大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・098『三千世界のカラスを殺して』

2022-12-04 17:17:24 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

098『三千世界のカラスを殺して』   

 

 

「……三千世界ちゅうたぁね、ありとあらゆっ世界全部ちゅう意味じゃ」

 

 お風呂を上がって部屋に上がると「電気はつけじ」と言って、ベッドに仰向けになりなったままの玉ちゃんが言う。

「というのは、世界中のカラスという意味ね? 三千世界のカラスを殺し……」

 カラスというのは北欧でも不吉の象徴だ。それを殺そうというんだから、なにか悪魔的なものをやっつけたいという、言ってみれば魔王退治を志して、フルコンプを目指す勇者のようなもの。晋作が言っていたのはそういうことか?

「神社ん神さぁやっちょっとね、大勢んしが祈願に来っ。中には、神社ん朱印押した誓紙を持って帰っせぇ、人と誓約をきびっときに使う者もおっ」

「きびっとき?」

「ああ、えと……誓約を結ぶときじゃな」

「ああ、神の御名に誓ってというような意味だな」

「色町んおなごは、よう誓約書を書いたもんじゃ」

「遊女がか?」

「ああ、客にな『ほんのこて愛しちょるんなあただけ』てか『年季が開けたや、きっとあたと結婚すっで』てか起請文を書っど」

「ほう、純情な遊女もいるもんなんだな」

「アハハハハハ(* ´艸`)」

「何がおかしい(`_´)?」

「噓に決まっちょっじゃろうが」

「嘘なのか!?」

「客へんサービスや。中には本気にして野暮な奴じゃと笑わるっ者もおっどんな」

「それが、どうしてカラスを殺すんだ?」

「色町んおなごは、たいてい熊野権現ん誓紙を使うたんじゃがな、熊野権現ん誓紙にはカラスがよかひこ刷り込んや。熊野権現で、カラスは神ん使いじゃっでな」

「そうか、カラスを殺すとは誓いを破るということなんだな!」

「そうさ、そして……ぬしと朝寝がしてみよごたっ……と続っど」

「朝寝?」

「にび姫騎士さぁだ、夜通しよかことをしっせぇ、そんまま朝寝をしよごたっちゅう意味や」

「よかこと……え、ええ! そういう意味なのか(゚ロ゚;)!?」

 さすがのわたしにも分かった!

「電気つけようか、姫騎士はどげん顔をしちょっか見もんやなあ(ω)」

「つ、点けんなあ!」

「あはは、ひっでは純情なんじゃなぁ( ´艸`)!」

「玉ちゃんこそ、ひっでえぞ!」

 

『もう、暴れてないで、早く寝なさいよぉ!』

 

 階下から声、お祖母ちゃんに怒られた(^_^;)。

 窓のカーテンを閉めようとしたら、向かいの窓から――何やってんの?――とねね子が覗いているが、こいつは無視。

 おやすみなさい。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・43『そのボール拾って!』

2022-12-04 07:11:03 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

43『そのボール拾って!』  

 

 

 ここらへんまでが、竜頭蛇尾の竜の部分。

 考えてもみて、たった三人の演劇部(^_^;)。

 それもついこないだまでは、三十人に近い威容を誇っていた乃木坂学院高等学校演劇部だよ。

 発声練習やったって迫力が違う。グラウンドで声出してると、ついこないだまでの勢いがないもんだから、他のクラブが拍子抜けしたような目で見てる。最初はアカラサマに「あれー……」って感じだったけど、三日もたつと雀が鳴いているほどの関心も示さない。

 わたし達は、もとの倉庫が恋しくて、ついその更地で発声練習。ここって、野球部の練習場所の対角線方向、ネット越しの南側にはテニス部のコート。両方のこぼれ球が転がってくる。

