うちの爺さん(舅)は、要介護1という結果がでた。90歳なのに自分では89歳で止まっている。今朝も、3回顔を洗って、仏壇を参っていた。
テレビと仲良しで、何にも興味を示さず、何もしゃべらない。
しかし、79歳まで店をしていた。体力に合うほどの客しかなく、全くやる気もないのではないかというような運営だった。店のモットーは、売上アップでもなく、お客様に喜びをでもなく、暇つぶしでそこにいるというような感じだった。おまけに、備品はどんどん壊れて、新しくしないものだから、酒の燗もできなくなった。婆さんに言わせると、店を開けると赤字になるとのこと。光熱費と水冷式の冷蔵庫の水道料のほうが、高くつくとか。それでも、爺さんは頑張っていた。
そろばんは、5玉なので時折繰り上げ忘れて、安売りをしたりした。
消費税が始まった時には、いち早く取り入れ、一人分の価格を変えずに目減りさせていた。
「とうちゃん、酒、燗してくれ」と、言われると、カウンターのガスコンロに網を載せ、酒を入れたたんぽを直接火にかけるのである。「熱いし、気ぃつけや」というのである。
「焼きそば焼いてくれ。」と、言われれば「売れんし、置いてない。欲しけりゃ持って来い、焼いてやる」である。
また、「レバー焼いてくれ」に、対して「さっき売り切れたとこや」と、答えると、客は「とうちゃんとこは、いつも売り切れやなあ」と、言う。それに対してひるまない。「お客さん、いつも売り切れてから来るんなあ」
会社の〇君が、山中へテニスに向かう前に寄ってくれた。そばを作ってあげると約束していたので、彼が来ると、真夏の暑い日に、爺さんは「あんちゃん、クーラー入れんでもいいやろ」と、自身は白衣を脱いで、ランニングで店に出ていた。「入れようか?」と、聞かれれば「入れて」と、答えるだろうが、「入れなくていいだろう」と、言われれば、まだ新入社員のような〇君は、「いいです」と、答えるしかないだろう。暑い中で、コンロの上の鉄板が焼ける。かわいそうな状況だ。美しい先輩が、冷たいそばを奢ってくれなかったら、彼は二度と来なかっただろう。
そのような、我儘なおじじは、我儘な人生を送ったまま、毎日、おやつもごはんも、目の前に現れて、何の感想もなく黙々と食べている。幸せなのか、不幸せなのか。謎な人生である。
でも、中国へ戦争にも行っていたので、やはりよく頑張ったのである。12月9日には91歳になる。たぶん「今日で89歳だ」と言うだろう。