大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女BETA・42≪国変え物語・3・五右衛門見参・1≫

2019-06-28 05:59:59 | 時かける少女
時かける少女BETA・42
≪国変え物語・3・五右衛門見参・1≫ 


 美奈は道頓のもとで大坂城外堀作事のお抱え医師になった。

 道頓は物事の緩急を心得た男で、けして急いだ工事はやらせなかった。
 この天正十二年(1584年)という年は、九州や四国、関東以北が、まだ秀吉になびいておらず、徳川家康も臣従していない、小牧長久手の戦いが引きわけに終わる年である。
 秀吉は、まだ天下の半分ほどしか手にしていないわけで、そのためにも秀吉の威を示す大坂城の普請は急がれた。普請場は大名や近在の大商人たちに請け負わされたが、事情を承知していたので、どの作事場も灰神楽が立つような賑わいと急ぎようであった。
 そんな中で、道頓の持ち場だけは、朝五つから宵五つまでの作業と時間を限っていた。また十日に一度は有給の休みを取らせ、けして無理はさせなかった。それでも、道頓の作事場は、他に比べて進捗が早く、文句を言う作事方の役人もいなかった。

 そのくせ道頓自身は明け六つには作事場に来ている。

 特に、監督するという風ではなく、親方衆や人足たちと、談笑しながら朝飯を食っている。
――なるほど、こうやって働く者の様子を見ながら、作業の段取りを決めて、作事場の空気を読んでいるんだ――
 美奈は感心した。相談されれば親方衆も発言し、相談の上決まったことなら、やる気も出る。
 そのくせ内心ではせいている。
 けして言動に出るようなことはなかったが、半月も付き合っていれば分かるようになった。「自分なら、こうやる」という観念が強いし、また洞察力もあるのだが、けして表には出さない。ただ、作業の安全ともめ事には気を配りすぎるほど配っていた。先月櫓から落ちたのも、そういう気配りの最中のことであった。

「早う羽柴様に天下を平らげていただかんとなあ……わしらの商いは天下が収まらんと進まんでのう」

 昼餉の休みに、道頓は親方たちと握り飯に焼き味噌を塗ったものを頬張りながら世間話をしていた。
「徳川さまさえ、なんとかお味方になれば、あとは早いやろになあ」
「まあ、羽柴さまにもお考えがあってのことやろ、せいだい気長に明るう待ってるこっちゃろなあ」
「道頓さん、さっきの気ぜわしさと反対じゃの」
「アハハ、儂も人の子や、悟ったことを言いながら、気持ちはせきますわ。なんや若いころ女子のケツ追い掛け回してた時のようや」
「したり、したり、その若い女医師殿は、医学の腕だけではおまへんやろ」
「いやいや、わしが手ぇ出したら一服盛ってええいうことになってますのじゃ」
 これには美奈も笑った。
 道頓には、久宝寺と高安に女が二人いることを美奈も知っていた。親方衆も薄々知っているようで、一座はどっと沸いた。
「しかし、羽柴さまがお留守なことを知ってか、京や大坂では、五右衛門とかいう盗賊が出始めとるようでんな」
「え、それは初耳、どないな盗賊だんねん?」
 道頓は知っていながら、子供のように質問する。聞いた方が人の評判や受け止め方が良く分かるからである。

 五右衛門は、正しくは石川五右衛門といい、伊勢長嶋の一揆の生き残りという噂であるが、定かではない。
 ただ襲われる商人たちが信長の時代に、その政権に食い込み身代を大きくした者ばかりだというから根のない話ではないであろう。

 その年の四月、秀次が二万の軍勢を迂回させ、家康の本拠地三河を叩こうとして、逆に待ち伏せをくらい大敗を喫するということがおこった。世に言う小牧長久手の戦いである。一説に、その秀次中入(なかいり)の報を家康にもたらしたのは五右衛門という説もあった。

 五右衛門とは、近々出会いそうな予感がした美奈である……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・49』

2019-06-28 05:43:58 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・49



『第五章 ピノキオホールまで・10』


「お、やっぱり役者は形(なり)からやなあ」
「ヘヘ」

 ちょっと照れくさい。

「一つ聞いていいですか?」
「なんや?」
「昨日観た芝居なんですけど、こんな風に衣装とかはしっかりしてたんですけど、『結婚の申し込み』がドヘタだったんです。『熊』の方は断然よかったのに」
「台詞しゃべってない役者見てきたか?」
 昨日の芝居について、言えるだけの言葉を使って説明した。
「リアクションの問題やな。きちんとリアクションでけへん役者と、それを見逃してる演出の問題や」
「なるほど……」
「簡単にうなずくなよ。演る方は大変やねんぞ」
「はい」
「ためしに、最初のとこやっとこか。カオルとスミレが初めて通じ合うとこ」
「スミレは?」
「オレが演る」

カオル: こんにちは……。
スミレ: ……え……。
カオル: こんにちは……!
スミレ: こ、こんちは……。
カオル: 嬉しい、通じた!……わたしのことが分かるんだ!

「どうですか?」
「昨日の『結婚の申込み』も、こんな感じやったんやろなあ」
「どういう意味ですか」
 あのドヘタといっしょと言われてはたまらない。
「最初の『こんにちは……』で、もうスミレが反応すんのん予感してるやろ」
「そんなことないです」
「ほんなら、『こんにちは……』のあと、何を見て、何を聞いてる?」
「それは……」
「いつも通りスミレには通じひん思てたら、次の何かを見て、何かを……何かが聞こえてるはずや」
「ええと……」
「たとえば、土手の菫とか、桜、空の雲かも知れへん。鳥の声が聞こえてるかもしれへん……やろ?」
「もう一回やらせてください」

 で、なんとか最初の「通じた喜び」はできるようになった。

 問題は次の「嬉しい、通じた!」に移った。
「嬉しいようには見えへん。六十何年かぶりで、生きてる人間に言葉が通じてんで」
「うーーーーーーーーん……」
 先生は「喜び」が湧き上がるメソードを教えてくれた。
 演ってみた。「ダメ」だった。
「それは、せいぜい三日ぶりぐらいに会うた友だちや。もっと大きい喜び……『置き換え』やってみよ」
目玉オヤジが、頭に浮かんだ。
「ジュニア文芸にノミネートされたときのメモ残してるか?」
「はい」

 部活ノートを広げた。

 あの日、駅前の本屋さんで見つけた『ジュニア文芸』 時刻、天気から始まり、タイ焼きを買おうかなと思ったけど、梅雨の蒸し暑さとタイ焼きの熱さを計りにかけて、タイ焼き屋さんをシカトして流した目線の先に見えた親子連れ。お母さんが熱心に本を探し、赤いカッパを着た女の子がぐずっていた……そして『ジュニア文芸』を見つけた。

 ときめきが蘇ってきた。

 先生はさらに細かいところを質問してきた。
 メモの行間からさらに蘇ってくる感覚……。
 本を持ち上げたのは左手だった。だから意外に重かった。
 右手を添えて、しばらく見つめた表紙はAKB48たちの笑顔。
 開いてみると、新刊雑誌特有の紙とインクの匂い。
 そして開いた運命のページ!
「そや、その顔や。すごい嬉しいやろ」
「はい背中に電気が走りました!」
「な、感情は飛びついても出てけえへん。物理的な記憶の積み重ねから湧き出てくる。さっきのカオルの喜びの何倍もすごいやろ」
「はい……」
「どないした?」

 わたしは、あの後由香にメールをタキさんに電話をした。タキさんのガハハハ笑いの奥で気づいたお母さんへの想い「ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ」が蘇ってきた。先生に正直に言った。
「それは記憶の堆積や。ある記憶を蘇らせると思いもせんかった記憶が蘇ってくることがある。はるか東京を離れてきたことに何か深い想いがあるな。玉串川で見た、あの思い詰めたような顔に繋がってる何かが……」
「それは……」
 なにかモドカシイものが胸にわだかまっているのだけど、うまく言えない。
「またにしょう。そろそろみんなが……」
「おはようございまーす!」
 
 タマちゃん先輩が入ってきた。
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高校ライトノベル・せやさかい・029『ダージリン』

2019-06-27 14:54:54 | ノベル
せやさかい・029
『ダージリン』 

 

 

 アッ!と思うことはたびたびある。

 山門脇の桜が見事に満開になったとき、紫陽花の花の色がコロッと変わったとき、校長先生の髪がアデランスやと分かったとき、ファイナルファンタジーⅦのリマスター版発売が発表さっれたとき、お父さんの失踪宣告が決まったとき、ほかにも色々……。

 いま、アッと思たんは頼子さんのヘアスタイルが変わってたから!

