大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・267『最後の終業式』

2021-12-25 13:46:16 | ノベル

・267

『最後の終業式』さくら     

 

 

 最後の終業式だったね……

 

 下足ロッカーから靴を出しながら留美ちゃんがつぶやく。

「え、なんで?」

 想像力の無いうちは、あどけなく聞き返す。

「だって、次は卒業式だよ」

「え、あ…………そうか」

 三学期は学年末テストが終わると、卒業式まで無いんや。

「普通の終業式って、今日でお仕舞」

「せやね……」

 

 卒業式は、きっと舞い上がってる。

 

 みんな、卒業した興奮で、なかなか帰らへん。

 教室やら廊下やら正門のとこに残っていつまでもワヤワヤとテンション高くはしゃいでる。

 一昨年の卒業式やら、小学校の卒業式の経験があるから、卒業式の日の舞い上がった雰囲気は想像がつく。

「せや、もっぺん教室戻ろ!」

「あ、さくら!」

 留美ちゃんの返事も待たんで、脱いだばっかりの上靴つっかけて、一段飛ばしで階段を駆け上がる。

 

 ……教室には誰もいてへん。

 

「クリスマスイブだもんね」

「うん、教室ひとり占めや!」

 宣言すると、五列並んだ机の間を縫うように歩いてみた。

「先生みたいね」

「ほんまやね、なんかエラなった気ぃするしぃ(^▽^)」

 あらためて見ると、教室の机はいろいろや。

「みんな同じか思てたけど、微妙にちゃうねんねえ」

 天板の角のとりかた、背もたれの曲がり具合……フレームの形も微妙に違う。

「買った年が違うからだね」

「え、そうなん?」

「学校の机って、いっぺんに替えたら、すごいお金かかるから、少しずつ入れ替えてるんだよ」

「そうやったんか……人知れず、君たちは入れ替わっていたんだねえ……よしよし」

「備品シールが残ってるのが……あ、これこれ」

「え、どれ?」

 留美ちゃんが示したのは前の方、天板のすぐ下。

 品質表示みたいなシールがあって『平成八年』とあった。

「うひょー、これて、まだ二十世紀とちゃうん!?」

「うん、1996年、25年前だね」

「すごい、すぐ換算できるんや!」

「大したことじゃないよ、平成は82を足したら西暦になる」

「そ、そうか。昭和は?」

「プラス25」

「明治は?」

「プラス67」

「ふーん?」

「ほなら、大正!?」

「プラス11」

「す、すごい……」

「どうして大正が後なの?」

「え、令和、平成、昭和、明治、大正……」

「逆だよ、明治と大正」

「え、そうなん(^_^;)!?」

「そうです!」

「アハハハ……あ、机に彫刻してるやつがおる!」

「え?」

「あ、いや、ごめん、ただの傷やった」

 ほんまは彫刻、たぶんコンパスの針かなんかで……相合傘で田中・榊原とあった。留美ちゃん気にしいやから傷にしといた。

「わたし、一番前ってなったことないんだよね」

 そう言って、留美ちゃんは教卓の前の席に座る。調子を合わせて、教壇に立って向かい合わせになる。

「ち、近い」

「え、そう?」

「うん、こんなに近いなんて思わなかった」

 留美ちゃんは距離感覚が、ちょっとばかり人とはちがうみたい。

 それから、教室のあっちこっちの席に座って、場所による感覚の違いを体験してみる。

 廊下側の一番後ろは一番孤独。真ん中の列の真ん中は落ち着かへんとか言い合って遊んだ。

 天井のシミは、男子の誰かがジュースのパック破裂させて飛沫が飛んだあととか、教卓の高さ調節のネジが一個無くなってて、それがガタツキの原因やったのを発見したりして遊んだ。

 

 キーンコーンカーンコーン  キンコンカンコーン

 

 チャイムが鳴ったので、さすがに帰ることにする。

 三組の前を通ったら話し声が聞こえる。

 隙間からチラッと見えた。春日先生が男子と、そのお母ちゃんと思える女の人と三者懇談。

 懇談の予定なんかないからないさかい、たぶん、プライベートな真剣な話。

―― 静かに行こう ――

 留美ちゃんが目配せ。

 息を殺して下足室へ。

 グラウンドに出てみようかと思たけど、お腹が空いてるのを思い出して、大人しく下校しました。

 せや、今日はクリスマスイブやったんや……とくに予定はありませんけども。

 

