大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・114『仁のカップ麺とコルト・ガバメント』

2021-12-12 13:39:28 | ライトノベルセレクト

やく物語・114

『仁のカップ麺とコルト・ガバメント』 

 

 

 ちょっと迷って『仁』のカップ麺とコルト・ガバメントを持って廊下に出た。

 

 ちょっとね、タクラミがあるのよ。

 部屋でやったらね、チカコと御息所がいるでしょ。

 いるといっても、二人ともへそを曲げてるから、感じ悪いでしょ。

 だいいち、姿くらましてるし。

 姿くらましてても、二人とも臆病なんで、家の外に出ることはないし、それどころか、わたしが付いていなきゃ家の中だって勝手には動き回らない。

 だからね、部屋の中には居るのよ。

 わたしが、廊下でゴソゴソやったら――やくもは、なにやってるんだろ?――と思うわけよ。

 気が小さいくせに好奇心は人一倍って二人だからね。

 気になったら、ぜったい覗きに来る。

 出てきたら、わたしの勝ちよ。

 

 なんで『仁』のカップ麺かというと、仁義八行の意味も順番もよく分からないから、とりあえずうる憶えの一番目『仁』を選んだわけよ。

 

 開けてみると『仁』とプリントされたBB弾の袋。

 これはもう、ガバメントの弾倉にぶち込むしかない。

 BB弾を弾倉に入れるには専用のナントカっていう注入器を使う。

 だけど、持ってないから、一発というよりは一粒って言った方がいいBB弾を一発ずつ入れていく。

 カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ

 トロクサイけど、この方が部屋の中で隠れている二人には刺激的なのよ。

 

―― なにやってるんだろ? ――

 

 そんなオーラが、だんだん近づいて来て、五分もすると、ドアの所から息遣いさえ感じられる。

 あ!?

 わざとBB弾をこぼして声をあげる。

 まるで、子ネコみたいにBB弾に気をとられる二人。

 今だ!

 ムンズ!

 あやまたず、御息所を捕まえる!

 ピューー

 チカコは声も立てず、まっしぐらに部屋の中に逃げていく。

「は、放せ! どうして、分かったのよお!?」

「そりゃあね、あんたはあやせ、チカコは黒猫の姿でしょ。黒猫はゴスロリだし、あやせはミニスカの制服。シルエットがぜんぜん違うのよ。とーぜん、床に映ってる影も違うから、その影目がけて手を伸ばせば、いちころなのよ。ムフフフ……」

「くそ、謀られた(-_-;)」

「降参しなさい」

「やだ! 誰が、八犬伝の撃ち漏らしの退治なんか」

「ほう……いいのかなあ」

「な、なによ!?」

「御息所、あんた、実は……」

「え? え? ええ……どうして、それを(#'∀'#)!?」

 

 教頭先生に教えてもらった秘密の効き目はすごかった。

 

 そのあくる日の土曜日、わたしは、御息所をポケットに、ガバメントはバッグに入れて神田明神を目指すのだった!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい08〔ドリーム カム スルー〕

2021-12-12 08:07:37 | 小説6

08〔ドリーム カム スルー〕  

 

 

 タタタタタタタタ

 

 軽快なリズムで男坂を駆けあがる。

 今日は三学期の始業式だ。ものごとは最初が肝心。

 で、いつもより二割り増しぐらいの元気さで駆けあがる。

 駆け上がって『神田明神男坂門』の標柱を曲がる。

 いつもは、このまま拝殿の真ん前なんだけど、立ち止まって右を向く。

 しめ縄張った大公孫樹(おおいちょう)と、その前のさざれ石に一礼。

 大公孫樹は二本ある。古い親木と現役のと。

 昔は、江戸前の海に入ってきた船のいい目印になったんだって。

 さざれ石は、ほら『君が代』に出てくる、あのさざれ石。

 一見工事現場から掘り出してきたコンクリートの塊なんだけど、岐阜県の天然記念物。なにかの作用で、石がくっ付きあって、転がりながら大きくなったもので『さざれ石の 巌となりて~』てのは、ほんとのことなんだ。

 で、始業式には『君が代』だから、ま、ゲン担ぎというか、あやかるわけ。

 そして、いつものように拝殿の前でペコリ。

 今朝の巫女さんは窓口(神札授与所)当番。ほら、お御籤とか御守りとかのグッズ売り場。

 ペコリとニコリを交わす。

 チラッとおみくじ結び所が目に入る。正月明けなので、集団あや取りみたく十何段に張られた紐に鈴なりのお御籤。

 正月明け、まだ三が日の火照りを残している境内の空気を吸って、さあ、学校へ!

