まだ全部は聴いていませんが、この全集は驚くほどのお買い得。買わなきゃ損です。
例によってフランス盤のCDは音がよく、歪がなく清い音で、曲目も演奏も品位が高く、流しておくだけで空間が美で満たされます。
それにしても最新録音も多数含む優れた演奏のCDが、どうして2990円なのか?30枚組です。
曲目は、ブログの字数制限で一部しか載せられませんので、上の行をクリックしてください。
Disc1:フランスのクラヴサン曲集
・F.クープラン:第25組曲、第26組曲&第6組曲
クリストフ・ルセ(チェンバロ)
録音:1993年9月、1994年5月
高名なオルガン奏者を輩出した一門の出身であるフランソワ・クープラン[1668-1733]は、トムランやダングルベールの影響を受けてクラヴサン弾きとなり多数の作品を残しています。円熟期に書かれ、クープランのクラヴサン人生の総決算とも言われる27の組曲から成る「クラヴサン曲集」から、ここでは古楽ファンに人気の「神秘的なバリケード」も入った第6組曲のほか、第25組曲と第26組曲を収録しています。
これらの作品にクリストフ・ルセが挑んだのは、彼がまだ30代前半だった頃ですが、その演奏には揺るぎのない自信があふれ、たしかな構成感、新鮮で瑞々しい感性、運動性、そして歌心と、全てにおいて驚異的な出来栄えを示すものとなっています。
・J-P.ラモー:コンセール用のクラヴサン曲集より第1番、第5番
クリストフ・ルセ(チェンバロ)、寺神戸亮(ヴァイオリン)、上村かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
録音:1992年3月
ジャン=フィリップ・ラモー[1683-1764]は、オペラの世界で名を馳せたフランスの作曲家。ラモーによる唯一の室内楽である「コンセール用のクラヴサン曲集」は、サロンでの演奏用にと出版されたクラヴサンのソロを中心にした音楽で、オペラの作曲を重ねながら到達したラモーの円熟したスタイルを反映する作品群とみなされています。 若きルセの華麗なクラヴサンと、それを絶妙な間合いで支える寺神戸亮のヴァイオリンと、上村かおりのヴィオラ・ダ・ガンバによる優れた演奏です。
II. LA MUSIQUE SACREE~宗教音楽
Disc2:宗教音楽=哀歌のたそがれ
・カンプラ:レクィエム
フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)シャペル・ロワイヤル
録音:1986年8月
ヴェルサイユ楽派の作曲家、アンドレ・カンプラ[1660-1744]は、大聖堂で宗教教育を受け、聖歌隊に入って教会音楽の修行を積み、17歳で司祭となり33歳でパリのノートルダム大聖堂の楽長まで登りつめます。
しかし、若い頃から聖と俗、教会と劇場のあいだを揺れ動く傾向のあったカンプラは、ここでの在職中に、劇場音楽であるオペラ・バレエ『優雅なヨーロッパ』を作曲、立場上の問題から弟の名前で発表するものの、大きな成功を収めてしまったために後に事実が発覚、大聖堂の楽長の地位を追われることになってしまうのです。
長年勤め上げてきた教会の職を失ったカンプラですが、音楽家としての名声はすでに高かったため、コンティ公の宮廷楽長に就任、今度は晴れて劇場で活躍し大いにその名を高めることとなります。その後、カンプラは59歳のときには再び宗教の世界に戻り、83歳で亡くなるまでに数多くの宗教音楽を書きあげています。
有名な「レクィエム」は、カンプラが紆余曲折を経て宗教の世界に戻って3年ほど経った1723年に書かれたもの。
作風は豊かな旋律に彩られたきわめて美しいもので、165年後に書かれたフォーレのレクィエムのピエ・イェズに似た旋律があったり、随所に透明で優しい雰囲気を漂わせるなど、フォーレに与えた影響はかなり大きいのではないかと思われます。
ヘレヴェッヘ初期の名録音として知られるこの演奏は、作品の魅力をきわめて美しく示したものにも関わらず長年廃盤だったので、今回の復活は大いに歓迎されるところです。
・ペルゴレージ:スターバト・マーテル
アンナ・プロハスカ(ソプラノ)、ベルナルダ・フィンク(アルト)、ベルリン古楽アカデミー
録音:2009年12月
豊かな才能を持ちながらも、26歳という若さで亡くなってしまった作曲家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ[1710-1736]。ナポリの「悲しみの聖母騎士団」からの委嘱によって作曲された最後の作品『スターバト・マーテル(悲しみの聖母)』は、数ある同名の作品の中でも最も美しいとされる不朽の名作です。