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明神男坂のぼりたい21〔まどか 乃木坂学院高校演劇部物語〕

2021-12-25 08:05:53 | 小説6

21〔まどか 乃木坂学院高校演劇部物語〕  

 

 


 朝から雪……積もったらいいのになあ。

 保育所のころ雪が降って園庭にいっぱい積もったことがある。

 保育所のみんなで遊んだ。

 雪合戦したり、雪だるまこさえたり。

 関根先輩も、ただのマナブくんだった。美保先輩はミポリンだった。

 

 今だから言えるけど、マナブくんだった関根先輩と、その雪でファーストキスしてしまったんだよ(#^_^#)!

 

 雪合戦してたら、こけてしまって、マナブくんに覆い被さるように倒れた。

 するとモロに唇が重なってしまって、あどけなかったマナブくんは真顔で、こう言った。

「赤ちゃんできたらどうしよう!?」

「え、赤ちゃんできるの!?」

「キスしたら、できるて、レッドカーペットで言ってた」

 マナブくんの赤ちゃんなら生んでもいいと思った。

 いや、シメタと喜んだ。

「そうなったら、ぼく責任とって、アスカのことお嫁さんにするからな!」

 もう天にも昇る気持ちだった。

 だけど、夢は一晩で消えてしまった。

 明くる日マナブくんは、こう言った。

「キスだけだったら、赤ちゃんできないんだって。なにか、他にもしなくちゃならないらしいけど、大きくならないと神さまが教えてくれないんだって」

「それって、いつ教えてもらえんの?」

「さあ、いつかだって……」

 そこまで言うと、マナブくんはトシくんによばれて、園庭に走りにいった。

 昨日の雪は溶けてしまって、雪だるまも頼りなく溶けていた。

 あれからだ、マナブくん……関根先輩のことずっと好き。

 あたしは一途な女。

 今は、もう赤ちゃんの作り方は、しっかり知ってる。

 関根先輩、美保先輩と……ダメだあああ、妄想してしまう!

 気を取り直して本を読む。で、雪が積もるようだったら、雪だるまこさえよ♪

 

「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」の最初のページを開く。

 

 ドンガラガッシャン、ガッシャーン……!!

 タソガレ色の枯れ葉を盛大に巻き上げ大道具は転げ落ちた。一瞬みんながフリ-ズした。

「あっ!」

 講堂「乃木坂ホール」の外。中庭側十三段の外階段を転げ落ちた大道具の下から、三色のミサンガを付けた形のいい手がはみ出ていた。

「潤香先輩!」

 わたしは思わず駆け寄って、大道具を持ち上げようとした。頑丈に作った大道具はビクともしない。

「何やってんの、みんな手伝って!」

 フリ-ズの解けたみんなが寄って、大道具をどけはじめた……。

 

 ドラマチックな描写から物語は始まる!

 

 主人公まどかの乃木坂学院高校演劇部は27人も居る大規模常勝演劇部。それが、コンクールで破れたことやら、クラブの倉庫が火事になったりで部員がゴッソリ減り、顧問の貴崎マリ先生も責任を問われて学校を去っていく。クラブは存亡の危機にたたされ、ほとんど廃部になりかける。

 あくまで、演劇部を続けたいまどかと夏鈴と里沙は、廃部組とジャンケン勝負で勝って、たった三人で演劇部を再興して、春の演劇祭で、見事に芝居をやりとげる。そして、大久保クンいう彼氏もゲット!

 

 文章のテンポがいいし、どんでん返しやら、筋の運び方が面白いので、昼過ぎには読み終えてしまった。

 演劇部を辞めたばっかしのあたしには、ちょっと胸が痛い。だけど、まどかには、頼りないけど夏鈴と里沙いう仲間が居る。

 あたしは残ってもまるっきりの一人。やっぱし、あたしの決断は正しいと思う。まだ二年ある高校生活無駄にはしたくない……。

 読み終えて、ベランダから外を見ると、雪はすっかり止んでピカピカの天気……にはなってなかったけど、ドンヨリの曇り空。

 雪だるまはオアズケ。

「お母さん、お昼なんかあったかなあ……」

 そう言いながら階段を降りたら、お父さんが一人で生協のラーメン食べてる。

「お母さんは?」

「なんか、石神井のお婆ちゃんが骨折して入院だって出かけていったぞ……明日香にも声かけてただろ」

 思い出した。

 乃木坂の演劇部が潰れそうになったあたりで、なにかお母さんの声がした。

 あたし、適当に返事してたような……。

 乃木坂のまどかが、すごい偉い子に思えてきた……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 

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ライトノベルベスト【大西教授のリケジョへの献身・2】

2021-12-25 05:59:03 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

【大西教授のリケジョへの献身・2】   




 