 頼子なんちゅう昭和チックな名前やけど、イギリス人とのハーフでブロンドの髪にブルーの瞳。フルネームは夕陽丘・スペンサー・頼子。いつもはロングの髪を肩に垂らして不思議の国のアリスみたい。

 それが、なんちゅうか一見ショートヘア。

 よく見ると、後ろの方でまとめてあって、ショートよりもかっこええ!

「アハハ、暑いからね。と言って、ショートにするのもなんだしね。おかしい?」

 留美ちゃんと二人、フルフルと首を振る。

「素敵な人は何をしても素敵ですねえ……」

「そんな感心しないでよ、三つ編みをまとめただけなんだから」

「三つ編みなんですか?」

「うそ?」

 留美ちゃんが後ろに回ってシゲシゲと観察。頼子さんはティーカップを持ったままクルリと回って見せる。下手に恥ずかしがらないし、はしゃぐわけでもなく、自然に留美ちゃんの興味に合わせてる。いかにもレディーという感じ!

「ダージリンに似てます!」

 え? 似てますじゃなくて、文芸部の紅茶はダージリンなんですけど?

「あ、ああ、あのダージリンか!」

 頼子さんも納得やけど、わたしには分からへん💦

「これだよ、桜ちゃん」

 部室のパソコンをチャチャっと操作する留美ちゃん、なんとブラインドタッチです。

「ほら!」

 嬉しそうに出したんは、ユーチューブ。ガルパン映画の予告編。  

「あ、ああ……」

 納得した。聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンにソックリや。

「わたしはダージリンほどには格言知らないけどね。ハハ、ローズヒップって言われなくてよかった」

「嫌いですか、ローズヒップ?」

「見てる分には好きよ。友だちに、こういうのが一人いたら面白いとは思うんだけど。あんたたちも十分面白いよ」

「そ、そうですか?」

「留美ちゃん、水泳の授業『うまい班』なんだって?」

「え、あ、まあ」

 そうそう、見かけによらずと言うてはなんやけど、留美ちゃんは水泳の授業では『うまい班』なんだ。

「で、さくらは『金槌班』なんだ」

「そ、そうですけど」

「「アハハハ」」

 二人そろって笑い出す。わたしもいっしょに笑てしまう。たった三人の文芸部やけど、ええクラブやと思う。

「『金槌班』はA班になるらしいわよ」

 これには、留美ちゃんも「え?」やった。

「『苦手班』はB班、『うまい班』はC班なんだって」

「なんですか、それは?」

「名前の付け方が差別的だってクレームが来たらしいよ。来週の授業から変わるって」

 

 うーーーーーん。

 

 どうなんだろ?

 田中さんの『制服切り裂き問題』には何の対応もせえへんのに、しょうもない水泳の班の名前のクレームにはアッサリ対応。

 それも『金槌班』が『A班』……当たり前の感覚やったら『C班』やろと思うねんけど。

「それで、田中さんは?」

 あとで思うと、頼子さんの関心は、田中さんのことにあった。

 田中さんのことを真っ先に聞くと変に意識してしまうのんで、いろいろの前振りやったと思うのは、もっと後のこと。

「いや、それが、今では水泳の師匠なんですよーー!」

 田中さんのスパルタ指導を説明すると、コロコロ笑う文芸部でありました。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん③』

2019-06-27 07:00:30 | 戯曲
連載戯曲『梅さん③』 


 
 
