町会の寄合から帰ってきたお祖母ちゃんが言うた。
可哀そうなお皿は、きれいに真っ二つに割れてしもた。
「あちゃー」
お祖母ちゃんが痛々しそうに、割れたお皿を持ち上げる。
中坊のころやったら「もー、脅かさんとってよ!」とむくれてるとこや。
でも、高校生のあたしは違う。晩ご飯の直ぐ後に洗い物せーへんかったあたしが悪いと思う。それに、お祖母ちゃんは、あたしを脅かしてドジをさせたろいうようなイケズで言うたわけやない。
一週間前のことで、今の今まで忘れてた。
先週、すみれと姫乃を誘て、高師浜に開店した西田さんのイタ飯屋さんに行ったときのこと。
待ち合わせの高師浜駅で、元駅員のオッチャンに写真を撮ってもろた。
写真と言われて、それが直ぐに浮かんで、持ってたお皿を落としてしまうくらい、深層心理では気になってたということや。
姫乃らに教えたろとも思たけど、とりあえず一人で見に行くことにした。
一晩寝て朝一番で!……と思たけど、起きたら九時半。
朝ごはんかっこんで、愛車のミカン色の自転車に跨って、高師浜駅を目指す。
え、うっそー!?
人だかり言うほどやないけど、駅前には十人近い人が特設の掲示板を見てる。
「いい写真やねえ」「NMBの子?」「いや、こんな子らはおらへんで」「素人さん?」「まさか」「そやけど、垢ぬけたベッピンさんらやなあ」「三人ともええなあ……」
そんな呟きやら会話が聞こえてくる。
花壇の傍に自転車を停めて、恐る恐る掲示板に……ちょ、ちょっとすみません。
前の方に出ると、それが見えた!
それは、写真と言うよりはポスターやった!
イ、イケてる……!
撮ってもろた後で、モニターに映った写真は見せてもろたけど、そのときもイカシテルとは思たけど、ポスター風に大きなるとインパクトが全然ちゃう!! あたしらて、こんなにベッピンやったん?
で、期待と心配が沸き上がってきた。
そやかて、みなさんが感心してるモデルの本人が、ここに居てる、このあたし天生美保!
いやー気ぃつかれたらどないしょ! ねえ、ちょっと早よ気ぃついてよ! という矛盾した気持ち。
五分はおったやろか、意識的に顔を晒すようなことはせえへんかったけど、それでも写真見てる人の顔をチラ見とかはしてた。
「あ、すみません。直ぐどけます!」
みなさんの注目を浴びる……けど、気づかれることは無かった。やっぱ、日ごろのあたしは、ごくごく普通のパンピーというかモブキャラというかNPCというか。
で、安心したような寂しいような気持ちで、写メ付でメールを二人に送る。
家に帰ると、リビングのテーブルの上に、きのう割ってしもたお皿が元に戻って置かれてた。
え、ドラえもんのタイム風呂敷か!?
「思い出のお皿やから、瞬間接着剤で直しといたよ」
二階から下りてきたお祖母ちゃんが種明かし。とにかく、つなぎ目が見えへんくらいキッチリと直してある。
「ありがとう、お祖母ちゃん」
お祖母ちゃんが言うほど大事にしてたわけやないけど、言われると、このお皿にまつわるアレコレが思い出される。
「もう普段使いにはでけへんから、壁掛けにしよか」
お祖母ちゃんは、大事そうにお皿を持って行った。
お昼を食べよ思たら着メロの音、お、姫乃からや。
――すごいよ、見に行ったら速攻で正体バレちゃった!――
文面の後に写真が続く。駅前のみなさんに、アイドルよろしく取り囲まれてニヤついてる姫乃。
なんで姫乃だけ!?