバサンが、道を作ってくれたので、セラは駆け足で兄の車に向かい、そのまま事故現場を離れた。兄の竜介を車に残しておいて正解だった。かっこうの取材ネタと、記者たちに取り巻かれ、遺族の人たちを巻き込んで一騒ぎになったかもしれないところだ。

「セラ、もうこのことは、しばらく忘れろ。早く日常生活に戻った方がいい」

 ハンドルを切りながら、竜介が労りの籠った忠告をしてくれた。

 夕方家に帰ると、担任の北村と教頭のアデランスが来ていた。

「大変だったわね世良さん。病院に行こうかと思ったんだけど、あの混雑ぶりを見て、お家へ帰ってくるまで待たせてもらったの。ごめんなさい」

 教頭のアデランスが、セラの顔色を窺うようにして頭を下げた。

 学校は叩かれやすい。半ば学校のアリバイとして来ているのは分かっている。しかし正直家にまで来られるのはゲンナリだった。が、セラはおくびにも出さない。

「ご迷惑をおかけしました。学期はじめの忙しいときにわざわざ恐縮です。でも完全に異常なしです、お医者さんの診断書もあります。ご心配なさらないでください。必要なら、明日校長先生に事情の説明とお礼を申し上げさせてもらいます。だから、始業式なんかで、特にわたしのことをとりあげるのは勘弁してください」

 それから10分ほど話して北村とアデランスは帰って行った。

 二人とも悪い先生じゃない。ただ学校の体面に縛られているだけなんだ……セラは、思いのほか疲れていない自分に驚いた。以前のセラは、少し神経質で、ちょっとしたことでくたびれてしまう方だったが、今は兄の竜介の方が参っている。

「お母さん、手っ取り早く食べられるものないかな。わたしもお兄ちゃんも、ほとんどガス欠!」

 竜介のことを「お兄ちゃん」と呼んだので母の百恵は驚いたが、顔には出さず、到来物の団子を出した。

――鎮魂の花より団子!――

 そんな見出しで、鎮魂の祈りにぬかずくセラと、団子を食べるために大口を開けているセラの二枚の写真がSNSに出回った。

 写真の写し方から、プロの仕業と思われた。

「江戸の敵を長崎で……」

 始業式の日は、この写真を中心にセラのことが話題になっていたが、セラは、程よく頬を赤らめることでごまかした。

 あたしって、いつからこんなに図太くなったんだろう……紛らいもののセラは、ようやく驚きはじめた。

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