: よろしゅうございます。恐れ入ります、そこにおなおりいただけますか。
: おなおり? 
: お座りくださいまし……正坐で、背筋をお伸ばしなさいまして……
: は、はい。
: 失礼いたします(スマホを出して写す)元締め……上役に最後のチェックをさせていただきます……
: イエィ! 百点満点!(スマホに向かってVサイン)
:(スマホで話をする)はい……でも……はあ……はあ……やはりそうですか。
 はい、承知致しました……(みぞおちのあたりに力をいれるようにして)申し上げます……わたくし実は……
: 実は……?
: 貸衣裳屋、常磐衣裳とは、世を忍ぶ仮の姿。実は……剪定士でございます。
: え……植木の散髪屋さん?
: 植木ではなく、なんというか……人間の……
: あ、美容師さん!? やだよあたし、リボン付けんのはいいけど、入社式までは、ヘアースタイル変えるつもりはないんだからね!
: 美容師ではなく……いわば、人間そのものの剪定士。
: え……
: 放置しておくと、この先世のため人のためにならない人間を剪定するのが役目。
: え……
: 元締めと呼ばれる……神さまと申しあげればよろしいかと……その元締めから、この人間を剪定せよと申しつかり、このように種種様々な方法で剪定される人様に近づくのです。そして、念には念を、ただ今元締めによる最終チェックをいたしました。
: それって……え? え?
: 残念ですが、冗談でもドッキリでもございません(懐剣を取り出し床に据える)
: ゲ!……渚のこと殺すの!?
: いいえ……この懐剣は、渚さんの肉体と魂を切り離すためのもの……
 通常は(ピストルのようなものを取り出す)このピストル型の人消しを使います。
: 人消し……
: 存在そのものを消し去り、このカートリッジ(銃からカートリッジを取り出す)に魂を回収します……
 たとえば、筋向かいの池田さんのおうち。去年定年をむかえたご夫婦だけで暮らしてらっしゃいますよね。
: そうだよ、水野さんちは渚ちゃんがいていいねって、小さい頃からかわいがってもらって……
: 若い頃から不妊症かと思って、ずいぶん努力を……
: そうだよ、病院を何軒もまわって、体外受精とか、いろいろやったけど、結局……
: (カートリッジを示して)実は、この中に、池田さんの息子の魂が封じ込めてある……
: え……?
: ……(カートリッジをガチャリと銃にもどす)
: ……池田さんちに子供なんていないって。
: ……よくできた盆栽の剪定といっしょ。初めからそういう形であったかのように見える……
 その梅の盆栽も、半月もすれば、始めから、自然にきれいに枝や花が整っているように見えるようになるわ。
 池田勇君て子がいたの、記憶は消えてしまっているけど、渚とは保育所のころからいっしょ。おもしろい子だったけど、中学のころからくずれはじめ、たばこにシンナー、お酒にクスリ……ここまではいいとしても、
 将来、とんでもない災いのもとになる……元締めからそういう依頼があって、先週剪定した……つまり存在そのものを消した。
: 消した?
: 親でさえ、その存在を忘れ、彼がこの世に存在していた痕跡の全てを消してしまうの。あの子の部屋は、そこ……あの家の少しゆったりしたカーポートの半分を占めていた増築部分……今は跡形もないけどね。
: うそ……
: ほんと。
: ……魂は?
: 初期化して、問題がなければ、またどこかの赤ちゃんとして生まれ変わる……そして、今度剪定の依頼をうけたのが、あなた水野渚さん……(じっと見つめる)よろしく。
: (耐えられずに、戸や障子を開けて逃げようとするが、ことごとく鉄の扉のようにロックされており、ビクともしない)……そんなあ……(;゚Д゚)
: まあ、そんなにお騒ぎにならずにお座りなさい……(指先で渚を、そして元の座っていた位置を示すと、見えざる手によってつかまれたごとく、元の場所に正坐する渚)
: ……あ、あんた魔法使い?「千と千尋」の湯バーバみたいな!?
: どうせ言うなら銭ーバくらいにしてもらいたかったわね……少しは情ってものがあるのよ、私にも……
 わがままで見栄っ張りで、面倒くさがり屋で、人の世話をするのが大嫌いで、こらえ性がない……こんなにかわいいのにねえ……将来は、結婚と離婚を繰り返し、二人の子供を車の中に置き去りにして、渚はパチンコに熱中。子供は車の中で熱中症で死亡。悲観のあまり自宅でガス自殺。そのガスに引火して大爆発。
大勢の人がまきぞえをくって死んだり怪我したり……そして、その死に至るまで、通りすがりの人や近所の人達に数え切れない悪影響を及ぼすんだそうよ……
: そ、そんな……
: という元締めの話。
: どうしてそんなふうになるってわかるのよ!?
: 言ったでしょ……運命の神さま。人がこれからどんな生き様を示すかを見通す、剪定士の元締め。どの枝を切り、どの花を生かせば、人や人の世が平和になるかを見通される。その的中率は九十九点九パーセントだといわれる。
: だ、だからって、まだやってもいないことに責任とらされるなんて理屈に合わないよ!
: これをごらんなさい。
池田君が存在し続けていた場合の、つまりわたしが彼を剪定しなかったらこうなったという別次元の新聞、
 日付は一昨々日の夕刊。
: ……暴走男、男女五人を轢き殺し、他四人重軽傷……親と口論の末、酒を飲んで暴走……父親は責任を感じて自殺……
: 死んだ人の名前を見てご覧なさい。
: 死者は、太田豊子、新田幸子、水野渚……!? 
 三人は卒業旅行の待ち合わせのため、水野さん宅前の路上を歩いているところを……
: そう、放っておいても渚は死ぬことになっていたんだけど、他のまきぞえくって死ぬ人はもっとかわいそうでしょ。理不尽だわ、加害者のお父さんは責任感じて自殺に追い込まれるし、渚のお父さんやお母さんも、嘆き悲しむ。警察は余計な仕事が増えて、喜ぶのはテレビのワイドショーくらいいのもんでしょ。それで、これがその現場写真。
: (チラッと見て顔をそむける)なんでこんなものが……
: 超正確な天気予報みたいなもの。近い未来は確実に見通せる。
 渚なんて、車の下に巻き込まれて五十メートルも引きずられて……もう人間の形してないよ。
: ……
: 普通、元締めはここまで見せたり、教えたりはしてくれない。ただ「だれそれを」剪定してこい……こんなに詳しく教えてくれるのには訳がある。渚……あなたはわたしのやしゃごだからよ。
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・8〔あたしの神さま〕

2019-06-27 06:49:51 | 小説・2
高安女子高生物語・8
〔あたしの神さま〕         


 今日もS君が来てへん……。

 まだ新学期が始まって三日目やけど、二学期もよう休んでたさかい気になる。
 クラスの何人かは心配してるみたいやけど、大半の子ぉは「Sは、もうあかんで」と思てる。
「放課後は、あしおらんさかい」
 担任の毒島(ぶすじま)先生は、昨日も、そう言うてた。きっとS君とこの家庭訪問や。
 お父さんが元高校の先生やから、よう分かる。
 毒島先生は、S君をもう切りにかかってる。あかん生徒には無事に自主退学してもらうために家庭訪問が増える。

 正直S君は弱いと思う。

 苗字が『宇宙戦艦ヤマト』に出てくるキャラクターと同じなんで、一学期に、ちょっとからかわれた。せやけど、イジメなんちゅうもんやないと思てる。クラスには鳩山君いうのもいてて、この子もずいぶんからかわれた。せやけど、そんなんほんの一カ月ほど。案外しっかりした子ぉで、学級委員長にも選ばれて、周りからは、こない呼ばれてる。

「鳩山の皮を被った阿倍」

 S君は、ちょっとからかわれたことを理由に引きこもってるだけや。あんまり同情はせんけども、どないかせいと思う。
 名前言うたら、うちの担任もたいがい「毒島」やもんな。ついでに、先生の一人称は「あし」やけど、立派な、どっちか言うとベッピンの部類に入る女の先生。
 他の地方の人には、分かりにくいやろけど、河内地方では女の一人称は「あし」「わし」になる。あたしもそない言うときもあるけど、注意して「た」を抜かさんようにしてる。
 お母さんにちっちゃいころから言われたり、保育所の先生に言われたこともあるけど、直接はお父さんの影響。
「あしで、ええ。河内の女はあしや!」
 事あるごとにいわれてたんで、あたしは「あたし」と言うようになった。

 お父さんは、いらんことを教える。

 しょ 処女じゃない♪ 
 処女じゃない証拠には♪ 
 つん つん 月のものが 三月も ナイナイナイ♪

 これを『しょじょ寺の狸ばやし』で覚えてしもて、保育所の先生に怒られたことがある。
 他にも、『インターナショナル』と『軍艦マーチ』を歌える。これも、お父さんが保育所の行き帰りで、無垢なあたしに覚えさせたもん。
「おおきなったら、右翼にも左翼にもつぶしがきく」
 というのが名目やけど、ようは「おもろい子ぉ」にしたろというイチビリ根性。

 で、お父さんの言うことは、あんまり信用してない。

 せやけど、一つだけ、あたしの中で定着したもんがある。
『高安山の目玉親父』
 保育所行くときも、うちの三階の窓からも見える。
「お父さん、あれ何?」
「あれは、目玉親父大権現さまや」
 そない言うて、手ぇ合わせたさかい、それからあたしの心のなかでは神さまになってる。
 さすがに、手ぇ合わせたりはせえへんけど、なんとなく守り神みたいに感じてる。
 ほんまは、高安山気象レーダーやいうのは、小学校になって教えてもろた。

 せやけど、あたしには神さま。

 今朝も、なんとなく「うまいこといきますように」と具体的なことなしで願掛けしてきた。
 で、S君は来てへん。まあ、ええけど。
 クラブの稽古では、ダメ出しばっかりされて凹んでしもた。まあ、本番まで三週間しかないさかい、しゃあない。けど、胃が痛い。

「佐藤君、改めてモデルを頼みたいんだけど」

 部活が終わって帰ろ思たら、美術部のイケメン馬場さんに呼び止められた。

  これて、神さまの御利益やろか……!?
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高校ライトノベル・里奈の物語・7『空飛ぶ鉄瓶・1』

2019-06-27 06:41:04 | 小説3
里奈の物語・7『空飛ぶ鉄瓶・1』



 誰かの眼差し(まなざし)で目が覚める……と言ったら笑われるかな?

