大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・264『期末テストが終わって、右袖を見る』

2021-12-08 18:25:52 | ノベル

・264

『期末テストが終わって、右袖を見る』さくら     

 

 

 終わった! 期末テストが!

 

 いままで、テストが終わった感激は言うたことない。

 でしょ?

 なんでか言うと「終わったあ!」と、正直に叫んでしまうと、運が逃げて行ってしまいそうな気がする。

 あるいは。

 世の中には『テストの神さま』いうのんがいてて、たいしてできてもいてへんのに終わったことを喜んでるような奴を欠点地獄に落としてしまうような気がしてた。

 せやさかい、あんまり声に出しては喜べへんかった。

 

 せやけどね、もう、進路に向けての成績は、これでついてしまうわけですよ。

 

 三学期に学年末テストがあるけど、受験先に伝えられる成績は、二学期の期末テストまでのんでついてるわけです。

 せやさかい、もう、正直に喜んでええと思うんです。

 なんちゅうか、ゴルゴ13的に言うと、標的に向かってM16アサルトライフルを構えて、トリガーを引いた瞬間……的な?

 あとは、標的に当るだけ……的な?

 

 クラスのみんなも同じ思いみたいで、最後の数学が終わった時、ちょっとしたどよめきが起こった

 フワアア~~~~

 監督のペコちゃん先生も、思わずニッコリ。

 アホの田中もノドチンコまで見せてノビしとる。

 うしろから答案用紙を集めてくるんで振り返ったら、留美ちゃんの目にうっすらと光るもの。

 え……思わず感動してしまう。

 留美ちゃんは、感動のあまり涙まで浮かべてるんや……えらいなあ。

 たったいま、バカにした田中よりも、自分がアホに思えてきた。

「ち、チガウチガウ(;'∀')!」

 両手をワイパーみたいに振って照れる留美ちゃん。

 うん、頼子さんが見たら、思わず抱きしめてたと思うよ。

 

 帰り道、昨日からの雨はあがったけど、なんやドンヨリの曇り空。

 

「鈍色っていうんだよね、こういう空を」

「にびいろ?」

 うちは、瀬田とか田中のニキビ面を思い浮かべる。

「プ、ニキビイロじゃないよ、ニビイロ」

「あはは、そうか(^_^;)」

 もう姉妹同然になってしもた仲やさかいに、言わんでも通じてる。

「どんよりした鉛色の空をニビイロって云うの」

「そうか、勉強になった」

 うちは嬉しい。

 なんでか言うと、空は、こんなにドンヨリのニビイロやのに、留美ちゃんは、こんなに明るい。

 この春は、お母さんの事でめちゃくちゃ落ち込んで、いろいろあって、うちの家でいっしょに暮らすようになって、テストが終わったんを喜び合って、いっしょに家に帰れる。

 なんや、いっしょにお風呂入って背中流しっこしたい気分。

 いや、思てるだけ。留美ちゃんは同性にでも肌を見せるのは苦手やさかい。

 もう、一昨年になるけど、除夜の鐘つきに東近江のお寺いったときは、みんなでお風呂入った。

 なんか懐かしい。

 留美ちゃんが袖口見つめてシミジミしてる。

「どないしたん?」

「え、ああ、右の袖口がね、擦り切れかかってる……毎日着てるのに、初めて気が付いた」

「え、あ、ほんま」 

 ほんで、自分の袖口見たら、擦り切れるとこまではいってへん。

 これは、留美ちゃんが、よう勉強して、字を書くほうの右袖が、うちの何倍も擦れるからや。

 えらいなあ。

「ちょっと、カバン持ってて!」

「え、うん」

 歩きながら上着を脱いで調べる。

「あ、ほら、右の肘が光ってる!」

「え、あ……」

「留美ちゃんは光ってないやろ?」

「えと……うん」

 右手を持ち上げて確かめる姿が、なんか女の子らしい。

 ちょっと藪蛇。

「なんでやろ?」

「なんでだろ?」

「う~~~ん」

 椅子に座ってる姿を思い浮かべる。

「分かった!」

「なんで?」

「いっつも右の肘突いて、ボサ~ってしてるさかい」

「え、ああ……」

 三年間、テストの時なんかは出席番号順の席。苗字は『酒井』と『榊原』やから、いっつも留美ちゃんが後ろに座っててて分かってるんや。

 ボサ~ってだけと違て、よう寝てること。

 せやけど、やさしい留美ちゃんは「え、ああ……」で止めて、あとは言いません。

 

 めでたく期末テストが終わった帰り道でした。

 

 

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明神男坂のぼりたい・04〔明日香の初詣〕

2021-12-08 09:15:21 | 小説6

04〔明日香の初詣〕   

 

 

 男坂を登れば、すぐ神田明神なんだけど、初詣は元日を外して二日にしている。

 

