思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

「音楽は、他では得られない内面的充足をもたらす。」ーーマレイ・ペライア談

2012-10-31 | 趣味

 

10月5日のブログで『マレイ・ペライアのピアノ曲全集』に感激しご紹介しましたが、わたしはペライアの個人的な事柄についてほとんど何も知りません。
CDを聴き進むうちに彼の人間性についても興味が湧きましたので、アマゾンの書籍欄で「ペライア」を検索してみたところ、2012年2月号の『レコード芸術』にペライア(1947年ニューヨーク生まれ)のインダビュー記事が掲載されているのを知り、早速注文しました。

ペライアの「語り」は実に素晴らしく、演奏から受けた感じと同じでとても嬉しくなりましたので、以下に書き抜きます(一部簡略化)。


「たいへん幸運なことに、わたしは自分が愛する作品を演奏することが出来ます。録音でも演奏会でも、人々から求められるものではなく、自分自身の熱狂に従ってプログラムを決めます。」

「芸術家であり続けるには、音楽への愛を持ち続けることです。・・楽器を演奏するのはとても難しい。練習して練習して練習して、そして音楽は失われる。だからこそ音楽への愛を維持することが第一です。わたしは若い演奏家にアドバイスします、『作品を手がける前に、まず対位法をよく理解しなさい。不協和音や通奏低音、装飾音について知りなさい。そうすれば音楽に触れる手掛かりを失うことはない』と。若者たちは手早い答えや手早い秘訣を求め、きょう成功したいと欲している。しかし、音楽においては、成功するかどうかは問題外で、理解することこそが重要なのです。漠然とした方法ではなく、明確に捉えなくてはならない。」

 「父がよくオペラに連れていってくれたのです。わたしの母はいまも98歳で健在ですが、まったく音楽には興味を示さない人です。わたしはオペラが大好きになり、次の日には家でアリアを歌っていました。それで父がピアノを買ってくれて、わたしは音楽を愛するようになりました。練習は嫌いでしたが、弾くのは好きで、ピアノで即興をするのも好きでした。」

「膨張するのは簡単なことですが、すべての音が簡潔でないと、ベートーベンやブラームスのもつ真の古典的な美観を抱くことはできません。」

「音楽において声は感情とつながって用いられるし、感情と血脈となりえます。どうしてか分かりますか?音楽にはつねに不協和音があるからです。協和音と不協和和音があり、決してどちらかだけではないからこそ、緊張が生まれるのです。緊張は純粋なものではありえない。人間関係においてもピュアなものなどなにもないのです。必ずなにかが引っ付いてきて・・・フロイト以降、人は純粋さについて考えることはできません。ピュアであるのを望むことはできますが、いつもそこには微細な不純さがあるものです。」

「誠実さは、わたしにとっては最も重要なものです。正直でないものは、信頼することができない。もしもメッセージを交わそうとするなら、それは率直なものでなければなりません。だから、誠実さはピアニストにとって、もっとも大切な本質のひとつです。すべての偉大な作曲家は深いところで正直です。」

「音楽はエゴではありません。演奏家のエゴなんて重要ではない。ただひとつ重要なのは、作曲家の伝えたかったことを伝えられるかどうかです。・・・したがって、できる限り作曲家がもった思想、精神生活を共に生きる必要がある。作曲家の感情とコミュニケーションをとり、彼らの人生を生きようと努めなくてはいけません。」

「作曲家という難しい人物=偉大な人物は勇敢に考える。それが鍵です。『どうして?なぜそうではないのか?』といつも問い続けている。問い続けることでスタイルは発展してくる。」

 ―――そして演奏が終わればあなたは自分自身の人生に戻る。――――

「そう、わたしはとても幸運な人間で、素晴らしい妻がいて、家族があり、二人の男の子がいる。だからわたしはとても静かで、快適な家庭生活を送っていますし、いつでもそこに戻ることができます。」

「音楽は完全な世界を体現してみせてくれる。言い換えれば、それは不協和音が解決をみる世界です。そして、旅の終わりで、満ち足りて終わる世界。主音で終結するからです。わたしたちの実人生ではそのようにはいかない。音楽のなかでは、そうした完璧な世界を思い描くことはできる。そして、調和から切り離され、満たされることがなく、不協和音が解決されないわたしたちに、音楽は自分の人生を育む精神的な栄養をくれる。音楽が人をよりよき人にするとはわたしは思いません。しかし、なにかしら他では得ることのできない、内面的な充足をもたらす。そのようにして、音楽は完璧な世界への道へと繋がっているのでしょうーーー」(以上、マレイ・ペライア談。ききては、青澤隆明)

武田康弘

 

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