 あたしは、それで目が覚めたことがある。
 うんと昔、まだオムツとかしてたころ……ちょっと信じられないだろうけど、あたしは覚えている。

 思い込みかもしれないけど、十七年の人生で、数少ないイイコトだったから。

 ホワホワとした温さで目が覚めた。
 冷めた目の先に、お父さんとお母さんの顔があった。二人とも顔いっぱいの微笑みで、あたしを見ていた。
 あたしが居ることで、二人とも幸せなんだ……そのことが、とっても嬉しい。

 あたしは存在していていいんだ……!

 そんなこと、赤ん坊が思うなんて、ね……ありえない?
 でも、きのう東からお日様が昇って一日が始まったのと同じくらいの、確かな記憶なんだよ。

 それと同じくらい温かい眼差しで目が覚めた。

「あ…………あなた?」

 その子は、胸から上が黄色い切り返しになったワンピースを着て、机の上に座っていた。
「いいお天気ね。昨日までの雨が嘘みたい」
 そよ風が人の姿になって口をきいたら、こんな感じ……。
 その子が誰なのか、そんなことどうでもいいと思っちゃうぐらいの爽やかさ。
「カーテン開けるよ……うんしょ、うんしょ」
 その子が歌舞伎の緞帳のようにカーテンを開けると、ベランダのサッシもいっしょに開き、秋の風が日差しといっしょに、部屋に注ぎ込んだ。
「うわ……」
 穴から出てきたモグラみたくたじろいで、お布団を被る。
 そのお布団の上を、なにかがよぎった。

「こんな朝は、飛ばなやもったいないね!」

「え、飛ぶ?」
 お布団ずらして、目を上げるとベランダの向こうに黒々とした特大の甕の口が浮いていた。
「さ、乗って」
 その子は、ヒラリと甕の口に飛び込み、あたしにオイデオイデをした。
「これって……大きな鉄瓶……はてな?」
 振り返ると、机の上のはてなの鉄瓶が無かった。さっき、お布団の上をよぎった……。
「そうよ、こんないい日は、鉄瓶だって空を飛ぶ!」
「そうなんだ!」

 二人を乗せたはてなの鉄瓶は、そのままグーンと秋の蒼空に舞い上がった。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・41≪国変え物語・2・道頓と美奈の出会い≫

2019-06-27 06:29:34 | 時かける少女
時かける少女BETA・41
≪国変え物語・2・道頓と美奈の出会い≫ 


 美奈は道頓に見とれてしまった。

 と言って、惚れた腫れたではない。その異相にである。茶人のような風体から武士でないことは分かるが、造作が大きい割には威嚇を人に感じさせず、面構えは、この戦国末期の世では、一国の大名に相応しい。
「あ、そこちゃうがな!」
 なにか差配と作事に食い違いがあったのだろう、道頓ははじかれたように立ち上がった。立つと顔に似合った偉丈夫の胴ではあるが、手足が滑稽なほどに短い。

 美奈は思わず吹き出しそうになった。

 道頓は短い手足で、梯子を降りようとしたが、最初に足を降ろしたところで梯子を踏み外し、三間ほどの高さから、ずどんと落ちてしまった。
「痛、いたたた……足を、足をいわしてしもた!」
 正直に苦悶の表情を浮かべて、道頓は転がりまわった。
「だれか、医者じゃ、医者を呼んで来い!」
 年かさの配下のものが叫んだ、人足や町人たちが周りを見まわすが、おいそれとは医者は見つからないようだ。
「利助!」
 年かさが利発そうな若者に名前だけで命じた。若者は、それだけで分かったようで駆け出そうとした。

「わたしが診ます!」

 利助がつんのめった。
 美奈は薬箱を降ろしながら、道頓を囲む輪の中に入って行った。
「ねえちゃん、怪我も診られるんか?」
 年かさが、驚いたように言った。
「いささか……右足の下の骨ですね。これ、痛みますか?」
「痛っ!」
「骨は折れていませんが、ヒビが入ったようです。しばらくご辛抱を。そこの棒を……」
 利助が、添え木であろうと理解して、紐といっしょによこした。
 美奈は、薬箱から塗り薬を取り出し、右足の膝から下に刷り込んだ。美奈は、ほんの小娘なので、年かさや利助たちは心配げに見ていたが、当の道頓は累代の医者に診せているように落ち着き払っている。やがて添え木をあて、紐で巻き上げて治療が終わった。
「嘘みたいに、痛みが引いた。あんた若いのにすごいなあ!」
 道頓は他人事のように感心した。
「痛み止めがきいているからです。七日ほどは歩けませぬ。日に二度、この薬を……」
「でや、いっそ治るまで、うちの屋敷に来てくれへんか?」
 子供のように打ち解けた笑顔で道頓が言った。打ち解けると満腹になった竜をマンガにしたような人懐っこさになる。

 で、美奈は久宝寺の道頓の屋敷に、とりあえず七日間滞在することになった。

「道頓さまには、みな懐いておりますね」
 薬を塗り、添え木を当てながら美奈は正直に言った。二日目の朝である。
「ああ、有り難いこっちゃと思てる。大坂は関白殿下が来られてから、風通しがようなって、それが儂みたいなもんにもお裾分けの差配がでける」
 美奈は、道頓がおべっかではなく、心から思っているように感じられた。このオッサンに欲を持たせたら、いっぱしの大名にはなるだろうと思った。
 道頓には良くも悪くも「欲」が無い。人が喜ぶことをするのが好きでたまらぬ性分のようで、大坂城の外堀の作事も秀吉が喜んでくれることと、なにより、この作事で河内近在の百姓や町人に銭が潤沢に回るようになり、皆が喜んでくれることが嬉しくてたまらぬ様子であった。

「美奈はん。あんたは歳に似合わんなかなかの医道の達人やと思う。よかったら作事が終わるまで居てくれへんやろか。作事場では毎日大小の怪我人やら病人が出る。要費と礼は儂が出すよって、頼まれてくれへんやろか?」
 言いようが、まるで女を口説くような熱と稚気があった。美奈は笑いながら引き受けた。

 こうして、美奈は、道頓を通して戦国末期の歴史に関わることになった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・48』

2019-06-27 06:17:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・48 



『第五章 ピノキオホールまで・9』


 ナイスお下げ!

 この一発から稽古が始まった。
 てか、自主練やるために、わたしは一時間も早く学校に来た。そしたら、プレゼンの前で、大橋先生が中庭のソフトボール部の練習を見ていた。
 この先生は、退屈を知らない。放っておくと、何かしら人を見ている。
時々「ホウ」とか「ヘエ」とか「ナルホド」とかつぶやいている。
 ソフボの子たちは、ウォーミングアップのため、ユニフォームではなく、ハーパンにTシャツ。それに日陰とは言え、もう八月。汗だくだ。

 知らない人が見れば、ただの不審者。

「先生、早いんですね」
 プレゼンを開けて、エアコンをつける。
「ああ、稽古前に乙女さんと話そ思て早よ来たんやけど、お母さんの介護やろなあ、まだ来てへん」
「ケータイ買えばいいのに」
「死んでもイヤ! それに、こういう偶然の出会いもあるしな」
 ソフボの子たちを見ていたとは言わない……。
「お下げにはしてほしかったんやけど、今時の子ぉは嫌がる思て言いそびれてた」
「トコさんには、一ヶ月前からメガネかけさせたんでしょ」
「え、トコ知ってんのか!?」
「昨日、志忠屋でいっしょでした」
「ええオバハンになっとったやろ」
「ううん、とってもキャリアでナイスオネエサンでしたよ」
「そうか、キャリアか、あいつもドラマチックな青春しとったさかいにな」
「ロマンスの多い人だったんですか」
 女子高生としては、しごく当たり前の想像をした。
「それもあるけどな、あいつはいっつも、人生の最前線におらんと収まらん性分でな」
「人生の最前線?」
「もとは高校卒業してS銀行に行きよった。あ、今のMS銀行」
「MS銀行! 大卒でもめったに入れませんよ」
「まあ、時代がちゃうけどな、学年でもピカイチやった。芝居は……まあ、それなりやったけどな」
「でも、今は理学療法士さんでしたよ」
「ああ、ある災害事故で、ボランティアに行きよってな。MS銀行にはボランティア休暇があってな。で、そこで偉いドクターと運命の出会いをしよった」
「あ、そこでロマンスが!?」
「話は最後まで聞け」

