大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 49『まず南へ』

2021-12-14 14:23:37 | ノベル2

ら 信長転生記

49『まず南へ』信長  

 

 

 草原(くさはら)に降り立った俺と市は、ツナギの飛行服を脱ぐと、すぐに紙飛行機を解した。

 一枚の紙に解したのに飛行服を包んで、紙紐で十文字に縛ってしまう。

 穴を掘って埋めてしまえば、めったなことでは見つからない。

―― 隠密用の特別製なので、土に埋めれば三日で消えてしまいます ――

 忠八に言われた通りに、紙飛行機の埋葬を終えると、月と星の位置で方位を確認して、南西に向かって歩き出した。

 

「ちょっと東に寄れたんじゃない?」

 

 市が立ち止まった。

「地図では、豊盃に通じる道に出くわすはずだ」

「どうするの?」

「南に向かうぞ」

「うん、分かった」

 予想はしていたが、市の素直さは少し拍子抜けだ。

 こと作戦行動では兄の俺には敵わないと思っている。

 なんといっても、桶狭間からこっち、壊滅的な敗北を喫したことのない俺だからな。大嫌いな兄でも、敵地での行動は、俺に従うのが一番だと割り切っているのだろう。

「あれ?」

 しばらく行って道が見えてきたところで、再び市が立ち止まる。

「どうした?」

「方角が合わない」

 どうやら、頭に描いた風景と現実のそれが合わないので戸惑っている。

 すぐに正解を言ってやってもいいのだが、ちょっと放置してみる。

 おもしろいからな。

「そうか、歩いてるうちに方位がズレたのよ」

 完全な勘違いだ、目の前に伸びている道を豊盃に向かう南北街道だと思っている。

 実際は西の酉盃(ゆうはい)から豊盃に伸びる東西街道だ。

 自分たちは南北街道を目指していたはずなので、方角を間違えたと感じているのだ。

 しかし、俺は正解を言わない。

 やがて、白み始めた夜の底に、黒々と楼門が浮かび上がってきた。

「三国志って、実は大したことないんじゃない?」

「どうしてだ?」

「だって、あれ、豊盃の楼門でしょ。豊盃って、たしか国境地区の主邑、いわば県庁所在地。それにしちゃ、ちょっと貧弱」

「まあ、完全に夜が明けなければ街には入れん。その祠の陰で開門をまとう」

「うん」

 

 信長は意地悪だ?

 

 逆だ。

 このトンチンカンが家来だったら、俺は許さん。

 さっさと放逐するか、腹を切らせる。ちょっと調べてみれば分かるだろ。

 たとえば、佐久間信盛。勝家と並ぶ織田家の重臣だったが、あまりの無能さに、俺は身一つでやつを放逐してやった。

 楼門には、お定まりの扁額(街の表札のようなもの)が掛けられている。

 やっと、妹は気づいた。

「え……汚い扁額ぅ…………?盃。上の字が読めない」

 え、まだ気づかない?

「あ、そっか」

 分かったか?

「豊って字が簡体字なんだ」

 あん?

 豊……酉……間違えるか?

「あ、門が開いた。行くよアニキ!」

 パタパタとお尻をはたくと、市は街道に飛び出していった。

 

 そろそろ言ってやろうか。

 いや、面白いから、もう少し放っておこう。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい10〔なんだか よく分からない〕

2021-12-14 06:00:33 | 小説6

10〔なんだか よく分からない〕  

  

 


 一昨日と昨日はクラブの稽古。

 

 休日の二日連続の稽古はきつい。

 だけど、来月の一日(ついたち)が本番だから、仕方ない。

 

 美咲先輩、恨むよ。

 

 健康上の理由には違いないけど、結果的には盲腸だった。

 盲腸なんか、三センチほど切って、絆創膏みたいなの貼っておしまいなんだって。

 三日で退院してきて「大晦日は自分の家で『ガキの使い』ながらミカンの皮剥いてた」と、気楽におっしゃる。

「あそこの毛って剃ったんですか?」

 と聞いてウサバラシするのがやっと。

 今さら役替わってもらえないし、東風先生も替える気ないし。

 まあ、あたしもいっぺん引き受けて台詞まで覚えた芝居だしね。

 

 だけど、指導に来てるオッサン……ウットーシイ!

 ウットーシイなんか言うたら、バチがあたる。

 

 小山内カオルいう演劇の偉い先生。

 

 うちのお父さんとも付き合いがあるけど、東風先生は、小山内先生の弱みを握ってる(と、あたしは思ってる!)ようで、熱心に指導はしてくれる。

「明日香クン、エロキューション(発声と滑舌)が、イマイチ。とくに鼻濁音ができてない。学校の〔が〕と小学校の〔が〕は違う」

 先生は見本に言ってくれるけど、違いがよく分からない。

 字で書くと学校の〔 が 〕は、そのまんまだけど、小学校のは〔 カ゜〕と書く。国語的には半濁音というらしい。

「まあ、できてなくても通じるか……」

 あたしが、十分たっても理解できてないと、そう言って諦めてくれた。

 

 問題は、その次。

 

「明日香クン、君の志穂は、敏夫に対する愛情が感じられないなあ……」

 あたしは、好きな人には「好き」いう顔ができない。

 言葉にもできない。

 関根先輩に第二ボタンもらうときも、正直言って、むりやりブッチギッた言う方が正しい。

 関根先輩が、後輩たちにモミクチャにされてる隙にブッチギってきた。

 だから、関根先輩自身はモミクチャにされてるうちに無くなったもんで、あたしに「やった」つもりはカケラもない。

 第一回目では見栄はりましたぁ!