「おーい、ボール投げてくれよ!」

 と、野球部。

「ねえ、ごめん、ボール投げて!」

 と、テニス部。

 最初のうちこそ「いくわよ!」って感じで投げ返していたけど、十日もしたころ……。

「ねえ、そのボール拾ってくれる!?」

 と、テニス部……投げ返そうとしたら、こないだまで演劇部にいたA子。黙ってボ-ルを投げ返してやったら、怒ったような顔して受け取って、回れ右。

「なに、あれ……」

「態度ワル~……」

「部室戻って、本読みしよう」

 フテった夏鈴と里沙を連れて部室に戻る。

 わたしたちは、とりあえず部室にある昔の本を読み返していた。

「ねえ、そのボール拾って!」

「またぁ……違うよ、それ夏鈴のルリの台詞」

 里沙の三度目のチェック。

「あ、ごめん。じゃ、夏鈴」

「……」

 夏鈴が、うつむいて沈黙してしまった。

「どうかした……ね、夏鈴?」

 夏鈴の顔をのぞき込む。

「……この台詞、やだ」

 夏鈴がポツリと言った。

「あ、そか。この台詞、さっきのA子の言葉のまんまだもんね」

「じゃ、ルリわたし演るから、夏鈴は……」

「もう、こんなのやだ(┯_┯)」

「夏鈴……」

 演劇部のロッカーにある本は、当然だけど昔の栄光の台本。つまり、先代の山阪先生とマリ先生の創作劇ばっかし。いま読み合わせてたのも『こぼれ球』って創作劇で、十年前、全国大会に進出した時の台本。
 どの本も登場人物は十人以上。三人でやると一人が最低三役はやらなければならない……どうしても混乱してしまう。

 じゃあ、登場人物三人の本を読めばいいんだけど、これがなかなか無い……。

 よその学校の本にそういうのが何本かあったけど、面白くないし……抵抗を感じる。

 竜頭蛇尾の尾になってきた……。

「ね、みんなで潤香先輩のお見舞いに行かない。明日で年内の部活もおしまいだしさ」

「そうね、あれ以来お見舞い行ってないもんね」

 里沙がのってきた。

「行く行く、わたしも行くわよ」

 夏鈴がくっついて話はできあがり。

 そしてささやかな作業に取りかかった……。

 三人のクラブって淋しいけど、ものを決めることや行動することは早い。数少ない利点。


 そして一ヶ月ぶりの病院……なんだか、ここだけ時間が止まったみたい。


 いや、逆なんだ。この一カ月、あまりにもいろんなことが有りすぎた。泣いたり笑ったり、死にかけたり……忙しい一カ月だった。

 病室の前に立つ。

 …………

 一瞬ノックするのがためらわれた。ドアを通して人の気配が感じられる。

 おそらく付き添いのお姉さん。そして静かに自分の病気と闘っている潤香先輩。その静かだけど重い気配がわたしをたじろがせる。

「どうした……まどか?」

 花束を抱えた里沙がささやく。その横で、夏鈴がキョトンとしている。

「ううん、なんでも……いくよ」

 トントン

 静かにノックした。

『はーい』

 ドアの向こうで声がした、やっぱりお姉さんのようだ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・134『日漢秘密会談・2』

2022-12-03 15:58:24 | 小説4

・134

『日漢秘密会談・2』越萌マイ  

 

 


「漢明は部隊を撤収します」


 劉宏大統領の第一声は意外なものだった。

 秘密会談にかける我が方の目標こそが――漢明側部隊の撤収――だったからだ。

 岩田総理の腹積もりは――日漢双方の部隊の撤収、戦闘状態の即時停止――だった。

 会談の入り口で、いきなりの満額回答。

 しかし、お互い国を代表する大統領と首相、良かった良かった(^▽^)では済まない。

「いや、せっかちな性格なので先走って申し訳ありません(〃▽〃)」

 通訳兼秘書の王春華は可愛く頬を染めて付け加えた。

「……………!」

「さっそくの建設的なお申し出に感謝いたします(⌒₀⌒)」

 首相の言葉を柔らかく通訳する。

 23世紀の今日、古典的な通訳など必要はない(95%の人間は内耳か聴覚神経にコミニケーションデバイスを組み込んでいる)のだが、半ば外交儀礼として、異性の通訳を付けている。

