大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・082『葬儀 ヒムロの決意』

2021-12-02 12:35:33 | 小説4

・082

『葬儀 ヒムロの決意』 加藤 恵    

 

 

 ドーーン  ドーーン  ドーーン

 

 西ノ島に三発の弔砲が響いた。

 サンパチ ニッパチ イッパチの三体がカノン砲に変態して撃ってくれている。

 三体とも兵器に変態するスキルは無かったが、葬儀に合わせてプルグラムし直してやったのは、わたしだ。

 

 落盤事故では13名の犠牲者を出してしまった

 わたしと兵二が駆けつけて、やれたことはチルルの最後を看取ってやったことだけだ。

 パルスガスが発生して、パルス動力を使っているものは、誰も入ることができなかったのだが、それにしても13名という数は、西ノ島の三つの集団を悲しみに落とすには十分すぎる人数だ。

 今日一日は西ノ島全島をあげて休業し、13名の犠牲者に哀悼の誠に沈む。

 十三個の柩は氷室カンパニーでは間に合わなかった。

 単に骸を収めるだけの容器ならばなんとでもなるのだが、社長が「きちんとした柩で送ってやりたい」と言って、フートンと村から人材と資材の提供をうけて間に合わせた。

 村長も主席も快く引き受けてくれただけでなく、葬儀当日は、全島を挙げての葬儀に賛同してくれた。

 

「西ノ島でパルス鉱石の採掘を始めて十余年、数々の試行錯誤によって、三つの集団の生活を維持できるところまで来ました。その道は、けして平坦なものではなく、これまでに七回の事故を起こし、総計23名の貴い犠牲者を出しました。その23名の犠牲者の13名を、この事故で出してしまったのは、ひとえに、このカンパニーを預かるわたしの責任であります。その責は、こののち、いかようにも負う所存でありますが、今日一日だけは、13名の御霊に額ずくことを許してください……」

 そこまで弔意を述べて、社長は詰まってしまった。

 自分のふがいなさと、13名の犠牲者への想いが溢れてしまったんだ。

「わたしは、これまで、カンパニーの者が出自にこだわるのを良しとはしてきませんでした。けして禁止したわけではないのですが、その、わたしの意を汲んで、カンパニーでは出自について語ることが、いささかタブーのようになってきていました。そのことで、カンパニーでは互いの過去や出自を気にせずに日々の生産と生活にまい進することができました。しかし、今般の葬儀に当り、墓誌に記すほどの事を、この13名のうち8名についてできませんでした。人もロボットも今を生きるものであるならば、互いの今をこそ知っておけばいいと思ってきました。しかし、それは間違いでありましょう……もとより、どこまで出自や過去を明らかにするかは、それぞれの自由ではあります。これからは、いま少し、それぞれの過去と心の内を語ることのこだわりを捨てていこうかと思います。むろん、事故の再発を防ぐことが、残された我々の最大の任務であります。13名の御霊のみなさん、あなた方の犠牲は、けして無駄にはしません。どうか、静かに、この西ノ島のこれからを見守ってください。氷室カンパニー代表 氷室睦仁(むつひと)」

 ホーーーー

 参列者から感嘆ともため息ともつかない声が漏れた。

 社長の悲しみと想いと反省と、逝ってしまった者たちへの哀惜の心が言葉に溢れている。

 のみならず、社長は、原稿やメモなども用いずにやってのけた。

 悲しみと、将来への真摯な眼差しを、参会者たちは見て取ったのだ。

 

 そして、おそらく、参会者の全員が社長の真名が『睦仁』であることを知ったのだ。

 睦仁とは、あの伝説の大帝、明治天皇の諱(いみな)である。

 

 13名の柩は荼毘に付され、その日のうちに骨壺に収められ、それぞれ懇意にしていた者たちが分担して納骨までの世話をする。

 わたしと兵二はチルルの守りをすることになり、村長と主席の発案で、西ノ島は三日間の喪に服すことになった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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ライトノベルベスト『ライトノベル・2』

2021-12-02 05:58:07 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『ライトノベル・2』   