 

 水道歴史館が向こうに見えてきたところで、視界の端に関根先輩。

 ちょっと離れてるけど、後姿だけでも、他の同じ制服たちに混じっていても分かってしまう。

 でも、声を掛けたりはしない。

 今年も幸先いいとだけ思っておく。

 

 でも、神田明神と関根先輩でマックスになった高揚感も、学校が近くなるにしたがって冷めてくる。

 学校が持ってる負のエネルギーはすごいよ。

 スターウォーズの暗黒面だよ、ブラックホールだよ。

 でもね、明神さまで元気もらってるから、冷めるといっても、サゲサゲとまではいかない。

 えと……まあ、ニュートラル的な? 

 それにね、三学期の始まりは、冬休みが短いせいもあって、一学期の新鮮さも、二学期のうんざり感もない。

 ああ、始まったんだなあ……です。

 学校には、クラブの稽古で二日前から来てる。稽古は始まってしまったら……まあ、まな板の鯉。ほんとうは頭打ってるんだけど、今日は、それには触れません。

 
 体育館の寒いなか、校長先生を始め生指部長、進路部長の先生のおもしろくない話と諸連絡。

 先生の話がおもしろくないのは、内容というよりも、エロキューション、つまり滑舌と発声。それとプレゼンテーション能力が低いから。

 演劇部やってると、先生たちのヘタクソなのがよく分かる。音域の幅が狭くて、リズムがない。つまり声が大きいだけ。終わって回れ右してホームルームかと思ったら、保健部長のオッサンが最後に出てきた。

「今から、大掃除やります!」

 ホエエエエエ

 七百人近い生徒のため息。

 ため息も、これだけ揃うと迫力。

 なんか、体育館の床が瞬間揺れたような気がした。オッサンはびくともせずに大掃除の割り振りを言う。

 ただ一言。

「教室と、いつもの清掃区域!」

 わたしは思った。

 大掃除やるんだったら、おもしろくない話なんか止して、チャッチャとやって、ホームルームやって、さっさと終わっちゃえばいいのに。

 

 あたしたちは、学校の北側校舎の外周の当番。

 昇降口で、下足に履き替えなきゃならない。

 下足のロッカー開けて……びっくりした。来たときにはなかった封筒が入ってた。

 直感で男の手紙だと思った!

 すぐにポケットにしまって、校舎の北側へ。掃除するふりして手紙を読んだ。

 
―― 放課後、美術室で待ってます。一時まで待って来なければ、それが返事だと諦めます ――

 
 最後にイニシャルでHBと書いてある。

 一瞬で頭をめぐらせて、そのシャーペンの芯みたいなイニシャルの男を考える。クラスにはいない……あたしも捨てたもんじゃないのかなあ(≧ω≦)。

 いっしゅん関根先輩の影が薄くなった。

 

 ホームルームが終わると、あたしは意識的に何気ない風にして、美術室へ行った。

 美術教室は、ドアに丸窓があって、そこから小さく中が見える。そこから見た限り人影は見えない。

 ちょっと早く来すぎたかなあ……そう思って、こっそりとドアを開ける。

 「あ……!」

 思わず声が出てしまった。

 そこには、美術部のプリンスと、その名も高い馬場さんが居た。

 そして、目が合ってしまった!

  馬場さんは、三年の始めに仙台から転校してきたという珍しい人で、絵も上手いし、チョーが三つつくぐらいのイケメン。どのくらいイケメンか言うと、イケメン過ぎて、誰も声が掛けられないくらいのイケメン。声をかけるのはモデルのスカウトマンぐらいのものらしい。

 その馬場さんが声を掛けてきた。

 「なにか用?」

「あ、あ、あ……」

 声聞いただけで、逃げ出してしまいそうになった(;'∀')。

「あ、その手紙!?」

 やっぱり、手紙の主は馬場さんだった! 