 公正さの保証とハニトラを警戒するシグナルなのだ。人もロボットも外見上の性別など何の意味も無いのだが、バチカンの衛兵が未だにレオナルドダヴィンチがデザインした衣装を着ていることと同様のしきたりとか儀礼の様式である。まあ、公的な場ではスーツにネクタイを締めるようなものだ。

 じっさい、王春華の恥じらいも、わたしの慎み深い微笑みも、北大街大酒店(北大街グランドホテル)最上階特別ラウンジの空気を柔らかくした。

「わたしは『北大街』のドラマに感動しました。大街の自治を確立するために、日・漢・鮮・満・露の全てが自分の警備部隊を引きあげた上で会談を持ちました、あのシーンに、少年のように感動したのを懐かしく思い出します」

「ああ、印象深いシーンでしたね。日本でも、あの会談シーンは再生回数が多いようです」

 あの会談を実現したのは日本側の働きかけが大きい、ほとんどのお膳立ては日本がやって、漢明には華を持たせてやったというのが現実。これには、あのグランマの働きもあったのだが、彼女は、最後まで口にすることは無かった。

 しかし、あの精神を大事にすると言うのであれば耳を傾けざるを得ない。

「領有権については棚上げということでいかがでしょう。漢明としては、三者の関係を今回の問題が起こる以前の状態に戻そうというのが正直なところなんです。ただ、洛陽号(富士着水したままの巡洋艦)は我が国の殊勲艦でもありますし、自力飛行ができる程度には修理させていただきたいのです。その間、西之島のドックを使わせてはいただけませんか。西之島とは正式な賃貸契約を結びます。関係者も軍人は引き上げさせ、修理に関わる民間の技術者のみとします。むろん実際の作業は西之島にお願いします、正規の契約を交わすことは言うまでもありません」

「三者とおっしゃいましたか?」

「はい、我が漢明と日本、それに西之島政府です」

 西之島政府と表現したところに引っかかりを憶え無くも無かったが、漢明語では、中央も地方も行政権を握る公権力は政府と表現する。岩田総理も表情を変えることが無い。

 思いもかけず、劉宏大統領の一方的譲歩という感じで秘密会談は終わり、明日以降の担当大臣と事務方の協議にうつされた。

 一時間足らずの会談が終わると、劉宏大統領は通訳を介さずに礼を述べた。

「本日は、まことにありがとうございました。本来なら、第三国で行うべき会談。快く北京までお越しいただいて感謝いたします。両国の疑念が晴れ、従来の国交が戻りましたら、改めて北京にお越しください。わたしも、桜の良い季節に東京を訪問できればと思います」

「こちらこそ、ありがとうございました。わたしも大統領閣下同様、日漢双方の平和と安定を願います。本日は、急な申し入れにも関わらずお会いできて幸いでした」

「いやいや、こちらこそ、こんな形で北京にまでお運び頂いて感謝しております」

 にこやかに礼を述べる大統領だが、さすがに疲れが見える。総理が頭を下げると、王春華が用意していた車いすに崩れるように座り込んだ。

「優秀な通訳なのですが、すぐに年寄り扱いするのでかないません。それでは……」

 

 互いに目礼すると、ラウンジのエントランスで左右に分かれた。

 