 台本で頭をポコンとされた、我ながらいい音がした。

「ドクターは女医さんや」
「なんだ」
「その女医さん、ガンに侵されてはってな、そんな自分の病気はほっといて働いてはった。ほんでいろいろあって、トコは、その女医さんの最後を看取りよった……それで、人生の大転換。オレにも多くは語りよれへんけど……そのお下げ、トコが言いよったんか?」
「まあ、そうかな。トコさんが台本を見て、メガネの話になって、由香とお母さんがノっちゃって」
「うん……まだ取って付けたみたいやなあ」
「自分でもそう思います」
「これに着替えといで」
 紙袋を渡された。中味はセーラー服……!
「先生、なんでこんなもん持ってんですか!?」
「そんな変態オヤジ見るような目ぇで見るなよ。昔、劇団持ってたから、そのころのん見つくろうてきた。他にもいろいろ入ってるやろ」
 なるほど、よく見ると、モンペや防空ずきんなどが入っていた。準備室で着替えて、鏡に映してみた。

 カオルがそこには居た……。
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・5〔明日香のファッション〕

2019-06-26 08:24:05 | 小説・2

高安女子高生物語・5
〔明日香のファッション〕
      
 
 

     

 あたしはファッションには凝らん方

 ただオンとオフの区別はつけてる。

 学校行くときは完全な制服。家帰ったらラフっちゅうか、お気楽がコンセプトの気まま服。  まあ、ルーズにならん程度の体を締め付けへんもの。上は薄手のセーターで、外出するときはフリース。ちょっと遠いとこやったら、その上にダッフルコート。共にチャリでいける距離にあるユニクロ。  履き物は、ほん近所はサンダル。冬用と夏用があって、冬用は足の甲のとこにカバーが付いてるのん。夏はヒモとかベルトだけのん。じゃまくさい時はお父さんのサンダルをそのままひっかけたりする。  ちょっと遠いとこはスニーカー。学校行くときはローファーに決めてる。買うのんはユニクロの近所のABCマート。理由は簡単、近所にあるから。

 明日から稽古が始まるんで、制服をチェック。

 制服は気に入ってる。

 男子は詰め襟に似てるけど、襟が低くて、角が丸い。そんで色が紺色。右の袖にイニシャルのGをかたどった刺繍でボタンは平べったい金ボタン。  女子は、一見男子と同じ色のセーラー服。前開きなんで着やすいし、リボンをせんかったり短こうしたりすると、前のジッパーが見えてしもてかっこ悪い。ほんで袖にGのイニシャル。  スカートは普通のプリーツみたいやけど、裾の下に黒で学校のイニシャルが入ってて、簡単には改造でけへん。さすが大阪府。長年制服の改造に悩まされてきたんで考えたある。

 

 その制服を、明日に備えてチェック……OK……と思たら、ローファーがいかれてた。

 

 右足の底がつま先の方から剥がれかかってる。で、八尾の西武の中にあるABCマートまで買いに行く。チャリで二十分ほど。台詞が半分通せた。信号やら車に気い取られて止まってしまう。まだ覚え方がハンパな証拠。帰りに残り半分賭けてみよと思う。

 せっかく八尾駅前まで来たんで、アリオの中にある映画館を覗いてみる。『ザ・ファブル』が観たかった。観てもかめへんねんけど、二月の一日には芸文祭の舞台が控えてる。観たら影響される予感がして我慢してる。  予告編だけ、プロジェクターで二回観た。  岡田准一がかっこええ、かっこ良すぎる。クールな殺し屋やねんけど、どこか三枚目。ヒラパーのCMやってからの岡田さんは大好き。イチビリのイケメン、完全にあたしのツボや!  あたしに与えられた台本は『ドリーム カム トゥルー』、ファンタジーや。岡田さん観たら、絶対影響される。そない思て、エレベーターに向かうと……目に入った、入ってしもた。

 関根先輩と美保先輩が、ラブラブで入っていくのんが……。

 心臓が口から出そうになる。  昨日に続いて二日連続の遭遇。    もう悪夢や!

 

 昨日も、山本神社行って二人でお祈りして、おみくじひいて二人揃て大吉、マクドでかる~く「映画でも観にいかへんか?」「うん」「なんや、中味も聞かんと、うんかいな」「うん。学といっしょやったらなんの映画でもかめへん」「アホやなあ」  もう、その時の情景まで映画の予告編みたいに頭に浮かんで、パニック寸前。

 

 帰りは、案の定台詞の稽古忘れてしもた。

 

「明日香、滝川とこで新年会やるけど、付いてくるか?」

 帰るとお父さんに勧められた。滝川さんは、お父さんの数少ないお友だち。あたしらガキンチョでもオモロイオッサン。二つ返事でOK。

 宴会では、フランス人とのハーフのニイチャンと、二十歳過ぎのベッピンさん。オッサン、オバハンは記憶には残ってない。  まあ、この人らのことはおいおいと。

 明日から、稽古が始まりますのですのよ!

 痛!     舌噛んでしもた。

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん②』

2019-06-26 07:14:47 | 戯曲
連載戯曲『梅さん②』      


 
 
 スマホの地図を見ながら、紺の袴に矢絣姿、パンフのモデルそのままの「梅」が、衣装箱を持って、水野家の玄関にいたる。  

: ごめんくださいませ……
: はい……?
: 常磐衣裳でございます。御注文のお衣裳をお持ちいたしました。
: ……かっこいい。
: ありがとう……あなたパンフのモデルをやってらっしゃった……(パンフとみくらべる)
: はい。モデル自身が御注文と同じお衣裳で、おとどけいたすことになっております。
 社員なのでプロのモデルではございませんが、この姿をご覧いただいて、最終的にご判断いただき、
 お気に召していただければ、着付けのお稽古などもさせていただきます。
: まあまあ、それはごていねいに(^▽^)。
: お母さん、だんぜんこれがいい(#^0^#
)!
: なにもかも勝手に決めてって、文句言ったのは、どこの誰だったっけ?
: いいものはいいの、それでいいじゃん。いいと思ったことは素直にみとめる。
 年格好というか、姿形というか、あたしによく似た美人さんだし、あたしもピシッときめれば、こうなるんだ!
: ありがとうございます。
: それじゃ、あたし近所の寄合に行ってますんで。どうぞ上がっていただいて。
 着付けの指導とかしていただいてもらいな。その梅の鉢も忘れずに入れとくんだよ。じゃ、よろしくね。
: はい、承りました。いってらっしゃいませ。
: こっちよ、玄関入ってくれる。