重要な役割を果たすアルトを歌うのはベルナルダ・フィンク。コントロールの効いた、落ち着いた歌声が、十字架の下で嘆き悲しむ母マリアを切々と歌いあげます。ソプラノに迎えられたのは、1983年生まれの若手注目ソプラノ、アンナ・プロハスカ。現代ものから古楽まで、ピンと筋のとおった美声で歌いこなします。器楽パートをうけもつベルリン古楽アカデミーの切れ味鋭い演奏からも哀切感が漂い、深く澄みきった哀しみが忘れがたい感銘を与えてくれます。
Disc3-4:オラトリオ
・ヘンデル:『ソロモン』全曲
サラ・コノリー(アルト:ソロモン)
スーザン・グリットン(ソプラノ:ソロモンの王妃、第1の遊女)
キャロリン・サンプソン(ソプラノ:シバの女王、第2の遊女)
マーク・パドモア(テノール:ザドク、従者)
デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(バス:レヴィ人)
ダニエル・ロイス(指揮)ベルリン古楽アカデミー、RIAS室内合唱団
録音:2006年5月
第3幕のシンフォニアが「シバの女王の入城」として知られる大作『ソロモン』は、ヘンデルが晩年に書いたオラトリオで、旧約聖書に現れる古代イスラエル王ソロモンが題材。第2幕に「大岡裁き」ともいうべき場面があることでも有名なこの作品ですが、肝心な音楽も充実したもので、力の入った合唱曲のほか、ソロや重唱にも聴きごたえあるナンバーが揃っています。
ダニエル・ロイス(レウス)は1961年生まれのオランダ人指揮者。2003年から2006年までRIAS室内合唱団の首席指揮者を務めており、この録音でもRIAS室内合唱団を完璧にコントロールして、ヘンデル晩年の書法の熟達をみごとに再現。歌手陣も、スーザン・グリットン、キャロリン・サンプソン、マーク・パドモア、サラ・コノリーと、有名どころが揃い、伴奏のベルリン古楽アカデミーもいつもの切れ味の良い演奏で大作を引き締めます。
III. LE CONCERTO~協奏曲
Disc5:バロック協奏曲の典型
・ヴィヴァルディ:四季
ミドリ・ザイラー(ヴァイオリン)、ベルリン古楽アカデミー
録音:2009年9月
有名なヴィヴァルディの『四季』の過激な演奏。「夏」の嵐も、弦楽器の弓が弦にひっかかる感触、ミドリ・ザイラーのソロは、まるでロックかと思うような印象。アンサンブルが刻むリズムも、単に激しいだけでなく、打ち付ける雨粒、足元からずぶぬれになるような錯覚をおぼえるほど。美しい風景画ではなく、どこまでもリアルな感触の『四季』です。
・テレマン:ヴァイオリン協奏曲『蛙』
ベルリン古楽アカデミー
録音:2001年3月
柔軟な考えの持ち主で好奇心旺盛だったテレマンは、さまざまなスタイルの作品を書きましたが、中には非常に風変わりな作品もあり、たとえばここに収録されたヴァイオリン協奏曲イ長調には、蛙の鳴き声を真似た部分があるなど、実にユーモラス。ミドリ・ザイラーとベルリン古楽アカデミーによる活気のある演奏は、テレマンの楽しさをよく伝えてくれます。
・J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第6番変ロ長調 BWV1051
アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック、リチャード・エガー(チェンバロ、指揮)
録音:2008年5月
バッハの代表作でもあるブランデンブルク協奏曲は、作曲時期がバラバラの作品を集めて出版された曲集で、中で最も早い時期に書かれたのが、ここに収められた第6番となります。バッハ若き日、ヴァイマールの宮廷楽団時代の作品と推測されるこの第6番は、ヴァイオリンを除く弦楽合奏とチェンバロという制約の多い編成で演奏される独特な音楽。
イギリスのチェンバロの名手リチャード・エガー指揮するアカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックの演奏は、弾むリズムとエッジの効いた表現によりメリハリのある仕上がりとなっています。
・ヘンデル:オルガン協奏曲op.4-3
アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック、リチャード・エガー(オルガン、指揮)
録音:2006年11月
オラトリオの幕間に演奏されるために書かれたというヘンデルのオルガン協奏曲は、その目的ゆえか、気分転換にうってつけの明るく親しみやすい曲調が印象的で、ペダルのない小型オルガン前提のフットワークの軽い音楽が独自の魅力を放っています。
オルガンも巧みに弾くリチャード・エガーの手腕はここでも確かで、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックの面々とともに、なんともフレンドリーな演奏を聴かせています。