美音で豊かなペライアのピアノには、ほぼすべての人が満点を付けますが、過去の巨匠にも、現代の若手の機械のように正確な演奏にもない彼のよさは、和声(ハーモニー)という音楽の一番大切な要素に着目し、和声を基盤にしてピアノを弾いているからだと思います。心から心へ、という彼の思想が、素晴らしいハーモニー=調和をもたらすのです。
音楽が人間が弾き人間が聴くものである限り、ハーモニーが基盤となるのは理の当然ですが、多くのピアニストは、メロディーラインの響かせ方とリズムのありように重心を置き、ハーモニーの大切さをおろそかにしているように思います。
聞き手も、すぐ目立つメロディーラインと、感じ取りやすいリズムに注意が行き、ハーモニーの調和と豊かさへは関心があまり向かないようです。
なぜ、ペライアの奏でる音楽が何度でも繰り返し聞きたくなり、飽きることがないのか。その深い理由は、和声への着目と洞察にあると思います。一音一音が美しい音なのは聞けばすぐ分かりますが、その表層的なレベルの美質を越えて、音と音の重なり、響き合いの豊穣さにペライアの深い美とやすらぎの秘密はあります。
強靭な打鍵も、ハーモニーの豊かさがあるとキツくはならず、交響的な大きさとなります。
類まれな「ハーモニーという音楽原理への徹底」がもたらす豊かな音楽、これは、過去の巨匠を越え、現代の技巧派を越えて、ぺライアに誰よりも深く大きな普遍性を与えています。内から、内発的に、まさに恋知の音楽。 《響存》
昨年(独奏)に引き続きの来日公演(弾き振り・11月13日・サントリーホール)が楽しみです。ワクワク。彼と同時代に生きる幸せを感じます。
武田康弘