大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・249『演習中止 長門艦上』

2021-12-09 15:48:58 | 小説

魔法少女マヂカ・249

『演習中止 長門艦上語り手:霧子      

 

 

 水柱が十本立った。

 

 赤四本 青六本

 優にニ十キロは向こうの水平線。

 水柱の高さは赤い方が首一つ分高い。

 数秒は、崩れることもなく、なにか意志あるもののごとく屹立しているけど、ゆっくりと崩れ、次の数秒で霧消していく。

「今度は近弾です、これで夾叉(きょうさ)ですので、次は命中弾になると思います」

 案内係の砲術科中尉が教えてくれる。

 赤の水柱は長門、青の水柱は山城の水柱ということを教えてもらった。

 日本海軍は、主砲級の砲弾には染料が仕込まれていて、海面に着弾すると、水柱を染め上げる仕組みになっている。

 どの水柱が自分の艦のものか一目瞭然で、容易く次の射撃に備えて修正ができる。

 染め上げるまでもなく、長門は四十一サンチ砲弾なので、水柱の高さは、他の戦艦よりも高く、その威力が際立って感じられる。

 

 大連大武闘会に優勝して、演習中の戦艦長門に体験乗艦させてもらっている。

 わたしの役目は、間もなく起こる関東大震災にある。

 震災の知らせを受けて、日本に緊急帰国する戦艦長門をイギリスの巡洋艦の目から隠すこと。

 長門は、最大戦速が25ノットも出るけど、それは極秘で、カタログデータでは20ノット。

 最大戦速で走っているところを同盟国とはいえ見られるわけにはいかない。

 それを心配した赤城の頼みで、マヂカたちといっしょに一計を案じ、武闘会で優勝して乗艦している。

 イギリス巡洋艦と出くわしたら、わたしがハイドボールを炸裂させて長門を隠し、マヂカとブリンダが長門に化けて巡洋艦を引き付ける。

 そして、長門は本来の最大戦速で横須賀を目指す。

 これで八時間は早く横須賀に着ける。

 それだけ早く着ければ、総員二千人の乗組員が救助活動に参加できて、必要な機材や資材も運び込める。

 そして、なによりも世界のビッグ7と呼ばれる長門が救助活動に参加することで、被災者や、救助活動に働いている人たちの大きな励みになる。

「あれ?」

 同乗している朝毎新聞の記者が呟く。

 すぐに分かった。

 次弾発射の警告ブザーが鳴らない。

 四十一サンチ砲の発射の衝撃はすさまじいもので、主砲発射の時は、ブザーが鳴って、露天甲板や爆風を受ける配置に居る者は避難する。

 さっきも甘く見ていて新聞記者が、上着のボタンを全部持っていかれたところだ。

 中尉が顔を上げるのと、一層上の射撃指揮所に慌ただしさが感じられるのが同時だった。

『総員に告ぐ、総員に告ぐ、本艦は演習を中止して、ただちに横須賀に帰投する。射撃用具収~め。機関科、航海科二直はただちに配置につけ』

 グィーーーーーン

 四基の主砲が旋回して、正位置に戻る音が響き、続いて機関出力が上がった。

 最大戦速で新進路につくと、艦長から艦内放送があって、関東地方で大地震が起こり、長門は救援活動に参加するために横須賀を目指すとの知らせがなされた。

 乗員たちは、噂をするでもなく、粛々と、それぞれの課業をこなしていく。

 ペチャクチャとうるさく無意味に艦内を歩き回っているのは、新聞や通信社の記者たち。

 わたしは、マヂカから預かったハイドボールが入ったバスケットを膝に載せる。

 膝に載せて、手を開いてみると、自分でもびっくりするくらいに汗ばんでいる。

―― おちつけ、霧子 ――

 そう、自分に言い聞かせると、毎朝新聞の記者が、左舷後方の海を指さした。

「あれ、イギリスの軍艦が追ってきてないか」

 仲間の記者たちが、いっせいにそっちを見る。

 なんだか、表を歩く犬が気になってしょうがないネコたちのようで、おかしい。

 けれど、いよいよ始まったんだ……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟嬢        中国一の魔法少女