「……あ、通訳同士で挨拶するのを忘れていました。三十秒お待ちください」

 総理に断りを入れると、廊下の角を曲がってエントランスの向こうを目指す。大統領は反対側のエレベーターを利用しているはずだ。

「「あら!」」

 向こうからも王春華が歩いて来て、再びエントランスの前で出くわした。

「思いは同じ(^▽^)」

「みたいですね(^▽^)」

 通訳同士、笑顔で握手「秘密会談でなければ記念撮影でもするのにね」とにこやかに分かれる。

「おや、早かったね」

「はい、王春華、なかなかの……」

「なかなかの?」

「いいえ、なんでも」

 王春華……いや、劉宏大統領、ちゃんとこちらの手を読んでいる。

 油断のならない相手だが、わたしは二十余年前の奉天包囲戦の時のように高揚していた。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・42『マッカーサーの机』

2022-12-03 07:11:07 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

42『マッカーサーの机』  

 

 

 で、この『竜頭蛇尾』は言うまでもなくクラブのことなんだ……。

 あの、窓ガラスを打ち破り、逆巻く木枯らしの中、セミロングの髪振り乱した戦い。

 大久保流ジャンケン術を駆使し、たった三人だけど勝ち取った『演劇部存続』の勝利。

 時あたかも浅草酉の市、三の酉の残り福。福娘三人よろしく、期末テストを挟んで一カ月はもった。

 公演そのものは、来年の城中地区のハルサイ(春の城中演劇祭)まで無い。

 とりあえずは、部室の模様替え。

 コンクールで勝ち取った賞状が壁一杯に並んでいたけど、それをみんな片づけて、ロッカーにしまった。

 三人だけの心機一転巻き返し、あえて過去の栄光は封印したのだ。

 テーブルに掛けられていた貴崎カラーのテーブルクロスも仕舞おうと思ってパッとめくった。


 息を呑んだ。


 クロスを取ったテーブルは予想以上に古いものだった……わたしが知っている形容詞では表現できない。

 わたし達って言葉を知らない。感動したときは、とりあえずカワイイ(わたしはカワユイと言う。たいした違いはない)と、イケテル、ヤバイ、ですましてしまう。たいへん感動したときは、それに「ガチ」を付ける。

 だから、わたし達的にはガチイケテル! という言葉になるんだけど、そんな風が吹いたら飛んでいきそうな言葉ではすまされないようなオモムキがあった……。

 隣の文芸部(たいていの学校では絶滅したクラブ。それが乃木高にはけっこうある。わたし達も絶滅危惧種……そんな言葉が一瞬頭をよぎった)のドアを修理していた技能員のおじさんが覗いて声をあげた。

「それ、マッカーサーの机だよ!……こんなとこにあったんだ」

「マックのアーサー?」

 夏鈴がトンチンカンを言う。

「戦前からあるもんだよ……昔は理事長の机だったとか、戦時中は配属将校が使って、戦後マッカーサーが視察に来たときに座ったってシロモノだよ。俺も、ここに就職したてのころに一回だけお目にかかったことがあるんだけどさ、本館改築のどさくさで行方不明になってたんだけどね……」

