天井川の大沙川を過ぎると東海道は、吉永から夏見の集落に入る。
嘗ての夏見村は、立場の有ったところで、名物は春から秋にかけて売ら
れる心太であったが今その面影は何所にも見ることが出来ない。
旧街道筋らしく、平入りの家並みの続く落ち着いた静かな通りが西に延
びている。
暫く行くと江戸日本橋から115里地点の「夏見の一里塚跡」がある。
左の塚には榎が、右の塚には松が植えられていたらしいが、明治以降の
道路拡張や周辺の開発により悉く消滅した。今では道路に埋め込まれた
30cm四方程の『夏見一里塚跡』碑で、住宅地に跡地を知るだけだ。
大沙川からは1.5km程街道を進むと、前方に二つ目の天井川、由良谷
川隧道が見えてくる。上には天井川の由良谷川が流れている。
由良谷川は南部の竜王山に源を発し、曲流しながら北に向かい、野洲
川に流れ込んでいる。川幅は狭く、大沙川同様平時は水が無い河川だ。
すぐ横には改修された川に、新しい橋が架けられている。
その手前、川と並行する道路脇に、『新田道』と刻まれた大きな石の
道標が建っていた。道は野洲川方向に伸びていて、昭和10(1935)年に
立てられたものらしい。
これまでの度重なる氾濫で肥沃となった野洲川の河川敷が新田として
開かれ、その取り付け道路が開通したのであろう。
地図で確認するとこの辺りは、区画整備された田畑が整然と広がっている。
隧道は、長さ16.0m、高さ3.6m、幅4.5m、欠円アーチ断面、両側壁
は花崗岩切石積みの隧道で、明治19(1886)年3月20日の築造である。
大沙川隧道同様、土木学会の「ランクA」(国の重要文化財に相当)の
土木遺産という評価を得ている。(続)
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