      



 めずらしく一番風呂をお父さんに譲った。

 それだけ早く『ライトノベル』が読みたかったのだ。

 読み始めて、はまりこんでしまった。

 やはり本は軽かった。特に軽い紙を使っていたり、装丁が甘いわけではなかった。だのに軽い。

 まあ、いいや。中身がおもしろければOKだ。

―― 主人公は、そのラノベの、あまりの軽さにのけ反った ――

 本屋さんで読んだときそのものだ……いや違う。もう一度読んでみる。

―― 主人公のケイは、そのラノベの、あまりの軽さにのけ反った ――

 主人公の名前が自分になっている……いや、本屋さんで読んだときも、つい今読んだときも、単に『主人公』だったような気がする。でも、流し読みだ。読み落としであったのかもしれない。

 次ぎに読み進んだ。

―― 気が付いたら、レジのオネエサンに500円玉といっしょに渡していた。

「この本、これが最後の本なんですよ。ラッキーですね」

 オネエサンは、我がことのように嬉しそうな顔になった ――

 自分の行動そのものだった。そのあと、シオリをもらったら、レジのオネエサンそっくりだったことや、モールの入り口で振り返ったら、本屋さんそのものが無くなっていたこと。駅の改札機が鈍くて、定期を当てても通せんぼされたこと、お腹の大きい女の人に席を譲ったこと。そして家に帰るまでの描写など、ケイのこれまでの行動がそのまま軽妙な文体で書かれていた。

―― そして、ケイは、ふと頬杖ついてクラブのことを考えた ――

 その言葉に触発されたんだろうか、ケイは、今日のクラブのことを考えていた。

「やっぱ、コンクールは創作劇だよ。創作だってことだけで持ち点高くなるって」

 沙也加が言った。

「でもさ、本書くどころか、脚本だって、ろくに読んだことないのに、創作なんてできる?」

 ケイは反対した。

「だってさ、部員三人きゃいないんだよ。予算も技術もそんなに無くって、ホイホイ都合の良い既成脚本なんかできると思う?」

「そりゃ、探してみなきゃ分かんないよ」

「じゃ、ちゃっちゃと探して読ませてちょうだいよ!」

「分かったわよ、明日は持ってくるから!」

 啖呵を切って、今日の部活は物別れだった。おっとりした利恵は、「まあまあ」と言っておしまい。

 ま、あとで考えよう。そう思い直して続きを読んだら、こう書いてあった。

――「ケイ、お風呂!」――

 同じタイミングで、お母さんに言われたんで、びっくりしてお風呂に入った。

 だいたい今日は、図書館にその脚本を探しにいったのだ。うまい具合に、登場人物で書き分けられた『いちご脚本集』というのがあった。でも、版が古いせいか、しっくりこない。他に何冊かあったが、いずれも古い本で、読む前に気が萎えてしまった。

 まあ、帰ってからパソコンで検索しよう……と、思っていたんだ!

 ふと、あの本屋に入ったときも、ひょっとしてぐらいの気持ちはあったんだけど、ラノベの書架を見たとたんに、ふっとんでしまった。

 で、そのことを思い出し、ケイは思わず湯船に沈んでしまうところだった!

 風呂からあがると、さすがにラノベのことは後にしてパソコンに熱中した。

「小規模演劇部用脚本」と正直に入力した。

 ビンゴ!

 八本あまりの脚本が並んでおり、人物や道具で絞り込んでいくと、一本残った『すみれの花さくころ』で、ピッタシ女子三人。三人分コピーし、ホッチキスで閉じたら、もう午前零時だった。

 そこでラノベのことを思い出したが、さすがに眠く、学校で読もうと、本を手に取ると、シオリが落ちてきた。あの本屋のオネエサンがニッコリ笑っている。裏を返すと、「窓ぎわの席は、どうもね……」とあった。

 明くる日のホームル-ムは、男子は野球、女子はバレーボールしようって、あらかじめ使用許可もとっていたんだけど、あいにく台風崩れの低気圧の接近で中止。

 急遽席替えに替わった。

 で、くじ引きで、ケイは窓ぎわの席……そこで、あのシオリの言葉が蘇った。

 野球部の健太が、前の席になったんでフテっていた。

「健太、よかったら、席替わろうか……」

 密談成立。二人は密かにクジを交換して、ケイは窓ぎわを免れた。あとは自由時間になった。

「そうだ、続き読もう」

 ケイは、昼休み、部室に沙也加と利恵を呼んで脚本のコピーを渡し、三人で読んだ。

 沙也加は、大道具や小道具が一切ないことに、利恵は中身が気に入ってくれたようだ。そんなこんなで、例のラノベは読み損ねていた。

 ガッシャーン!

 本を開いたところで、大きな音がした。

 風で飛ばされてきた植木鉢が窓ガラスに当たって、さらに健太の頭に当たって粉々になった。

 キャーー!

 みんなの悲鳴があがったが、当の健太はケロリとしていた。タオルの上からバッターのヘルメットを被って昼寝を決め込んでいたので、怪我一つせずに済んだ。ケイが、あの席にいたら、今頃は血みどろの重傷だっただろう。

 無意識に落としたラノベからは、シオリのオネエサンが「よかったね」という笑顔ではみ出していた。 

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泉希 ラプソディー・5〈谷町高校の秘密〉

2021-12-02 05:43:01 | 小説6

ラプソディー・05
〈谷町高校の秘密〉   

 



 三日目で妙なことに気づいた。

 看板と中身の違う授業が多いのだ。

 総合学習の時間は、普通に国語をやっているし、ビジネス基礎では日本史をやっているという具合である。授業の中身は30年前からまるで変わっていないように思われた。

「ねえ、谷町高校って、ずっとこんなの?」

 泉希は隣の席の子に聞いてみた。

「うん、そうよ。よその学校みたいに変な選択授業がないから主要教科に集中できるの。うち、親子姉妹ずっと谷高だけど、看板はともかく中身は変わってないわ」

 その日、都教委の定例の査察が入った。簡単に言うと、学校が都教委に届け出たとおり学校を運営しているかどうかを調べに来るのだ。大方は今の時代なので電子化された資料の点検だけど、直接授業の査察もやる。

 泉希のクラスはビジネス基礎の看板で日本史をやっている。

――こんなの、すぐにバレちゃうよ――

 そう心配したが、査察の都教委の指導主事は感心したように首を振っている。泉希は、ちょこっとだけ指導主事のオッサンの心を覗いてみた。

 なんと、オッサンにはビジネス基礎の授業に見えている。室町幕府と守護大名の関係についての説明が、日本の物流の話に聞こえている。

 で、気づいた。他の人間には聞こえないように、阿倍野清美が呪文を唱えている

―― 臨兵闘者 皆陳列在前…… ――

 その呪文は、人知れず査察が終わるまで続いた。

 査察が終わると清美はぐったりと机に突っ伏した。取り巻きの二人も同様だった。チラリ、清美と目が合ったが、今までのような敵愾心は感じられなかった。訳は分からないが、ひたすらホッとした気持ちだけが通じてきた。

 昼休み、泉希は図書室に行ってみた。

 最初は、学校が10年ごとに出している記念誌を閲覧するつもりだったが、入ってみると閉架図書の中にある歴代の卒業アルバムが気になりだした。

「すみません、閉架の卒業アルバムが見たいんですけど」

「パソコンのここに、クラス氏名と閲覧目的書いてくれる。それからスマホとかは預かります」

 司書のオネエサンが事務的に言った。

「スマホですか?」

「ええ、古い奴は住所や電話番号とか個人情報がいっぱいだから。最近のでも肖像権とかうるさいからね」

 泉希は、スマホを預け、閉架図書室に入った。司書室からはガラス張りだけど、利用者が少ないせいだろう、古い本特有の匂いがした。

「これって……」

 インスピレーションを感じる十数冊を取り出して、パラパラとページをめくってみた。

 名前も顔も違うけど、明らかに同じオーラを発している人物が映っていた。

 それも三年に一度……それは阿倍野清美だった。

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