 おじさんの説明は半分も分からないけど、たいそうなシロモノだということは分かる。

「ほら、ここんとこに英語で書いてあるよ。おじさんには分かんねえけどさ」

「どれどれ……」里沙が首をつっこんだ。

「Johnson furniture factory……」

「ジョンソン家具工場……だね」

 わたし達でも、この程度の英語は分かる。

 技能員のおじさんが行ってしまったあと。そのテーブルはいっそう存在感を増した。

 テーブルは、乃木高の伝統そのものだ。貴崎先生は、その上に貴崎カラーのテーブルクロスを見事に掛けた。

―― さあ、どんな色のテーブルクロスを掛けるんだい。それとも、いっそペンキで塗り替えるかい。貴崎ってオネーチャンもそこまでの度胸は無かったぜ ――

 テーブルに言われたような気がした。

 結局、テーブルには何も掛けず、造花の花を百均で買ってきて、あり合わせの花瓶に入れて置いた。

 それが、殺風景な部室の唯一の華やぎになった。

―― ヌフフ……百均演劇部の再出発だな ――

 テーブルが憎ったらしく方頬で笑ったような気がした。


 貴崎先生のテーブルクロスは洗濯して中庭の木の間にロープを張って乾かした。


 たまたま通りかかった理事長先生が、笑顔で言った。

「おお、大きな『幸せの黄色いハンカチ』だ、君たちは、いったい誰を待っているんだろうね」

「は……これテーブルクロスなんですけど」

 と、夏鈴がまたトンチンカン……て、わたしも里沙も分かんなかったんだけどね。

「ハハハ、その無垢なところがとてもいい……君たちは、乃木坂の希望だなあ」

 理事長先生は、そう愉快そうに笑いながら後ろ姿で手を振って行ってしまわれた。

 晩秋のそよ風は涙を乾かすのには優しすぎたけど、木枯らし混じりの冬の風は、お日さまといっしょになって、テーブルクロスを二時間ほどで乾かしてしまった。

 それをたたんで、ロッカーに仕舞っていると、生徒会の文化部長がやってきた。

「あの……」

 文化部長は気の毒そうに声を掛けてきた。

「なんですか?」

 里沙が事務的に聞き返した。

「部室のことなんだけど……」

「部室が……」

 そこまで言って、里沙は、ガチャンとロッカーを閉めた。

 気のよさそうな文化部長は、その音に気後れしてしまった。

「部室が、どうかしました?」

 いちおう相手は上級生。穏やかに間に入った。夏鈴はご丁寧に紙コップにお茶まで出した。

「生徒会の規約で、年度末に五人以上部員がいないと……」

「部室使えなくなるんですよね」

 里沙は紙コップのお茶をつかんだ。

「あ……」

 わたしと夏鈴が同時に声をあげた。

「ゲフ」

 里沙は一気に飲み干した。

「あ、分かってたらいいの。じゃ、がんばって部員増やしてね……」

 文化部長は、ソソクサと行ってしまった。

「里沙、知ってたのね」

「マニュアルには強いから……ね、稽古とかしようよ」

 八畳あるかないかの部室。テーブルクロスが乾くころには、あらかた片づいてしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・366『スペインに勝ったぁ!!』

2022-12-02 18:39:20 | ノベル

・366

『スペインに勝ったぁ!!』さくら    

 

 

 スペインに勝ったぁ!!

 

 ……今度は分かってます。

 キャプテンドレークがスペインの無敵艦隊を打ち破ったんと違って、FIFAで、日本がスペインに勝ったんです。

「スペインに勝ったら、キャプテンドレークを超えられるねえ!」

 頼子さんが言うてました。

 さすがは、ヤマセンブルグの王女さまです。キャプテンドレークやらスペインの無敵艦隊とか、うちはよう知りませんでした。で、分からん顔してたら、アホのうちでも分かるように説明してくれたから、ドイツとの勝負に続いてスペインに勝てるんは、キャプテンドレークが無敵艦隊を打ち破ったのと同じ、それ以上に値打ちのあることを。

 これで、日本は決勝リーグに進出なんやから。

 せやけど、今度は乗り切れへん感じがして、リビングには下りません。

 前から言うてるけど、うちはスポーツは苦手、特に球技はね。

 もともと体動かすのは嫌いやないんです。走ったり鉄棒したりプールで泳いだり。

 せやけど、野球とかサッカーとかはあかんねん。

 まだ、お父さんが居てたころ、たまの休みなんかにはいっしょに遊んでくれました。

 お父さんもお母さんも、実はスポーツは好きで、走ったり鉄棒したりプールで泳いだりしてくれました。

 学校の運動会で一等とった時は、たった一回だけやったけど、知り合いのレストラン連れていってくれて祝勝会までやってくれました。

 せやけど、うちが球技をやるのは、本気では喜んでくれません。

 学校でソフトボール習ったとき、ピッチャーの頭超えて二塁ベースの向こうまで飛ばして、それが嬉しくって家に帰って、お母さんに自慢した。

「へ、へえ、それは凄いなあ!」

 一応は喜んでるみたいなんやけど、なんや、徒競走で一等とった時ほどには喜んでないんです。それどころか、目の奥には戸惑いの光があるみたいで――あ、うち、いらんことしたんかなあ(;'∀')――と、ちょっとビビったんです。