 庭のセット(物干しに植え込み程度)が瞬時に片づけられ、居間の設定になる。

: 失礼いたします。
 (渚が開けた無対象の玄関を閉じ、框で草履を脱ぎそろえ、下座とおぼしきあたりに正坐をし、作法どおりに頭を下げる)
 改めてご挨拶いたします、このたび水野様の担当をさせていただきます、水野梅と申します。よろしくお願いいたします。
: あ、ども、こちらこそ……同姓なんですね、水野さん(梅の鉢をもったまま、一応正坐で礼をする)
: おそれいります。どうぞお楽になさってくださいませ。あ、その梅の鉢はわたくしが……
 とりあえず出窓の方でよろしゅうございますでしょうか?
: う、うん。
: まことに、見事な剪定でございますね。枝の詰め方といい、葉の刈り方といい……
 あら、思い切って間引いてございますね。
: でしょ。花が開いたときにちょうどよくなるって、おかあさんもそう言うんだけど……
: ……
: あたし的には、自然にボサッとパンクしててさ、ゴシャッとしているのがよかったんだよね。
: ここまで……
: どうかした? 
: いえ、蕾の間引き様に驚いてしまいました……
: でしょでしょ、ほっときゃそれなりにお花がいっぱいになったのにね……
: さ、ではさっそく着付けのお稽古をいたしましょう。
: うん、どこまで脱ぐ?
: コートをお脱ぎになって……
: はい。
: あら、お覚悟の良い、ショートパンツでいらっしゃいますのね。
: うん、部屋の中でゴシャゴシャと着てるのウザったくって、コートだけごつくして、中味は、夏とそうかわんないの。
: それでは、そのセーターとレッグウオーマーを……
: ブラとかパンツは?
: ホホ、そこまでは、お稽古ですから、Tシャツとショートパンツで……

 襦袢、着物、帯、袴と要領よく着せていく。
 その間「いいプロポーションでございますこと」「へへ、そうかしら」「足袋をお履きになって……」
 「旅から帰って足袋だ」「おみ足もおきれいでいらっしゃいますこと」「へへ、どうも」
 「はい、やっぱり今のお方ですものねえ……」「おねえさん、いい香り」「さようでございますか?」
 「なにかつけてんの?」「いいえ特別なものは」「ううん、なにかつけてるよ」「ホホ、椿油とヘチマコロンを少々……」
 「ヘ、ヘチマ?」
 「レアものでございますのよ、ホホ……お袖を通しますわね……そう、リラックスなさって……この襟元がコツでございましてね」
 「へえ……どうだろ、髪型とかは?」
 「おまとめになって、お手伝いしますね……そう……おリボンもセットされてございますから」
 「わ、おっきくてかわいいね、このリボン」「お似合いですわよきっと……帯をしめます、息をお吐きになって」
 「ハー……」「はい!」「……帯ってこんなにきつい……おねえさんの性格……?」
 「いいえ、」「すっきりしあげるためには、ここが肝心!」「ギョエッ……」
 「でも、私どもの……いえ、昔にくらべますと、かなり略式になってございますのよ。
 はい、ではお袴はこんな……感じでございましょうかね」
 「ま、毎日着るわけじゃなし……へえ、袴の位置ってこんなに高いんだ」「料金はお安くしてございます」
 「ハハ、うまいこと言うジャン」「はい、鏡をどうぞ……」
 「ワッ、カッケー、脚がすんごく長く見える。こんなの制服にしてお店開いたら、アンナミラーズとか、今流行のメイドカフェより繁盛うたがいなしかもね」
 「ホホ、そういうときには襷がけなどいたしますと、二の腕あたりがチラリと……色っぽうございますわよ」
 「ハハ、おねえさんもなかなか言う……」「さ、できあがりました、ひとまわりしていただけます……(かるく襟元などを手直しする)はい、よろしゅうございます」「ありがとう」など。
 着付けの時間無言になったり、テンポをくずさぬよう、着付けの練習と会話の練習をしっかりしておくこと
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・7〔ドリーム カム スルー〕

2019-06-26 07:06:20 | 小説・2

高安女子高生物語・7

〔ドリーム カム スルー〕 

 

 

 我が町高安はちょっとした新築ブーム。

 

 あたしの中高安町らへんも、築二十年ちょっとぐらいの家に足場が組まれて、外壁の塗装工事かと思たら、解体。更地になった明くる日には、もう新築工事にかかってるようなとこが、あっちこっちにある。秋に迫った消費税の10%への引き上げを見越した駆け込み需要かは、ようわからへん。けど、庶民のドリーム カム トゥルーやねんやろなあ。

 高安だけかと思たら、電車の窓から見えるあちこちで似たような工事をやってることに気ぃついた。

 近鉄の高架から見える都心が日ごとに変わってていくのは楽しみやけど、自分の身の回りの景色が変わっていくのは寂しい。

 新学期が始まった今日は、中学生やら小学生も道でいっしょになったけど、子どもは新築が他人事ながら楽しいみたい。あるいは、そないやって建て替わっていくのが当たり前いうような顔で歩いてる。

 

 あたしは、まだ十六歳やけど、変化にはついていかれへん。

  高安のホームで、関根先輩を見かけてしもた。

  ちょうど通学のラッシュ時で、ホームは高校生で一杯。

  当然その半分が女子高生で、その子らが、みんな関根先輩のこと見てるような気がする。そこに田辺美保なんかが来たら、精神の平衡が保たれへん。せやから、ちょっと車両を外す。関根先輩が隣の車両に居てるの分かってるから、どうしても意識がそっちに行ってしまう。それで外の景色を見てしもて、さっき言うたみたいに、あちこちで新築工事やってるのに気がついた。

 三学期の始まりは、冬休みが短いせいもあって、一学期の新鮮さも、二学期のうんざり感もない。

 ああ、始まったんやなあ……それだけ。

 学校にはクラブの稽古で二日前から来てる。稽古は始まってしもたら……まあ、まな板の鯉。と、言うときます。ほんまは頭打ってるねんけど、今日は、それには触れません。

 

 体育館で、寒いなか校長先生を始め生指部長、進路部長の先生のおもんない話と諸連絡。

 

 話いうのは、エロキューション、つまり滑舌と発声。それとプレゼンテーション能力。演劇部やってると、先生らのヘタクソなんがよう分かる。音域の幅が狭うて、リズムがない。つまり声が大きいだけ。

 やっと終わった……かと思たら、保健部長のオッサンが最後に出てきた。

「今から、大掃除やります!」

 七百人近い生徒のため息。

 ため息も、それだけ揃うと迫力。なんや体育館の床が瞬間揺れたような気がした。オッサンはびくともせんと大掃除の割り振りを言う、ただ一言。

「教室と、いつもの清掃区域!」

 わたしは思た。大掃除やるんやったら、つまらん話なんかせんと、チャッチャとやらせて、ホームルームやって、さっさと終わって欲しかった。

 だれですか、お前らもう終わってるて……?

 あたしらは、学校の北側校舎の外周。下足に履き替えならあかん。

 下足のロッカー開けて……びっくりした。来たときには入ってなかった封筒が入ってた。

 直感で男の手紙やと思た!

 すぐにポケットにしもて、校舎の北側へ。掃除するふりして、薮に隠れて手紙を読んだ。

 

――放課後、美術室で待ってます。一時まで待って来なければ、それが返事だと諦めます――

 

 最後にイニシャルでHBと書いてある。一瞬で頭をめぐらせて、そのシャーペンの芯みたいなイニシャルの男を考える。クラスにはおらへん……あたしも捨てたもんやないなあ。一瞬関根先輩の影が薄なった。

 ホームルームが終わると、あたしは意識的に何気ない風にして、美術室へ行った。

 美術教室は、ドアに丸窓があって、そこから小さく中が見える。そこから見た限り人影は見えへん。

 ちょっと早よ来すぎたかなあ……そう思て、こっそりとドアを開けた。

 「あ……!」

  思わず声が出てしもた。

 そこには、美術部のプリンスと、その名も高い馬場さんが居てた。

 

 ほんで目ぇが合うてしもた!