 理由はね、元日は混むから。

 なんといっても東京で一番の神社、江戸の総鎮守っていうくらいだから、大晦日から元日にかけての混みようはハンパじゃない。

 本当はね、ひと様と一緒に元日に初詣したいよ。

 でもね、あたしは、子どものころから体が弱かった。

 四つのとき、いろいろの都合で男坂の家に越してきた。

 元々、鈴木の家はここなんだ。

 でも、去年亡くなったお祖母ちゃんが「もう、この足腰じゃ男坂は心細くって」と言うので、一家をあげて越してきた。大きくなってからは、単に坂の上り下りのことじゃないって分かるんだけどね、その時は、そう思ってた。

 神田明神なら、男坂でなくっても、ちょっと遠回りになるけど、正面の大鳥居から入ればいいんだけどね。

 生まれてこのかた、男坂から上っていくのが鈴木家の流儀だった。

 越してきて、子ども心に思った。

 男坂のぼりたい!

 

 越して間もないころに奇跡を見たんだ。

 表に出たら、ちょうど、男坂の向こうに夕陽が落ちていくところ。

 いっしゅん夕陽が目に飛び込んで目をつぶる。

 宇宙戦艦ヤマトが波動砲を撃った瞬間! そんな感じ!

 波動砲撃つ時って、砲手の古代くんが言うじゃん。

「対ショック、対閃光防御!」

 そんな掛け声で、乗組員全員がゴーグルかけんの。

 そんで、ドバーーー! いや、ビシャーーー! いや、ドッカーーーン!?

 そんな感じでぶっ放した時の、画面のエフェクトみたいな。

『君の名は』で、流星がドビビシャーーーン!! 落ちて来たみたいな。

 そんな、おっかなくも、荘厳なインパクト!

 サードインパクトだったら人類補完計画を発令しなくちゃいけないような?

 そんな、ハルマゲドン? 神の啓示?

 そんな、メガトン級プラマイインパクト!

 

 で、ちょっと落ち着いて考えたら、坂の上はお馴染みの神田明神。

 

 神田明神は、それこそ、お宮参りから、七五三、神田祭に初詣、幼心にも『うちの神さま』『あたしの守り神』的な!

 それが、なにかの神託みたく、光となって四つのあたしを包み込んだ!

 ちょっと大きくなって『風の谷のナウシカ』見た時に、ラスト、ナウシカがさ、オウムたちの触角が伸びて金色の野に降り立ったみたいな!?

 ああ、あたしは神の子、神に選ばれし奇跡の子!

 そんなふうに思ったわけさ(^_^;)

 でね。

 一人で、男坂をヨチヨチ上がっていった。

 よいしょ よいしょ よいしょ

 でも、たった四つで、人よりも弱い子でさ。

 もう、途中でゼーゼー。

 男坂って、途中五か所の踊り場があるんだ。

 その踊り場は、すぐ目の上に見えるわけだから、とりあえず、そこまで上がってみようって思う。

 それでね、三つ目の踊り場まで上って、クラってきた。

 そして、光に包まれたまま天地がひっくり返って、空中に放り出された。

 光がね、神田明神のトレードマークのナメクジ巴みたくグルグル回って迫って来る。

 

 その時、見えたんだよ。

 明神さまが。

 

 ナメクジ巴の真ん中から、顔が現れて、あたしに言うんだ。

―― ようこそ あすか ――

 ナメクジ巴が、もっとグルグルして、あすかは、ポンポンポンて弾んでいくんだ。

 するとね、神田明神のご家来みたいな人の手がフワって受け止めてくれて。

 気が付くと、それはダンゴ屋のおばちゃんの手だった。

「だいじょうぶかい!?」

「え? え?」

「だめだよ、ひとりで男坂上がったりしちゃあ……あたま打ってないかい? 手は? 足は? どこも打ってないかい? イタイイタイはないかい?」

 おばちゃんは真剣に聞いてくれて、その真剣さが、なんだか怖くって、明日香は声をあげて大泣きしちゃって。

 すると、ご近所の人や、お参りの人たちが寄ってきて。

 そのうちに、お母さんもお祖母ちゃんも、坂の上からは巫女さんまで下りてきて、救急車までやってきた。

 

 男坂の真ん中から転げ落ちたというのに、タンコブ一つできなかった。

 

 これは、明神様のおかげだよ!