 もう一回は、お父さんが居る時、三塁打打って、ホームベースまで行けるとか思たけど、吉田さんが「さくら、ストップ!」と叫んで、うちは三塁で停まった。うちの前に二塁まで出てた加藤さんは無事にホームイン。ツーアウトやったさかい、無理してホームベースに突っ込んだらタッチされてアウトになるとこやった。

 うちは、三塁打打てただけと違って、ちゃんと全体の中でチームプレーができたことが嬉しかった。

 せやけど、家に帰って喋っても、お父さんもお母さんも急に冷めてしもて「へ、へえ、それは凄いなあ!」と、戸惑うんです。

 ほんで、そのあくる日に仕事に行ったきり、お父さんは帰ってこーへんかった。

 それから、球技は苦手。

 分かってんねん、世間の90%以上は、野球とかサッカーとか好きやねん。

 せやから、阪神が優勝したりFIFAで日本が勝ったりしたら、いっしょ喜ばならあかんのです。

 こないだ、ドイツに勝った時は、なんとか調子を合わせられたけど、今度は無理。

 もう、午前五時近いし……「ごめん、テスト勉強してるうちに寝てしもた(^_^;)」ということにしとこ。

 ほんま、ちょっとだけやけどテスト勉強できたしね。

 ああ……なんや、いらんこと言うてしもた。学校行く時間まで、ちょっと寝ます。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・41『竜頭蛇尾』

2022-12-02 07:18:30 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

41『竜頭蛇尾』  

 

 

 竜頭蛇尾という言葉がある。

 小学六年の時に覚えた言葉。

 最初は、やる気十分なんだけど後の方で腰砕けになっちゃって、目的を果たせない時なんかに使う言葉。

 担任のシマッタンこと島田先生が、三学期の国語の時間に教科書全部やり終えちゃって、苦し紛れのプリント授業。その中の数ある四文字熟語の一つがこれだった。

「意味分かんな~い」

 クラスで一番カワユイ(でもパープリン)のユッコが投げ出す。

「……いいか、先生はな、野球選手になりたかった。それも阪神タイガースの選手になりたかった。そのためには、高校野球の名門校聖徳学園に入学しなければならなかった。ところが受験に失敗して、Y高校に行かざるを得なかった。ところがY高校の野球部は八人しかいない。入れば即レギュラー。でもなあ、Y高の野球部って三十年連続の一回戦敗退。それで悩んでたらさ、バレー部のマネージャーのかわいい子に誘われっちまってさ……」

 島田先生は、これで自分が野球選手になり損ねたことをもって『竜頭蛇尾』の説明をしようとした。

 でも、これで言葉の意味は分かったけど、大失敗。『お里が知れる』という言葉も同時に子ども達に教えることになった。

 それまで、先生は――維新この方五代続いた、チャキチャキの江戸っ子よ!――というのが売りだった。実際住所は神田のど真ん中だった。

 でも聖徳学園高校もY高校も大阪の学校。神田生まれで阪神ファンなんて、もんじゃ焼きが得意料理ですってフランス人を捜すよりむつかしいし、東京の人間の九十パーセントを敵に回すのと同じこと。それに自分自身がデモシカ教師であると言ったのといっしょ。野球の腕だって、PTAの親睦野球でショ-トフライを顔面で受けたことでおおよその見当はついていた。