 

 馬場さんは、三年の始めに東京から転校してきたという珍しい人で、絵ぇも上手いし、チョーが三つぐらいつくイケメン。どないくらいイケメンか言うと、イケメン過ぎて、誰も声掛けられへんくらいイケメン。声かけるんはモデルのスカウトマンぐらいのもん。

 その馬場さんが声を掛けてきた。

「なにか用?」

「あ、あ、あ……」

 声聞いただけで、逃げ出してしまいそうになった。

「あ、その手紙!?」

 やっぱり、手紙の主は馬場さんやった! で、次の言葉で空が落ちてきた。

「間違えて入れちゃった……オレ、増田さんのロッカーに入れたつもり……ごめん!」

 増田いうのんは、あたしのちょうど横。AKBの選抜に入っていてもおかしないくらいかいらしい子。今の段階では、なんの関係もないので、詳しいことは言いません。

「増田さんがツボやったんですか!?」

「まあ、絵のモデルとしてだけど……」

 と、言いながら、馬場さんは、あたしの姿を上から下まで観察した。なんや服を通して裸を見られてるみたいで恥ずかしい。

 「失礼しました! あたしクラブあるよって、失礼します!」

 あたしは、いたたまれんようになって、その場を逃げた。

 
  あたしのドリームは、こうやってカムスルーしていく……。

 

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高校ライトノベル・里奈の物語・6『中国の団体さん』

2019-06-26 06:54:48 | 小説3
里奈の物語・6『中国の団体さん』

 

 日に二度ほど店に出る。

 出ると言っても一人じゃない、伯父さんかおばさんが居る。
 お客さんたちは店の売り子だと思ってくれる。
 実際、売り子の仕事をするんだ。

「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の他に、簡単なものならラッピングとかの包装もやる。

 お祖父ちゃんが生きていたころ、横についていて憶えてしまったんだ。
「おや、店員さん?」
 お得意さんが聞く。
「妹の娘です」
 伯父さんが、そう答える。
 あたしは笑顔で商品を包み「ありがとうございました」。
 商品を包む手際と挨拶は堂にいっているので、それ以上の詮索はされない。
 店番の里奈ちゃんということで、お客さんは温かい目で見てくれる。

 女子高生というカテゴライズは嫌い。クラスメートというカテゴライズはもっと嫌い。

 何を言われるか、何をされるか分かったもんじゃない。
 店番の里奈ちゃんはいい。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」。
 それだけで、人に温かく接してもらえるし、それ以上深入りされることもない。

 お昼を食べて、伯父さんと交代。おばさんと店に出る。

 え…………?

 戦車みたいな音がして(戦車なんて見たことないけど)観光バスが店の前に停まった。
 太ももの後ろからお尻にかけてザワってきた。学校じゃ、しょっちゅうきた感覚。
「逃げろ!」のサインが頭の中で点滅。でも、いつものように体は動かない。
「ニーメンハオ!」
 おばさんが、店の前に立って、バスから出てきた団体さんに声をかけている。
 見かけは日本人と変わらない団体さんが、狭い店の中に入ってくる。
 あたしの身体がやっと動いた。
「い、いらっしゃいませ!」
 それだけ言って、店の奥に引っ込む。
「里奈ちゃんは奥で包装だけやってくれる?」
 伯父さんが、そう言って、お店に出撃。お店は、さっきの倍ほどの賑やかさになった。
 伯父さんもおばさんも団体さんと同じ言葉でやり取り。レジに行った方がいいのは分かっているけど、足が動かない。

 ニ十分ほどで、団体さんは帰って行った。
 その間、おばさんに手伝ってもらい、百ほどのアンティークをレジ袋に入れるだけという簡易包装。

 こないだ仕入れた鉄瓶が全部売れた。

 レジの中は諭吉さんでパンパン。
「なんで、鉄瓶ばっかり売れたんですか……?」
「中国は健康ブームでね、鉄瓶でお茶を入れると鉄分が補給できるんや」
「はー……」
 返事はしたけど、意味は分からない、鉄分の補給なら他にもあるだろう。十万前後するアンティークでお湯沸かす意図は分かんない。
「でも、それをレジ袋に入れただけでよかったの?」
 お客さんにも商品にも悪いような気がした。
「うん、ちゃんと包装しても空港でゴミになるだけ」
「それに、レジ袋に入れただけでも、中国のお客さんは大事にしてくれるわ」
「安い買い物やないさかいな」
 伯父さんは、そう言いながら三つ目の諭吉の束にゴムバンドをかけた。

「はてな……あなたも水が漏れなきゃ、中国に買われていったかもよ」

 頬杖ついて、はてなの鉄瓶にため息ついた。あやうくカナヅチで叩き割られるとこだった鉄瓶に親近感。

 あたしが、ここに来て一週間がたっていた。


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高校ライトノベル・時かける少女BETA・40≪国変え物語・1・プロローグ≫

2019-06-26 06:47:00 | 時かける少女
時かける少女BETA・40
≪国変え物語・1・プロローグ≫ 


 朝日の眩しさで目が覚めた。部屋の様子や体の感覚で任務が終わったことが分かった。

「ご苦労様でした。二十年近い仕事で疲れたでしょ」
「ええ、正直……あたし、ほとんど芳子になってました。真一のこと本気で好きになっちゃいました」
「でも、よく耐えてやってくれたわ。あ、起きなくていい、もう少し眠っていらっしゃい」

 コビナタの声に安心し、ミナは今少しの微睡みを自分に許した。

 次に気づくと、陽は逆方向から差し込んでいた。
「……やだ。半日も眠っていたんだ」
 ミナは、体を起こすと大きく伸びをした。同時に大あくびが出た。芳子なら、たとえ一人でも口に手を当てるとかするだろう……芳子の面影はすっかり無くなっていた。

「夕陽がきれい……」

 コビナタの仮想空間なので、本物の夕陽であるわけがないのだが、ミナは心から、そう思った。
「あれは、あなたが変えた歴史の照り返し。上手くいった証拠よ」
「北C国の拉致は無くなったんですね?」
「ええ、あれがきっかけで日本人は世界の怖さと自分たちの認識のギャップに気づいた。左翼政党も、子供みたいな理想論を言わなくなったし、真一君ががんばったおかげで阪神大震災の犠牲者は4000人も少なくて済んだ……あとは、自分たちの力で歴史を繋いでいってくれるでしょ」

 二人は、どちらともなく歴史の木に目をやった。一つの枝が明るい緑を取り戻していた。

「その目は、もう新しいことを考えている目ですね」
「うん……ちょっとスケールが大きいの。やってくれる?」
「はい。引き受けざるを得ないことなんでしょうから」
「そう、嬉しい。じゃ、今夜はゆっくり休んで、明日……」
「いえ、今すぐにかかります」

 ミナは、初めて自分の意志で飛んだ。400年以上の時を遡って……。



 峠を超えると、目の前に河内平野が広がり、遠くに、普請中の大坂城が見えた。

 美奈は、こんなに大きな城を見るのは初めてだった。これまで見た(インストールされた)どの城よりも壮大で豪華な様子は、まだ五分にも満たない普請の様子からも知れた。大和川沿いの街道を歩いていても、行き交う旅人や通行人の歩調が軽やかで、田畑で麦や稲の世話を焼いている百姓たちの表情にも祭りの前日のような活気があった。