 物部瑠璃のスタッフ細胞は、ラット実験の段階だった。

 スタッフ細胞は、簡単な細胞の操作で、どんな細胞や器官でも作れるというシロモノで、再生医療の新時代を切り開く可能性を秘めていた。

 大西教授は、長年の勘で、このスタッフ細胞はとんでもない力を持っていると確信した。

 なんとか、瑠璃の業績を広く世に出してやりたい一心で、自分の身体で実験してみることにした。

 自分の腕から取った細胞をスタッフ細胞化し、それを自分に移植したのである。

「お早うございます……」

 瑠璃は、いつものように教官室に入り、いつも自分より早く来ている大西教授に挨拶した。

 

 が、返事が返ってこない。

 

「あれ?」

 と思うと、実験室に通じるドアが開いていることに気が付いた。

 瑠璃は実験着であるお祖父ちゃん譲りの白衣を着て実験室に足を踏み入れた……まるで人の気配が無かった。

 しかし、大西教授のデスクには、プレパラートやシャ-レが置かれ、今の今まで教授がいたような雰囲気であった。椅子の座面に触れると、ほのかに暖かかった。

 なにか、用事で席を外したんだろうぐらいに思って、瑠璃は二秒で教授のことは忘れてしまった。彼女の仕事への没頭ぶりもはんぱではない。

 気づいたのは、昼前だった。

 昼食のため席を立とうとして、電源を切っていたスマホのスイッチをいれた。留守電が一件入っていた。再生するととんでもないものが入っていた。

「これなんです。聞いて下さい」

 大西教授は夕方になっても姿が見えないので、瑠璃は教授の妻と娘を呼んだ。

――瑠璃クン、大西だ。実験は成功した。だけど、とても変なんだ。ここは三十年前の研究室なんだ――

「イタズラじゃないんですか、うちの主人じゃないですね、声が若いし、三十年前だなんて」

 妻は、関心を示さなかった。

「もう一度聞かせてください」

 娘の明里(あかり)は引っかかった。明里は、父とは疎遠であったが、大学生になってからは、大学の事情も分かり、父への反発心は薄れていた。ただ、血のつながりが無いことで、後一歩馴染めずにいた。

「どうですか?」

「……良く分からない。でも何かあったら、あたしに知らせてください」

 スマホには、それ以来かかってくることは無かった。教授も戻ってはこなかった。大学は、教授を失踪したものと考え、とりあえず休職扱いにした。

 

 気になった瑠璃は、携帯電話の音声分析を音響学をやっている仲間のところでやってもらった。

「声は若いけど、声紋検査……大西先生と一致」

「どういうこと?」

「分からない。ただ、他にもね、微かに時計の音や、車の音が入ってるでしょ」

「そう、聞こえないけど」

「増幅してみるわね」

 友人はイコライザーのフェーダーを操作した。確かにアナログ時計と、車の通過音が入っている。

「時計は、セイコーの電池時計。今は生産されていないわ。いまの研究室のは電波時計だし……それに、走ってる車、エンジンの音がみんな三十年以上前のものばかりなのよ」

「というわけなんです……」

「それって……?」

「よほど、大規模な音響トリックを使わないと、出来ないことです」

「お父さん、口には出さないけど、だいぶ大学に不信感があったんじゃないかしら」

 明里は、少し的の外れた推理をした。

「大西先生は、そんな人じゃないわ。特認教授での残留も、ほぼ決まっていたし」

 二人の思考は、そこで停まってしまった。

 明里は話題を変えた。

「瑠璃先生の研究は進んでるんですか?」

「進んでるってか、足踏みね。このごろ実験用のラットが……」

 瑠璃は、言葉を濁した。その分明里の感覚が鋭くなった。前回来たときよりもラットの数が減って、何匹かは入れ替えられていた。

 そして、それは直感だった。

 スタッフ細胞には、大きな副作用……多分、若返ると同時に過去に戻ってしまうんじゃないだろうかと。

 明里は、大胆なことを考え始めていた……。

 つづく

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