 五代続いた江戸っ子だってことが怪しいのも、わたしは早くから気づいていたんだ。

 島田先生は、五年生の時からの持ち上がり。

「先生は、神田の生まれで、五代続いた江戸っ子なんだぜ」

 と、カマしたもんだから、家に帰って言ったのよ。

「ね、今度の担任の島田先生は神田生まれの五代続いた江戸っ子なんだよ!」

 すると、おじいちゃんが前の年に亡くなったひい祖父ちゃんを片手拝みにして言ったのよね。

「ほんとの江戸っ子は、そんなにひけらかすもんじゃねえんだぜ」

「だって、先生そう言ったもん」

 すると、おじいちゃんは紙に二つの言葉を書いた。

―― 山手線と朝日新聞が書いてあった ――

 純真だった(今だってそうだけど)まどかは、その紙を先生に見せて読んでもらった。

「ん、これ?」

「はい、読んでください」

「ヤマテセン、アサヒシンブン」

 と……発音した。ショックだった!

「ヤマノテセン、アサシシンブン」

 と……うちの家族は発音する。

 前置きが長い……これは、わたしがいかに『竜頭蛇尾』という言葉に悩んでいるかということと、シマッタン先生を始め小学校生活に愛着を持っていたかということを示している。

 ちなみに、はるかちゃんは体育だけこのシマッタン先生に習っていたけど嫌いだった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・365『今日から十二月!』

2022-12-01 16:39:56 | ノベル

・365

『今日から十二月!』さくら    

 

 

 ちょっと早いんじゃないかい?

 

 朝ごはんを済ませた留美ちゃんが部屋に入ってくるなり批評する。

「せやかて、今日から十二月やでえ」

「ん……まあ、人それぞれだからね」

 留美ちゃんは、ようできた子ぉなんで、それ以上批評めいたことは言いません。

 昨日の天気予報で『明日の大阪は、最低気温8度、日が上がってからも、それほど気温は上がらず、最高気温は12度程度でしょう。これは大陸性高気圧が……』てなことを言うてた。

 

 せやさかい、夕べは、お風呂あがってからは留美ちゃんと二人で冬の制服をチェックした。

 

 指定のピーコート マフラー タイツ 厚手の靴下 イヤーマフ その他いろいろ

 なんせ、堺東の『ハンゼイ』までは自転車。きっちり防寒対策しとかんと寒い。

 で、うちは、朝ごはんをチャッチャと済ませて、防寒対策していたというわけ。

「じゃ、行こうか」

「え、留美ちゃんはなんにもなし?」

「マフラーは入れてるよ」

 カバンをポンと叩いて階段を降りていく。

 ミヤー

 ブタネコのダミアが布団の中から「いってらっしゃい」とも「ようやるわ」ともとれる挨拶。

「おお、もう十二月やねんなあ」

 ほっこりお茶を飲んでるお祖父ちゃんに「「行ってきまーす」」と声を掛けて、師走初日の街に自転車を走らす。

 

 しもた!

 

 自転車を走らせて三十秒で後悔した。

 ハンドルを握る手ぇがめっちゃ冷たい!

 乗った最初はひんやりして気持ちええくらいやったんやけど、角を曲がって正面から風を受けるようになって、冷たさは痛いくらいになってきた。

「まあ、ハンゼイまでの十分ほどだから(^_^;)」

 片手運転にして、息をハーハーあててるうちを慰めてくれる留美ちゃん。

 見ると、留美ちゃんは普段通りの制服姿で、手ぇだけはきっちり手袋。

 く、くそぉ……

「片方貸そうか?」

 自転車を寄せてきて、親切に言うてくれる留美ちゃん。

「え、ええよ、大丈夫。すぐに温くなってくるしい」

 と、くるしいやせ我慢。

 で、目いっぱい漕ぎまくって、いつもより三十秒は早くハンゼイの駐車場へ。

 

「あ、暑い……」

 