 本能寺で信長が死んでから、まだ二年しかたっていない。

 その間の秀吉の働きは目覚ましい。

 明智光秀を瞬くうちに討ち、一か月後の清州会議では、実質自分が信長の事業継承者であることを宣言。反対する柴田勝家を始めとする織田家の家臣団を打ち破り、あるいは臣従させ、今こうして、大坂の地に天下無双の城を築きつつあった。しかも、民百姓に負担をかけることなく、逆に後の世の公共投資のように普請をおこし、天下を明るくしている。

 美奈は、そんな明るく軽やかな時代の空気を吸うだけで、田楽の手振りをしながら走り出したくなるような衝動にかられた。

 行き交う人々のほころんだ顔を見ているうちに、久宝寺、平野の町を通り過ぎてしまった。
「しまった、商売忘れてた!」
 美奈は、大和の国で薬を仕入れて、大坂に売りに来ていたのである。庶流であるが、この時代の名医と言われた真瀬道三(まなせどうさん)の血縁にあたる。
 美奈は真瀬家と血縁であることは、めったに名乗らなかった。別段本家から禁じられているわけではないが、美奈は、自分の力と技術で身を立てていた。女の身ではあるが、生まれついての医者であると思っている。

「うわー、川を掘ってるんだ!」思わず声に出た。

「なに言うてんねん、女子し(おなごし)これは、大坂城の外堀じゃ!」

 人足の親父が、もっこを担ぎながら、明るく言った。まるで、自分の城を作っているような誇らしげだ。
 十間ほど先に露天の櫓があり、その上で、ひときわ大きな声で差配している男がいた。のびやかな口調ではあるが、指示が的確であるのだろう。あちこちの人足たちは連携していて動きに無駄がない。
 
 ああ、このお人は……

 この男こそ、ミナミの運河にその名を残す安井道頓であった……。
 
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・47』

2019-06-26 06:27:13 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・47
 
 
『第五章 ピノキオホールまで・8』 


 かっこいい……。

 わたしの網膜には、しばらくトコさんの残像が残った。

「あいつも、損な性分や」
「トコさん、なにしてはるんですか?」
「理学療法士……のエキスパート」
「ああ、リハビリの介助やったりするんですよね?」
「あいつは、訪問で、リハビリもやって、病院勤務もやって、非常勤で理学療法の講師までこなしとる。今日も休みやねんけどな、ああやって言われると、救急車みたいにすっ飛んで行きよる。で、月に二度ほど、ここに来て毒を吐いていくいうわけや」
「今日は、あなたたちが毒消しになったわね」
 と、毒が言った。


 帰りは一駅分逆向きに天六商店街を通って帰った。堺筋はもう暑い。
「昨日、あんた、ラブラブシートやってんてな」
 由香が左のお下げをひっぱった。
「え……?」
 一瞬なんのことだか分かんなかった。
「ああ、あれか」思い出した。
「あれかて、あんた……」
「そんな怖い顔しないでよ」
「なんかもろたやろ。吉川先輩が、えらい真剣な顔で渡してたて、評判やで」
「もらったんじゃないよ、見せてもらったの。『ジュニア文芸』よ」
「ふーん……」
「言っとくけど、ただのワンノブゼムだからね」
「そやけど……」
「わたしは、吉川先輩の心に住民登録した覚えはないからね。あそこはまだ空き地。強引に住んじゃえばいいよ。犬も三日も居着けば情が移るっていうよ」
「あたしは犬か!」
「そういう意味じゃなくって」
「分かってるよ、はるかの気持ちは。そやけどなあ……あ、今度先輩のコンサートあるねん。知ってるやろ。先輩がサックスやってんのん?」
「コンサートのことは知らないよ。サックスやってんのは知ってるけど」
「え、うそ!?」
「なんにも聞いてないよ」
「ほんま……うーん……」

 由香の乙女心に火がついた。

 わたしは、なんとなく分かった。わたしにコンサートを知らせなかった理由。
 わたしだって、あの佳作、あんまり進んで見せたくはなかった。
 でも、コンサートのチケットにはノルマがあるんだろう。
 言われないかぎり、知らんぷりしておこう。

 あの洋品店が見えてきた。

 あ、あのポロシャツまだ残ってる。プライスダウンされている。
 偶然だろうけど、オレンジ色の自転車と同じ値段。

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・036『数学の自習時間』

2019-06-25 13:04:12 | 小説
魔法少女マヂカ・036  
 
『数学の自習時間』語り手:マヂカ  

 

  三橋先生の数学が自習になった。

  家庭事情らしいんだが、詮索はしない。
 
 下手に関わると友里の時のようになる。継母との関係を円滑にしてやるために江の島弁天の助けを借りて、その貸しを返すために蝦蟇退治までやるはめになり、説明するのも面倒だけど、わたしの姉に擬態したケルベロスと東池袋で生活するハメになった。
 わたしは、この令和の御代に休息にきているのだ。
 だから、自習課題を一瞬で仕上げた後は、机に突っ伏して昼寝を決め込んでいる。
 なんせ、窓際の席だ。指をクルリと回して、カーテン越しのお日様とエアコンの冷気をカクテルにして、心地よい微睡みに身を任せる。
 
 コツコツ コツコツ
 
 窓ガラスを遠慮気味につつく音で、二割がた目が覚める。
 思念だけで、カーテンを五センチほどひらく。たとえ指先でも動かしてしまうと、完全に目が覚めてしまうからだ。
 ん、カラス?
 窓の外にカラスが居て、わたしのことを見ているのだ。
 
 おまえ……ガーゴイル?
 
――お休みのところ済まない。放課後、ちょっと千駄木女学院まで来て欲しい。用件は女学院に来てから主に聞くといい。じゃな――
 
 それだけを思念で伝えるとガーゴイルはさっさと飛んで行ってしまった。
 ガーゴイルは因縁のライバル、ブリンダの使い魔だ。
 関わるとろくなことは無い。なんせ、ブリンダとは神田明神の言いつけで休戦状態。直に来ないでガーゴイルを寄越してきたのは神田明神にも内緒と言うことだろう。面倒はごめん、無視に限る。
 無視に決めた、無視だ無視無視。
 
「放課後、フェットチーネパスタのステーキ載せ作るよ(^▽^)/」
 
 自習が終わると、嬉しそうに友里が寄ってきた。
「え、材料とかは?」
「安倍先生が気に入っちゃってさ、食材用意しとくって」
「ほんと? そりゃ楽しみだ!」
 こないだの自衛隊メシはどれも美味しかったけど、フェットチーネパスタのステーキ載せは調理研向きだと思った。基本はパスタなので、放課後の短い時間でも十分作れる。ネックはステーキだけど、それを安倍先生が用意してくれるならラッキーこの上ない。
 
 昼休み、ジャンケンに負けてしまってジュースを買いに行くことになった。
 
 こういうささやかなイベントが心を和ませてくれる。
 ジャンケンホイ! アイコデショ! ヤッター! ごくろーさん! リクエストのメモ! へいへい……。
 階段を下りて一階の廊下、倉庫の前に差し掛かる。
 トントン トントン
 ドアの内側からノックの音。
 うっかり立ち止まってしまう……ドアが静々と開いて、アルカイックスマイルの巫女さんが現れた。
 
 神田明神の巫女さん。
 
「ブリンダさんのお願いをブッチしそうなので、神田からまいりました」
「え? なんで神田明神さんがブリンダの用事で?」
「日米同盟は、かつてないほど緊密なのです。人間界でもG20が開かれます。世界平和のためにもブリンダに協力してやれとの明神様の思し召しです。いいですね、くれぐれもブッチなどなさいませんように。あなかしこあなかしこ……」
 
 放課後のフェットチーネパスタのステーキ載せはオアズケになりそうだ……。

 

コメント
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