 お祖母ちゃんは大感激して、お母さんは、ちょっと困った顔になって、お父さんは一歩下がって収まった。

 お祖母ちゃんの強い意思で、御神酒もってお参りして、幣(ぬさ)ってハタキの親分みたいなのでバサバサってやってもらって、神主さんがゴニョゴニョ、そして、お札をもらってうちの神棚に上げた。

 それからね、神田明神は明日香の神さま。

「大晦日から元日は混みますからね、二日とか三日でもいいですよ、なあに、ご利益は変わりません」

 そう言ってくださったので、明日香の初詣は二日の朝。

 先祖代々元日にお参りしていたお祖母ちゃんも、二日に合わせてくれて。鈴木家のやり方に収まった。

 

 というわけで、今年もめでたく初詣しましたって、報告でした(^_^;)。

 

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ライトノベルベスト・『イケメーン!』

2021-12-08 06:14:37 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『イケメーン!』   

      


 わたしが剣道部に入ったのは、弟を鍛えるためだった。

 弟の信二は、姉のあたしから見てもたよりない。

 体裁よく言えば草食系なんだけど。ようはヘラっとして、いつも半端な微笑みで、意見をすると目線が逃げる。

 それになにより、不男だ……と、決めつけるには、まだまだ早い小六なんだけど、来年は中学だ。

 いまでも少しハミられているような気配がある。

 勉強こそは真ん中だけど、こと人間関係に関してはダメだ。けなされようが、ごくたまに褒められた時でも不器用にニヤケルことしかできない。その笑顔は姉のあたしがみても苛立つほどに醜い。
 
 あれでは中学でイジメに合うのは確実だろう。

 あたしも、専門に運動部に入ったことは無い。中学でちょっとだけ演劇部にいたが、やってることが学芸会並なので、直ぐに辞めた。

 体育は4で、授業でやる程度のことなら、人並みにはやれる。

 だから、高校では声のかかった演劇部をソデにして運動部を目指した。

 格闘技がいいと思った。で、柔道部と剣道部に見学に行った。

 柔道部は女子もいるんだけど、胴着の下のTシャツをみないと性別の分からないような子たちばかり。男子は言うに及ばない。

 あたしは、ただの体育会系は好きじゃない。体だけできていても、その分脳みそとかハートを落っことしたようなやつはごめんだ。

 柔道は、体を密着させる競技だ、寝技なんか、胴着を着ていなきゃ動物的なカラミに過ぎない。柔道部はメンツをみただけで却下。

 で、剣道部に入った。

 剣道部も似たりよったりの顔ぶれだけど、防具をつけると、完全に体はおろか、顔もはっきりとは分からない。第一体が密着することが無い。

 最初は素振りとすり足で、手はマメだらけ、足の皮は剥がれるんじゃないかと思うくらいだった。

「ようし寛奈、素振りの切っ先もぶれなくなった。明日から防具つけて打ちあい稽古だ」

「あの、明日からは連休ですけど……」

「あ、そうだな。じゃ連休明けからだ」

 このさりげないツッコミがおもしろかったのか、部員みんなが笑った。やはり、しまりのない笑顔だ……。

 立ち合い稽古が出来ると言うので、あたしは近所の八幡様にお参りに行った。

――まあ、気いつけてがんばりや――

 本殿の奥から、そんな声がしたような気がした。でも、空耳だったのだろう。

 巫女さんや、あたしと並んでいた参拝の小父さんに変化はない。

「初心者にしては筋がいい」

 最初に立ち会った二年の副部長が誉めてくれた。

「ただな、面のときに『イケメーン!』ていうのはよせ、ただの『メーン!』でいい」

「うそ、そんなふうに言ってました」

「言ってた」

「すみません、気を付けます」

 それから、何人かと立ち会ったけど、あたしの「イケメーン!」は直らないらしい。

「たぶん、気合いのイエー!がイケー!に聞こえるんだろう。まあ、気にするな」

 顧問の立川先生が慰めてくれた。

 あれから、一か月近くたって剣道部に異変が現れた。

 男子部員のルックスがアドバンテージになってきたのだ。

 あたしは、部員の中でも部長だけは買っていた。見るからに運動バカだけど、自分を諦観したところがあって「オレは女にモテなくても剣道できれば、それでいい。というところがあって、表情が澄んで屈託がない。

 も少し顔の造作が……と思った。

 立ち合いは、この一か月近くで百回ほどになった。

 すると、心なしか、男子部員のルックスが確実に向上。中にはコクられ、生まれて初めて彼女ができた者も現れた。

 一学期の終わりには、すっかりイケメンの剣道部で通るようになり、女子部員も増えた。

 部長は、その中でも一番変化が大きかった。

 あたしは、正直に嬉しかった……が、技量は目に見えて落ちてきた。試合に出ても負けがこんできた。

 部長は、ただ一人で言い寄る女生徒たちも相手にせずに稽古に励んでいた。いつのまにか、あたしが部長の立ち合いの専門になった。

 で、気づいてしまった。

 防具の面越しに見える目が、あたしを異性としてみていることに。凛々しい目の底にいやらしさを感じる。

―― 引退するときに、コクりよるで~ ――

 八幡様の声が聞こえた。あたしの「イケメーン!」は、どうやら、男をイケメンにはするが堕落させることに気づいた。

 これでは弟を鍛えることなど出来はしない。あたしは次の部活を探している……。

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