 手は相変わらず、痛いぐらいに冷たいねんけど、ピーコートにマフラーして、耳にはイヤーマフまでしたうちは、もうユデダコみたいになってしまいました。

 けっきょく、マフラーとイヤーマフはカバンの中に、ピーコートは手に抱えて、電車の中では邪魔になりまくり。

「まあ、仕方がないよね。初めての冬なんだもんね(^_^;)」

 留美ちゃんは慰めてくれる。この慰めが嫌味になれへんのは、やっぱり人柄やと思う。

 

 学校で話したら、頼子さんは「アハハハハ」とノドチンコむき出しで笑う。

 SSシスターズ(ソフィーとソニー)は「フ」と鼻で笑うだけ。

「でも、自分の失敗をネタに、これだけ話題と笑いをふりまけるのは才能だと思うよ」

 メグリンは的確なんか残酷なんか分からん感想。

 

 で、帰りしなの下足室。

 

「あ、ピーコートは?」

「あ!?」

 留美ちゃんに指摘されて、教室まで走って取りに戻るうちでした!

 

 スポーツ苦手の話をするはずやったんやけど、また今度ね(^_^;)。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

2022-12-01 07:01:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

40『風雲急を告げる視聴覚教室!』  

 

 

 ガッシャーン!

 その時、木枯らしに吹き飛ばされた何かが窓ガラスに当たり、ガラスと共に粉々に砕け散った。視聴覚室の中にまで木枯らしが吹き込んでくる。

 タギっていたものが、一気に沸点に達した!

「ジャンケンで決めましょう!」

 全員がズッコケた……。

「青春を賭けて、三本勝負! わたしが勝ったら演劇部を存続させる! 先輩が勝ったら演劇部は解散!」

「ようし、受けて立とうじゃないか!」

 風雲急を告げる視聴覚教室。わたしと、山埼先輩は弧を描いて向き合う!

 それを取り巻く観衆……と呼ぶには、いささか淋しい七人の演劇部員と、副顧問!

「いきますよぉ……!」

「おうさ……いつでも、どこからでもかかって来いよ!」

 木枯らしにたなびくセミロングの髪……額にかかる前髪が煩わしい……
 
 機は熟した!

「最初はグー……ジャンケン、ポン!」

 わたしはチョキ、先輩はパーでわたしの勝ち!

「二本目……!」

 峰岸先輩が叫ぶ!

「最初はグー……ジャンケン……ポン!」

 わたしも先輩もチョキのあいこ……。

「最初はグー……ジャンケン……ポン!!」

 わたしはチョキ、先輩は痛恨のパー……。

「勝ったぁ!!」

 バンザイのわたし。

「む……無念!」

 くずおれる山埼先輩。

 と、かくして演劇部は存続……の、はずだった。

「クラブへの残留は個人の自由意思……ですよね、柚木先生」

 ポーカーフェイスの峰岸先輩。

「え……ちょっと生徒手帳貸して」

 イトちゃんの生徒手帳をふんだくる柚木先生。

「三十二ページ、クラブ活動の第二章、第二項。乃木坂学院高校生はクラブ活動を行うことが望ましい。望ましいとは、自由意思と解することが自然でしょう」

「そ、そうね……じゃ、クラブに残る者はこれから部室に移動。抜ける者は残って割れたガラスを片づけて、掃除。せめて、そのくらいはしてあげようよ。わたしは事務所に内線かけてガラスを入れてもらうように手配するわ。じゃ……かかって!」

 わたしは先頭を切って部屋を出た。着いてくる気配は意外に少ない……。


「ジャンケン大久保流……と、見た」


 すれ違いざまに峰岸先輩がつぶやいた。


 狭い部室が、広く感じられた。

 わたしと行動を共にした者は、たった二人。

 言わずと知れた、南夏鈴、武藤里沙。

 タヨリナ三人組の、乃木坂学院高校演劇部再生の物語はここに始まりました。

 木枯らしに波乱の兆しを感じつつ、奇しくも、その日は浅草酉の市、三の酉の良き日でありました……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする