キキョウ
画・江嵜 健一郎
天気予報で雨が近いと知らされ週末例の更地に出かけた。
桔梗の花は1週間ほど前に一輪咲いていたが一輪では寂しい。
この日たまたま4輪揃って咲いていたところをスケッチ、
自宅で彩色した。
スケッチを済ませて下草取りをしていたところ「今日は何を描かれたのですか」と
通りがかりのさるご婦人の声が聞こえた。失礼ながら会った記憶はなかったが
「撮らせてもらいました」とスマホでグロリアスの花を見せてくれた。
「声をかけていただきありがとうございます」と言うと「お礼を言うのは
私どもの方です。いつも皆さん、楽しみにここを通っておられますよ」と
言ったあと「震災の前に近くに嫁いできました。角にお菓子屋さんがありましたね」
などなどと、懐かしそうに昔の町の様子まで話は飛んだ。
昭和天皇は雑草と言う名の草はないと名言を残された。さはさりながら
少しでも目を離すと下草は有無を言わさず生えてくる。
司馬遼太郎は日本人の勤勉さの原点は稲作の雑草取りにある。一本でも
多くの雑草を取り除くことが石高にそのまま出てくるからだと書き残している。
ガーデニングの素人であるが、ひたすら下草を取ることだけは忘れず
続けている。下枝を切ってやることも忠実に守っているが風通しが
よくなるのであろう、効果があると実感している。
いつものようにヤフーのお世話になりキキョウを調べた。花の開期は5月中旬から
9月。もともと日本全土の山林に自生していた。万葉集にも登場する。
つぼみが風船のようにふくらむ。そのため英語ではバルーンフラワーと呼ぶ。
桔梗の花ことばは「永遠の愛」、「誠実」、「清楚」、「従順」。
鎌倉時代、土岐之衛が戦った時、一輪の桔梗が咲いていた。縁起を担いで
一輪兜に桔梗の花を差して勝利した。以来、土岐家の家紋となった。土岐家の
流れをくむ明智光秀の桔梗紋は良く知られているとあった。
花を描いていると元気をもらえる。日本人は今本当にお互い声をかけなくなった。
花のお陰で通りがかりの人とも言葉を交わすことができ感謝している次第である。(了)