 すんませんm(__)m。

 あと半月で、TGH高校演劇部として恥ずかしくない作品にしなくちゃならない。

 

 ああ、プレッシャー!

 

 S……佐渡君が学校に来た。びっくりした!

 

 きっと、毒島先生が手ぇまわしたんだろ。

 いっしゅん石神井の十日戎で会って、鏑矢あげたこと思い出したけど、あれじゃない。

 あんな戸惑った……いや、迷惑そうな顔してあげたって嬉しいはず無い。

 毒島先生が「最後の可能性に賭けてみよ!」とかなんとか。生徒を切るときの常套手段だということは、お父さん見てきたから、よく分かってる(後日談だけど、ほんとはよく分かってなかった)。

 

「本当に描かせてくれないか?」

 

 食堂で、食器を載せたトレーを持っていく時に、馬場さんが、思いがけん近くで言う。

 ガッチャーン

 ビックリして、トレーごとひっくり返してしまった。

 チャーハンの空の皿だったんで、悲惨なことにはあらなかったけど。

「は、はひ(#°д°#)!」

 悲鳴のような返事をしてしまった。

 

  なんで、あたしが……なんだか、よく分からない。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
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ライトノベルベスト『わたしの吸血鬼・1』

2021-12-14 05:19:33 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『わたしの吸血鬼・1』  




 アイドルは恋愛禁止……という立前になっている。

 これ、国民的常識。

 研究生のころは律儀に守っている。でも、二十歳も過ぎるとね……ま、いっか。

 というわけで、半分くらいの(業界の都合で、具体的な割合は言えません)子はテキトーにやってます。

 たまに、週間Bなんかにすっぱ抜かれて、地方に飛ばされたり、坊主頭になったりたいへんなんです。

 え、でも何カ月かしたら戻ってきたり、逆に、それを売りにしたりして逆ブレイク?

 そんなのは、ごくごくわずかなラッキーな子で、プロデュサーも事務所も、その辺はよく見てます。

 ゴクタマで、行けると思ったら、それでオセオセになる。

 でも多くのハンパなアイドルは惨めなもの。

 卒業宣言もな~んもなしで、ある日突然、メンバー表から消えておしまい。

 だから、わたしは気をつけていた。

 いちおう選抜のハシクレだけど、ほんとハシクレ。「端の方で暮れかかっている」の省略形かっちゅうぐらい。

 そんなわたしにも彼ができた。

 

 S・アルカードって名前の男性ユニットのセンター。

 半年前まで東京ドームの横でヘブンリーアーティストの資格もらって、ももクロと同じ時期からやっていたって言うから苦労人。『バンパイアーナイト』でブレイクして、習慣歌謡曲に出てきた。そこのセンターがアルカード。

 わたしたちは、めったにグループ以外の人と番号の交換なんかやらない。

 それが、そんなことした覚えもないのに、家に帰ったらメッセが入っていた。

―― 突然で、すみません。S・アルカードのアルカードです。よかったらメールください ――

 最初は不気味だった。

 教えてもいない番号知ってるし、ポット出のさい先分からないユニットだし。だいいちメイクがすごいんで素顔が分からない。もちろん口をきいたこともない。

 わたしは無視した。

 で、不思議なことに、メールをそのままにしておいても、三日もたてば履歴から消えている。ま、スマホとかには詳しくないから放っておいた。

『バンパイアーナイト』は順調にヒットチャートを駆け上り、四週目には、オリコンの三位に食い込んできた。

 番組でも、わたしたちと、並べたり絡めたりするようになってきた。あいかわらず五十字程度の短いメールはくれていたけど、やっぱ無視。そして、もう、明くる日には消えるようになっていた。

 スマホオンチのわたしは、相手のスマホに、そういう機能がついていて、迷惑にならないように向こうが消去してくれているのかと思った。

 番組で、MCの居中さんが彼に振ったことがあった。

「アルカードはさ、AKRのどの子あたりが好みなんだろうね?」

「あ、まず、他のメンバーから聞いてやって下さい」

 で、S・アルカードのメンバーが、いかついメイクの割には純情そうに、うちの選抜のトップテンあたりの子の名前を挙げていく。だれもわたしみたいなハシクレの名前をあげたりはしない。

 いよいよ、アルカードの番になった。

 わたしは迷惑に思っていた割には期待してしまう。

「みなさん素敵なんで、迷ってしまいますけど……同じセンターとして、小野寺潤さんかな。あ、かなは失礼ですね、小野寺潤さんです」

 メイクに合わない甘い声で、アルカードが言った。

 ショックだった。

 てっきり、わたしの名前を言うのかと思った。

 さらにショックなのは潤ちゃんが本気で顔を赤くしたこと!

 くそ、なんかのイタズラだ! たぶん、うちのメンバーの誰かの……と、わたしはスネていた。

 そして、この段階で、わたしはアルカードに興味を持ってしまっていることに気づかなかった……。

 つづく 

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