 で、次の言葉で空が落ちてきた。

「間違えて入れちゃった……オレ、増田さんのロッカーに入れたつもり……ごめん!」

 増田っていうのは、あたしのちょうど横。AKBの選抜に入っていてもおかしないくらいかわいい子。今の段階では、なんの関係もないので、詳しいことは言いません。

「増田さんが趣味だったんですか!?」

「え? ああ、絵のモデルとしてだけど……」

 と、言いながら、馬場さんは、あたしの姿を上から下まで観察した。なんだか服を通して裸を見られてるみたいで恥ずかしい。

 「失礼しました! あたしクラブあるから、失礼します!」

 あたしは、いたたまれなくになって、その場から逃げだした。

 あたしのドリームは、こうやって、今年もカムスルーしていった……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部

 

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ライトノベルベスト・〔ゴジラのため息・1〕

2021-12-12 05:24:27 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

ため息・1〕   




 ゴジラはため息をついた。

 不可抗力とはいえ、山が一つ丸焼けになってしまった。

「集中豪雨で湿気ってなかったら、ここいらみんな焼いちまうとこだったな……」

 反省したゴジラは、熊ほどの大きさになって隣の山に引っ越した。

 すると、山の主である熊ほどの大きさの一言主(ひとことぬし)が憐れむように言った。

 ちなみに一言主は猪のなりをしている。

「気にすんなよ。あの山は来月中国の金持ちに売られるところだったんだ。これで商談もなくなるだろ」

「ありがとう、ちょっとは用心するよ」

「一人でいるから気鬱になってしまうんだ。名前は複数形なのに、おまえさんは孤独主義なんだからな……どうだい、オレの山に高校生たちがキャンプに来てるんだ。気晴らしにいっしょに遊んでみたら」

「いいのかい?」

「小さくなったとはいえ、そのナリじゃこまるけど、なんか適当に化けちまえよ」

 ゴジラも、還暦を過ぎて八年。化けることぐらい朝飯前だ。

 いろいろ化けて見せて、女の子のナリになった。一言主がアイドルファンだったので、まるでAKBと乃木坂とけやき坂の選抜を足して人数で割ったようなかわいい子になった。

「だめだ、木が湿気って火がつかないや……」

 炊事担当の女の子は、嫌気がさした。

「あたしが、やってあげようか?」

 ゴジラはサロペットにTシャツという気楽さで声をかけた。アイドルのような笑顔に女の子は親近感を一方的に感じてゴジラに任せた。

「コツがあるのよね……」

 適当なことを言って、そろりと息を吹きつけて、あっという間にご飯もカレーも炊き上げてしまった。

「すごいのね、あなたって。このへんにキャンプに来てるの?」

「うん、家族で。林ひとつ向こう側」

 一言主が気を利かして、父親の姿で現れた。

「なんだ敦子。こんなところにいたのか」

 一言主が適当な名前で声を掛けた。

「あ、そういや、あなたあっちゃんに似てる!」

「ズッキーにも似てる!」

 もう一人が言った。

 で、ワイワイ言っているうちに、ゴジラ……いや、敦子は 高校生たちといっしょになることになった。

「キャンディーを、ブレスケアになる」

 一言主は、そう言って、こっそりとキャンディーを敦子の口の中に放り込んだ。

 高校生たちは、半端にまじめで、ノンアルコールのビールもどきで、けっこうハイになった。

「ねえ、あっちゃん、なんか歌ってよ!」

 ゴジラの敦子は困った。

 話すのはともかく、本気で歌ったら、ゴジラの「ガオ~ン!」になってしまう。

 仕方なく、ゴジラは抑え気味に胸に手を当て、そろりとAKBのヒットソングを歌ってみた。

「キャー、キンタローより似てる!」

 緊張していたので、なんだか、懐かしの前田敦子風になって、みんなにウケた。

 嬉しくなって、遅くまでみんなといっしょに歌ったり写真を撮ったりで盛り上がった。一言主がくれたキャンディーは、どうやら歌がうまく歌える魔法のキャンディーのようだった。

 ゴジラの敦子は、本当は、みんなと語りたかったが、楽しくノッテいる空気を壊してはいけないと、調子を合わせて騒ぎまくった。

 気が付いたら深夜になってしまっていたので、高校生たちのキャンプに混ぜてもらって、眠れぬ夜を過ごした。

「あたしの思いは、この子たちには分からないもんね……」

 流れ星を10個数えて、ゴジラの敦子は寝たふりをした。

 たとえ寝たふりでも人と一緒に居るのは楽しかった……。

 つづく 


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