 

 

 

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明神男坂のぼりたい05〔外堀通り台詞のお稽古〕

2021-12-09 09:05:00 | 小説6

05〔外堀通り台詞のお稽古〕   

 

 

 

 昨日から外堀通りを歩いている。

 と言っても、学校へ行くわけではない。

 台詞を覚えるため。

 暮れの27日に台本もらってから、ろくに読んでない。

 稽古は5日から始まる。せめて半分は覚えておかないと、さすがに申し訳ない。

 台本を覚えるというのは、稽古中にやってるようではダメ。稽古は台本が頭に入ってることが前提。

 一つは、去年のコンクールでの経験。

 台詞の覚えが遅かったので、100%自信のある芝居にはなってなかった。

 前年の『その火を飛び越えて』は東風先生の創作で、初演は、八月のお盆の頃。A市のピノキオ演劇祭。

 コンクールは十一月が本番だから台詞はバッチリ……と、いいたいけど。創作劇だけあって書き直しが多い。東風先生も忙しいので、なかなか決定稿にならない。

 で、決定稿になったのが十月の中間テストの後。

 なんと台詞の半分が書き換わってアセアセのオタオタ。

 行き帰りの通学路、授業が始まるまでの廊下の隅っこ、昼休み食堂でお昼食べながら、お風呂に浸かりながら、布団に入って眠りにつくまで……いろいろやって覚えたけど。なんとか入ったいう程度。

 当たり前には入ったけど、身にしみこむいう程じゃ無い。

 台詞いうのは、算数の九九と同じくらいどこからでも自動的に言えるようにしておかないと、解釈やら演出が変わったら出てこなくなる。

 う~ん、歌覚えるように覚えちゃダメ。

 メロディーといっしょじゃなかったら歌詞が出てこなかったり、最初から歌わなら途中の歌詞が出てこないような覚え方じゃね。

 覚えた台詞は、いちど忘れて、その上に刷り込んで、自動的に出るようにしなくちゃ。

 つまり算数の九九みたいに。これは、経験と……あとは、もう一個。別の機会に言います。

 コンクールは、そこそこの出来だったけど、あの浦島に文句つけられるような弱さはあったんだと思う。難しい言い方で『役の肉体化』が出来てなかった。

 ヘヘ、難しいこと知ってるでしょ。あたしは、そんじょそこらの演劇部員じゃないという自負はある。

 その自負の割には、五日間も台本読まずに正月気分に流されてしまって反省。     

 で、昨日から外堀通りを散歩しながらがんばってる。

 

 男坂を駆けあがって、神田明神男坂門。

 門と看板は出てるけど門も扉もない。いつでもだれでも通れます。

 ラブライブでは音乃木坂高校生徒会の東條希の実家が神田明神で、希は、いつも巫女服で、このへんを掃除している。

 正月も松の内なので、平日よりは参拝者の人が多い。

 パンパン

 二拍手だけして一礼。

 ほんとは、二礼二拍手一礼が作法だけど、ご挨拶なので略式。いつもは、ペコリと一礼だけだから、まだ、あたし的には念がいってる。

 回れ右して隨神門(正面の門)から出発なんだけど、回れ右の途中で巫女さんが目に入る。

 境内を掃除していたり、祭務所(お札や御守り売ってるところ)の番をしていたり、参拝者の案内をしていたり、いろいろなんだけど、たいていは視線が合って、ペコっとお辞儀。

 隨神門を出る時に、もう一回ペコリ。

「おはよう」「おはようございます」

 団子屋のおばちゃんと挨拶を交わす。

 おばちゃんは、お店の事があるから、いつも声に出してあいさつするとは限らない。

 そのときは、ペコリしとくだけ。

 あ、このおばちゃんは、四つの時に男坂を転げ落ちた時に助けてくれたおばちゃん。

 

