倉敷川の袂、藤戸寺の門前近くに、倉敷銘菓「藤戸まんじゅう」本店
の重厚な構えの店が建っている。
店の前には、旧藤戸町の「道路元標」を示す石柱が残されている。
恐らく店の前の細い道が従来の旧道で、寺の境内がここまで広がってい
たのであろうか、今は直ぐ近くに新道が通されている。

その昔、源平の争いが終わり、藤戸の合戦で功を上げた佐々木盛綱が
地頭として当地に着任した。
手始めに戦で荒廃した藤戸寺の復興をはかると同時に、自らが口封じの
ため殺害した若き漁師や、犠牲になった兵士の回向を行った。

供養は藤戸寺で盛大に行われ、その折、近くの民家からは饅頭が供え
られた。
当初の事は記録もなく良く解からないが、今の物とは形も味も違うお餅
に近い物であったらしい。
それを起源とするのが、この「藤戸まんじゅう」とされている。

この饅頭屋の創業は寿永3(1184)年と言うから、鎌倉幕府の成立よ
りも早い老舗である。
但しまんじゅうが現在の形になるのは、江戸後期の文化年間の事らしい。
初期の頃は、藤戸寺境内の茶店で販売されたり、参拝者向けに配られた
りしていたが、店舗を構えてからはここを中心に販売をしたそうだ。

地元産の麹を使った酒粕から絞られた甘酒と、小麦粉が原料の薄皮で、
十勝産の小豆で作るこし餡を包んでいるので、ほのかに甘酒が香る。
透明な薄皮と餡の絡みは絶妙で、口に含めばなめらかでしっとりとした
舌触り、まろやかで上品な甘さが感じられる薄皮まんじゅうである。

無添加で素材の味を生かした、素朴で飾らない倉敷銘菓である。
岡山にはよく似た「大手まんじゅう」もあり、共に歴史を誇り、何かと
比べられるようだが、何れも地元からは絶大な支持を得ていて、甲乙付
け難い岡山が誇る和菓子と言える。

この重厚な構えの店舗は、明治時代も初期の頃に建てられたもので、
築100年以上経つと言い、これもまた藤戸の名物となっている。
昔を感じさせる建物は、映画「ALWAYS三丁目の夕日」の撮影でも使
われた。(続)

