やくもあやかし物語・114
ちょっと迷って『仁』のカップ麺とコルト・ガバメントを持って廊下に出た。
ちょっとね、タクラミがあるのよ。
部屋でやったらね、チカコと御息所がいるでしょ。
いるといっても、二人ともへそを曲げてるから、感じ悪いでしょ。
だいいち、姿くらましてるし。
姿くらましてても、二人とも臆病なんで、家の外に出ることはないし、それどころか、わたしが付いていなきゃ家の中だって勝手には動き回らない。
だからね、部屋の中には居るのよ。
わたしが、廊下でゴソゴソやったら――やくもは、なにやってるんだろ?――と思うわけよ。
気が小さいくせに好奇心は人一倍って二人だからね。
気になったら、ぜったい覗きに来る。
出てきたら、わたしの勝ちよ。
なんで『仁』のカップ麺かというと、仁義八行の意味も順番もよく分からないから、とりあえずうる憶えの一番目『仁』を選んだわけよ。
開けてみると『仁』とプリントされたBB弾の袋。
これはもう、ガバメントの弾倉にぶち込むしかない。
BB弾を弾倉に入れるには専用のナントカっていう注入器を使う。
だけど、持ってないから、一発というよりは一粒って言った方がいいBB弾を一発ずつ入れていく。
カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ
トロクサイけど、この方が部屋の中で隠れている二人には刺激的なのよ。
―― なにやってるんだろ? ――
そんなオーラが、だんだん近づいて来て、五分もすると、ドアの所から息遣いさえ感じられる。
あ!?
わざとBB弾をこぼして声をあげる。
まるで、子ネコみたいにBB弾に気をとられる二人。
今だ!
ムンズ!
あやまたず、御息所を捕まえる!
ピューー
チカコは声も立てず、まっしぐらに部屋の中に逃げていく。
「は、放せ! どうして、分かったのよお!?」
「そりゃあね、あんたはあやせ、チカコは黒猫の姿でしょ。黒猫はゴスロリだし、あやせはミニスカの制服。シルエットがぜんぜん違うのよ。とーぜん、床に映ってる影も違うから、その影目がけて手を伸ばせば、いちころなのよ。ムフフフ……」
「くそ、謀られた(-_-;)」
「降参しなさい」
「やだ! 誰が、八犬伝の撃ち漏らしの退治なんか」
「ほう……いいのかなあ」
「な、なによ!?」
「御息所、あんた、実は……」
「え? え? ええ……どうして、それを(#'∀'#)!?」
教頭先生に教えてもらった秘密の効き目はすごかった。
そのあくる日の土曜日、わたしは、御息所をポケットに、ガバメントはバッグに入れて神田明神を目指すのだった!
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