 さあ、ここから、台詞の稽古。

 

 台本片手にブツブツと台詞を反すう。

 …………………、…………………。

 詰まったり怪しくなったら、台本で確認して、再びブツクサ。

 ロケーションは、湯島の聖堂を曲がって本郷通、聖橋の階段を下りて外堀通りに差し掛かって、ペースが出てくる。

「よく、歩きながら台詞がおぼえられるねえ」

 友だちに感心されるけど、ながらスマホほど危なくは無い。ちゃんと景色も目に入ってるし、音も聞こえてる。

 …………………、…………………。

 役者って、役をやってると役の気持ちになってるし、その役が見ているものを見ているし、役が聞いているものを聞いている。それでいて、舞台全体にも神経くばってるし、照明の当たり具合とか、相手役のことだって見てる。

 あ、立ち位置間違ってる。そう思ったら、次の展開を考えて、こっちの立ち位置やタイミングを変えたりね。

 いわば、究極の『ながら』をやってるから、台詞のブツブツなんか、お茶の子さいさい。

 …………………、…………………。

 西に進んで行くと、医科歯科大学や順天堂大学の学生さんと並んだりすれ違ったり。

 まだ松の内だというのに、大学生はえらいよ。

 まあ、高校生とは違って、大学出たら社会人だからね。気合いが違う。

 …………………、…………………。

 通り過ぎる人とは三間(7メートルくらい)は間をとるようにする。

 声が聞こえると、ね、恥ずかしかったり、ちょっと不気味だったりするからさ。

 …………………、…………………。

 順天堂大学を過ぎると、そろそろ学校のエリア。

 学校の近くには、私学の高校が二つあって、さすがに部活の生徒とかが目につくので、横断歩道を渡って、神田川沿いの歩道に移る。

 こっちの方が、だんぜん人通りも少ないので、台詞も反すうじゃなくて、稽古のレベルになって、呼吸が変わったり、手が動いたりする。

 それでも、周囲の様子は見えてるから、あたしって天才?

 …………………、…………………。

 …………………、…………………。

 …………………、…………………。

 …………………あ。

 信号の向こうから関根先輩が歩いてくるのに気が付いた。

 関根さんは中学の先輩。

 軽音やってて、勉強もできるし、スポーツも万能。高校は、神田川の向こうの○○高校。うちの中学からは二人しか行かれなかった都立の名門校。

 あたしは卒業式の日に必死のパッチで「第二ボタンください!」をかました。

 その関根さんとバッタリ会うてしまった。心の準備もなんにもなしに……。

「おう、アケオメ。正月そうそう散歩か」

「あ、あ、あけましておめでと……」

 そこまで言うと。

「そうだ、お婆ちゃん亡くなたんだよな。喪中にすまんかった」

 なんという優しさ。孫のあたしが年末まで忘れてたこと覚えててくれはった。感激と自己嫌悪。

「あ、あの……」

 次の言葉が出てこないでいると、横断歩道を渡って田辺美保先輩が来る。

「おまたせ、セッキー!」

 田辺さんは関根さんと同期のベッピンさん。あたしより……足元にも及ばないくらいの美少女。

「じゃな、鈴木」

 関根さんは、軽く手で挨拶していってくれたけど、田辺さんは完全シカト!

―― 鈴木明日香なんか、道ばたの石ころ ――

 そんな感じで行ってしまった。

 くそ! 東京ドームシティでデートか、グルッと回って神田明神に初詣えええ!?

 

 台詞…………みんな飛んでしまった!         

 

 初稽古まで、あと二日……。

 

 

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ライトノベルベスト『高安ファンタジー・1』

2021-12-09 06:09:07 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

高安ファンタジー(高安女子高生物語外伝) 

 


 高安という街をご存じでしょうか。

 大阪の環状線鶴橋で近鉄大阪線に乗り換え、準急で三つ目の駅が高安です。

 駅前には、時おり『高安関を応援しています』のポスターが出たりしますが、残念ながら、関取の出身地ではありません。たぶん、同じ名前と四股名なので、その縁で応援しているんでしょう。

 この街で買い物したら、高いか安いか分からないから高安……オヤジギャグです。

 ピンと来ない……そうでしょうね。

 わたしも先祖代々住んでいながら、中学のクラブで習うまでは知りませんでした。

 江戸時代は、旧淀藩の領地……淀藩が分からない。でしょうね、淀の競馬場があるところ。少し分かります?

