弓道仲間で山中温泉へ泊る時に、世話をしてくれたS先輩の家へ行った。山中の町はずれである。おまけに、山の斜面中腹に建っているので、到着したら電話して在宅を訪ねなくてはならない。何しろ、道から玄関まで72段の階段があるのだ。神社のように気高いのである。
「おー、上がってこい。ハクビシン捕まえたし見てみ。」であった。小さなかごにハクビシンがいた。顔を近づけたら「ヒィーー!」と、威嚇された。S先輩に家には、クマが何回も屋根に上ったという。雨どいにつたってあがったり、梯子をかけたままのときに梯子からあがったり。時には、屋根から落ちて下屋を壊したこともあるという。家までの崖には、猪の穴もたくさんあるという。
道路沿いに車庫があって、蔵を改造したところには、囲炉裏がきってある。友達と酒を酌み交わすときは、家まで上がらずに、改造した蔵の中で飲むのだそうだ。殿が生きていたら、殿は酒宴に絶対によばれていただろう。ほろ酔いで夜中に帰るときに熊に襲われないように、道路沿いにできた蔵でなら安心である。
S先輩は、高校時代からの先輩である。考えたら高校からずっと先輩たちと弓を引いているということは、驚異である。釣りの竿と木彫りの鯉の自在鈎が雰囲気を出していた。