 桃山時代には淀君の淀城があったところ、そこの領地でした。

 戦国時代は教興寺の戦いという機内最大の合戦が行われました。畠山氏と三好氏の戦い……また、分からなくなりました?

 教興寺自体、蘇我氏と物部氏が対立していたころに、蘇我氏側に付いた聖徳太子が建てたお寺……興味ないか。

 じゃ、これは?

 世の中に  たえて桜の  なかりせば  春の心は  のどけからまし

 聞いたことあるでしょ?

 古今和歌集に出てくる在原業平……ざいげんぎょうへい、ではありません。

 ありわらのなりひら。

 在原業平は平城天皇の第一皇子で、桓武天皇の孫。桓武天皇ぐらい知ってるでしょ、平安京を作った天皇さま。

 その孫で、場合によっちゃ、天皇にも成れた人だけど薬子の変に巻き込まれて在原って苗字もらって臣籍降下したやんごとないお方……。

 ああ、しんど! 

 ここからは自分の言葉でやらせてもらいます!

 あたしは、府立OGH高校(大阪国際高校)の一年生、近所に『高安女子高生物語』の佐藤明日香やら、作家の大橋むつおさんやらが居てます。まあ、どっちもパッとせん人らやから言うても分からんかもしれませんけど。

 問題は、在原業平なんです!

 この人はめちゃイケメンの貴公子で、モテまくった人です。

 この業平さんの恋人が高安におって、毎日業平さんは奈良の都から、生駒山を越えて、この高安のメッチャ可愛い恋人に通い詰めた。

 今でも、それが業平道いうて残ってるんです。

 イケメンにありがちなことやねんけど、ええ女にはすぐ惚れる。

 業平クンも高安の彼女のとこに通うてるうちに、通り道にある御茶屋さんの娘さんに惚れてしもた。

 毎日、この茶屋で休憩しては、ええ子やなあと思た。茶屋のオッサン、オバハンも「ひょっとしたら玉の輿!」と、ほくそ笑んだ。

 ところが、ある日、業平道を奈良の方から歩いてくると、茶屋の二階東の窓から、そのええ子が、大口開けて饅頭食べてるとこを見て興ざめ。

 茶屋のオッサンとオバハンは「ああ、しもたあ!」と嘆いたけど後の祭り。

 それから、高安では二階に東向きの窓を作らんようにした。

 長い前説ですんません。

 

 うちの家は、お祖父ちゃんが亡くなってから改築した。うちの部屋はネボスケのあたしが目ぇ覚めるように、東側に大きな窓を付けた。ちなみに、業平伝説を知ったのは、改築が終わってから(^_^;)

 話は飛ぶけど、うちの町内に在原亮介いうイケメンのニイチャンが居った。

 近所では、関根いうニイチャンと一二を争うイケメンやった。

 近所の明日香ねえちゃんが関根ニイチャンに気ぃあるのは子どもの頃から知ってたけど、人の恋路にクビ突っこむほどお人好しでもイケズでもない。

 問題はうちのこと。

 去年の春、ゆっくり寝てて、お母さんが窓開けてるのも気ぃつかんと、うちは着替えよ思って、パジャマの上を脱いだ。ほんなら、窓の外から視線を感じた。

「あ、亮介のニイチャンや!」

 そう感動すると同時に、上半身スッポンポンやいうのに気ぃついた。

 自慢やないけど、あたしの胸はかっこええ。

 ハズイと思うと同時に「見せたった!」いう気持ち。で、乙女らしくカーテンの影に身を隠した。

 ここまでは、良かったんやけどなあ……。

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